第168話 初めての冒険者ギルド

 冒険者ギルドの場所は、私から分離したコーモリさんの斥候ですぐにつきとめた。


 アイボリーの建物。たぶん三階建て。これは……いわゆる古代のコンクリート仕立てかな? どこかの火山から火山灰を大量に集めて加工してるっぽいけど。

 前世で知る現代コンクリートにも負けない頑丈さと耐久を誇る建材の一つだった。


 とりあえず、建物の前でボーッとするのもアレなので中に入る。

 扉を開けるとむっとした熱気が私たちを迎える。



「冬に似つかわしくなく温かいわね。むしろ暑いかも。気密性が高いのかしら」


『窓にガラスが張られているのである』


「ガラス板の加工技術があるってことね。ふむ、高級品を惜しげも使う財があると」


『ダンジョンは上手く利用すれば無限に財を吐き出す貴金属鉱山になるゆえに』


「そうねぇ、パパの言う通り」



 もちろんダンジョンにはそれぞれ性向があるため、例えば貴金属が出やすいダンジョンもあれば装備類がドロップしやすいダンジョンもあるのだった。

 他には錬金術の素材ばかりが採れるダンジョン。出てくる魔物が全員ムキムキマッチョな汗くさいダンジョンでプロテインばかりドロップする変わり種ダンジョン。

 レア魔物でレベルアップしやすい代わりに、ドロップ皆無ダンジョンなどもある。


 私はすたすたと真っ直ぐギルド受付へと向かう。スパイコーモリさんが私を案内してくれるのだ。向かう先には二十歳前後の小麦肌の女性がいる。胸のネームプレートにはダーシャと読めた。額にビンディっぽい朱色の装飾が特徴の女性であった。



「こんにちはぁ。冒険者登録したいのですが、お願いできますかぁ?」


「はい、冒険者登録ですね。……ご自分の名前は書けますか?」


「大丈夫ですよぉ」


「それでは、この筆記魔道具に専用のペンを使って記載をお願いします」


「この、タブレットに電子ペンっぽい魔道具で名前を書けばいいのね」


「えっと、筆記魔道具にこのペンで、です」


「はぁい」



 いささか会話が噛み合わない部分がある気もしないではないが、別に構わない。

 スラスラと名前を記入する。ちりちりと脳裏を刺激する何かを感じる。

 ……ん? あっ。この魔道具、真偽判定もするっぽいね。コッソリ魔力干渉でハッキングして……と。危ない危ない。思わぬファンタジー技術の罠があるわね。



「はい、ありがとうございます。イリス・バウムクーヘンさんですね。ご存知かと思いますが、今書かれた名前から神の御力によりあなたの能力が開帳されます」


「神さまの力で私を鑑定してくださると」


「はい、その通りです。……あっ、結果が出てきたみたいですね」



 名前。

 イリス・バウムクーヘン。17歳。女性。

 ジョブ。

 バウムクーヘン男爵令嬢/双剣士/莉」陦御ココ。

 レベル。35(?貞т)。

 冒険者ランク F (新規加入)

