転生バンパイア幼女は冒険なんてしたくない

第175話 U・N・オーウェン

　筆者より。

　基本的に主人公が幼女のときは残虐表現も比較的穏やかですが……。

　大人モード時では、その辺りのタガは外れる傾向にあります。

　つまりグロが苦手な人は注意です。わりとエグイ展開があります。

　繰り返します。

　グロ注意。エグい展開アリ。大事なことなので２度言いました。

「下郎、宣誓（せんせい）しなさい。私は無実です、と」

「く……」

「まず私がやって見せたわよね？　早く、やりなさい。それとも神明裁判『盟神探湯』を神明裁判『神前決闘』に変えて欲しい？　それこそ私の望むところだけど」

「……」

「神前決闘は、正しき者が勝つ決闘よ。たとえ赤子と超一流の戦士でも、赤子が正しければ赤子が必ず勝利し、戦士は敗北する。敗北は死によって購（あがな）われる」

「……」

「選びなさい。むしろ下郎を自らの手で処せる神前決闘の方を私は望むわ」

「ふ……」

「何。またふざけるなって？」

「ぐ……」

　不自然な汗。歯噛みしつつ唸り声を上げる彼女の『叔父』という存在。

　轟々と怒りを顕わにする怒髪天レイラン。怯えた顔の『叔父』。

　どっちにしろ死ぬんだから、楽な方を選べばいいのにね。

　私は、パチンと指をスナップさせた。はい、と胸に手を当て畏（かしこ）まる下僕。

「何をする！？　放せ、下民が！」

　私はカルドに命じて『叔父』とやらを拘束させた。

　そして、彼の腕を。

　煮えたぎるマグマ壺に。

「ひっ。や、やめろ！　ワシが何をしたというのだ！」

「無罪を宣誓しなさい。それで潔白が証明されればそれで済む話」

「やめろ！　やめてくれ！」

「無罪宣誓なしで手を突っ込むと、それ、ただのマグマ壺になるからね」

「嫌だ、嫌だ嫌だ！　やめろ、やめろぉ！」

「なら、無罪の宣誓をしなさい。それが本当なら、腕は焼かれることはない」

　聞き分けのない子どものように抵抗を始める『叔父』という存在。

　カルドは容赦なく、彼の腕をマグマ壺に寄せていく。

　どうせ宣誓してもしなくても、意味ないしね。彼が無罪なわけがない。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああっ！！」

　煮えたぎるマグマに手を突っ込むとどうなるか知ってる？

　それ以前に間近に寄せるだけで――

　熱気が肌を焼き、この時点で腕は物理的に燃え上がるのだけどね。

　焚き火に手をかざすと温かくて気持ち良いけど、近寄せ過ぎると熱いでしょう？

　更に、本来マグマは非常に粘性の高い液体で、水のように手を突っ込んでも手がすぐに沈まないのだった。レイランが平気で手を突っ込んで、水でもかき混ぜるように腕をぐるぐると壺の中で回したのはひとえに神さまの神的な保護のおかげ。

