第178話 死合い観戦 with ポップコーン

「諸君。わが英雄たち。わが戦友たち。俺はフィックスサージベルト・パロス・スカイガーデン。知っての通り、スカイガーデン王国の傍系筆頭、大公をやっている」



 俺様は、わが軍団を前に壇上に立ち、胸を張っている。


 フル戦闘装備。実用一辺倒のダンジョンドロップ鎧にスカイブルーのマント。

 すぐ側には片時も離れない白龍のカトリーナが、今はドラゴンスタイルで俺様にくっついている。更に背後には、いかつい親衛隊が俺様の護衛にズラリと立つ。


 スカイブルーを基調にした王国旗と傍系王族旗。そしてわが軍旗。


 俺様、すっと息を吸い込む。



「時は来た! 現王ガットネーロ・スカイガーデンの政治怠慢に国民は喘ぎ、忠臣たちは諫言をするやいなや処刑され、王としての責務を果たさず、享楽に更ける。たとえ悪政であっても政治は政治だというのに、何もしないとはどういうつもりか!? 俺も当然、注意した。王族傍系の立場を利用して何度も何度も。が、その度に鼻で笑われた。傍系が余計な口を出すな、だとよ! はははっ、これは傑作だ! 酒色にふけったキチガイが、本家である自分の言動こそ正しいと勘違いしてやがる!」



 俺はここで一度言葉を切る。


 しばし、沈黙。そして静かに断言する。



「あえて言おう、アレは屑だと。驚くほどの屑。下水のヘドロがまだ清浄に見える」



 力強く頷く聴衆――レベル150の、わが精強なる軍団たち。



「ココだけの話、俺は平和主義なのだ。争いなんて腹が減ってしょうがねえと考えている。だが、腹が減るよりも、腹が据えかねるよなぁ!? 国民を一体なんだと思ってんだ! 王都はそれなりに治安を保っているらしいが、他の街は目に見えて治安が悪化しているぞ! 腹をすかせた子どもが徘徊し、死んだ目でパンを盗むような街のどこがいいってんだ。また、ありもしない罪を被せて気に入らない貴族を捕らえ、その財を没収し、処刑など愚の骨頂! もはやガットネーロの屑にヤキ入れして心を入れ替えさせるとか、そんな次元はとうに過ぎている! ……まったく恥ずかしい。あんなキチガイが我が親族だとは。と同時に俺は決めた。アレを王の座から引きずり下ろし、丸裸にして処刑台に立たせようと。その時、アレは知るだろう。国民の怒りを! 理解できないなら理解できるまで晒し者にしてもいい。国民が直々に教育してくれるだろう。『お前は、王が王たるの義務を忘れたバカ者だ』とな!」



 俺様は演説する。


 否、これは演説ではない。

 わが軍団、わが英雄、わが同志たちへの最終確認だ。


 なんで俺様、いつもとあまり変わらない喋りで壇上に立っていると思う?

 そりゃあさ、さすがに『俺様』呼びはしてないけどさ。


 ――わかるだろう?


 俺様は、俺様自身に王の器があるとは決して思っていない。

 民が俺様を選べば、王になるかもしれんが……。

 例えば共和制を民が望むなら、俺様はそれを手伝っても良いと思っている。


 ここにいるのはの男。俺様は王族であっても王ではない。

 なので、俺様はわりと自分の素の部分をさらけ出している。


 参謀にして乳母兄弟のラムズはこの俺様の考え方に反対していた。

 国家とは全国民への造夢装置であり、王もまた造夢装置の一端であるべしと。

 要は演出として『俺様の格好いい部分だけ』を見せろと。俺様に、王になれと。


 ただ俺様、そんな器用な男じゃねえんだよなー。すまんなー。


 うーん、ところで。

 カミラのお嬢ちゃんなら、どうするだろうな。


 あの子は筋をキッチリ通すタイプで、生粋の支配者にして征服者だ。

 もっとも敵対してはいけない相手。敵対すれば、あとは焼け野原が残るのみ。


 たぶんたった一人でも真正面からぶん殴って勝利を掴み――

 と同時に、あらゆる策を講じて国民の心もガッチリ掴むのだろうな……。

 

 俺様は壇上に立ち続け、声を張り上げる。



「俺たちはこの12日間――実質一年間、で全軍強化に取り掛かり、強くなる代償としてなんども死にかけた。魔物は手強く、心が折れそうにもなった。だが俺たちは誰一人として己の研鑽を諦めなかった。ガットネーロを王の座から追い出し、この国を救いたい、その一心が俺たちを支え続けたから。そう、血の小便を垂らしながら自らを鍛え上げたのだ! 確固とした信念で目的を達せようとする姿は、どんな名画より美しく力強いもの。改めて言うまでもなく、諸君らは英雄だ! むしろこれを英雄と言わずとしてなんとする!」 



