第177話 決戦前夜

 よくよく考えたら、材料が足りないからって想像魔法『EL・DO・RA・DO』を使って強引に創らず、権能『強欲』でどこかから調達すればよかったのだった。


 え、何がって?


 ご飯を作るときの食材についてだよ。


 これは私の憶測になるけど、想像魔法『EL・DO・RA・DO』とは『本物の偽物』を創る魔法ではないかと思っている。


 良くわからない?


 つまり、で、けど、実は偽物ってこと。

 例えるなら。

 量子テレポーテーションで創られた、同じ情報を持つ『モノ』というか……。


 定義付けが難しいにゃー。


 それよりも『強欲』の権能でどこかから(異世界も含む)『奪ってきた』モノのほうが、明らかにワンオフの本物じゃないのかなって話。……まあ、奪われた側からすれば災難以外の何物でもないけど。あるはずのものが、なくなるのだからね。


 うーん、まあ……。


 ややこしい話になってきたのでこれでおしまい! 量子論はやっかいにゃし!



 レイリンの家督問題から一週間。私はパパ氏とマッタリ生活を送っていた。


 気分で王都の冒険者ギルドに出向いて、ダーシャ先生から直接依頼をもらってはダンジョン探索したり、パパ氏と一緒にご飯を作って食べたりした。


 ちなみにパパ氏と食べたメニューは以下の通り。


①権能『強欲』でピザ(LLサイズ)を3枚、異世界強奪する。マルゲリータ、ホットチリ、シーフードの3種だった。あとコーラ2人分(Lサイズ)と、サイドメニューの15個入りチキンナゲット1つ、フライドポテト2人前、コーンポタージュ2人前。

 奪われた配達員の人(だと思う。伝票が付いてたし)ゴメンナサイ。念のため権能を逆流させて、あなたのポッケに金貨を数枚、送り込みました。


②餃子、春巻き、天津飯。これは自分で作った。餃子も春巻きも餡から作ったよ。ニンニクたっぷり入れてね。ちなみに春巻きは良くある細手のものではなく分厚い太巻きで、とある北京料理レストランのそれを参考にしている。アレが美味しいのよ。


③巻き寿司とお稲荷さん。これも自分で作った……けど、海苔と味付け揚げとかんぴょうは『強欲』権能で強奪召喚した。だってこの国にないんだもん。海苔巻きはサラダ巻きとノーマル巻きの二種類。不思議なことにお稲荷さんを作っていたら目の前でフッと、何度か消えたのだった。神さまに問い合わせるとこの世界の獣人神がつまみ食いしたらしい。なんでやねん。あと、スープにハモの吸物を作りました。


④ドミグラスソースオムライスとロールキャベツのスープ、ささみとキャベツとニンジンの温野菜サラダ。デザートには練乳とメロンのシャーベット。オムライスはふわトロに作るのが腕の見せどころ。たっぷりドミグラスソースで食べると幸せ。


⑤鬼盛り海老天の天丼、わかめと卵の吸い物、お新香。お気づきの方はもちろんおられると思う。最初の『強欲』権能で強奪召喚したもの以外、必ず主食をご飯モノにしていることを。だって私、元日本人みたいだし。お米は日本人のソウルフードなのです。というわけで、クルマエビっぽいエビ天にマイタケとサヤエンドウ、サツマイモなどの精進揚げも加えたのは私の天丼だけで――パパ氏のはひたすらエビ天だけをガン盛りにした大変男らしい……を試食して貰ったらパパ氏はドン引きレベルで気に入ってしまって、完全にバランス無視なトルネード天丼になったのだった。


 お断りを入れるに、これは人間でいう夕飯に当たる食事で、昼(夜)食にはサンドイッチやハンバーガー、ラーメンやうどんそばなども食べている。以前に食べたお好み焼きと焼きそばもこの『昼ごはん』メニューの一つになる。


