第211話 お触り厳禁って言ったでしょ
3日後、私はアベルを惑星エメスの始まりの女王として大々的に召喚した。
大々的――つまり、喧伝するための触れを、私は各都市に出したのだった。
実はこれ、アベルと取り決めて行なった筋書き通りなのよねー。
先生はママと、政府は火星人と、警察は悪い人と。
なんてね。
どこかの誰かがライアーライアーと声高に謳ったとある歌詞のように。
造物主は創り直した始まりのヒトと、とっくに、ああ、ナシがついている。
そもそも、人類史の黎明期は特に、政治と神(または宗教)は密接な関係にあった。
政と書いて『まつりごと』って読むでしょう? まつりとは、神事のこと。
であるからして。
政教分離のできていないの政治形態は社会成熟がなされていないと私は捉える。
人はいつか神の庇護から離れて自立しないといけない。
子どもが一人前の大人になるように。
もちろん、これは私の独自の考え方なので、あしからずご了承を。
……そして、まだこの惑星エメスの『人類史』は黎明期真っ只中。
私の中での『未熟』が許される時期。
幼年期の終わりはずっと先の話。数千年単位でね。
そんなわけで、私は惑星の都市にあらゆる波長の光を使い、自らを彼らの優秀な目から見えなくした状態でこう喧伝した。
『女王アベルの
これだけ。
どんな褒美を取らせるかなどは何も言わない。ゴーレムたちの想像力に任せる。
で。
呼び出したのだけど……。
アベルにめっちゃ写真撮られている件。
しかもスーパーローアングルで。いわんやアベルが寝そべって撮ってるの。
私、ばっしゃんばっしゃん撮られてる。すでに何百枚も。ちょっと引くわ。
というか写真機とかよく開発したね。
映画撮影ができる時点で写真機も当然あるのは分かっていたけれど。
……真なる始まりのゴーレム。アダムとエヴァ。
転生者たちが残した知識のおかげだとしても、実機を作れるのは大したもの。
そも、コレコレこういうモノがあるという知識が『ある』と『ない』とでは、何かを開発する効率に天と地の開きが出る。
たとえば人間的な本能欲求の一つになりやすい不老不死の法を求めるとしよう。
実際にその方法が存在すると答えを知っていればいずれは結果にたどり着ける。
逆に『答え』を知らないと、そもそも道筋を知らないのと同じなので回答までたどり着けないかもしれない。知っているとは、実は、恐ろしいことなのだ。
まあ、私は吸血鬼でしかも混沌の顕現体なので死の概念そのものが無意味だけど。
「はわわーっ、素晴らしい! エクセレント! なるほど、神さま、これが可愛いという気持ちなのですね! ドレススカートから覗くおぱんちゅも可愛い! ちょっと股間部分にシミが付いているところも愛おしい! むしろおぱんちゅ食べたい!」
「にゃあ……お前、その有様、絶対に他の人に見られたらダメだからね?」
「ハァハァ。大丈夫です神さま! 今ここには、ワタクシと神さましかいません!」
「いや、そうじゃにゃくて。……あれ? そういえばにゃあって写真に写れたっけ」
「えっ? 神さまは写真無効なのですか?」
「んー。そのカメラ、光学フィルム式?」
「はい、いいえ神さま。ゴーレムの頭脳チップとゴーレムアイから作られていますので……どちらかと言うとワタクシたちに近い記録方法になるかと」
「ああー、なるほど。ゴーレム視覚の応用したから映画の撮影機材を用意できたのかぁー。じゃあアベルが視えているのだったら写真もちゃんと撮れてるよ」
「それを聞いて安心しました」
で、ばっしゃんばっしゃん写真撮られるわけ。確かに言われてみれば写真機のレンズ部分がゴーレムアイになっていて、写真を撮るたびにパチクリと瞬きしていた。
そうして大体1時間。
どれだけ写真撮ったのよって話。千枚はくだらないのじゃないかな。
アベルは一旦落ち着きを取り戻して。
いや、ちっとも落ち着いてないな。今度は鼻をクンカクンカと嗅ぎ出した。
「神さまって想像通り良い香りがします。なんというか、力の塊のような香りが」
「神気と魔力香にゃし」
「あと少し酸っぱいような甘い香りも、なんだろう、庇護欲の湧く良い香りです」
「それはちっちゃい子の匂いだね。この身体は見ての通り幼体成熟だから」
「そうなんですね? では、あの大人のお姿は……?」
「……これ? ……ふう、この姿も本来私がなるはずの姿だからね」
「おお……素晴らしい! そしてエロい! 心が、なんだか、勃起します!」
「お触り厳禁よぉ?」
「ああ……触りたい。御神体に、御本尊に。可能ならそのお胸に……」
「ちょ、手をワキワキしないで」
「ホントにダメです?」
「ダメ」
「Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン」」
「うふふ、なにそのリアク。笑っちゃう」
遅ればせながら、状況説明!
