第167話 王都観光……いや潜入。

 スカイガーデン王都側に作った私のダンジョンは、連日連夜大入り大盛況だった。


 急造した割にはトラップの間隔や魔物たちの配置、襲撃パターンが『命がけ』と『金銭欲』へのバランス調整を上手く取りなしてくれているようで。


 どれほど一攫千金チャンスと言われてもあまりに死亡率が高いとダンジョン挑戦者がいなくなるし、簡単すぎたら金品の略奪が欲しいままになっちゃう。


 この辺の割合調整が難しいのよねー。


 それに加えて。


 彼らは低層階で金品を集めるのには必死ではあれど、代わりにと言うかなんと言うか、ダンジョンの奥深くには興味を向けないことも確認できた。


 王の命令か、もしくは本能的に致命に至る危機感を兵たちが感じているのか。奥地に潜れば更に高価な財貨に溢れるのはわかっていても、見向きもしない様子。


 まあそれはそれでやりやすいので、ダンマスとしては楽ちんではある。


 ひとまず低層地下5階層までのパワーバランス調整(たまに即死 or 一攫千金)に腐心して、あとはダンジョンコアのオートコマンド機能に任せることにした。


 で、私はどうするかと言うと。


 スパイコーモリさんで大体観察しているけれど、やっぱり実地で感じたいよね的な考えで王都スカイガーデンに観光……ではなく、潜入することにした。


 思わず本音が出ちゃった……うふふ。


 危なくないかって? 大丈夫よ。いざとなれば王都を火の海にして逃げるし……嘘です。そんなことしないから。ちゃんとフィクスおじさんに頼んで安全な偽の身分を作ってもらうから。おとなしくしていたらまずバレない。大丈夫、大丈夫〜。



『ねえおじさん。何かテキトーな貴族籍ない? 出来たら男爵辺りがいいわね』


『そのひと言で何したいのか察せる俺様がヤベえわ。アレだろ? お嬢ちゃん王都に潜入する気だろ? そこらの街なら身分の後ろ盾なんてなくても平気だからな』


『潜入というか、観光というか』


『マジかよこのご時世で観光するなんて狂気の沙汰だぞ? 俺様、目を覆っちゃう』


『このままだと職務質問されると、王都が火の海になるかも?』


『王宮は別に焼いても構わんが、王都民を焼くのは頼むからやめてやってくれ……』


『それで、なんかいい感じのアンダーカバーな貴族身分、ない?』


『俺樣、反乱軍のラスボスなんだがなぁ……』


『まあまあそう言わずに』


『……元嫁さんの実家、筋肉大好きシュトーレン侯爵の子飼いにバウムクーヘン男爵っていう筋肉おじさんがいる。そこの三女が超跳ねっ返りで、15歳になった直後に婿探し&武者修行ってんで飛び出して2年ほど音沙汰なしになってやがんの』


『つまりその娘を名乗ればいいのね』


『だな。名前はたしか……イリスだったかな。お嬢ちゃん、グレートレイクサイドのスタンピード狩りしたとき青髪蒼眼だっただろ。たしかあの跳ねっ返り三女も青髪に蒼眼で、背格好もお嬢ちゃんくらいだった……記憶がある。身体特徴と年格好と性別が合えばどうにでもなるだろ。男爵には内密に話を通しておいてやるよ』


『イリス・バウムクーヘン男爵令嬢。歳は17歳。武者修行中で音沙汰なしと』


『ああ、それで良ければな』


『ありがとう。じゃあちょっと行ってくる』


『宿は銀のツバメって店がオススメだ。……間違っても王都を焼くんじゃねーぞ?』


『これから毎日、家を焼こうぜ?』


『いやいやいや……』


 そんなこんなのくだりがありまして。


 やってきました、スカイガーデン王都。


 侵入すれば簡単なんだけどね。コーモリさん状態で行って元の姿になればいい。ただ正規の入場方法を取っていないと、何かあったとき非常に不味い事態になる。


 場合によってはホントに王都を焼く羽目になりかねない。


 嘘でもいいから身分証明は大事という話。



「ふーむ。もっと北斗の拳世界みたいにヒャッハー系で荒んでいるかと思えば……」



 期待していたのにモヒカン肩パッドなヒャッハー兵士とか、見かけないね。

 まあね、スパイコーモリさんを通してある程度は知っていたけどね。

 それでも実地で見てみると……色々と感じ方が違うね。


 商業区を覗いてみると、大体の店がちゃんと営業している。にぎわってる。

 飲食店を覗く。この国の平民の食事は屋台で済ますものらしい。にぎわってる。

 平民居住区はどうか。……思ったより小奇麗にまとまってる。意外と荒んでない。

 貴族区は行かない方がいい。あと、新ダンジョン方面も行かない方がいい。


 うーん? あれあれー? おかしいぞー?(某メガネの少年死神探偵風に)


 王都の治安は平常系? ノット北斗の拳? アミバ的な人とか、いないの?


