第165話 あとは眺めているだけ
『言い忘れてたけど、ダンジョン内部と外とでは時間の流れが違うにゃー』
『マジで!? ……具体的にはどれくらい違うんだ?』
『ダンジョン内の1か月が、外界の1日にゃ』
『つまり1日で30日――30倍鍛えられるってわけか?』
『気をつけてね。自分にかかる経年は変わらないけど、相対的に見れば外視点ではダンジョン内はたいしょーの人物の寿命が30倍速度で消費してるように見えるの』
『まあ1対30の比率だし?』
『外視点で12日間、その現象が起きるようにしたの。内部視点では12ヶ月にゃ』
『それだけ時間を貰えりゃ、王国軍に気づかれずに十分兵を鍛えられるな!』
『有用に使ってにゃー』
『うむ!』
『じゃあがんばってー』
『おう! ありがとよ! ……あと、それでな?』
『うん?』
『現ガットネーロ王が鉛中毒で気が狂った説は、忘れることにする』
『にゃあ』
『たとえそれが本当でも、今更どうすることも出来んからな……』
『サイはもう振られたからねー』
『……だな。それじゃあ、俺様、がんばるわ! またな!』
私は白金貨通信魔道具の連絡を切った。ほふふ、と小さくため息をつく。
ここはダンジョンコアルーム。木火土金水、五行の中心部にある黄龍の間。
100インチ16分割監視モニター。なお、カメラ役は私から分離したコーモリさん。
天蓋付きキングサイズベッド、その上に棺。テーブル、ジュースグラス。
猫脚玉座。総24金。細微装飾。背もたれの部分が2メートル近くある。硬度に問題があるのはもちろん承知。魔力コーティング硬化加工のゴージャスなやつ。
玉座に座すのは巨大クマのぬいぐるみ――の膝上に、ちょこんと座る私。
幼女の足なんて床に届くわけないので、子どもっぽく足をぶらんぶらんさせるよ!
グラスに注いだブラッドぶどうジュースを、ちゅーっとストローで飲む。
甘くて美味しい!
そうしてくるりと身体を180度反転、某コストコで売ってそうな巨大クマのぬいぐるみのパパ氏に抱きつくのだった。ああ〜、モフモフ〜。タマランチ~。
「ぐるるん」
「パパ、ふわふわでとってもとっても気持ちいいのー♪」
「ぐるぐるん♪」
ぽふぽふと、クマさんぬいぐるみなパパ氏に頭を撫でてもらった。
現状↑説明→で↓ごわす↑(薩摩の首狩り武士っぽいイントネーションで)
現在私たち父娘は――
スカイガーデン王国王都近郊に設置した金銭欲を刺激しまくる貪欲なる新ダンジョンの最奥、そのダンジョンコアルームでまったりしていた。
総階層150階。最終推奨レベルは5000レベル。人類にはクリアは無理かな?
このダンジョン最大の特徴は、ドロップ品に『金銀宝石』がボロボロ出ること。
その量ときたら他のダンジョンと比べて当社比50倍。アホほど出るわけで。
ダンジョンの魔物は階層に対してレベル的に弱めに設定している。が、結構な数で攻めてくる。あと、殺意マシマシのダンジョントラップがたっぷり。
でもねー、人の金銭欲ってスゴイんだから。汲めども汲めども溢れてくる感じ。
目の色が紫でドルマーク。
まばたきごとに機械式レジスターががっちゃんこがっちゃんこと鳴りそうな……。
知ってる人は知っている話。金貨ってさ、見た目以上に、重いのよ。
そこに私の悪意が加わって。
ダンマスたる『私ルール』として、ここで手に入る『一切合切の財宝類』は、当ダンジョン内では『空間収納に入れられない』よう取り決めたのだった。
なので手に入る金貨銀貨宝石は、袋に詰めてえっちらおっちら担がねばならなくなるのだった。それでもみんな目の色を変えで担ぐのである。ゴイスー!
