第209話 勝てばよかろうなのだ

 結論から言うと、私は最後でぶっちぎりの1位を掻っ攫ってかっさらって勝負は終結を見せた。


 さすがはニトロチャージャー。


 当初の予定通り、レースでは、私は最下位をマークしていた。

 前方を走る2人――バランスを欠いた珍走バイクと高速設定改造の影響で坂道に弱いセッティングとなったバイクとは、それほど差は開いていない。


 とはいえ、目算で100メートルは差がついているかな?


 でも焦らない。ドイツ軍人(?)は焦らない。私の科学力は世界一ィィィなのだ。


 その程度、誤差よ、誤差。


 最終コーナーを抜けた直後に隠しスイッチをオン。ニトロチャージャー発動!


 天使の咆哮が悲鳴に代わる。即、時速200キロ超えの反応を見せる。


 ホーネットの特徴。それはリアタイアが大型バイクと同じ太さを持つこと。ゆえに今回の急激な加速にもギリギリで耐える。あとは腕力で、反動を抑え込めば良い。


 このために私はホーネットを選んだのだった。

 このために、鈴鹿サーキットの亜種みたいなコースとギミックを作った。


 争う必要なんてない。

 必要なのは、ロリババアな彼女たちを常に視界に入れておくことだけ。


 最後に――ゴボウ抜きしてしまえば良いのだから。


 すべて計画通り(新世界の神的な悪い顔)。



「にゃははははははっ!」



 そして、例の3倍ゾーンを踏んだ直後。一気に『現時点の速度』が3倍化される。


 ドゴォ! 威風の塊が前方から襲いかかる。加速による風圧が凄まじい。


 音速の半分以下とはいえこの急加速は人類には厳しすぎるかもしれない。快感脳汁垂れ流しなので恐怖感はまったくないけれど、腕力的に、ね?



「にゃーっはははははっ!!」



 大人モードの私は幼女のごとく無邪気な声を上げて爆速で突き進む。



「……なんじゃ!?」

「なんなのだ!?」

「みゅはははははははーっ!!」

「うおっ!?」

「うわっ!?」

「アバヨとっつぁん!!」

「カミラ!?」

「カミラだと!?」



 時速、約650キロ。風をまとった炎の如く突き抜ける。二人を置き去りにして!


