第207話 ハングオン(ハングオンするとは言ってない)

 私(混沌顕現体)、祖母(最強黄金神竜)、世界樹(変態スズキ分身ロリ)の3者。

 スタートグリッドに停車する、自らのバイクを睨む。

 エンジンはまだかかっていない。

 私たち3人はバイクとは向かい側のランラインに並んている。


 つまりどういうスタート状況かと言うと。


 鈴鹿8時間耐久レース方式を採用しているわけで。かのレースは向かいにあるバイクにライダーが駆け寄って、跨いで、エンジン始動、レースを開始するのだった。


 もちろん私たちは8耐なんてするつもりはない。


 私が用意した鈴鹿サーキットベース特設コースは一周、約7キロ。


 これはくだんのサーキット西コースの2倍の距離だった。しかもこのコース、立体交叉はもちろん、傾斜角75度カーブや遠心力ロールなど、かなりアクロバティックに作ってある。速度が出ていないと一気にコースアウトでちゅどーんである。


 ここを4周回る。計28キロの勝負。平均速度100キロなら15分強で決着がつく。

 当たり前だけど復帰不能なコースアウトは即リタイア。

 魔法、魔術、奇跡、その他外部からの妨害禁止。レーサー同士の物理接触はグレーゾーン扱いとする。そもそもバイク運転中に接触とかクラッシュの元だからね。


 タイムパネルがカウントダウンする。


 5、4、3、2、1……スタート!


 3者、一斉に駆け出す!


 メガルティナお祖母ちゃん速い! ロケットダッシュ! 弾丸ロリババア!(失言)


 あっという間に珍走団バリオスにたどり着き、サイドスタンドを蹴り起こし跨る。


 セルボタン、プッシュ。エンジン始動――かからない!



「のわあっ!? なんでこういうときに限ってかからんのじゃ!?」



 セルスタートからのブーストダッシュを前提にしていたらしい祖母は、走り出さない愛車にバランスを崩してすってーんっと立ちゴケした。あぁーあ……。


 バリオスには有名な持病があるけれど、それ以前にマシンそのものが結構古い機体であることを忘れてはならない。なのでセルがかからないなんて普通にあり得る。


 ちなみにバリオスの持病とは『暖機運転中にエンストすると再始動に手間取る』ことである。チョークを引くか、アクセルをほんの少し開けてやると防げるが……。


 ともかく。


 お祖母ちゃんは割と古いバイクにありがちなセルスタートがかからない症状に見事引っかかっていた。それで横にすってーんである。彼女は身体を1回転させていた。



「アッー! わらわのバリリンがぁ!?」



 立ちゴケは、全ライダーの誰もが一度は経験するトラウマであった。


 車体修復の出費もさることながらメンタル的なショックが大きい。だってバイクは走る相棒だもの。いわば彼氏や彼女。そんな大事な相棒に傷をつけたとなると。


 というかお祖母ちゃん、その珍走バリオスにバリリンって名前つけてたのね……。


 一方、世界樹の分身ロリババア(暴言)は。



「ふっはっはっ。不様だな天帝さまよ! ワタシはそうはならんぞ! なんせスズキイージースタートシステムを特別にこの子に組み込んであるからな!」


「くぅ……」


「はっはっはっ。そーれエンジン始動、イクゾー! ……ってあれ? うわ!?」



 世界樹分身ロリが乗るカタナ250は発進直後に失速し、エンスト。立ちゴケした。



「ぎゃあああっ!? な、なんてこと!? ワタシのKomachi - Angel号が!?」



 えっ、なんなの小町エンジェル号って。それがまさかそのバイクの愛称?

 もしかしなくても太陽なの? 太陽のKomachi - Angelなの?


 意味不明すぎる。さすがは変態。


 ここで解説すると、彼女がエンスト立ちゴケした理由はただ一つ。


 スプロケットをいじって、トルクを減らして最高速度を上昇させたから。


 そもそも250ccマルチ――4気筒エンジンはトルクを薄くして超高回転型向けにしてある場合が多い。もっとも、カタナ250はディフォルトでは低速域でもそこそこ強い設定にしてあるという。でもね、スプロケをいじってしまうとさすがにね?


 ああ、もう一つ原因っぽいのを思いついたかも。


 世界樹。キミ、普段大型バイクしか乗ってないのじゃない? その感覚でパワーの弱い250cc4気筒に乗るとコケるよ? スタートはアクセルは強めが基本だよ?