天空神殿に召喚された女王アベル――のデバイスを応接室へと通したのだった。
待たせること1時間。
もちろん私の天使たちはその姿を見せないよう厳命している。
十分にもったいぶらせてから、私登場。
そして始まる写真撮影会。
主にローアングルで。
寝そべって撮るとか……そんなに私のかぼちゃパンツが見たいわけ?
ロリとかペドとか言う前に、根本的な価値観の相違を感じるわ……。
それで、現在に至る。
「写真撮影、再開させてもらいますね」
「いいわよぉ」
ばっしゃんばっしゃん撮られる。
今回からは動画撮影も加わる。ちょっと歩いてみたり、ポージングしたり、喜怒哀楽の表情を作ってみたり。モデル雑誌のプロモーションビデオでも作る感じだった。
大人モードになってからはさすがにアベルはローアングルをやめた。
ちなみに私がどのような格好をしているかというと。
お子ちゃま時は深紅のドレス姿。なろう小説の貴族令嬢がよく着ている現代アレンジ(コルセット無し)お姫様ドレスである。
深紅のエナメルピコピコシューズも忘れてはならない。あれ、便利だからね。
大人モード時はスリットの深いチャイナドレスにピンヒールである。ドレスは深紅の生地に金糸で昇り竜が刺繍されている。ヒールももちろんエナメルの深紅色。
知っている人は知っている話、古来より竜の印は皇帝だけの印だった。が、私の場合は次期魔帝というよりかは、神竜たるメガルティナお祖母ちゃんの魂的な孫という意味あいが強い。身内に本物の竜がいるならこの刺繍もまた正当なものだった。
にしても、ちょっと疲れたわ。
撮影って、思いのほか体力を使うのね。そりゃあプロのモデルさんが体力づくりに余念がないのも頷ける。最高の姿を撮ってもらうのにはまず体力だもの。
最後まで私に触れたがっていたアベル。
そりゃあね。触れて実体を確かめられたらよりリアルなレプリカが作れるからね。
……しようがないわね。
私は根気に負けてアベルを跪かせてその顔に胸を押し挟み、パフパフしてやった。
「疲れたわ……」
「お疲れさまです、マスター」
疲労を零す私にアリエルが温かいお茶を持参して現れた。
茶はマテ(コカの葉)とカモミールとセージの3種ブレンドティーだった。
飲んで目を閉じると、疲労が身体の下の方へゆったりと沈んでいく感覚を受ける。
「……アリエル」
「はい」
「ちょっと横になりたいから添い寝しなさい。抱きしめて眠りたい気分」
「よろこんでっ!」
「……えっちは、ないからね?」
「敬愛するマスターと添い寝だなんて、これだけで嬉しくてたまりませんっ」
「良い子ねぇ……」
私は神殿の最奥にある自室に移動する。おぼこのようにモジモジと誘い受けしているアリエルを抱き枕に、ベッドへジャックイン。そうして目を閉じた。
気絶するみたいに眠りに落ちる。
どれくらい眠っただろうか。
あー、そういえば大人モードを解除してなかったなぁ。まあ、いいけどねー。
次に目を覚ますと、どこかの洞窟(?)ぽい場所で、必死の表情で助けを求める15〜6歳前後の血まみれ満身創痍で良いニオイな少年に揺り起こされていた。
……え、どゆこと? この子、朝ご飯?
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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