第164話 とあるおっさんのボヤキとケツイ

 なんていうか、俺様は正直言ってめんどくせーことが大嫌いだったんだ。

 アホに何を言ってもアホだし、そもそも関わるだけ無駄。

 怠惰ってヤツ? あと、傲慢ってヤツ? アーハン? 俺様、本音の男だからな。


 俺様の名前はフィックスサージベルト・パロス・スカイガーデン。36歳。男。

 スカイガーデン王国の王族傍系筆頭であり、大公プリンスを任じられている。

 ミドルネームに『パロス』と入ってるだろう? これが傍系の王族って意味さ。


 ――ってかよぉ、ここ最近、王家本家がクソダメ過ぎてよぉ。


 悪政でもいいから政治を執ればまだマシなのに、それすら放棄してやんの。


 王。酒色に堕ちて政治を執らず。ときに狂態を晒し愚を欲しいままにする。

 臣。これを一向に諫めず、自己の権益に固執し、ひたすら追従するのみ。


 ダメだこりゃ。俺も何度か意見したんだが馬耳東風で顰蹙ひんしゅくだけ買っちまった。


 現王の名は、ガットネーロ・スカイガーデン。別名、黒猫王である。


 王の戴冠を受けた当時より、しばらくは善政を敷く良き王だったのだが……。


 この後、カミラという名の魔国皇太女からとある可能性を示唆されるが、さてはてたとえそれが事実であっても、もはやどうにかなるわけもなし。


 (作者注釈)

 カミラは『とある可能性』はまだ話中で語っていません。次話くらいに……。


 いや、まあいい。繰り返すがそれが正鵠を射ていても、もはやどうにもならん。

 どうにもならんから、俺様は王家本家に対して反乱を起こした。


 反乱軍、ストームドレイクの誕生である。


 ストームドレイクはわが国の国章にもデザイニングされている伝説の白龍で、かつてこの国を興す際に始祖王が連れていた龍たちとされる。だが時は過ぎ、白龍はこの国を去ってしまい、もはや白龍はこの国に『残されていない』とされている。


