第176話 パパ、今夜は何を食べよっか?

 ぷっぷくぷ~。今回は本来の姿、3歳児幼女の姿でお送りいたしますよ。


 やっぱりね、ボンキュッボンでムチムチ大人モードよりも――

 ぺたんこ寸胴ボディ&ぷにぷに手足の幼女がいいわ。本来あるべき姿だしね。


 あー、落ち着くぅ。ちびっこ最高。幼女バンザイ。

 椅子によじ登って座ると、足が床に届かなくてブランブランさせる楽しさよ。

 真向かいの椅子に座る、コストコ巨大クマさん縫いぐるみっぽいパパ氏がハラハラしながら見守ってくれている。私はそんなパパ氏が大好き。


 そしてブラッドぶどうジュースを飲む。


 甘くて美味しい!


 ……ときに。


 レイランの件では随分と殺伐としてしまいましたね。

 別にあのくらいどうってことない、とはちょっと言い難く。


 やっぱりレイランの『叔父』屋敷に直接乗り込んで、全員を真正面からぶん殴るなり剣で真っ二つにした方がよかったなぁと思う。ついでに屋敷も放火する。


 ……えっ? 殺伐としてるって? 魔族としての、作法の問題なんだよねー。


 魔族は、真正面から敵と向き合い、そして打ち勝つのである。あと放火する。


 もちろん策は大事。でも敵に敬意を示すには真正面からブッ飛ばすのが一番だと思わない? なのにBC兵器使用を選択してしまうとは、嗚呼、私のおバカ。


 気晴らしに大陸の一つでも海に沈めてしまいたい気分。


 やっちゃおうか? 私なら簡単にできちゃうんだよね、これが。

 ほーら、魔力を神気に変換しつつ、クンッと指を。


 ――ちょ。やめてください。そういうのは、メッ、ですからねっ。


 はーい、神さま。やめておきまーす。


 そんなこんなで、ここは王都側の新ダンジョン、そのコアルーム。

 分割監視モニターには、欲にまみれた愚王の命を受け、そして自分の欲も満たすために、王兵たちが連日連夜命がけで宝を探し求める姿が映し出されていた。


 私は、ふっと、そんな彼らを見て鼻で笑う。……この傲慢さよ。


 もはや彼らの動向になど微塵も興味がない。どうせ低層でしか活動しないし。


 それよりも私は、晩(お昼)ごはんご飯を作ろうとのであった。

 むしゃくしゃしたら、美味しいものを作って、食べるに限るよね!


 ……で、何作ろう?


 ふーむ……揚げ物カキフライは先日やったのでやめておくとして。

 カレー、ホワイトシチューは定番だけど、それだけに面白くない。

 美味しいんだけどね。特にカレー。とっても美味しいけど、つまらない。


 筑前煮でも作るかな。


 あれ、ものすごい手間がかかる割に地味なんだよねー。

 美味しいけど、献立の主役になれないイメージが強い。

 しかも、ああだめだ。コンニャクがないわ。

 想像魔法で無理やり作り出してもいいのだけど、調味料とかならまだしもさすがに食材には使いたくないにゃ……。百歩譲って、飲み物がギリギリのラインね。


 というか今、突発的にお子様ランチが食べたい。


 プレートに乗せられたハンバーグ、エビフライ、ウインナー、ポテトサラダ、プチトマト、旗付きのチキンライス、デザートにプリン。そしてオマケのおもちゃ。


 これも一つ一つ手間がかかるけど、その分、食べるときは絶対に楽しい。


 お子様ランチの始まりは確か……三越デパートの食堂だったと思う。

 1929年、世界恐慌の後。御子様洋食とか銘打って、子どもに夢を与えるようなメニューを作りたいとかなんとか。その後すぐ、戦争の足音が響いてくる皮肉。


 んー。でも作るの大変だからにゃー。


 お子様ランチは、大人に作ってもらってこそ、なんだよね。

 だって私、まだ1歳だし。見た目もちんまい3歳児幼女だし……最近はパパ氏の要望でオムツもしてるし。だからお尻の部分、モッコモコなんだよねー。


 オネショし放題。オムツはパパ氏に換えてもらう。


 ん〜〜。どうしよっかな。


 悩みながら、結局は。


 鉄板でお好み焼きを焼いている自分がいた。しかも豚玉。

 追加で焼きそばも焼いてるよ。炭水化物✕炭水化物なのである。 


 えっ?


 お子様ランチ回じゃなかったのかって?


 あれねー。作るかどうか、わりと迷ったんだけどね?

