話外 ヴァン・アレンタイ(一日遅れ)
チョコレートが食べたいと思ったのだ。
本日は、前世で言うところの2月14日に当たる日であった。
つまるところアレである。うん、あれね。
バレンタインデー。
私的には特別なチョコが食べたい。
前世では製菓企業の販促でしかなくても、イベントはイベントとして楽しむのが元日本人の嗜みであった。どうせバレンタインデーの起源とか誰も興味ないでしょ?
で、そのような風習がこの世界にもあるのかと調べてみてら……なかったわけで。
そもそもチョコレートの存在が、超レアな『カカオの飲み物』という立ち位置で。
そう、飲み物なのだ。しかも苦い飲み薬の扱いで、効能が……。
媚薬。
……まあね、前世でも中世期ではチョコは媚薬として扱われていたから。
ワイズロード女学院に短期留学していたときに、お菓子としてチョコを振る舞ってしまった記憶もなきにしもあらずだけど、まあそれは気にしないとして。
チョコって、媚薬なんだねー。
古代日本では、お茶(抹茶)でほんのり頬を染めて興奮し、アレなことやコレなことをしたとか古代文献記録で読んだ覚えがある。カフェインでガンギマリである。
というかこれが普通なのかもしれない。もちろん、薬効が、だよ。
前世現代人は、どうやら薬に耐性が付き過ぎているきらいがあるね。
というわけで、私が食べたいのもあるし、無いなら無いでその手のイベントを作ろうと思った次第だった。……え? なんでイベントプロデュースするのかって?
ご存知のように、この世界の食べ物全般に言えることだけど、貧相なのだった。
まるでダメ。私より以前にやって来た先輩転生者たちは何をしていたのか。
全員揃ってメシマズだったのか。それとも極端な食い専だったのか?
私程度の料理能力で、いつの間にか称号めいてつけられたあだ名がある。
至宝なる台所の錬金術師、だってさ。なんなのそれって感じだね。
確かに錬金術は台所調理を起源に持つ一種の魔術のようなもの。
無骨な食材が、調理によって舌鼓を打つ絶品料理になったりするからね。
だったらそんなの、プロの調理師が転生したら台所の錬金術神とか呼ばれそう。
それはともかく、まずは身内だけでバレンタインチョコイベントを愉しむことにする。こういうのはね、経験上、特別視するからこそ価値が出るのよ。そして、ヒッソリと甘党の魔貴族間で流行らせるのだ。あまーいチョコレートを上品に包んでね。
というわけで早速……料理の錬金術にかかりますか。
本来ならカカオからカカオマスを作ってチョコレートへ段階を踏んで加工していくのが正道なんだけど……思いついたのが2月14日当日だったのでそんな暇はない。
製菓用のチョコ素材を権能で取り寄せて、そこから作っていく。
ちなみにヴァローナっていうフランスの業務用チョコレートメーカー製を使用。
作るものは、まずは生チョコだね。生クリームをたっぷり添加して、ふにふにの柔らかさを楽しむの。チョコパウダーでコーティングすると高級感が更にアップ。これが癖になる。贈答品としても喜ばれ、なお、独り占めすると戦争不可避である。
次はパパ氏にあげたいチョコレートボンボン。中にブランデーを入れるの。
これはタコ焼きの要領で溶かしたチョコを型に入れてガワだけ冷やして固め、そして中身を流し出してからブランデーをスポイトなどで一つずつ流し込み、もう一つガワを用意して、二つを合わせてそして冷やして固めてしまえば出来上がる。
さらに次。ソフトクリームに溶かしたチョコをかけて食べるチョコサンデー。
ソフトクリームマシンを用意しないといけないし、グレードの高いソフトクリーム原液(これは大体5段階くらいグレードがある)も必要。メンテも大変。だけど食べるとヘブン状態。とっても美味しい。この世界じゃ王侯貴族でも食べられないよ。私は食べるけどね! マリーとね! たぶん
忘れてはならないのが、チョコフォンデュ。色んな果実をフォンデュして頂く。
流れるフォンデュマシンを用意出来たらパーティにも使えるよ。
物凄い甘い香りを発散するので、香りを嗅ぐだけで幸せに。
だけど今回は身内だけで楽しむので鍋に溶かしチョコを入れたもので行くつもり。
お帰りの際のお土産に上品に加工したチョコレート包みも忘れずに。
ひとまずこんな感じで用意する。
権能を使ってバンバンチョコを取り寄せて、バンバン作る。代金は金貨でこっそり支払っておく。たぶんおつりが出るくらい送っておいたので問題はないだろう。
そして身内を呼んで、バレンタインチョコパーティ。
ん? え? しばらくは家族の者と会ってはならないって?
