第166話 パパと美味しいごはんを食べよう

 タイトルからして不穏な空気を察する、生存本能への強い感性を持ったあなたへ。


 大丈夫。大丈夫でーす。


 私たちは人の血液を糧とする吸血鬼ではあるけれど――

 パパ氏の開発した魔道具『血液生成器』が作る血液が万能過ぎて、他人の血はあまり欲しいとは思わないから。なんせ処女と童貞のダブルテイストが味わえるし。


 例外として扶桑ふそう皇国平城ならに住む、平城なら氏の息子くんの血はまた飲みたいけどね。


 カインお兄ちゃんより、男の娘アーカードちゃんより、元悪魔族のミーナちゃんより、異世界の五人のイケメンたちより、ずっとずっと彼の血は美味しかった。


 彼を想うだけで左右の犬歯がにゅっと伸びる。舌が、血を求める。


 あの子、まだ童貞かしら。あの血を上回る美味さはなかなか巡り合えないと思う。


 ああ……喉が渇いてきた。牙が勝手に伸びてるし。彼の血が飲みたいなー。

 指先からの吸引ではなくダイレクトに首筋に咬みついて暖かい血をぺろりしたい。


 マリーの血も飲みたいな。


 唐突? そんなことないよね? だって私、人の生血なまちをすする吸血鬼だもん。


 もちろん彼女の血は、たまたま指先を切ってしまったところを、消毒と称してぺろっと舐めただけよ。その後、きちんと専門の治癒士を呼んで治療を施した。


 処女の美味しい血だった。ミーナちゃんも処女だけど、マリーには敵わない。

 肉親以外に、私がもっとも愛する女の子の血。人族の、10歳女児の血。


 マリアンヌ・ブラムストーカー侯爵令嬢の血。バンパイアハンター血脈の血潮。


 本当に後がなく、真にいざというとき、


 同性愛? うん? 愛に性別は関係ないよ? 可能なら百合愛って呼んで欲しい。

 はあ、はあ……ふう。なんだか妙に興奮してきたよ。

 彼女と裸で色んなところを触りっこして、お互いに咬み合いたいにゃー。


 というわけで。

 ちょっとブラッドぶどうジュースで喉を潤して。


 甘くて美味しい!



「にゃあ! それではー、美味しいご飯を作るにゅ!」


『わが娘の作るご飯を賞味できるワシ、最高である!』



 時刻は夜中の11時すぎ。夜族の私たちにしてみれば『昼前の11時』過ぎ。

 本日の――人間視点では夜食に相当する『お昼ごはん』は。



「これが嫌いって人、たぶんそうそういないよ! カキフライにゃー!」


『ふむ! 揚げ物であるな!』



 まあ、アレです。グレートレイクサイド産の牡蠣を使ってフライにします。

 牡蠣って淡水と海水の境目、汽水域で育つと超美味しいとか聞くけど。


 どうもあの湖、海水ほどではないが塩分を含む塩湖の性質を持っていて、しかも牡蠣が好むプランクトンが良く発生するため、湖のはずなのに牡蠣が獲れるのだった。


 そして現在、このスカイガーデン大陸は、冬期間。

 牡蠣が美味しく収穫される時期なのだった。


 そして牡蠣と言えば、ノロウイルス。


 危険な食中毒には気を付けたいところだけど、きちんとフライで加熱処理すればウイルスも死滅する。もっとも、吸血鬼には毒も病気も関係ないけどね。



『ワシ、カミラがたまに作ってくれる食事が大好きである!』


「うんっ」



 以前も触れたかもしれないけど、この世界では揚げ物はまだ高級料理なのだった。

 何せ油を大量に使うし、燃料も大量に使うし。そのため、食材も吟味されるし。


 脳内BGM、三分間クッキングのアレをスタート。


 まずは牡蠣殻をタワシで洗浄します。その後、剥き身作業に入ります。


 牡蠣殻の上蓋に薄手の専用ナイフを差し込み、貝柱をちょん切ります。

 貝柱を切られた貝類はこれで防御力が一気にゼロに。剥き身を取り出します。

 剥き身を大き目のボウルに集めます。ちなみに今回は20個ほど剥きます。


 そして大根おろしを牡蠣 in ボウルにどばーっと入れて、優しく揉み洗いします。

 これは牡蠣に付いた汚れと臭みを取る下処理なので、手を抜いてはいけません。


 大根おろしが灰色になったら、汚れが取れた目安になります。水で濯ぎましょう。


 これら下処理が完了したらザルに移して軽く水分を切り、そしてこの世界では有り得ないキッチンペーパーふきふきで牡蠣の剥き身の汁気を除きます。


 ポイントは牡蠣のひだ部分の汁気も取り除くことです。


 同時進行でタルタルソースを作ります。

 まあ、私はレモンを絞るのが好きだなんけどね。味変も大事ってことで。


 材料は。

 ゆで卵の粗みじん切り(1個)、マヨネーズ(大さじ7~8)、タマネギのみじん切り(1/8個くらい)、ラッキョウの甘漬け(2~3個)、パセリのみじん切り(適量)、酢(大さじ1と少し)、砂糖(小さじ1)、塩(一つまみ)、うま味調味料(2~3振り)。


 この世界にないものも一部あるけど、想像魔法で作り出してしまいましょう。

 あとはこれらを全部丁寧に混ぜて出来上がり。


 ご飯を炊くのも忘れずに。土鍋で5合炊き。おこげが美味しいんだよね~。

 本当は味噌汁も作りたいんだけど味噌汁は慣れない人には臭気が強いので、コンソメの素をぶち込んで作ったタマネギとジャガイモのスープで代用する。

 付け合わせに、マヨとうま味調味料でマカロニを和えただけの簡単マカロニサラダを用意する。箸休めにつつく程度なので量はそんなにいらない。


 で、汁気を取り除いた牡蠣の剥き身をフライに取り掛かります。


 材料は。

 牡蠣の剥き身(20個)、小麦粉(大さじ5)、溶き卵(1個)、パン粉(適量)、揚げ油(適量)、レモン(くし切)、フライのざぶとんに千切りキャベツを用意するとなお良し。