 ……俺の領地の古代龍の巣の遺跡――半迷宮化した跡地で、龍卵が一個だけ保存されていたんだけどな。クソガキの頃、冒険中に落とし穴にハマって偶然見つけた。


 ともあれ。


 俺様が反乱軍ストームドレイクの首魁で、王国打倒の旗を振る反逆者なのだった。


 しようがねえじゃん。このままだと国が沈没してしまうからな。


 まあ、最初は竹馬の友であり乳母兄弟でもあるラムズは反対していたけど。

 勝率が低いって。いっそ沈没した後で動いた方が良いって。

 それでも王族として――国政を担う義務を放棄した王は討たねばならんのだよ。


 めんどくせーこと、大嫌いなのになぁー。


 それで、先にちょっと名前を出してしまったが、カミラという少女について。

 この子がまたくっそ美少女で、くっそエロいのなんのって。


 実は俺、嫁さんいなくてさ。おうよ、独身だぜ。

 いや、いるにはいたんだけど5年前の流行り病で亡くしてしまってさ……。


 シュトーレン侯爵家の地味ーな女だったんだが、俺は彼女を愛していた。身体が強くなく子は成せなかったけど、とにかく大事にした。今も愛している。

 本来なら側室を持つべきなのは言わずもがな。周りからしつこいほど勧められたし強引に女を寄越してきもした。しかし俺の股座またぐらは、嫁さんでしか勃起しなかった。


 それがさー。


 ナイショだけど、俺はエロの化身みたいな美少女、カミラで勃起してしまったよ。

 乳でけーし、顔立ちも淫靡いんび極まるし、立ち振る舞いもイチイチくっそエロい。


 最初、超高級な娼館の最上級娼婦かと思ったほどだ。一晩で金貨1000枚とかの。


 そんなエロさ規格外のチャンネーが、道端で気を失っていたのだった。

 思想犯や危険人物を収監する監獄――兼、処刑場へ、乳母兄弟のラムズ・ミル・ナイスバルクと連れ立って名前を変えてあえて捕まり、護送されている途中に。


 まさか……あのエロいお嬢ちゃんが北半球の二大大陸、西のリーン大陸の大部分を占める魔国、スレイミーザ帝国の皇太女とは思わなかったが……。


 なんでも、デビュタント時に、突然、この国まで飛ばされたとか。


 有り得ない話だが、寸分の間違いのない事実なので、なんとも言えん。

 これでも俺様はわりと優秀でな。相手の嘘ホントを本能的に察知できるんだよ。


 ちなみにこの国、スカイガーデン王国は南半球にある『浮遊大陸』だ。

 高度で言えば大体1000メートルくらい上空に、大陸ごと浮き上がっている。

 大陸は赤道に比較的近い位置にあるが、高度のおかげで暑さはそれほどでもない。


 わけわかんねえだろ? んなデカいもんが空中にウキウキしてるとかよぉ。


 国土面積は約1500万平方キロメートル。

 カミラのお嬢ちゃん曰く――

 オーストラリアを二倍に大きくしたくらいだそうだぜ? 知らんけど。


 え? それでどうやって大陸ごと宙に浮いているのかって?


 あー。なんでだろうな?


 一応は推測ではあれど知識にはある。だが、理解が追いつかねえの。


 学者の調べでは現文明期『ドラゴニックオーラ』よりいくつか前の文明期で、『エターナルエコーズ』『エルジプシャン』よりもずっと以前の文明期の産物らしい。


 ともあれ、超クソ昔の文明期の超遺物が、今もクソ元気に浮遊大陸をやっているわけで。しかも浮遊というが、本当は動いているがある種の座標固定式みたいなもので留まっているとかなんとか。難しく言えば、空間における動点Pが星の自転と公転に合わせて移動し、結果的に固定されているように見えているとかなんとか。


 さっぱりわかんねぇ! 数学で言うところの動点Pは止まっとけ、って気持ちだぜ。しかもそれでなんで浮いているのかちっとも説明になっていないという話。


 というわけでこれについて語るのはもうやめる。つーか、脱線し過ぎだ。


 それよりエロいカミラの話をしようぜ。


 彼女の名前は後になって分かる。すなわち、処刑された後でだ。

 スカイガーデン王国は浮き大陸の国。普通には入国できない鎖国された王国。


 俺ら王国民の肌は褐色系だが、カミラの肌は雪のように白い。

 よそから来た人物だと、これだけでもわかってしまう。


 そんな彼女が道端で気絶していて、運の悪いことに処刑のための行使馬車に引っかかって逮捕されてしまう。容疑はスパイ行為。処刑場に着けば簡易裁判で容疑が罪状に切り替わり、処刑される。特に今は国が荒れていて、外国人の存在とかね……。


 それで、処刑場にたどり着いて、簡易裁判の後、彼女は断頭台で首を落とされた。


 が、そこからが異常な展開で、首なしの彼女の胴体がひょっこり起きて、首を拾ってくっつけるのだった。それで復活してやんの。いやあ、あれはビビったわ。


 俺らは『とある解除法を用意してわざと捕まり』→『俺が卵から隠し育てた最後のストームドレイクを処刑場にけしかけて混乱状態を作り』→『拘束具を外して処刑官吏を全員ぶっ殺した上で王国に囚われた政治犯や反王国的行動を見せたとされる有力貴族たちを解放』→『反国王派勢力の増大を狙う』つもりだったのだが……。


 カミラは自らをスレイミーザ帝国の皇太女『カミラ・マザーオブハーロット・スレイミーザ』と宣言――要するに自分は魔族で、次代の魔国女帝であり、無礼が過ぎるのでお前ら私の簡易裁判で全員死刑ね、と処刑場の官吏と騎士、兵士らを秒でぶっ殺してしまうのだった。オマケに俺の可愛い白龍『カトリーナ』を喰おうとした。


 やめてくれや……その子は俺が丹精込めて育てた子なんだからよぉ。ちなみにカトリーナはこの国を襲ったもっとも強烈で巨大な台風の名前から取られている。


 つーかマジでなんでこんなところにいるんだよ。作戦が楽に達成できて助かったけどさ。アンタ北半球の土地のモンだろうに。ここ、南半球よ?


 あと、苦情を言わせてもらうと、人の白龍を勝手に人化させるな。

 15歳くらいの銀髪白眉の可愛い少女とか。俺様、36歳のおっさんだぞ。


 めっちゃ犯罪臭がするだろうが! そもそも俺様、少女嗜好趣味はねえんだよ!

