第204話 祖母をのたまうロリババア現る

 まずは裏話から。異界の神々における侵略迎撃戦なのだけれどさ……。


 私は彼ら神々とは標高的な意味での高高度で対応をとっていたのよね。


 もう少し詳しく話そう。だってこれだけでは意味がわからないし。


 あのとき、実は私とマリーは成層圏境界面(上空約50キロ)で異界の神々を駆逐していたのだった。なので、下界には自分たちの姿は見えていないと思っていた。


 うん、その認識、甘かったわ……。


 アーキテクトとなる私のゴーレムは特別な被造物として創っていた。

 アダム、エヴァ、そして……アベル。

 そんなの当たり前だよね。だって彼らはこの世界の『ヒト』なのだから。

 私は私の能力とアストロスフィアの奇蹟をもってゴーレムたちを創ったのだった。

 そしてその子孫たちは、基本的に同じかそれ以上の能力進化を持つようになる。


 アベルが設定したゴーレム生産ルールでは、知能程度に限っては就く役職で最初からきっちり決められていた。真社会生物形態を維持するにはここさえ押さえれば良いと判断してのことだろう。アベルは頭が良い。確かにそれはそれで正解だろう。


 ただアベルもそうだけど、私のゴーレムたちは好奇心が強くて。

 好奇心って知能の高低には関係なく、当人を強く刺激する活力になるのよね。


 加えて、彼らゴーレムは五感に優れていた。


 視覚を例に挙げよう。


 彼らゴーレムの視覚能力はガンマ線から電波まで幅広く対応していて、しかし普段は人間とさほど変わらない可視光線範囲の視覚を使うよう私は設定していた。


 もちろんあらゆる視覚認識もある意味では多様性なのだろう。


 が、たとえどれだけ優秀でも視覚のみならず五感の統一基本規格は制定しておかないと社会に無用の混乱をもたらしかねない。あるゴーレムは電波でモノを見て、あるゴーレムはX線でモノを見る。これでまともに社会が回って行けるのかという話。


 それは良いとして、視覚能力である。


 視力そのものも各視覚に適したズーム能力を採用しているため、最小は0.001倍から最大で100倍までなら余裕でピントが合う。もちろんこれを踏まえての上空50キロという成層圏境界面、高高度での侵略者対応を私はしていたのだけど……。


 まあね、うん。


 彼らは創造主たる私の予想を上回る好奇心への優秀さを披露してくれた。


 電波望遠鏡をご存知だろうか。


 五角形なら五角形に、放射状にたくさんの電波望遠鏡を並べて一つの望遠鏡とする方法である。こうすれば並べた数だけ、広げた分だけ望遠率を上げられる。


 彼らはリンクシステムを開発し、何時の間にかゴーレムたち全員に搭載アップデートさせていた。これがちょうど電波望遠鏡群に相当する増幅機能を持っていて……。


 なんと彼らは。


 各人のセンサー共用でジッと注視していたのだ。神さま私たちを。


 いやあ……全部見られてたわ。


 見せないでおこうと隠すと、却って見てしまいたくなるあの法則なのかな?

 それとも……?

 ともかく、私とマリーの姿を彼らに見せてしまう結果となり。


 案の定。


 次世代からまるで突然変異の如く、明らかに小さく、女の子っぽい顔立ち、女の子っぽいロリボディのゴーレムたちがドンドン製造されてしまうのだった。


 はあ……と深いため息をついちゃうよ。


 もちろんこれを差し止めることもできなくはない。

 私は彼らゴーレムたちの創造主だから。

 でもね。以前私が語ったことを思い出して欲しい。


 子は親の、ヒトは神の、民衆は王侯貴族の真似をしたがるもの。


 水が上流から下流に流れる如く。


 その性質を知る以上、無理に禁じるのはいかがなものかと思い、また、アベルがお願い事としてどうか次世代の生産結果を祝福してほしいと申し入れてきたために。


 私は内心では臍を噛む思いで好きにしなさいと頷くしかなくなってしまっていた。


 ああ、もうね……。


 彼ら独自の性能進化を見たかったのに。行く末はどんなゴーレムになるのかと。


 上手くいかないにゃー。神さまの、被造物を見る気持ちが一瞬分かった気がする。


 やっぱり、神さまって、大変ね。


 とかなんとか諦念と悟りの境地に至った数日後。

 マリーが陛下ママに攫われて、突如として妃修行が始まってしまったのだった。


 これにはびっくり。


 物事には順序があり、まずは私から陛下ママに申し入れをして……と段階を踏むはずが、一足飛びにマリーが公的にも私の妻扱いになったのだから。


 同性婚の心配? つまり、子どもの心配?