 スキル。

 前衛系。双剣術 SSS 鞭術 SSS 格闘術 SSS

 後衛系。魔術 SSS 錬金術 SSS 料理 SSS

 備考。

 犯罪歴なし。

 料理バフスキルの他、生活スキル多々あり。

 6種の神の権能と、一柱の神の加護あり。



 名前とレベルと所持スキルはイジったけれど、よもや備考がつくとは油断した。

 他にも文字化けが所々にあるが備考欄に比べればどうでもいいことだ。特にスキルランクが総SSSなのは人間レベルで比較すれば当然そうなって然るべきだろうし。


 これは……ちょったマズイかも。


 ちなみに錬金術ができるなら料理スキルも高くて当然なので付け足しておいた。錬金術の発端は台所仕事から。料理と錬金術は切っても切れない関係なのだった。



「あ……えっと。こ、これは……?」

「……」

「そんな、このようなことが」

「……」

「も、もしかして、なのですが。し、神使の方だったりいたします……か?」

「シーッ(人差し指を口に当てて)」

「あ、はい。こんな凄まじいスキルを見たのは初めてです。もっと凄いのは神の力の体現となる権能を6つに、神の加護ですね。となれば、レベルはわざと低く?」

「まあ、ね」



 思った方向とは違う勘違いをしてくれたけれど、こちらとしては都合がいいのでそれに乗っかることに。神使とは使徒のこと。地上における神罰代行人ね。



「やはりこの王国は……いえ、なんでもございません。神使さまの思し召す通り」

「……あなただけの、内緒ね?」

「はい、もちろん……っ」



 なんだかんだうまく丸め込めた(?)ので良しとする。ギルド員の認証カードを受け取ってはいサヨウナラ……とはいかないもので。



「おうおう、オネエチャン。あんた今ギルドに加入した新人だろ!?」

「きっしし。あんたは今こう思ってる。早速ダンジョンに行って一儲けするぞと!」

「それが素人の考え。甘い。甘いんだよ!」



 なんか革鎧肩パッド筋肉質モリモリのモヒカンお兄さん3人に絡まれたのですが。



「そうだとしたら、だめなのお?」


「「「だめに決まっとろうがぁん!!」」」



 おおー。なんか私、感動してるよ。ついぞこのような展開に出会えるとは!


 ほら、いっとき流行ったなろう系等の転生モノで、冒険者ギルド登録した主人公にやられ役の嫌われベテランギルド員が絡んでくるわけですよ。

 それで、チート無双の主人公がそいつを問答無用でボコるテンプレ展開。


 それを今、実体験で楽しめるとは……っ。



「じゃあどうするの?」


「「「きまっとろーが!」」」


「まずは……!」

「冒険者ギルド主催の……!」

「冒険初心者用講習会を受けるんだ……っ!」


「……へ?」


「腕に自信はあっても現実は違う。心構えと立ち回りを2日間の講習で学び、簡単な実地テストを受けるべき! なお、合格したらFランからEランへ上がりやすくなる! それだけの強さを証明したのだから! あと回復ポーションも貰える!」

「簡単なテストと言ってもベテラン目線発言だから、油断すると落ちちゃうぜ!?」

「それで自分への冒険者適性を見定めるべき! 怪我する前に己を知るべし!」


「あ、あのー」


「「「どうした?」」」


「お兄さん方は……一体?」


「「「俺たちか? 俺たちは新人冒険者の突発的行動を抑止して怪我や死亡をなるべく防ぎ、一人でも多く一人前の冒険者にさせたいボランティア隊だ!」」」


「えっと……あ、はい。心配してくださりありがとうございます……?」



 めっちゃいい人たちだった!



「ちょうど冒険初心者講習会はあと半刻もしたら始まる!」

「ぜひ、出席すべし! 命は大事! 生き残ってこそ冒険者!」

「ちなみに一人前と呼ばれるにはCランク到達が一種の目安になるぞ!」


「あ、はい……」


「「「頑張ってくれ! 何か困ったことがあればいつでも相談に乗ろう!」」」



 ニカッと凶悪面相で良い笑顔になって、モヒカン肩パッドのお兄さんたちはどこかへ消えた。人は見た目で判断してはいけない。改めて、良い人たちだった……。



「えーと、せっかくだしお兄さんたちのおススメに乗りますか」


『たしかにあの善意はちょっと断りづらいのである』


「あ、はい。初心冒険者講習会ですね。二階会議室へどうぞ(神使さまファイト!)」



 私は若干申し訳なさそうな顔の受付のダーシャさんの案内で二階に上り、しばし講習会の始まりまで時間を潰すのだった……。



 ステータス文字化けの回答編。

 莉」陦御ココ →  代行人

 ?貞т   →  2億




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 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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