「のっけからぐだぐだねぇ……」



 私はたったか走って私の赤ホネに跨り、セルでエンジンをスタートさせる。カムギアトレーンの機械音が心地よい。誰人曰く、天使の咆哮である。



「うう……バリリン……」

「ワタシのKomachi - Angel号が……」



 メソメソ空間が領域展開されている。メソってるわ。メソりまくってるわ。


 コケたバイクに凹む幼女たち。もといロリババア(失言)たち。まったくもう。



「……はあ」



 見てられない。ショックなのはわかるけどさ。とりあえず、さっさと起こそうか。


 もちろんバイクをね。


 私はホーネット250から降りて、2人のコケたバイクを起こしてやる。


 大型の、重量250キロ超えのバイクでもコツさえ掴めば力のない女性でも割とあっさりと引き起こせる。まして170キロ前後の250ccバイクなんて簡単簡単。



「しようがないわねー」



 周知のように私は現在大人モードであった。

 幼女のままではそもそもハンドルにもステップにも手足が届かないからね。


 精神は肉体の玩具に過ぎない。大人モードの私は多少ながら精神年齢も上がる。


 私はメソる祖母を胸に抱き上げた。ポンポンと背中を叩いてあやしてあげる。


 ババアなのにロリ。

 ロリなのにババア。


 幼女特有のおしっこと乳臭さの混じる甘い香り。人によって好悪の分かれる匂い。

 マリーとはちょっと違う親和性。

 これはこれでたまらない。がっつり鼻を幼体にあてて深呼吸したい。


 ……ふむ。どうしたものか。



「おっぱい、揉む?」

「……揉む」

「そこのあなたはどう? いらっしゃいな」

「うう……」

「あなたもおっぱい、揉む?」

「……揉む」



 孫の私、2人のロリババア(暴言)を胸に抱き寄せる。

 クレバーにね。

 ロリババアたちは私の胸の山に顔を埋めてしくしくメソメソしている。

 なぜか妙に母性がくすぐられる。やはり彼女たちの見た目が幼女だからか。



「ホント、どっちが年上なんだか」



 うーん、これはちょっと、状況を打開しないといけないわね。

 大人カミラで想像魔法のクリエイトは初めてだけど、ひとつ、やってみますか。


 集中。


 ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろ! ……なんてね。


 んー。むー。むむ!? キマシタワー!!

 

『世界一の口づけを』


 相変わらず某聖飢魔IIな閣下の曲から魔法名が付いた。

 効能、完全修復。新品同様に。ただし生物以外に限られる。


 なるほど。


 アンデッドや無生物に効果のあるベホマって感じ? どれ、試してみようかな。


 私は立ちゴケしてネジ曲がったシフトチェンジレバーを見つめつつ想像魔法『世界一の口づけを』を使う。バイクがコケたらまずチェンジレバーかリアブレーキペダルがひん曲がるか大破するのだった。次いで傷がつきやすいのがエンジン下部。


 こうかはばつぐんだ!


 祖母のバリオスの、歪んだチェンジレバーは元の形に戻り、割れたロケットカウルも元通り。傷のついたタンクも元通り。すべて、きれいに元通り。

 世界樹のカタナ250も時間が逆行するみたいに元通り。力圧が変にかかって歪んだセパハンも元通り。エンジン下部の傷も元通り。すべて、きれいに元通り。



「カミラぁ……」

「これで、大丈夫よ。私の魔法で全部きれいに元通り」

「よかったのじゃああああああっ」

「もう……どっちが小さい子かわからなくなるじゃない」

「おっぱいーっ! おっぱいーっ! おっぱいゴイスーっ!」

「え、何それ怖い」

「……カミラよ」

「世界樹のバイクもきれいに元通りよ」

「感謝……する……おっぱいがいっぱい」

「あなたもそこでおっぱいなのね……」

「これほど大きく優しい弾力で応えてくれる胸などついぞ会ったことがない」

「あ、うん」



 そんなこんなで仕切り直して。あー、世話の焼けるおばあちゃんたちだわ。


 初めからバイクはエンジン始動済み、発進まで後ろで支えるアシスタント付きで再スタートさせることにする。私はこのアシスタントは要らないけどね。


 各人一斉に再スタート!


 

「ひゃっほうー!」



 お祖母ちゃんのバリオスがアクセル全開でゴッドファーザーのテーマをクラクションで鳴らしながら走り出す。世界樹のカタナ250も良いスタートを切っていた。


 私は三番手でいく。ゆっくり彼女たちについていく。最下位をキープしておく。


 でも、たぶん私が優勝するよ。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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