第179話 掃討戦は昼ドラのドロドロ風味
おそらく、と先に断りを入れておこうね。
王国軍側の将軍が、スキルの使用を中断したのだった。
憶測ではあるが、使用していたスキルは――精神拘束系だと私は見ている。
一番有り得そうなのは『カリスマ』スキルによる統率。
スキル影響下では発動者に熱狂的に従いたくなるとか、そんな効果がある……と思われる。レベルやスキル練度に依存し、また、発動者と受け手の相性も関係しそう。
つまるところ、元々統率力のある人物が使えば強力な洗脳状態になりやすい。
もしくは呪術による呪いなども考えられるけど、精神系は呪いに近いので省略。
大事な点。
あの軍団には愚王も参戦していた可能性が高いということ。
というのも――
王宮に寡兵を残し、穴熊みたいに奥に籠る愚はさすがに犯さないはずだから。
そんなの、これを好機に暗殺してくださいと言っているようなもの。
だから絶対に自分の兵力の中に、自分を守らせるはず。
となれば今頃、愚王は迫りくる敗北の恐怖に震えて逃げたのだろう。
それで将軍はカリスマスキルの使用をやめた。
やめざるを得なかったのではなく、やっとやめることが出来たという感じ。
私はポップコーンをもしゃもしゃする。
胴体はクマさん縫いぐるみで頭だけ戻したパパ氏の口にもポップコーンをポイ。
父娘ふたりでもっしゃもしゃ。ストローを差したジュースを父娘でちゅるる。
最強仲良し父娘。パパ氏は私を愛してくれている。私もパパ氏が大好き。
「あっけなく終わっちゃったにゃー」
「であるなー」
「あとは掃討戦にゃー」
「おそらく王都市民は、反乱軍を歓迎するのである」
「にゃあ」
「それにつけてもカミラが作ってくれたポップコーンとやらが旨いのである」
え? ライブ戦争中継なのにまったりし過ぎ?
観戦者の心情なんてこんなものだよ。野球中継を見ているのとなんら変わらない。
選手が必死で試合に臨むのを見て楽しむ。違いは死人が出るか出ないか。
某カイジでいう『安全であることの愉悦』も、少しはあるかもしれないね……。
ただひとつ、はっきり言わせてもらうと。
この戦争は王が愚かだったから起きたことなのだった。
王が救いようもなくバカだから、起こるべくして起きたのである。
それで、私は反乱軍にちょっと手を貸した。
たまたま、ほんの紙一重。完全な偶然の機会によるもの。
もしこれが王都に飛ばされて、可能性は低いが愚王に認められ――
しかも彼を正気に戻していたら、たぶん別な展開になっていただろう。
一つ言えるのは。
まず私は彼の妹氏を処理していたということ。理由は後ほど分かるので語らない。
でも私が転移したのはフィクスおじさんの側だった。
で、さっきも言ったようにちょっと手を貸した。
それ以外は何もしない。ただ見ているだけ。
そもそも。国の趨勢と民の生死は、すべて国の――王の責任である。
大局に私は関わるつもりはない。それは政治上許されない。侵略と同じだから。
私は、傲慢な女の子だろうか。
正直言って、わからない。これが正しかったかどうかも分からない。
すべては神のみぞ知る、なのだった。そこのところ、神さま、いかがですか?
――んっふふふ。秘密でーす♪
アッハイ。どうしてか楽しそうで何より。もー、神さまのイジワル。
私から分離したスパイコーモリさんを追跡させる。
壊乱し、逃走した王国軍の一分隊を。
それは王の親衛隊部隊だった。
中心に護られているのは愚王『ガットネーロ・スカイガーデン』だった。
気分が悪いのであえて表現しなかったし、名前も口にしたくなかったけれど。
このときばかりはね。
目に病的な隈を作った四十路のオジサン。酒池肉林していたにしては痩せた身体。
痩せて、目に隈を作り、眼光だけは鋭く、血走っている。
カリスマスキルを使っていたと思われる有能だが愚直な王国軍の将軍は、王の囮として残され、討ち死にしていた。キミは付く相手を間違ったね……。
彼らは王都に逃げ入り、馬を全速で走らせて王宮へと向かう。
駆ける際、これまた気分が悪いのであえて描写しなかった美化3000倍は行きそうな『神格化ガットネーロ石膏像』にぶつかって像を粉々にしていた。
この像、実は王都のいたるところに設置されているの。妹像もそこらに設置だよ。
『なぜだ、どうしてだ。予は神であるぞ。化身ではない。神そのものであるぞ!』
うっわ、激しい思い込み。キミは神じゃないよ、それはただの妄想だよ。
精神病患者が自分をキリストやら神やらと称しているのと、同じレベルだよ。
彼は狂った頭にしては、鐙のない馬を上手に乗りこなして王宮へ逃げ帰る。
……逃げてどうするんだろ?