 しかもカトリーナのやつ、俺様をパパって呼んでめっちゃ甘えてくるし。


 まあ、嫌ではないんだけどな。卵から育てた龍だし。子猫が甘えてくるアレだと思えば、なるほど不自然さはないし。でも人化したら犯罪臭が途端に出るだろ!?


 はあはあ……。


 あと、カミラ。アレの仕業ってお前だろ?


 ほら、アレだよ、アレ。シュトーレン侯爵領グレートレイクサイド港町での一件。

 ダンジョンスタンピード。その数10万越え。魔物どもの全討伐。

 あんなクソ無茶できるの魔国の皇太女たるお嬢ちゃんくらいしかいねぇよ!


 俺様はお嬢ちゃんが巨大狼に変身してアホみたいな速度で駆けて行くのを見た。

 で、たまたまだろうな。たどり着いたのがその街港。

 大きな街には、必ずダンジョンが近くにある。土地が豊かだから。


 いや、お嬢ちゃんがいくら魔族で、魔王の特性も持っていて、ダンジョンを扱えるって言ってもスタンピードを起こしたと容疑者として見ているわけではない。


 大体、知らない土地でダンジョンを見つけてお嬢ちゃんが即ダンジョンスタンピード開始とか、行動時間的に無理なのはわかってる。……なあ、無理だろ?

 それにお嬢ちゃんはいたずらに人を害するのを好まないだろう? 向こうからヤってきたら別だが、基本的に争いは避けるタイプと俺様は見ているのだがよぉ。


 そうじゃなくて、だな。


 一人でスタンピードの魔物をすべて滅多斬りにして去ったことを指摘してんだよ。

 義父に当たる筋肉武闘家のシュトーレン侯爵がよぉ、お嬢ちゃんのことをめちゃ気に入って、俺様に余裕があったら探すの手伝ってくれぇとか打診してきやがった。


 俺様、今この国で反乱軍のボスやってんだけどなっ!?


 嫁さんが亡くなって5年が過ぎて、王家と国政の現状から反乱を決意してから、俺様が色々と工作してアンタ侯爵と俺様の関わりを絶ったことにしたの忘れたのかよ。


 くっそー!


 政略結婚だったけど、しかし嫁さんは俺様を愛したが――侯爵としては王家本家筋の王子と婚約させたかったってことで、実は俺様に内心めっちゃムカついてるって『嘘』でっち上げるのどんだけ苦労したと思ってんだよ! アンタに被害を寄越さないようにしてるのに、下手したら王家に捕まって死刑待ったなしだぞこの野郎!


 侯爵の領地は王都から遥かに遠いため内戦に関わらずに済んでるってのに、自分から首を突っ込もうとするのはやめろ。脳みそまで筋肉で出来ているのかよ。


 はあー。


 まあ、でもアレだ。お嬢ちゃん、いや、カミラ。街を守ってくれてありがとうな。

 義父の領地だから言っているわけではない。そんなんじゃない。

 一人の人間として、街を守ってくれて心から感謝してる。


 本当に、ありがとう。


 つーかスゲェよな。こっちの準備が整ったので連絡送ったら、速攻で俺の領地までやってきて。アレだろ? また狼の姿でめっちゃ速度で走って来たんだろ? しかもそれで、ちょっと酒場で酒呑んでくるわみたいなイージーなノリで、ダンジョンをポンと用意しただろ? 一体全体どうなってんだこりゃ!?


 それと……お嬢ちゃんのパパさん、俺様に対して超怖いのはなぜなのだぁ……?


 なんにしろ運命的なものを感じる。お嬢ちゃんの背後に神でもいそうなほどだ。


 精々このダンジョンを活用させてもらうぜ。

 兵を強化して、装備も強化して、王軍を丸ごとブッ飛ばしてくれる!


 俺はこれからこの国を一度ぶっ壊す。王家本家の血筋は皆殺しにする。

 もし、民が俺を受け入れるなら俺が王になる。

 もしも受け入れないなら、共和制でも敷いて、どうにかできるようしてやる。


 お嬢ちゃんはそこで見ていてくれ。図らずもアンタの協力は凄かった。


 俺様の活躍に乞うご期待ってやつだぜ!?




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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