 吸血鬼は神さまにお願いして(血脈としての眷族的な『子』ではなく)子どもを授けて貰うので、子孫への心配はまったくない。帝国もその辺りはおおらかだった。


 もちろん種族によっては婚儀は絶対異性制度を取る場合もある。でもそれは生殖を旨とする種族に限られる。吸血鬼などアンデッドには当てはまらないのだ。

 ……例外として淫魔(夢魔)族だけは男女生殖できるにもかかわらず好き勝手に同性であれ異性であれ婚儀を進めていたりする。まあ、淫魔だから仕方ないね。


 というか、マリーもレベル1兆で陛下ママよりもずっと強いため、政治力学的にも私の妻にならないと陛下ママ的にも困ってしまうのもあるだろう。政治は面倒だからね。


 そんなこんなで、セラーナたちとママゴト遊びをしたり、踊ってみたり、絵本を読んでもらったりと幼女的に充実した日々を送っていた私なのだけれども。


 ある日、突如、超巨大でめちゃくちゃ長い黄金竜が魔帝宮を訪れたのだった。


 いわゆる竜神さまである。


 訪れた竜神さま、曰く。



『カミラ! そなたのお祖母ちゃんが遊びに来てやったぞ!』



 と。


 ……はて。


 お祖母ちゃんって、私にとっては誰に当たる存在になるのだろう?


 パパ氏は真祖の吸血鬼なので親自体がいない。むしろ大半の吸血鬼の『祖親そしん』がパパ氏なのである。ママ氏は元祖の吸血鬼で元人間ではあれど、ママ氏の御母上は300年前に既にお亡くなりになられているし、そもそも種族が違うし……?


 となれば陛下ママの御母上なのかと思ったのだけど、陛下ママの御母上も竜族ではなく夢魔族とのこと。どちらかと言うと淫魔族に近いとおまけの発言も頂いた。


 ……うーん?


 とりあえず、会ってみよっか? 竜神さまだし、神さまに失礼はいけないし。


 そんなわけで、セラーナたちを引き連れて魔帝宮の応接室で会ってみました。


 ……うん。まあ、アレよね。


 私の祖母を名乗る、ロリババアがそこにいたわ。


 バレエ衣装をドレス化したような、日朝8時の女児向け――大きなオトモダチ向けアニメに出てくる魔法少女みたいな恰好の、10歳女児っぽいロリババアが。



「お祖母ちゃんだぞー! カミラ、わらわはそなたのお祖母ちゃんであるぞー!」



 両腕を広げてぴょんぴょん跳ねつつおっしゃるのだ。


 古風な喋り方で、見た目が完全に幼女。しかも可愛い。金髪金眼ロリだ。所作もちゃんと幼女していて……えーと、現実に脳みそが追いつかないや。


 随分と愛らしい祖母の出現だった。


 こういう場合は神さまを頼りにすべし。


 神さま、神さま、応答願います。緊急事態です。



 ――はいはい。事態は把握しています。彼女は間違いなくあなたの祖母ですよ。



 ええ……どういうことなの……?