　――神的なではなくて、本当に私があの子を守っていたんですよ。

　だ、そうです。ありがとうございます、神さま。

　なので、今回は。無罪宣誓もなしに腕を突っ込むとなると。

　まあ、腕は燃えるし、腕が焼き爛れるし溶けるし。

　そして引っこ抜くと骨だけが残るのだった。

　なぜマンガみたいに骨が残るのかって？

　それはね、骨の主成分のリン酸カルシウムの融点は1670度だからよ。

　マグマの温度は1500度。なので骨は溶けずに残る。

　肘の下辺りまで骨剥き出し。接合部は黒く焼き爛れて異様なニオイが漂う。

「カルド。彼には罰としてもう片方の腕も焼きなさい」

「はい、マスター」

「―――！！？――！！！――！？――！！！？――！！！！！」

「……マスター。この人、失禁と脱糞でとても臭いです……」

「我慢なさい。あとで綺麗に洗浄してあげるから」

　人間は強い衝撃を受けると、普通に失禁も脱糞もする。強い苦痛に対して身体が自然と力むので出てしまうのだった。ぶりぶり勝手に出ちゃうのである。

　それと。

　あるいはもしかしたら不思議に思う方もおられるかもしれない。

　そう、なぜこの『叔父』とやらは、ショック死しないのかと。

　なぜなんだろうね？

　いえ、処刑は確定しているので別にこの時点でのショック死もあり得るのよ。

　でもこの人、死なないの。

　凄まじい生への執着か、たまたま運が悪く死ねないだけなのか。

　……ふむ。想像魔法『不思議な第三惑星』を使ってみよう。

　なるほど。

　先に少し触れたように、こいつ、炎に耐性を持っているのよね。

　と同時に炎系の魔術にも適正があるようで。

　つまり、そのせいで。

　ショック死できない可能性が高い。

　炎への耐性。熱への耐性を持つがために。

　ちょっと気の毒。死ねるときに死ねないと苦痛が酷いのよね……。

　前世で私は謎の病気でとても苦しんだ。

　血管炎性ニューロパチー。

　身体の抗体が誤作動を起こして末端部の血管に炎症を起こし、痛みを起こす。

　単なる痛みではない激しい痛み。眠ることすらできない。肉を裂くような苦痛。

　この尽きせぬ苦痛を緩和させるにはステロイド系の薬剤が必須だった。

　ただし、私の場合、副作用で脳が委縮。アルツハイマー氏病の症状を起こした。

　絶する苦痛。でも、死ねなかった……。

　死ねないのは、本当に苦しいものだ。

　今はアンデッドで、元から死んでるから平気だけどね。

　老いも毒も病気もない身体。永遠に健康(？)。吸血鬼はいいぞぉ、なんてね。

　さて。

　両肘下がスケルトンモデルになった『叔父』の処置だけど……。

「傷口の治療を施します」

　あらあら。燃え盛る怒髪天幼女のレイラン、この子ったらぶっ飛んでるわ。

　まだコイツを殺さないってさ。

　死にはしなかったけど、白目を剥いて大小を漏らし突っ伏す『叔父』に目をやる。

「まずはレイラン。どうしたいか言ってみて？」

「手紙を出します。嘘の内容で、彼の家族を呼びます」

「呼んでどうするの？」

「全員を処します」

「ふむ。一家全滅を病死として処理したいなら、それはやめたほうがいいわよ」

「では、どうしましょう……」

「ちょっと待ってね。こいつの血を抜いて……加工して……ハイ出来上がり」

「これは？」

「この男の血から作った、極小範囲指向性民族浄化薬。こいつの血脈の三親等までを遺伝子選別にて殺す、血族の毒。とあるゲームでのフォックスダイみたいなもの」

「私も危ない？」

「もちろん危ない。なので私のコーモリさんにやらせる。それを見届けなさい」

「はい。神使さま」

「念のために聞いておくわ。レイラン、あなたは彼の家族の絶滅を望むのね？」

「……はい。パパとママと、にぃにのカタキです」

「その歳で、そんな重たい業を背負わなくても良いと思うけどね」

「貴族の責務ですので」

「……そうね。確かに必要があればヤるのが貴族。ヤらないと自分が死ぬから」

「はい……」

「なおこの毒は一両日中に分解されて無害化するわ。でも一応、遺体には触れちゃダメよ。感染したら30分以内に死ぬから。キメラ（毒）に対するベレロフォン（血清）はないの」

