第202話 アベルの真社会性生物形態(偽)

 先に定義付けたほうが良さそうなので、ちょっと語らせてもらうね。


 真社会性生物形態とは。


1、親以外に子を育てる共同育児者が存在している。

2、2世代以上の個体が一つの集団の中で生活をしている。

3、子を産む個体と産まない個体のカースト分けが確立している。


 とどのつまり『種の繁殖』の分業についてである。


 これら三つの条件を内包する社会形態を、真社会性生物形態と呼ぶ。

 なお、昆虫では蜂や蟻がこの条件を満たしている場合が多い。女王昆虫の周りにオス昆虫がいて、世話する働き昆虫がいる。そして働き昆虫は生殖しない。


 こんな感じ。


 一方。


 アベルが構成する真社会性生物形態は。


 アベル=女王。繁殖=生産施設管理者。ゴーレムたちの中で唯一私と会話する。

 最初は2人だった執政担当。イーノックとメトセラ。現在は10人に増えている。

 労働者階級。大多数のゴーレムたち。発電からモノづくりまで労働担当。


 知能は就ける役職によって設定される。管理職は知能高め。労務職は知能低め。


 なお、彼らの報酬はすべて酒デバイスとなる。貨幣の概念はまだ表れていない。

 1日1回のねじ巻きはお互いの仲間意識と善意の行動により成り立ち、また、生産された物品は共有のもので、これまた善意の貸し借りで成り立っている。


 ……ふむ。


 多少、私としては思うところもあるけど、被造物のせっかくの社会形態にいちいち水を差す愚は犯さない。ただただ黙って彼らを見守るだけである。


 しかし、なんというか……。


 女王となったアベルがこの社会形態から何を求めているのかが気になる。以前から触れているように、私はあの子アベルが転生者ではないかと疑っている。


 鑑定で調べれば一発でわかるっちゃわかるんだけど、つまるところ鑑定とは対象を裸にひん剥いて隅々まで視姦するようなものなので、最近はもっぱら敵や敵に準ずるもの、自分に無関係なものや無生物、無機物以外にはやりたくないのだった。


 え? ゴーレムは無生物で無機物って?


 うん、でもほら、私が創った可愛い子たちだから。人数も『1体、2体……』ではなくて『1人、2人……』と呼んでいるところからもお察しいただければと。


 いずれにせよアベルは何らかの意図を以て女王に就任した。

 今後の動向に注目かなぁ、と思う。


 で。


 私とマリーなんだけれども。


 男の娘天使のアリエルにご褒美イタズラ……ゲフンゲフン、ちゅっちゅしていた。


 この子ったら、総受けなのよね。見た目は女の子。ちんちん付き。

 この男の娘を私たちは好きにしちゃって良いわけで。そのための男の娘だもの。


 だから私とマリーが能動的に色々してあげているわけで。


 いやあ……フフ……少々下品だけど淫魔特性の影響とは思えないほどハッスルしまして。もちろんちゅっちゅをね。入れるとか出すとか、そういうのじゃなくて。


 そうやってゴーレムたちを見守りつつ、適度にアストロスフィアをメイドインヘヴンして惑星エメス時間で10年、私の住む世界時間で半年が過ぎた頃。



「すっかり街も整って、しかも第2、第3の街まで出来上がったにゃー」

「発展に対する意欲が半端ないわ……」



 第一の街、アベル。

 第二の街、イーノック。

 第三の街、メトセラ。


 街は城塞都市化され、外部の敵対的な魔物の侵入を防いでいる。

 ちなみに城塞とは中心部に街を作り、その周りは田畑や家畜を飼い、あるいは軍の訓練所を作って外壁で覆い、有事の際に建物に邪魔されず即応する構造を指す。


 字面で表すと。外←壁→内で表記。


『敵対存在』『高壁』『迎撃軍』『田畑』『街』


 有事の際、この順番で成り立つのが、いわゆる城塞都市だった。


 利点は先にも書いたように、基本的に周りには何も無いので迎撃軍を軍団即応させやすいところにある。あと、火計を使われても街は遠くにあるので火に強い。更に田畑を壁の中に作るので平時も有事も安全に食料確保できることが挙げられる。


 そんな街が、なんと、3つも出来ていた。

 いくらか私たちが最初の屋台骨を作って用意してあげたとはいえ――

 ゴーレム文明が始まってたった10年で都市が複数増えるのは素晴らしいとしか。


 アベル、頑張ってるね。しかも新たなゴーレムを作りまくっているじゃないの。


 ときに、彼らゴーレムたちが構築した城塞都市の面白いところは、通常なら田畑や練兵場の場となる街外れが全面花畑になっている点だろう。

 彼らの食事はねじ巻きで賄えるため人間的な食事を必要としない。そして、まだ軍隊の概念はない。ならばなぜこの空き空間を必要とするのか。その答えが街を周回する花畑というのがなんとも平和的で微笑ましい。護りたい、彼らの美的感覚を。