「わらわの混沌の娘から分岐した孫の魂は、そなたを選んだのじゃ」


「にゃあ……ちっともわけわかんないの」


「つまりだな、わらわには2柱の混沌の娘がいる。その娘から更に分岐して生まれた新たな混沌の魂が、自らが愛されるためにそなたを選んだわけじゃよ」


「うーん?」


「そなたが前世の記憶持ちであるのはわらわは知っている。……クルーシュチャ方程式に聞き覚えは? そなたはそれを解いたがゆえに、孫娘はそなたと一体化した」


「前世の記憶は前世文化や文明、サブカル知識とかは豊富なんだけど、自分については驚くほど覚えてないのにゃー。断片的に、こんなコトもしたよね、程度にゃ」


「その口調」


「にゃ?」


「そのにゃーにゃー口調が何よりの証拠。わらわの娘たちにそっくりだ」


「ふみゅ」


「抱きしめていいか? いいよな? わが孫であるし」


「みゅっ? みゅううううっ!?」



 瞬間、めっちゃ抱きしめられた。

 お祖母ちゃんとは思えないほど柔らかな女の子の肌の質感。

 ロリババアである。ロリババアのはず。

 ほっぺにちゅっちゅされてしまう。

 その唇、動作の一つ一つに愛情を感じる。大切な人を扱う優しい動作。


 その瞬間。


 ああ、この黄金の竜神さま、私のお祖母ちゃんだわ。他人にこんな事できないし。

 頭ではなく魂で理解してしまう。


 あと、匂いが好き。


 女の子の匂い。ちょっとおしっこ臭いような、甘い香り。幼女臭とも言う。マリーとは違う親和性を感じる。他人とは思えないしっくりと来る感覚。



「おばあちゃん」

「んむ」

「おばあちゃんの名前は、何?」


「わらわか? わらわはメガルティナ。最強の竜神とも呼ばれることもある、もっとも旧くもっとも新しい神。メガルティナ・アタナシア・ゴドイルタなるぞ」


「メガルティナ……メガルティナ・ドラゴニックオーラ文明期の?」

「うむ。この世界の害悪となったハイエルフを皆殺しにした竜神でもある」 


「ハイエルフっていうけど、この世界の土着のエルフたちのことだよね。今、エルフと呼ばれる存在は異世界から漂着というか亡命してきた子たちだし」


「移民エルフは悪い子たちではないのだ。ただちょっと妖精の血が濃すぎるだけで」


「にゃあはダークエルフはともかく、今のエルフは苦手だよ」


「小学生男子とメスガキであるからなぁ。サイズが妖精と同じならそれで問題はなかったのに、よりにもよってヒトのサイズなのが嫌われる理由になろうさ」


「すっごくわかるにゃー」


「それよりも、お祖母ちゃんにしてほしいことはないかの?」


「聞きたいことがあるにゅ。おばあちゃんがおばあちゃんなのは納得した。でも、今までなんで出てこなかったの? 特に神々が自分たちが寵愛する使徒たちを戦わせる親睦会のときや、その後の裁判員としても姿を見せなかったのはなんで?」


「わらわには眷族は沢山いても直下の使徒はいないのでなぁ。いや、1人いたんだが昇神してわらわの眷族神になってしまって。あと、つい先日までバカンスでお気に入りの星の南の島でとぐろを巻いていたというか……気づくの遅れてすまんのぅ」


「とぐろを巻く……?」


「ほれ、わらわ、竜神であるし? ちょっと100年ほど、疲れを取るために」


「にゃるほど……?」



 竜の神が南の島でバカンスで100年間とぐろを巻く……。

 それもう南の島のヌシ化してませんか?


 まあいいけどさ。



「それでしてほしいことはないかの?」


「えっとね、これの処分をねー」


「ん、どれじゃ?」



 私は収納からアストロスフィアを300個取り出した。異界の天帝ルミナスグローリーのスフィアが100個、その随従の神々が持っていた200個である。討伐後、ふと思い立って今回の戦いで持ち主不在になったアストロスフィアがあるのではないかと強欲権能で引き寄せたら、思いのほか沢山手に入ってしまったのだった。



「……これはまた、沢山あるのう」


「ぜんぶあげるー」


「いやいや、管理が大変でわらわもこんなにはいらぬ。そうじゃな……100個は貰うとして、残り200個は眷族に配る形でなら引き取れるが、どうじゃろ?」


「うん!」


「なんだか逆にわらわが貰う立場になってしまったのう……」


「にゃはっ」


「そうじゃ、このスフィアってまだ移譲処理はなされていないな? ならば生命体の住む星の管理神もそのままになっておろう。制圧ゲームでもせんか?」


「従うか、滅びるか、みたいな?」


「そうそう。戦勝者は敗者を処断できる権利を持つ。なんせ、勝ったのだからな!」


「やるやるー。あ、でも、にゃあの世界の被造物の様子も見ながらになるにゅ」


「構わんさ、彼ら管理神も上司が変わるだけで立場は変わらないとわかると、そう滅多に反抗してこんよ。……反抗した際は滅ぼすのじゃがな!」


「うんうん!」


「よし、じゃあ行くかの!」


「にゃあ! あのねあのね!」


「どうした、カミラ?」


「にゃあね、日本昔ばなし乗りがしたい!」


「……おお、あれか! よしよし、良いぞ」



 そうして私は、坊や良い子だねんねしなライディングで黄金竜となった祖母の背に乗って、出かけたのだった。なお、セラーナには陛下ママへ言伝を命じてある。


 ところで。


 神さま世界の遊びって、過激だねぇ?




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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