 やっぱり『喰う・寝る・出す』は大事だよねー。


 最近のパパ氏は毎食事を楽しみにしていて、作る私、食べるパパ氏、献立を考える私、キラキラした目で私を見るパパ氏……どっちが親なのかわかんないことに。


 だけど、食べ盛りなパパ氏も大好きよ♪


 と、まあ……今夜の夕飯も終わったところで、白金貨がぷるぷる震えたのだった。


 ご存知のように、この白金貨はフィクスおじさんとの連絡用魔道具であった。

 私は右手で白金貨を弄びながら応答に出る。



『10日ぶりだな、お嬢ちゃん。こんばんはだぜ』


『こんばんはなのよ。人間はまだ寝ている時間なのよー。今、午前3時にゃし』


『おっ、幼女モードか』


『これが本来の姿で喋り方なのにゃー』


『そうだったっけか。まあいいや』


『まあいいやって、こちらとしてはモヤモヤするんだけど……それで、どしたの?」


『いやあ、最終の追い込みやっててさ。回復ポーションで気合を入れてここしばらく徹夜続きでさ。やっとこ全軍が満足いく結果になったってわけよ』


『ああー、10日間のフィーバータイムを有効に使ったのにゃ。レベルアップしたら一定の体力回復効果もあるし……でも、無茶しすぎたら体調を崩すにゅ』


『心配してくれてんのか。大将ってのは要所要所でがっつりリーダーシップを取らねぇと兵たちが付いてこねぇからなー。そのための試練みたいなもんよ』


『にゃあー』


『で、あれよ。現状を知らせるのはオマケでさ。カーツブルグ子爵家って知ってるよな。お嬢ちゃんがスゲェ関わってるらしいんだけど』


『冒険者ギルドの初心者講習で一緒になって、レイランってば暗殺されかけたにゃ』


『らしいな。色々と省くが、俺様の陣営に加わりたいんだってさ』


『入れてあげたらいいにゃ。にゃあがお勧めしたにゃ』


『らしいなー。あんなちっちゃい女の子が暫定とはいえ子爵とはね』


『気合の入りが違うからねー。一本気なところがあるから、それさえ踏まえればコントロールはしやすいと思うにゅ。あと、護衛のカルドはレベル1000のデイウォーカー吸血鬼にゃ。元は半吸血鬼だったのをにゃあが完全吸血鬼化させたのー』


『……今、とんでもねー情報がお嬢ちゃんの口から漏れ聞こえて、俺様、震えが止まらんのだが? あのぼーっとした感じの小僧がレベル1000の吸血鬼だと……?』


『上手く使うといいにゅ。カーツブルグ子爵家の騎士団は使い物にならないけど、カルドは人間相手ならそこそこ使えるはずなのよー』


『使えるってか、一軍をアレ一人で戦い抜けるっちゅーの。俺様のレベル150軍団レギオンも影が薄まるわ! なんちゅうもんをこっちの陣営に引き込ませようと……』


『そこを上手く使うのが、フィクスおじさんの腕の見せどころ』


『ぐうの音も出ないほどその通りなんだけどな? こう、あるじゃん。ビビったわ』


『いずれにせよ、仲間に入れてあげて。それでテキトーに戦功を立てさせて子爵家の安堵とその後の支援でもしてあげて欲しいにゃ。代わりに戦後に、王都の新ダンジョンの難易度と財宝バランスを整えてあげるから。一般冒険者も入れてあげてね』


『なんかクソスゲェ財宝の山みたいなダンジョンが王都に生えたって話は聞いていたが、やっぱりアレはお嬢ちゃんの仕業かよ』


『おじさんの方には装備とレべレング。王都の愚王には金銭欲をかき立ててー』


『悪魔みたいなことしてて笑っちまうわ』


『悪魔は契約に厳しいだけで、ちゃんと契約したらいい奥さんになるよ』


『女はしばらくいらんわ。うちのケイティがもう甘えん坊で』


『精神は肉体のおもちゃにゃ。でも、どーなんだろうね。好きなものは好きなんだからしようがないかもね。どうせ結婚するでしょ? あの子と』


『マジかよ、そう来るか』


『結婚しないの? たぶんあの子はそのつもりだよ。パパと結婚するーって』


『それはなーんもわかってない、いわゆる子どもの妄言ってやつじゃね?』


『どうかにゃー。血の繋がりはないんだし、人化できる時点で繁殖も可能よ』


『マジかー。俺様、ケイティをボテ腹に孕ませるのかよ。……ってマジか!? 出来んの? 龍と人だぜ? 種族、離れすぎてんじゃん!? なんで!?』


『そのための龍人にゃ。子どもが出来たらお祝いしてあげるからがんばってー』


『返事に困る応援ありがとよ。……現状を知らせて俺様の軍団自慢しようと思ったら、なんかビビる話をガンガンされて戦略的に負けた気分がスゲェわ……』


『でもこの内戦には勝つつもりでしょ。勝てば問題ないにゃ』


『あー、まあな。色々手伝ってくれてありがとうな』


『一緒に捕まって処刑された中にゃー。水臭いー』


『俺様は処刑されてねえし!』


『にゃははっ』


『近日中に本格攻勢をかけるわ。手は出さんでも応援はしてくれや』


『うんっ。ダンジョンから見てるにゃ』


『じゃ、そんな感じで』


『またねー』



 相変わらず面白い人だった。しかも軍事の最高機密、大体いつ本格的に攻めるかを私に伝えて来るなんて、信用されているって考えてもいいのかな。


 うふふ。律儀な人。


 とかニヤニヤしていたら――縫いぐるみクマさんパパ氏がどうやら私とフィクスおじさんとの会話を気配を感じ取ったらしく、しょんぼりとへこんでいた。



「パパー、あのねあのね。フィクスおじさんとは只のオトモダチなのよ。たぶんおじさんの将来の奥さんは、カトリーナっていう白龍なのよー」


「ぐるるるるん……」


「もー。大丈夫だってばー」



 へこむパパ氏に、私はがっつり抱き着いて、顔を胸元に埋めるのだった。




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