 悪政どころか王が政治ほったらかしでおまけに内戦真っ只中なのに、それなりに王都は生活の活気があった。一部の良識を残した大臣たちやその部下たちが、せめて表に見える王都市内だけでもと必死で治安を取り繕っているのかもしれないね。


 もちろん、こう、なんというか……。


 ディストピアな物語に出てくる秘密警察的なヤバ気な人影が行き来しているのも散見されるし、不安を抱えつつ市民が相互監視する気配もチラホラ感じる。


 そんな中、私は石畳の市内を、いかにもダンジョン冒険者然としてすたすた歩く。


 フード付きマント、革の鎧、ブーツ、丈夫な衣類、両腰には蛇腹剣がそれぞれ。

 スパイコーモリさんのおかげで冒険者姿はだいたい把握している。


 それでも時折、あらゆる方向からジッと滲むような視線を受けるのだった。

 秘密警察的なサムシング。あるいは相互監視の市民からか。


 とはいえこちらはこちちらで偽の身分をしっかり用意しているので心配いらない。

 むしろ変にコソコソしたり、おどおどするのはかえって危ない。

 堂々と貴族階級のボンボン冒険者でございと闊歩すれば良いのだった。


 私は『イリス・バウムクーヘン男爵家令嬢』であり『冒険者』である……とね。



「さてと、まずはどこに行こうかしら?」


『それなら宿を探すと良いのである。あのいけすかない男からは銀の燕とかいう宿がオススメと聞いたのである。いけ好かないが、行ってみる価値あるのである』


「パパはあのおじさんに当たりがキツイね」


『アレはいかんのである。大事なカミラをパパは絶対に守るのである』


「うふふ……ありがとうね。それで、その後はどうしよっかな」


『冒険者ギルドに行ってみると良いのである。ダンジョン探索が今文明期の冒険者の主な仕事であれば、王都にまつわる情報も彼ら目線を通して得られよう』


「はぁい、パパー」



 ちなみに現在の私は小麦色の肌に青髪と蒼眼に変えた大人モードだった。パパ氏はぬいぐるみモードから白のブラとパンティ素体になって、私に装着されている。 


 うふふ、ところでさ……。


 パパ氏が変怪させられているブラとパンティって、サイズぴったりだしシルク素材で着け心地最高なのよね。特にブラの適度な圧着が胸を保護してる感が凄い。



『……どうしたであるか?』


「パパって、気持ちいいよね。手で包む感じでおっぱいを支えてくれてるみたい」


『ぶっほ!?』

 

「うふふ……パパのえっちー♪」


『こ、これっ。カミラッ、パパをからかっちゃいけませんっ』


「だってパパのこと大好きだから……♪」



 などと父娘の危ういじゃれあいを楽しみながら街を歩く。コッソリステルスコーモリさんを放って宿の位置を割り出させる。そうやって目的の宿についた。



「ふぅん? 貴族用ではないにしても、わりといい感じの宿ね。悪くない」


『いけ好かない男の紹介ではあるが、たしかに小綺麗な宿であるなー』



 宿を見上げて父娘で感想を述べる。



「……ようこそ冒険者のための宿、銀の燕亭へ。お嬢さんは剣士さんかしら。夕飯なしなら一泊銀貨7枚、夕飯ありなら銀貨8枚だよ。朝食はどちらでもつくからね」



 横方向にやたら恰幅の良い中年女将に迎えられる。王都なんて政治腐敗と内戦の中心部なのに、それでも冒険者相手の店はその影響を受けにくいのかもしれないね。

 まあ、そりゃあダンジョンとその探索者たる冒険者は都市の経済を支える一端でもあるので、いくら愚王でも彼らを圧迫しては街が潰れると理解している……か。


 ここで注釈。

 小銅貨10枚が大銅貨1枚。大銅貨10枚が銀貨1枚。銀貨10枚が金貨1枚。

 市場価格から類推すると銀貨1枚は大体1000円くらい。

 つまり小銅貨は10円相当。大銅貨は100円相当。金貨は1万円相当。

 フィクスおじさんは私を高級娼婦に見えると失礼ぶちかましてきたが、そのときの一晩『金貨1000枚』発言は円換算で約1千万円となる。うひゃー、たっかーい!

 なお10円未満に相当する貨幣は古くて欠けた銅貨や表面摩滅銅貨で代用される。



「夕飯ありで3日分お願いね。金貨2枚と銀貨4枚を支払うわ」


「あらまあ。剣だけでなく、計算も得意なのかい?」


「まあそんなところかしらねぇ」


 

 更に注釈。

 この世界では平民がきちんとした教育を受けているなど稀で、となれば前世日本の小学校低学年で習う九九の計算すらできない人はたくさんいるのだった。

 四則演算――足し算、引き算、掛け算、割り算などの初級算術であっても平民だと商人くらいしか使わない。数学知識は貴族階級の特権みたいなものなのだった。


 部屋の鍵を貰って一度部屋に向かう。

 言ってみればこの世界におけるビジネスホテルみたいなものだろう。


 部屋は6畳強くらい。坪で言えば3坪あたり。


 大き目のシングルベッドと簡素なテーブルとチェアーが一つずつ用意されている。

 部屋の掃除が行き届いており、また、ベッドはこの世界水準で言えば十分に小奇麗だった。難点は寝台に藁を敷き詰めてその上にシーツを広げていることか。



「棺をベッドに置けば問題ないけどね。今夜もパパに抱きついて眠るの楽しみ♪」


『幼いわが娘と睡眠を共にするのは父親の至福であるなぁー』


「幼女姿ではなくて、今の姿のままぎゅっと抱きついて眠ってもいいー?」


『そんなことしたら、パパ、ドキドキしちゃうのである……っ』



 パパ氏が可愛くて私、どうかしちゃいそう。ホント大好きだよ。愛してる。


 私はしばし宿部屋の簡素なおもむきを楽しんでから再び外に出る。


 目指すは冒険者ギルドとやら。


 どうせだしギルド登録などもしてみようかしら。

 ああでも、今の身分の本体『イリス・バウムクーヘン男爵令嬢』も冒険者ギルド登録しているかな? 音沙汰無しというくらいだから偽名登録してそうだけど。


 まあ、ダメだったらダメだったでどうにでもなるか。あまり使いたくないけどいざとなれば王都を火の海に――ではなくて、魔眼で軽く相手を洗脳してあげよう。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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