 後は良くあるフライの調理工程。


 バットに開けた小麦粉に牡蠣の剥き身をまぶして余計な粉は落として溶き卵をくぐらせ、たっぷりのパン粉を敷き詰めたバットにそれを寝かせて上にもパン粉をかける。そうして剥き身を優しく手で握って平たく意識しつつ衣をつけてやります。


 これを20個分済ませたら。


 170~180度の油で、カラっと2分半ほど揚げます。

 一度油切りしてちょっと間を置いて今度は30秒強ほど、二度揚げします。

 今回使うのは、この世界で簡単に手に入るオリーブ油で。

 注意点は一度に一気に揚げないこと。大体5個ずつ揚げると良い感じ。


 え? 見た目3歳児幼女なのに熱した油での調理は危険って?

 大丈夫よ。

 そのときだけ大人モードになるから。


 そんなこんなで、できあがり。


 本日の夜族的お昼(真夜中零時半)メニュー。


 カキフライ。千切りキャベツをざぶとんに盛り付けます。

 付け合わせのマカロニサラダ。小皿に上品に盛り合わせます。

 タルタルソースも小皿に。スプーンで好きにかけていただきます。

 くし切りのレモン数個。自分が食べる分だけかけましょう。下手すると戦争です。

 ご飯。皿にどっさりと盛り付けます。絶対にパクつくのでこれでオッケー。

 スープ。味噌汁の代わりの、タマネギ&ジャガイモコンソメスープ。

 なお。

 パパ氏と食べるのでお箸は使わずナイフとフォーク、スプーンを使用します。


 以上、いただきます。


 と、思いきや。パパ氏がとっても悲しそう。



『ワシ、クマのぬいぐるみのままだと食べられない……』


「パパ、心配いらないにゃ。今からにゃあが神さまにお願いするにゃ。神さまー、神さまー。にゃあたち仲良し父娘のご飯のために、このときだけパパを元に戻してー」


 ――まあ、家族で食事という団欒を邪魔するつもりはありませんからね。


「おっほ、戻った!? 休憩で着ぐるみの頭部を取った人みたいになってる!?」


「パパ、これでご飯食べられるねー♪」


「些少、思うところはあれどカミラが作ってくれた食事が摂れるならこれで良し!」


「「いただきます!」」



 余談になるけど。

 この「いただきます」は、前世日本独自の食事への感謝の言葉なんだよね。


 ……わが家では私が流行らせたけど。



「うおお……美味しいのである! タルタルソースのパンチとカキフライのサクサク感、そして深い旨味が絶品! これにご飯をかきこむと……幸せたまらん!」


「パパ、すっごくおいしーねっ」


「うむ、うむ!」



 ガツガツモグモグ食べる父娘。出来立てのカキフライは特に美味しいからね!


 貴族なら体面を気にしてテーブルマナーにうるさいのだけど、ここはスレイミーザ帝国より遥かに離れた土地。しかも使用人の一人すらいない、父娘水入らずの食事なのだった。自由に食べてもよいのだ。だれも私たちを見て指なんて差さない。


 

 ――私はいつもカミラのことを見守っていますよ。食べるときも眠るときも。マリーちゃんやミーナちゃんとアレとかソレとかしているときも。うふふ……。



 もー! 神さまのエッチ!(キャー、のび太さんのエッチ! みたいなノリで)



 それはともかくご飯が美味しい。


 私はふと、100インチ16分割のモニターを見上げる。


 ダンジョン内監視モニターは、欲に踊らされた王国兵が命がけで財宝をかき集める光景をつぶさに映し出している。あー、今、罠にかかって死んだ人が出た。


 私はブラッドぶどうジュースを飲む。


 んくんく。ぷはぁー。甘くて美味しい!


 端的に言えば、

 命がけのトレジャーハントを観戦しながらの食事であった。


 エグい? そうでもないでしょう。だって私、このダンジョンのダンマスだし。彼らは侵入者だよ。自分のダンジョンの監視はお仕事のうちだものー。


 ときに。


 彼ら兵たちは得た財宝の一部を自らの懐に入れて良いことになっているみたい。


 なるほど、王の財布の傷まぬ褒賞かぁー。


 だからこそ必死になって財宝を集めるのだね。一度潜れば、懐に入れた分だけで1年は遊んで暮らせるほどだもの。そりゃあ夢が広がりングというものだろう。


 代わりに常に、背中合わせの死が待ってるけどね。ハイリスクハイリターンなの。



「パパ、あーん、なの」


「カミラは甘えん坊さんであるな♪」



 私の開けた口に、切り分けられたカキフライを入れてくれるパパ氏。

 モグモグ、おいしー♪

 今度はパパ氏が口を開けた。私は切り分けたかきフライをパパ氏に食べさせる。



「美味いのである! そして幸せである!」


「にゃふふ……♪」



 パパ氏。ニッコニコ。私も、ニッコニコ。


 モニターの光景は欲にまみれて泥臭く、命がけ。さながら地獄の様相で。確認のため断るに、人間視点では現在は深夜帯なのだけどね。ホント元気だね。


 私たちはそんな中、美味しくご飯をいただく。何もおかしくない。彼らは侵入者。私はダンマス。私の領土で無体をするのなら、私はそれを喜んで潰そう。


 私とパパ氏は、凄惨なトレジャーショーを横目に、美味しく食事を摂るのだった。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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