第203話 天帝ルミナスグローリー

 何か巨大なモノが、私の世界に侵入しようとしていた。

 いや、違う。

 な、と表現すべき何かが私の世界に侵入しようとしていた。


 しかもそれについては、私はアストロスフィアの警報で即座に察知していた。


 仰々しい光り輝く黄金の戦車(チャリオット)を駆る、謎の大軍団。

 規模は測定不能。とにかく多い。光り輝く大軍だとしか。

 その中心に、ひときわ巨大で豪奢な黄金の戦車が。

 まるで超新星のようにまばゆく輝いて。


 ちっ、と私は舌を打つ。幼女らしくない反応を見せる。


 この大軍。


 要するに、私を保護してくれている陣営の神々ではないことは確かだった。


 異世界――うーん、正確にはなんと言えばいいのか表現が出てこないね。

 だって私も貸与されているとはいえ一つの『世界』持ちなのだから。

 神々(主神たち)はそれぞれ自分の世界を持つ。だからこその主神なのである。

 なので、私の視点からは他はすべて異世界となるわけで。


 ともかく、なのだ。


 迷惑な、そう――侵略者。


 となれば。


 私がどういう対応をするか、わかるよね……。


 例えるならそれは、不正に侵入しようとする悪意のハッカーからマイPCを守るため、ルーターをつけるのがネット常識のように。

 ルーター機能は正規の接続以外を弾く役割を持っているのだった。

 家に対する囲いと門扉のようなものと言えばわかりやすいだろう。ネット接続はモデムだけでは危険なのだ。囲いも門扉もなければ侵入者はどこからでも来る。


 この思考パターンで、私はこいつらが私の箱庭――ゴーレムたちの惑星に到達する前に弾こうとした。以前やってきた変な合体ロボのワープアウト痕跡を解析して、今回みたいな大規模『異世界神』どもからの侵略への対策を練っていたのだった。 