 でも、お子様が自分で食べるお子様ランチを作るって、なんだか矛盾しているような気がしてさ……。やっぱりアレは大人に作ってもらわないと。


 話を聞いたパパ氏は食べたそうにしてたけど、パパ氏が食べたらそれってもう大人様ランチだもんね。大っきいお子様だな! むしろパパ氏に作ってもらいたいよ。


 ちなみにレシピは今回は省略します。お好み焼きは言葉通りなんでもぶち込んで焼いていいからお好み焼きなのよ。あとはソースとマヨがあれば、大体イケる。



「カミラの言うお子様ランチが食べたかったのであるが、この、お好み焼きとやらも非常に食欲を刺激する良い香りなのであるなぁ」



 もうすでに食事臨戦態勢のパパ氏。クマさん縫いぐるみ姿から着ぐるみアクターさんの休憩タイムみたいに、着ぐるみの頭部を取ったような姿になっている。



「ソースとマヨネーズ、青のりとかつお節をトッピングして食べるにゅ」


「焼きそばも香ばしくて堪らん。わざわざ麺を打って湯がいてからから焼くとは、なるほど、こういうのもあるのであるなぁ」


「半トロの目玉焼きを上に乗せて食べると幸せにゃのよ」


「ワシ、めっちゃハラが減ってしようがないのである。早く早く、カミラの作るご飯が食べたいっ。世界でカミラが作るご飯が一番旨いのであるっ」


「にゃはっ。ジャンクな食べ物は、カラダには良くないけどおいしーのっ。どーせカミラたちに健康の良し悪しなんて関係にゃいしっ」



 テキパキお皿に盛る。お好み焼きにはソースとマヨネーズと青のり、かつお節をトッピング。焼きそばも皿に盛る。半トロ目玉焼きをパパ氏の皿には二個乗せて、味変用に皿の隅にマヨネーズと紅ショウガをつけておく。


 あと、忘れてはならないのが。


 パパ氏には焼酎レモンハイ――ではなくストゼロを。私にはレモンスカッシュを。

 ジャンクなご飯にはジャンクな酒や炭酸ジュースが合うのよ。

 こればかりは想像魔法で強引に『EL・DO・RA・DO』しちゃった。

 もちろん1から作っても良かった。ストゼロは火酒蒸留酒にレモンと甘味料砂糖を混ぜて炭酸で割ればできるし。レモンスカッシュはアルコール抜きで作れば良いだけ。



「うむ! 旨い! この野趣あふれる魅惑の香り、ガツンとくる味覚! そしてストゼロとやら! 旨い! 旨過ぎて食がとどまるところを知らぬ!」

「にゃあ。美味しーね♪」



 父娘二人、パクパク食べる。およそ貴族とは思えない食べ方をする。

 使用人どころか私たち以外誰もいないので安心してパクつけるのだった。


 貴族は体面を重視する。でも、こんなときくらい、いいよね。


 食べて飲んで、おなかいっぱい。


 食後は緑茶で〆。


 ふう、と息をつく。吸血鬼に呼吸は必要ないけどね。私たちの呼吸は、魔力循環のためのもの。身体が魔力で出来ているから。なので普通の鏡には映らない。



「カミラ」

「にゃ?」


「パパ、お子様ランチがやっぱり食べたいのである」

「パパが食べたら大人様ランチにゃ」


「でも、食べたいのである……」

「みゅー。アレ、食材の種類がたっくさんいるから準備が大変にゃー」


「であるかー」


「それに二人だけだと効率悪いにゃ。おうちに帰ったら作るにゅ」

「ほう! 作ってくれるのか! これは楽しみである!」


「お子様がお子様ランチを作るのはにゃんか違和感あるからパパも手伝ってにゃー」

「うんうん、手伝おう!」



 パパ氏は食いしん坊さんだなぁと思いつつ、私は頷いて返した。


 平穏な夜の一日。魔族――夜族の一ページ。


 コアルームモニターには宝を求める命がけの兵たちの姿。

 そんなのはどうでもいい。興味ない。


 火炎放射トラップで火だるまの人が泡食って床を転がって消火している。

 釣り天井でぺたんこプレスされちゃった人もいる。

 連射弩で針山になりかけた人もいる。

 その他にも、色々と悲惨な目に遭った人々がその辺に転がっている。


 が、どうでもいい。

 彼ら侵入者は、このダンジョンの特性を知ったうえで来ているのだから。


 私とパパ氏は、食後のまったりとした時間を、仲良く過ごすのだった。




【お願い】

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 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

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