 俺様は、ここでわざと溜めを作る。ゆっくりと、壇上から、兵たちを見回す。

 ぴったりくっついて離れようとしない白龍のカトリーナがひょいと顔を上げて、俺様に頬ずりしてくる。甘えん坊である。俺様はそんな彼女をぽんぽんと撫でる。



「さあ英雄たちよ! この国を破滅に導かんとする愚王をどうしてくれようか!?」


「「「「「「「「闘争だ!」」」」」」」」


「そう、闘争だ! 王の軍勢と戦うってこと! ガチバトルだ!」


「「「「「「「「逃走はしない!」」」」」」」」


「そう、俺たちは逃げない! やると決めたらキッチリやる! そして勝つ!」


「「「「「「「「「「必ず勝利する!」」」」」」」」」」



 歓声は爆発的熱狂を生み出す。戦い、そして勝つ。つまりそういうこと。


 心のなかで、10を、ゆっくりと数える。タイミングを測る。



「諸君。わが英雄諸君。わが戦友諸君。さあ……征くぞ! 俺たちの国を救おう!」


「「「「「「「「「応!」」」」」」」」」


「ぐおおおおぉぉおおおぉぉーん!!!」



 いいタイミングでカトリーナも吠えた。耳元近くだったのでその声量をモロに受ける羽目になるが、向かい来る軍団の圧倒的熱狂声音で相殺され、ギリギリ耐える。


 やれやれ、これでなんとかいずれかの決着にたどり着けそうだ。

 俺様の軍団平均レベルは150。

 俺様のレベルは200。秘密裏にもっと深くダンジョンに潜った結果だ。

 その分、何度も何度も死にかけた。カトリーナが何度も何度も助けてくれた。


 さて、いっちょラストバトルを――愚王ガットネーロにぶちかましてやるか!




 ◆◇◇◆◇◇◆



 にゃあ! ちっこくて可愛いカミラだよーっ! 幼女最高! 女の子大好き! ベッドで仲良くして良し! 血を吸わせて貰って更に良し! ペロチュッチュ!


 王都に、近日中に本気で攻勢をかけるとフィクスおじさんが私に漏らして3日後。


 ガッツリと、王都前の平原で大規模戦闘が始まろうとしていた。

 王国軍、背水の5万の兵力。フィクスおじさん率いる反乱軍、3万の兵力。


 一見すれば王国軍のほうが優位のように見えるけれど……。


 フィクスおじさんの軍勢には、建国の王が連れていたとされる『白龍』をシンボルにしているのだった。しかも白龍は、配下にホワイトワイバーンを100以上を連れていた。一方、王国軍にはそのようなシンボルとなるモノは存在しなかった……。


 民はわかりやすいモノを好む。


 もう一度、言うねー。


 民は、わかりやすいモノを、好むのよ!


 かたや乱痴気王。かたや、伝説で建国王が連れていたとされる白龍を連れる大公。


 どっちに付くかなんて、言わずともわかろうもの。愚王も狂った頭でもそれがわかるのだろう、わざわざ王都から軍団を出して外の平原で戦いを始めている。


 なぜかって?


 王都周壁を盾に戦う優位を捨ててまで外で戦闘する理由。王都内の市民感情がもはやガタガタだからだった。下手しなくても内部から王軍を崩しにかけられる。

 掌握する5万の将兵も金や脅しやその他諸々で形を保ててはいるが実際に死ぬまで戦うとなるとどうなるかわかったものではない。というか軍の形を持たせている時点で大したものとしか。私の知らない優秀で愚直な将軍でもいるのだろうか。


 いずれにせよ。


 詰んでいるのだ。すでに。


 法螺貝だと思う。互いに戦闘開始の命令が発せられた。王国軍は静かに、フィクスおじさんの大公軍は『応!』と全軍一挙の返事をもって前進を始める。


 私は巨大クマさん縫いぐるみのパパ氏の膝上でちょこんと座り、私から分離したスパイコーモリさんからの映像を100インチ魔力モニターを通して観戦していた。


 左腕でバターポップコーンのボウルを抱えて、サクサクポリポリやりながら。


 フィクスおじさん、初手はどうするかな。


 やっぱり敵陣の動揺を誘いたいから大規模魔術か、それとも……。



「があぁるるるぅーっ!」



 ドラゴンシャウト、ではない。シャウトにしては弱すぎる。バサリと空中に舞い上がった白龍。彼女の背後には円形の魔力紋がクッキリ浮かび上がっている。


 突風が起きた。それは幾重ものカマイタチを生み出し王国軍全軍に斬りかかる!