と、思うでしょう。
迎えに出た妹氏の手を取って更に王宮奥へと走る。そんなはずは、そんなはずはと彼は口ずさみながら。妹氏、薄く笑っていた。不気味な笑みだった。
……前世のドロドロ昼ドラを更にぬちゃぬちゃにしたような展開になりそうでうんざりする。と、思ったらパパ氏にコントローラーを取られて、映像を消された。
「ダメである。いくらなんでも、アレはいかんのである。パパはカミラに変な影響が出そうで心配なのである。人間の愛人を持つのは良いのである。パパはカミラが女の子が大好きなのを知っているのである。男じゃなくてホッとしている部分も多々あるのである。小さな女の子は、恋愛の予行として女の子を愛する場合があると妻エルゼから聞いたことがあるのである。だが兄妹はいかんのである。アレはダメである」
「にゃあ。カミラ、パパのこと大好きだよ?」
「パパのことを好いてくれるのはパパとして大歓迎である。目に入れても痛くないほどカミラを愛しているのである。もちろんカインのことも愛しているのであるが」
「みゅふ。わかったにゃー。もう見ないにゃ」
「素直で良い子なのである。ぺろぺろほっぺなのである」
「にゃあー♪」
まあ大体のところは把握しているからね。気持ち悪いから口にしなかっただけで。
実のところ、鉛鍋で煮出したブドウシロップを愚王に一番飲ませていたのは彼の妹だった。煮出すところを見ていると、彼女はこうつぶやいていた。
『得られない愛なら、殺して私だけの思い出にしよう。お兄さま、お兄さま……っ』
びっくりヤンデレ妹氏なのだった。彼女はブドウシロップが毒なのを知っていた。
それをあえて飲ませ続けた。彼の正気を失うのを望んでいた。
愚王はバカではあったがその実、半分くらいは彼女の所業によるものだった。
妹氏が目指す最終段階――目的は何だろう。
あまり考えたくないけど、おそらくは……。
二人で、二人だけで、死ぬことではないか。
なんで血の繋がった同士でそこまで歪んだ愛を持つのかはわからない。
私は彼や彼女の過去を知らないから。
私とカインお兄ちゃんとの関係はとても良好である。
互いに噛み合う愛情交歓はすれど、そこに近親相姦的な想いは介在しない。
純粋に、家族として、お兄ちゃんを愛している。
私はポップコーンをテーブルに置いて、くるりとパパ氏の方へ向いた。
そしてぎゅっと抱きつく。
「にゃー。大好きの気持ちはこんなにも暖かいのにね。よくわかんないにゃ」
「で、あるなぁー」
「今日はすっごい戦いを見て、すっごい興奮したにゃー」
「うんうん」
「だからなのか、急に眠くなってきたにゅ……もふもふ気持ち良いしー」
「パパが抱き支えてあげるから、好きなだけ眠ると良いのであるよ」
モフモフパパ氏に抱きついているとなんだか眠くなってきた。
というか今昼間なのよね。そりゃあ幼女スタイルだと眠くもなるか……。
見るべきものはちゃんと見たし、これでいいかと自分に納得させる。
私は、そのまま、眠った。
次に目を覚ますとモニターには、王宮玉座前でフィクスおじさんが立ち、勝利宣言と共に戦友たちと凱歌を高らかに謡い上げていた。彼の足元には、折り重なるように血を吐いて横たわる愚王と妹が。どうやら毒を飲んで死んだらしかった。
乳母兄弟にして参謀の筋肉おじさん、ラムズが愚王から黄金の冠を取り上げ、綺麗なシルクの布で一度磨き上げてからフィクスおじさんへその冠を捧げ奉った。
フィクスおじさんは一瞬ためらうも、咳払いをして胸を張り、それを受け取り――
周囲の戦友たちが見守る中、自ら、戴冠した。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
『新王万歳!』×全員
『新王万歳!』×全員
『新たなる国の幕開け、万歳!』×全員
粉砕玉砕大喝采。人化したカトリーナがぴょんとおじさんに抱きつく。
なるほど、フィクスおじさんは王になることを選んだか。
足元には愚王とその妹の死体。
さて、私として互いの国の将来を見据えて、新王フィクスにどう行動を取ろうか。
万歳三唱の凄まじい波をモニター越しに感じつつ、私はまた目を閉じていた。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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