　私も甘いなぁ、とは思う。

　でも介添人ってこういうことだからね。

　貴族のこの手の出来事は、平民とは違ってとても根が深く、徹底しているもの。

　それと忘れてはならない点が一つ。

　殺すのは私ではなく、レイランの殺意ということ。

　――銃は私が構えよう。照準も私が定めよう。弾丸も弾装に入れ、遊底を引き、安全装置も私が外そう。だが殺すのは、お前の殺意だ。

　ヘルシングというマンガの、とある吸血鬼の発言。これがすべてを語っている。

　私はレイランの望み通り、血脈断絶の毒を彼の家族へ送り込む。私から分裂したコーモリさんには噴霧能力を与えていた。薬剤を噴霧し、空気感染させるのだ。

　レイランは気絶する『叔父』を叩き起こして、カルドに彼の身体を固定させる。

　何をしたいか。コーモリさんの視点を通して、彼の家族が絶命するサマを彼に見せつけるためだった。えげつないことこの上ないが、私からは口出しはしない。

　1時間後、魔力モニター越しに。

　彼の家族は全員、どす黒い血を吐いて絶命を遂げる。

　唯一の救いはかの『叔父』には幼い子どもがいなかったことか。

　レイランは薄く目を閉じた。対象的に『叔父』は涙を流してうめいた。

　ややあって、彼女はひと言。

「カルド、コイツにトドメを。血を吸ってもいいし、単に殺すだけでもいい」

「はい、ご当主さま」

　ゴキッと首の骨を彼は、握力で粉砕する。瞬間握力1.5トン。

　頸椎損傷の『叔父』。ただし、死因は窒息死。

　最後まで苦痛の続く殺害だった。

　シュルシュルと、爆炎怒髪天状態から通常の黒髪ツーテール姿に戻るレイラン。

「ふむ、終わったわねぇ」

「はい……」

「復讐は何も産まないとか考えてる？」

「は、はい」

「復讐することで前に進めることもある」

「はい」

「私は、復讐を否定しない。加害者をのさばらせてどうするの。わかるでしょう？」

「……はい」

「レイラン。私って、怖いでしょう」

「はい……ほんの、少しだけ」

「うん。それでいいわ」

　私はレイランの頭をポフリと撫でてやる。するとギュッと彼女は私に抱きついてきた。目と目が合う。こんなに小さいのに子爵家の当主を務める子。初めは気を張っていてまさしくツンデレさんだったが、実は普通に甘えん坊で歳相応の女の子。

　愛しい子。食べちゃいたい。

　ちょっとだけ、つまみ食いしても良いよね。

　私は、目を閉じて何かを期待するレイランにキスをした。

　すると待っていたかのように彼女は私の口の中に舌を忍ばせてくる。

　ちゅっちゅと、甘美な音が。見た目はおねショタならぬ、おねロリである。

　まあ、ね。私って1歳児だから。実質幼女同士のキスなので別に構わないでしょ。

　性的だなんて、有り得ない。ちっちゃい子たちのちょっとした児戯である。

　えっ？　浮気者？　私が心から愛するのはマリーだけだよ？

　歴史上の人物で例えるならば。

　太閤豊臣秀吉は超のつく女好きだったけど、心から愛したのは寧々さんだけ。

　私もそんな感じだよ。ホントホント。信じてください。

「……じゃあ、もう行くわ。カルド、あなたはレイランの護衛を続けなさい。彼女の命令は私の命令。期間はレイランが死ぬまで。吸血鬼にとって人の命は短いわ」

「はい、マスター」

「それじゃあ、改めて。……あ、そうだ。もし内戦に関心があるなら、今すぐにでも大公の側についたほうがいいかもね。私からの紹介と言えば通じるから」

「神使さま。イリス・バウムクーヘンは偽名ですよね？　本名は、なんと……？」

「U・N・オーエン。または、Unknown。知らないほうがいいわ」

「そ、そうですか……」

「だけど、本当に私を知りたいと思い続けるなら。私に身を捧げたいと思うなら」

「捧げたいです！」

「一時の感情に左右されちゃダメよ。もっと良く考えなさい。……続けるわよ。私に身を捧げたいと思うなら、本名とともに永遠に私のモノにしてあげる」

「はい、神使さま！」

　私は身を翻して屋敷から出ていく。想像魔法『秘密の花園』で屋敷ごとキレイに洗浄を忘れない。人の肉の焼けるニオイなんて嫌だろうしね。

　私はレイランとカルドを屋敷に残して歩き続ける。木枯らしがひゅるりと抜ける。

　しぱらく道なりに歩く。

　太陽はすでにかなり傾いて地平の向こうに落ちそうだった。

『カミラ』

「……パパ」

『平民の苦労、貴族の不幸、なのである』

「うん。どちらも大変」

『それがわかっただけでも収穫であるよ』

「うん、パパ」

　今回の一件は、正直、竜頭蛇皮感が拭えない。しかし考えを変えれば、良い経験になったとも言える。私も貴族の娘。ならびに皇太女。将来は魔帝であった。

　その後、私はコアゲートを使い、王都の宿へ何食わぬ顔で戻っていた。

【お願い】

　作者のモチベは星の数で決まります。

　可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

　どうぞよろしくお願いします。