 なるほどかぁ。


 らしいっちゃらしいね。初手はやっぱりソレから始めたい心情、理解できるよ。


 連携して百以上のホワイトワイバーンが高高度から敵陣へ凸をかける。奴らの足爪には丸い何かが掴まれている。上空からのUターン。何かを投下。


 直後、チュドォオオォオオオォッ! と連続して爆発が起きる。あまりの爆撃に音がひとつに繋がって聞こえる。モヒカンみたいに立ち上がる爆炎に次ぐ爆炎!


 飛行爆撃とは恐れ入る。しかしこの大陸に衝撃反応性の爆弾などなかったはず。

 ……もしかして、私のダンジョンからのドロップ品? 武器防具がドロップしやすいフィクスおじさん側のダンジョン。当たり前だけど、爆弾は武器にあたった。



「にゃあ。空の魔王ルーデル閣下かにゃ?」



 後で聞くに、偶然にもホワイトワイバーン部隊の名称が『ルーデル直落下爆撃部隊』だった。ド派手な爆裂が続く。地上の王国軍兵は思い切り地面に叩きつけられたゴムボールみたいに吹っ飛んでいく。胴体から千切れた手、脚、首などバラバラになっている。文字通りの血の雨が降る。爆弾投下後のワイバーンは空で待機。また来るぞと威嚇するためのものであるのは明白。おじさん、戦術上手いねー。


 私はブラッドぶどうジュースをくぴくぴと呑む。甘くて美味しい。凄惨な光景に平気なのはなぜかって? なぜだろうね。いつからか平気になっていたよ。むしろパパ氏がハラハラしているっぽく、ウグぅやガルぅなどと変な唸り声を上げていた。


 フィクスおじさんの軍勢からの先制攻撃は成功した。

 が、相手の5万の兵力は大したもので。

 王国軍は多少の混乱が生じただけですぐに態勢を立て直した。


 ファランクス形態を取る王国軍。彼らの前面には強力な防御魔術が展開される。受けて大公軍もファランクス形態を取る。こちらも負けじと防御陣が展開される。


 あー、これは王国軍は絶対に有能な将軍が指揮してるね。スキル、カリスマとか使って統率していそう。そんなに有能なのに、大勢を見誤って愚直なのが惜しい。


 弓矢で牽制しつつ、両軍、がっぷりと軍面を突き合わせる。

 お互いに誘い合うかのような真正面戦闘。

 かたや統率力と軍兵数に自信がある。

 かたや、全員150レベルと1つの想いで動く、生き物みたいな軍団。


 ガンッ! と両軍殴り合う。


 魔族好みの戦闘ではある。



「にゃあ! にゃあ! ふにゃあああっ!」



 興奮して私は思わず唸り声を上げる! ポップコーンをバリボリ食べる!


 しばしの槍と槍、剣と剣のド付き合いの後。軍をぶち抜くのは。


 ひときわ大きな衝撃波が。


 私は魔眼を発動させる――カルドだ! カルドが鉄山靠みたいな背を見せたポーズを取っている! 瞬後、カルドは1挙動で拳を突き出しつつ王国軍に突っ込んだ。


 マッハパンチ。またもや衝撃波がドゴォ!


 紙吹雪のように舞い散る王国軍兵。


 そこにファランクス形態の大公軍が、陣形を崩さず津波の如く押し寄せる!


 カルドの、この一撃が大局を左右した。


 なるほどフィクスおじさんとラムズの采配であるらしい。本来なら白龍を全面推ししてしまってもよいのだ。なにせ、反乱軍『ストームドレイク』なのだから。


 しかしあえてそれはせず、味方の兵力を利用する手段に出た。簡単に言えば論告褒賞を立てさせる理由付けを、フィクスおじさん側から用意してやったのだ。私からのお願いを叶えるために。まあ、他にも理由は色々あると思うけれどね。


 蹂躙を始めた大公軍。そもそもレベルが違いすぎるのだ。いくら相手軍の将軍が優秀でも、個の強さが塊でダンチに高ければ兵力数など簡単に覆せるのだった。


 私は戦闘を最後まで見続けた。


 王国軍5万は背水の陣を取っていた。王都への帰還は、勝利以外不可能であった。文字通りの死兵となって抵抗する。逃げてもいいのだ。だが逃げられない。おそらく将軍のスキルカリスマで精神拘束しているのだ。ただ、いかんせんレベル差には及ばない。


 血が流れ、死が量産されていく。これは死神が過労死しそうね。


 そして、わずか1時間で。


 勝敗は完全に決してしまっていた……。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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