強欲の権能を持っている私からすれば、金貨銀貨宝石なんて欲しいだけ手に入る。
簡単に手に入る物なんて、価値がない。価値が、ないのである。
私が欲しいのは愛。心の宝石。それは暖かく、ときには身を滅ぼす炎にもなる。
でもね、それでも欲しい。大好きな人たちの愛がたっぷり欲しい。
愛のない生活なんて考えられない。砂漠で水を求めるように、愛が欲しい。
愛、それは甘く。愛、それは強く……なのである。
――というわけで。
私は兎にも角にも空腹の犬の如く金銭を追い求める国王軍の兵たちを、まるで食べ尽くしたラーメンの丼の底に僅かに残った汁を眺める気持ちで観察していた。
注意。
ラーメンスープは、どれだけ美味しくても全部飲むのはやめましょう……。
「……調べたところ、スカイガーデン王はちょー甘党なの。だけどこの国の甘味は蜂蜜と果実から採れる甘みしかなかった。砂糖とか麦芽加工の水飴はないの。空中大陸のせいでサトウキビが輸入されず、物理的に鎖国状態なので水飴の知識も入らず(しかも甘味はこの世界では高級品だから、砂糖や水飴自体がたまたま入ってきても秘匿された製法がわからない)、甘味研究も悪い意味でしか上手く行ってないー」
「ぐるる」
「スカイガーデン王はおバカなの。鉛鍋とぶどうジュースからの疑似的な甘味を開発させ、それを『サパ』と名付け、飲みまくっちゃったのよ。要約すると頭に鉛を蓄積させ過ぎた。かのローマ帝国の暴君カリギュラも最初は善政を敷いたという。だけど鉛鍋で作るぶどうシロップの飲み過ぎで気が狂った諸説がある。というのも鉛鍋でブドウジュースをひと煮立ちさせると酢酸鉛を形成するから。それは砂糖の分子式とよく似ているの。つまりすっごい甘い。ただし鉛化合物だけあって、毒性がつおい」
「ぐるる?」
「スカイガーデン王は脳の障害でもはや正気を保てない。生粋のおバカになっちゃった。自らの兵に命じて私の王都側ダンジョンを封鎖し、独り占めしている。ダンジョンを見つけた冒険者たちは無意味な口封じで殺され、というのもその前に情報は冒険者ギルド経由で漏れていたために他の冒険者たちだけでなく王都の人たちはみんなそのダンジョンの存在を知っているの。彼らの不満は金銭欲の強さに比例するよ」
「ぐるるん」
「……パパ、念話でもいいからちゃんとわかる言葉で喋ってほしいのー」
『……うう、すまぬのである。この巨大クマのぬいぐるみも慣れると思いのほか快適で、いつの間にかクマの気持ちで可愛いカミラに接していたのである』
「精神は肉体の玩具に過ぎないのよー」
『なるほど、カミラが大人の姿になると性格が若干……若干であるぞ? 可愛い娘であるのに違いないのでな? しかしお転婆になるのはそういうことであるか』
「みゅー♪」
『ワシ、もうね、こんな素直で愛らしい娘を神より与えられて感無量なのである!』
ナデナデ、ナデナデ。
『……それで、これからどうするであるか?』
「えっとねー、なにもしないの」
『ふむ?』
「既に両陣営には『種』は撒かれていて、カミラたちと接触し、ダンジョンをそれぞれに与えられた。そーほーの争いは加速、あとは刈り入れを待つばかりー」
『多少、あのフィクスと名乗る男のほうが優位にある気もしないでは……』
実はそうでもない。
屋台骨が崩れかけたとはいえ王国の主体はまだ王家本家にある。フィクスおじさんが反乱を起こしたからと言って即反乱軍が優位に立つとは限らないのだった。
フィクスおじさんは、結局のところ王家の傍系なのだから。
なんだかんだ言って本家本元が強いのはどこの世界でも大体同じである。
ムスカ大佐も王家傍系だから、王家本家筋の
それに……私が王家本家に与えたカード――ダンジョンはたしかに『罠』カードだが、それでも使い方次第では十分に化けるスペックを持たせているのだ。
ポイントは、金。キンでもカネでもどっち読みでも良い。
「お金の力で兵を集め、お金の力で民の不満を懐柔し、お金の力で政治を執るならばスカイガーデン王は勝つにゃ。お金は身近にある万能の願望機なんだからねー」
『ふむふむ』
「だけどスカイガーデン王はおバカになった。これで確実に王家本家の勝率が下がった。でもまだ致命的ではない。フィクスおじさんはこれに慢心せずにゃあが与えたチャンスを如何に有効利用できるかにかかるにゅ。兵を鍛え、装備を刷新にゃ」
『ふーむ。ワシ、戦いになると最前線で暴れまわるのが大好きである』
「パパはちょーつおいから。人間はちょー弱いにゃー」
『んふふ。昔は目につく人間たちをスナック感覚で襲って血を呑んだなぁ』
「にゃあも暴食を使えばなんでもおいしく食べられるにゃー♪」
『うふふ』
「うふふ」
仲の良い父娘なのはご存知の通り。魔族テイストの仲の良さだけどね♪
その後、私たち父娘は想像魔法『EL・DO・RA・DO』で作った天蓋付きベッドに設置された棺で、ぬいぐるみに抱きつく感じで私はパパ氏と眠った。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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