 ……失敗したのだけれども。


 宇宙空間なので音は伝わらないはずなのに、波動として轟々と響きを上げて。


 真っ直ぐ、突っ込んでくる。私のルーター防衛法はぶち割られたようだ。


 宇宙空間ではイマイチ変な表現だが、あえて言わせて貰う。

 まるで、無人の野を行くかのよう。これはマズい。


 ヤツラは私の世界に侵入し。

 ヤツラは私の箱庭を目指してくる。


 惑星エメスに。


 そうか、そんなにも私が憎いか。否。立場上、かたきを取らざるを得ないか。


 ふふ、と私はほくそ笑む。先ほどの舌打ちなどなかったかのように。


 真正面からとはその意気や、良し。

 ディ・モールト。まさにディ・モールト。


 神族なのに魔族的なぶん殴りをご所望とはね。素晴らしいディ・モールト


 闘争、闘争だよ。お前たち。

 ならばこちらも、全力で、滅ぼしてやろうじゃないのさ。



「……アリエル」

「はい、マスター」

「お前はこの天空神殿に天使たちを全員集め、待機させるように」

「……はい、マスター」

「それで、防衛に注力するにゃ。絶対に外に出ちゃダメ」

「……はい」

「くどいけど、絶対に、絶対に出ちゃダメだからね」

「……承知、しました」


「マリー」

「うん、カミラ」

「マリーは一旦この世界から抜けておいた方がいいかも」

「そんなに危機的状況?」

「うん。以前、にゃあはマリーのレベルは1兆あるって言ったよね」

「言ってたわね」

「迫り来る異界の神々。あれに随従する陪神どもの最低レベルが100億」

「うん」

「でも、それはあくまで最低レベル。中心にいる主神のレベルは」

「私ではとても相手にならないほどに危険な存在だと」

「……うん。だから」

「ついていくわよ、カミラに」

「……いいの?」

「ここで逃げたらパートナー失格よ」

「……ありがとう。本当はちょっと心細かったの。マリー、大好きっ」

「私もカミラのこと大好きよ」



 私たちは抱き合ってキスをする。お互いの口腔に舌を入れ合って。

 互いの体温。吸血鬼なので体温は低い。でも、温かい。


 10歳女児と見た目が3歳児幼女。


 異常に仲の良い姉妹。幼い妹が姉に抱きついているようにも見えなくもない。

 だが二人は熱く爛れるように唇を交わし合っている。マリーの唾液、甘くて好き。


 百合姉妹。ある種のおねロリ的な。


 好き。好き。大好き。愛してる。大好き。


 周りの男の娘天使たちが、股間を不自然に押さえて見守っている。

 後であの子たち、絶対にアレするから。シコシコとね。あえて言わなかったけど毎回のことだから。元気な子たちよね。


 もっとも、現状でアレコレできるほど根性が座っているかどうかは知らないけど。


 ……私とマリーの二人は、悪魔翼を出して、抱き合ったまま飛翔する。


 そして、まずは3つのゴーレムたちの街を、ダンマス権限で結界封印する。

 これに加え重ねて。

 この星、惑星エメスは、丸ごと私のダンジョン化せしめた惑星であった。

 ダンジョン封鎖の応用で、星を丸ごと結界封印する。


 これで、星をいきなり爆破とかはできなくなった……はず。


 2500兆レベルの結界封印である。


 今から太陽にこの星を凸させても、まったく平気な結界封印である。


 さて、と。私たちは抱き合ったまま、異界の神々の大軍勢を相対する。

 というか眩しいね。太陽がもう1個できたみたいに。



「こんな激しいネオンサインはいらないにゅ! この無礼者!」

「侵略者どもよ、立ち去れ! その方らは私たちの世界を侵犯している!」


『黙れ! 咎者どもよ!』


「誰が咎者にゃー!」


『我に随従する眷族を殺害せしめて何を言うか!』


「無礼召喚するのが悪いにゃ! 次やられたら必ず殺すって決めてたにゃ!」


『それが神であってもか!』


「当たり前にゃ! にゃあは殺害対象に差別はしないにゅ!」



 既に舌戦は始まっている。今のところはドローと言った感じか。


 先手は私たち。当然である。相手に己が何者かを定義付けしてやらないと。

 すなわち、お前らは侵略者であると。お前らは悪であると。


 しかして、受け手の主神も一歩も負けてはいなくて。

 やはり自らの陪神の仇を主張してきたか。確かに私はあの駄女神を殺したし。


 かたや侵略者に侵略者と悪の定義付けをする。

 かたや神殺しに神殺しと悪の定義付けをする。


 ね? ドローでしょう? 今のところはね。



「それで侵略者よ。名を名乗れ! まさか畜生強盗に来たわけではにゃあよね!?」


『どこまでも無礼な。我は100の世界を統べる天帝。ルミナスグローリーである!』


「にゃあはカミラ・マザーハーロット・スレイミーザ! 星の太祖なり!」

「私はマリアンヌ・ハーロット・ブラムストーカー! カミラの伴侶なり!」

「……マリー。にゃあのお嫁さんになってくれるの? それ、ホント?」

「私はもう、そのつもりよ? お義母様の許可を貰わないと別姓のままだけどね」

「嬉しい。愛してる。ちゅっちゅしちゃうもんね」

「私もよ、愛してる。カミラの唾液って、とっても甘くて好き」