ああ、ちょっと未来の話をしているので、もう普通に遭える時間軸だから大丈夫。
結果は大好評。
なのだけど……。
なんかめっちゃ人が来ているのですが。
まず、私とマリーでしょ。私のパパ氏とママ氏、カインお兄ちゃんでしょ。私の血脈上の子たち(アーカードちゃんやミーナちゃん)でしょ。
なんだか、予想外に多くてびっくり。全員合わせると100人は降らない。今日思いついてチョコを作って、今日食べるのにこの人の集まりようはなんなのか。
貪り食うチョコレート。
物珍しさも相まってみんなバクバク食べている。というか勢いがおかしい。
『美味い!』
彼らの感想を要約すると、この一言に尽きる。作り手としてはご満悦だ。
でも大丈夫かな。ちなみに人間の場合、チョコレートは1日最大で500グラム未満の摂取に留めないと、生産地にもよるけど鉛中毒になる恐れがある。特にガーナ産のチョコはね。あそこの車は未だ有鉛ガソリンを普通に使っているから。
で、これはなんていうイベントなのかと問われたので私は答えたのよ。
バレンタインデーだよって。
するとなぜだろう。みんなヴァン・アレンタイ合作の日と理解したわけで。
なんで? と、不思議に思っていたら――
よくよく聞く話では、この魔帝宮の総合料理長の名前がヴァン氏で、甘味担当が彼の娘のアレンタイ女史だったから変に勘違いされたっぽくて。
違う、そうじゃない。例のポーズをビシッとキメる。
どうも私の発案で、私の用意したレシピで彼らが作ったと思っているらしい。
違うから。私が全部用意したから。セラーナたちに手伝ってもらったりしたけど。
そんな地球磁気圏に捕らわれた放射線帯みたいな名前じゃないから。もちろんヴァンアレン帯はないと宇宙放射線で大変なことになるんだけど、そうじゃないから。
もちろん言ったところで場が白けかねないせんなきことで。
ゆくゆくは理解してもらうとしてしかしチョコの美味しさの宣伝は十分果たしたので良しとする。レシピも渡したよ。これでお菓子業界を盛り上げてほしい。なぜか私が頑張れど頑張れど、食事の文化レベルがちっとも上がらないのよね……。
――この世界っていろんな世界にハブ接続されているって言ってたでしょう?
突然の神さまからのご連絡。
――以前、少しだけこの世界を受け持っていた同期の女神が、超メシマズで。
あ、なんだか嫌な予想が。
――どうもその女神の呪いみたいなものがこの地に残されているっぽくて。
うわー。なーんだそりゃー。
――まあ、気長に頑張ってください。あと私もチョコ欲しいなー。
はいはい、用意しておきますね。生チョコとボンボンの2種類ね。
いや、いや。それよりも。メシマズの呪いとか誰得やねーん。
そりゃあ私が色々頑張っても変な呪いがこの地にあったら私は平気でも他がね。
はあ、と息をつく。
私は口直しに権能で取り寄せた白いブラックサンダーをボリボリ食べる。
ちなみに私が開いたチョコの日は――
ヴァン・アレンタイの日として定着してしまうのだった……。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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