 季節によって様々な花が開花し目を楽しませてくれるのは大層よろしい。


 まあ……。


 鈴蘭とか鳥兜トリカブトなども花畑として普通に植えられてて苦笑してしまうけれど。



「デモ(≧∇≦)b イイネ」

「デモ(≧∇≦)b イイネ」



 二人して感嘆する。創造主として彼らの文明成長にこれ以上の喜びはないだろう。



「アベルを褒めてあげないとね」

「そうね、いっぱい褒めてあげないとね」



 というわけで早速、アベルを褒める。

 私はどちらかと言うと褒めて伸ばすタイプだと自分では思っている。



『アベル、アベル』


「あっ、神さま! お久しぶりです!」


『頑張ってゴーレムたちを増やしているみたいね。街を作って、住まわせて』


「はい!」


『そんなアベルにご褒美をあげたいと思うんだけど、何か必要なものってある?』


「ご褒美ですか! えーと……」


『物質的なものなら大抵叶うにゃー』


「物質的なもの、ですかー」


『うん?』


「実は、わたし、一度でいいから神さまにお目通りしたいなぁと思っていまして」


『にゃー』


「駄目ですか……」


『……アベル。お前は薄々気づいていると思うけど、お前は始まりのゴーレムではないのにゃ。始まりのゴーレムは、お前を創る前に、2人、いたのよ』


「……」


『彼らは良く言えば出来すぎた、悪く言えば繊細すぎる子たちだった』


「原因は、もしかして」


『そう、その通り。自分たちの姿とにゃあたちの姿の相違にショックを受けた』


「なんと……」


『うん、その先は言わなくてもいいよ。にゃあはね、そんなつもりでお前たちを創ったんじゃないの。お前たちを悲しませるためじゃないの。ただ、性能進化の一番根っこの部分を構成し、なるべくお前たちだけの力で、しかも性能進化しやすいカタチとして、今のお前たちの姿を選んだんだよ。それなのに彼らは……』


「はい……」


『子は親に、平民は支配層に、ヒトは神の真似をしたがる。上位で流行ったものは、必ず川の水が上から下へ流れるように伝わっていく。そして陳腐化する』



 旧くは前世の秦の始皇帝時代。かの皇帝は自らの尊称に『朕』を用いた。するとどうだろう。周りの支配者たち――王たちはこぞって『朕』を尊称として使い出した。


 なお、これを業腹に思った始皇帝は新たに『真人』と自らの尊称を作った。が、これは流行らなかった模様。個人的には語呂が悪かったのではと思っている。



『もう察したと思うけど、問題は、今にゃあたちが姿を見せるとどうなるか、だね』


「真似ちゃいますよね。特に、次の世代」


『そう。なるべく自力で性能進化させたいという当初の趣旨から離れちゃうのよ。不用意な接触で、にゃあ自らが陳腐化のベクトルを与えてしまうのは避けたい』



 それに、私の姿を見て――またゴーレムたちが姿の相違に絶望する可能性も無きにしも非ず。アベルの子たちだし大丈夫とは思うけど、私も慎重になるのだった。



「うーむ、そうですよね……」


『……今の会話で思ったんだけど、たぶんアベルは転生者ではないね。もし転生者だったら今の会話の流れには絶対にならないから』


「えっ? ……あ、はい。おそらくわたしは転生者という存在ではありません」


『鑑定してしまえばいいんだけど、お前にも深層的なプライバシーがあるからね』


「覗いてくださっても一向に構いません。むしろ赤裸々に見られちゃっても。むしろドキドキするというか。恥ずかしいわたしをもっと見て欲しいです!」



 いや、なんなのその露出狂願望は。

 まあ良いけどさー。



『……お前はホント良い子だにゃ』


「ありがとうございます。ちょっと照れます」


『で、何が欲しいにゅ?』


「えーっと……保留、してもよければそれを希望したいです」


「うん。いいよ、思いついたら教えてね」


『重ねて、ありがとうございます』



 と、まあこんな会話をアベルと交わしたのだけれども。



「にゃー、ふにゃー、ふみゅー」

「どうしたの、カミラ?」

「たぶん転生者はアダムかエヴァにゃ」


「どうしてわかるの?」


「アベルの反応は転生者のそれではないからねー。神さまに会いたいなぁ、それで、神さまの姿を参考に次世代機を作りたいなぁという意図がモロに見えるにゅ」


「なるほど、そう言われてみればそうかも」

「みゅー」



 アダムとエヴァ。始まりのゴーレムたち。


 前世とあまりにかけ離れた姿。しかも始まりの存在という『一番きつい役』に彼や彼女は絶望したのだろう。何であれ、先駆者が一番キツくて旨味がないのだった。


 余談になるが就活ネタで『○○への起爆剤になれたらと思います』と語る就活生がいたら、私が人事ならそいつは絶対にお断りする。きっかけだけ作って後はお前どうするのって話。最後まで責任が取れない無責任なヤツ、組織にはいらないからね。


 ふーむ……どうでもいい話で少し脱線しちゃったね。


 アベルはすっごい頑張っている。私はこの子をとても気に入っている。

 前世世界神話のイーノックみたいに神に気に入られすぎて天へ取られるくらいに。


 そんなあまり嬉しくない謎解きを解決したりと、日々が過ぎてゆき。


 ある日のこと。


 予感が的中したのだった。


 とびきり悪い予感が。


 以前、私は私を無礼召喚した駄女神を喰い殺した。かつ、彼女の世界の者だろう合体ロボたちもアリエルに殺害させた。


 そして、とうとう。


 どうやら彼女=駄女神の親玉が、私の世界にやってきてしまったのだった……。




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