『その方ら、突然いちゃつくな! 幼女同士で嫁だの伴侶だの……』


「普通だよ? 水星の魔女の女の子主人公たちもラストでは指輪を薬指に嵌めていたし」


『知らんわ! 一体なんの話だ!?』


「爪も綺麗に短く整えられていて。夜の営みもばっちりね」


『だから何のことだ!?』


「欧州など諸外国の似非多様性より、日ノ本の国の多様性の方が本物ってコト」


『ええい……たばかりおって……』


「一応、訊いておくよ。わざわざにゃあの世界に侵略した目的をね」



「それはお前の軍門に?」


『その方は我が眷族を殺した。が、我はその方が見どころがあるのを否定せぬ』


「ふーん?」


『……もっとも、我に降らぬというなら、尽きせぬ後悔をその方にくれてやろう!』


「にゃるほど。……言っとくけど、もう闘争は始まってるにゅ?」



 突如、話を脱線させたのは意図したものだった。

 マリーがいてくれたので、不自然なくラブちゅっちゅできたし。

 この時間稼ぎ。

 座標を設定し、他に被害を及ばさないよう、確実に仕留めるための。

 余談だがラブちゅっちゅは本気でラブラブしていたりする。だって好きだから。


 私は隠していた『準備』をあらわにする。



『なんだと……くっ……これはっ!? しまっ……っ!?』


にゃー、にゃー、にゃー。無に還れ。すべて無に還れ。ふにゃああああああああああーっ無に、なにもなく、無に還れ。!!!」



 私はこれを『拡散にゃーにゃー砲ナイアルラトホテップ』と名付けたい。

 アストロスフィアを手にしてから、ずっと演算していたのだ。真空について、を。脳内における1,024個の量子並列演算する。私が私であるために。

 そうして3ヶ月が過ぎ、私は真空を理解した。同時に真空と一体化した。実家の自室に戻った感覚だった。大人モードから幼女に戻ったときよりも顕著に


 拡散にゃーにゃー砲ナイアルラトホテップ


 ふざけているようで、これは宇宙外に無限に広がる『真空』を砲撃化させたもの。

 揺らぎを逆算させ、強制的に無に還す荒業であった。

 そして±ゼロとなった『真空』は、私のレベルとして暴食吸収される。

 あまりに敵なしに強すぎるため――

 座標を完全に設定しないと他の被害が凄いので発動に時間がかかるのが欠点。


 狙ったのは、レベル100億から1000億程度の陪神ども。

 その数――万を越えてて、数えるのが面倒くさくて分かんないや。

 中心の天帝と腹心(神)どもを始末するのは、まだ。まずは雑魚から処理しないと。


 吸収した現在の私のレベル。10京と少し。


 ホントもう……。

 小学生男子が妄想する『ぼくの考えた最強の主人公』みたいで。

 恥ずかしい。でも、爽快でもある。どうせまだまだ上には上がいるよ。


 それは良いとして。


 ここからね、嫉妬の権能を使って、本気モードになるわけで。


 レベル100垓超えのトンデモ私が爆誕する、と。


 今なら宇宙世界の1つや2つ、暴食できそう。そしてもっと強くなる。


 というかさ。


 ……よくこのレベルでも私、平気でいられるよねと自分で呆れちゃうわ。



「じゃあ、侵略者は死のうね」


『ま、待て。その方は……いや、まさか……っ!?』


「強欲の権能でお前のアストロスフィアをすべて強奪する。そして……」


『ま、待っ……』


「にゃー、にゃー、にゃーんっと」


拡散にゃーにゃー砲ナイアルラトホテップ


「ぎっ、ぐっ、ぎゃああああああああああああああああああああ!?」



 無明の光。無明の闇。

 無とも名づく『真空』に分解される異界の天帝とその幹部神ども。



「ま、こんなものかしら」



 あっけなく、終わった。無駄に煌びやかなエレクトリカルパレードだったわ。

 素早く幼女に戻って、暴食で真空エナジーをぱくぱくしちゃう。


 現在のレベル? いやあ、インフレが凄くてもう良くわかなんいや。

 ああそっか。レベルとかもはや意味ないのだったよ。

 そもそも無――『真空』と同化したので。レベルは無限である。


 今の私を滅ぼす手段なんてない。アザトースが私を否定しても無意味。

 始まりも終わりもない。αもΩもない。真空とはそういうもの。

 零に何を掛けても、零にしかならないんだよ。ただ、上に落ちることはできる。


 ……ん? そういえば。ってどういうことなんだろう?


 ふと疑問に思ったが、本能的に現状ではどうやっても理解できないものと気づいたため、すぐ思考を霧散させた。やっても無駄なことは、しなくていいの。


 私はマリーの胸に顔を埋めた。彼女の、幼い甘い香りを胸一杯に吸い込む。

 良い匂い。私は愛を求める。私は女の子が好き。私はマリーが一番好き。



「マリー」

「うん」

「帰ろっか」

「そうね。惑星エメスの結界を外して、元に戻さなきゃね」

「うん。帰ろう、帰ろう」



 私たちは、仲良く抱き合ったまま、地上へと降下していった。




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