 そして勝利。仏恥義理である。


 お祖母ちゃんと世界樹からのブーイングが凄い。ホントにぶーぶー言ってるの。



「ずるいのじゃー、ずるいのじゃー!」

「ずーるーい、ずーるーい!」

「ぶーぶー!」

「ぶーぶー!」



 両腕を振り上げて、ロリがほっぺた膨らませ、ブーイングする2人。

 ふむ。これが合法ロリ。これがロリババア。

 思えば陛下ママもロリババアだけど、彼女たちのこれは酷い。


 可愛いったらないわ。


 そりゃあネットミームに『ババア、結婚してくれ!』なんてのが作られるわ。

 何より合法なところが良い。えっちしても18歳以上なので問題ないし。


 ああ……。


 今すぐ彼女たち合法ロリの服に手を突っ込んでぺたんこの胸をさすさすしたい。

 胸のさくらんぼを指先でつまんで転がしてみたい。恥じらう顔を愛でたい。


 まあ、しないけどね。


 代わりに2人ともガッツリと抱き上げて。

 むちゅーっと舌入れ特濃百合キスをしてあげたら白目を剥いて黙った。



「そなたはホント、わらわの孫じゃわ……わが混沌の娘たちも隙あらばキスを」

「ど、同性同士でまさかの舌入れディープキスだなんて……」



 ふはは、Dioさまも言ってるでしょ。



『過程などどうでも良い。勝てばよかろうなのだぁーっ!!!』



 と。



「じゃあ私の勝ち。……本来の姿に戻るわ」

「「……あう」」

「ちっちゃい私ともう一度キスする?」

「「お、お気遣いなく」」

「そう?」



 お祖母ちゃんまでなんだか言葉遣いがおかしい。まあ、すぐ元に戻るでしょ。



「天帝さまよ、あなたさまの孫姫さまは恐ろしいな」

「混沌の娘から分化した子であるからなぁ」

「混沌……外なる神の?」

「うむ」

「ずいぶん無邪気に見受けるが……」

「それがあの子の良いところであり、怖いところでもある」

「なるほど……」

「うむ……」



 なんだかヒソヒソと合法ロリたちが顔を突き合わせて話し合っているけれど、そんなのはどうでもいい。重要なのは、私が勝ったという事実だった。



「で、お祖母ちゃん。これってにゃあが勝ってどうなるんだっけー?」

「元の姿に戻ったか。……ああ、そういえば決めてなかったのぅ」

「親睦を深めた、ということで良いのでは」

「まあ、うん。転生者同士、前世世界の産物を使って楽しく遊んだということで」

「やっぱりお前も転生者なのにゃー?」

「であるぞ、天帝の孫姫さまよ」

「90年代、バブル期のバイクで遊ぶ。おそらく前世の歳は同じくらいじゃろうて」

「にゃー」

「カミラはちょっとイロイロと規格外の転生をしておるがのぅ。人格――いや神格かの? 前世のそなたと孫の魂が良い感じにブレンドされておるわ」

「みゅー」

「小さい女の子が好きなところは変わらぬようじゃが」

「思いっきりキスされたしな……」

「気持ちよかった?」

「あ、うん。まあ……上手だった」

「うふふ。にゃあとキスし続けると淫魔特性を得て、あと元祖の吸血鬼化するよ」

「えっ。カミラよ、その話はマジか」

「なんでまた……」

「混沌、虚無、真空。でもにゃあは太祖の吸血鬼でもあるからー」

「淫魔特性は?」

「女の子とちゅっちゅするのが大好きだから? 体液交換で成るらしいよ」

「マジであるか……」

「まあ、あんな激しいベーゼを重ねて正常でいられるわけもないか」

「みゅっふー♪」



 それはともかく。

 レース後、私たちは着替えてエルフ族の最長老宅へ案内されていた。

 エルフらしい、いかにもな木の洞に作られた快適空間である。


 フル木製住居とか、ちょっと憧れるかも。

 今度、マイダンジョンに別荘名目で作ってみようかな?


 そんな住居の応接室。

 メイドイン世界樹な円形大テーブルで私たちは向き合っている。


 ほんのりオレンジ風味のあるハーブティーを頂く。世界樹葉ブレンドらしい。


 ちなみに一般エルフ族の描写をまったく取っていないのは、彼らが私たちを恐れて家々に閉じこもっているため。ヒッキーである。触らぬ神に祟りなしとも言うが。


 もっとも私にとってエルフとは=変態なので、別に会いたいとも思わないけれど。



「……久方ぶりにバイク仲間に会えて嬉しかった」

「バイクはバカしか乗れんでのぅ」

「確かに」

「夏は暑いし冬は寒い。雨が降ったらびちゃびちゃ。雪はホント勘弁にゅ」

「コケると財布も痛いが、一番はメンタルに来ること」

「うんうん」

「車は目的地に着くのが目的。バイクは走る行為そのものが目的」

「うむ!」

「そだねー」



 私たちはゆっくりとハーブティーを飲む。

 別添えで醤油せんべいなんかも出されていて、それを頬張る。

 ぼりぼり食べる。おいしい。

 これ、おみやげにちょっと買って帰りたいんだけど。



「……新たな天帝さまに恭順しよう。これが一番平和的だ」

「うむ。ではこの星の自治権を確約する。好きに繁栄させていくと良い。何か困ったことがあれば申し立てると良い。別神族が襲来したとか、そういうときじゃな」

「ありがたく思う。支配者の首が変わっただけで他は何も変わらんしな」

「敵が来たらにゃーにゃー砲で無に還してやるにゃし!」

「にゃーにゃー砲とは……?」

「ひと言で表すなら防御も回避手段も無しの即死砲かのぅ」

「……あらやだ怖い」



 私たちは世界樹の長老――世界樹の分身と茶を飲みつつ契約を交わす。

 契約は口頭で行なわれる。言霊という強烈な魔法的契約である。

 この締結により、この惑星での用事はすべて完了したものとする。



「にゃあ」

「どうしたのかな、孫姫さまよ」

「このせんべいとハーブティー、おみやげに持って帰りたいの」

「いくらでも持って帰ると良い」

「それだとダメ。ちゃんと買って帰るの。金貨で良い?」

「いやいや。すでにもうワタシは十分凄いものを貰っているし」

「……なんだっけ?」

中空庭園スカイウォーカーサーキット」

「あー」

「メンテが若干大変ではあれど、アレは良いものだよ」

「じゃあこれあげる」

「……この石は? ダイヤのように透明で、赤く澄んだ光を発している?」

「サーキット維持用の賢者の石。向こう10万年くらいはメンテいらずー」

「うっそ。ワタシの知ってる血の滴るような真っ赤な賢者の石と全然違う……!?」

「そりゃあ最高純度のエネルギー凝縮体だからね。天と地くらい性能差があるよ」

「ひょえ!?」



 そうして私は世界樹印のついたハーブティー茶葉と、せんべいを風呂敷いっぱいに貰って、既に黄金竜の姿に戻っていた祖母の背に乗って元の世界へ帰った。


 なお、持ち帰ったせんべいと茶は陛下ママにほとんど飲み食いされてしまった……。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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