第160話 港街に潜入……しようとしたら。
「そうなんですか。剣士として、各地のダンジョンへ修行に
「まだ始めたばかりなので、各地を回れるかどうかわからないけどねぇ」
「いやいや。お強いので大丈夫でしょう」
「あの程度、強いも何もないわぁ」
「
「本来は構造上の問題で強度と殺傷力、何より扱い難い武器なのよ。でもそこはそれ。武器は魔道具錬成し、訓練で身体に叩き込んだ技法を駆使すれば、ね?」
「目の覚めるような凄まじい技でした……」
「お粗末さまでしたぁ」
実はレベル差による圧倒的力技で成り立っているだけなのよね。つまり今しがた喋っていた内容はほぼ『そういう剣士設定』という名のウソ。ごめんね〜。
はい、どうも。15歳バージョンの、大人カミラでございますよ。
どういう意図なのか見当もつかない神さまに、ブラジャーとパンティに姿を変えられたパパ氏も、もちろん私に装着同伴しておりましてよぱふぱふぱっふん。
『あ、ちょ。ぱふぱふは敏感なのであるっ』
うふふ。パパったら娘のおっぱいに過剰に反応しちゃってる。かわいいっ。
え? 15歳なんて、男も女もまだ青臭い子どもですって?
あー、そうね。
前世の感覚で見れば私もまったくの同意見です。15歳の少女とかミルクの匂い立つロリですよ! 特に、ロリータの定義は12歳から16歳だそうですし!
でもこの世界、男女とも15歳で成人なんですよね。だから飲酒も結婚もできる。
15歳同士の新婚さんが雰囲気上げてお酒を呑んで、それでベッドでチョメチョメとか……さすがは異世界って感じ。まあ私なんてマリーと『
で、今どうしているかというと。
ゴトゴトと、シドニー商会とかいう行商馬車の荷台に乗せてもらって移動中なのでした。商会長のシドニー・シェルダン氏と他愛もない話を交わしながら。
……おっと、軽くでもこれまでの経緯を話さないと何がなんだかわからないよね。
なので箇条書きなダイジェストでどうぞ。
1、まずは自分の姿を現地民に合わせて褐色肌に変更。あと髪と目の色を青色に。
2、再度、想像魔法『空の雫』でマッピング。西に20キロの港街に目星を置く。
3、街の名前は『グレートレイクサイド』。湖の港街。近くにダンジョンも完備。
4、そこへ向かう途中、凶悪な面相の男たちに包囲された小規模馬車団に出くわす。
5、想像魔法『不思議な第三惑星』で鑑定する。凶悪面相たちは盗賊団だった。
6、護衛は逃げたのか死んだのか裏切ったのか、馬車団にはいないようだった。
7、私、盗賊団の首を胴から泣き別れにする。襲われていたのは商人馬車だった。
8、それで剣士として商人たちの馬車に同伴させてもらう。←今ココ、なのだった。
「さしも巷を騒がせる極悪盗賊団マッド・ディンゴも剣士さまには敵わなかったと。雇った護衛は奴らを見るやいなや逃げ出してしまいましたよ……ははは」
「賞金首なのでしょう? ホントに首だけになったけど。あなたにあげる」
「とんでもない! 彼らに掛けられた賞金は総額で金貨1000枚を超えてますよ!」
「金銭に関心ないのよねぇ。……だったら、そうね。情報で対価を支払うなんてどうかしら? 街の特徴とか治安とか、寄るべきお店、よそ者では気づかない暗黙の了解など、その辺りを教えてくれると嬉しいわねぇ。宿の紹介もお願いね?」
「その程度では賞金首の賞金と全然釣り合いませんよ。私、丸儲けなのですが……」
「いいんじゃないの? 従業員にばら撒けば懐の痛まない慰問金になるし」
『ワシのカミラは気配りのできる自慢の娘。とっても良い子なのである!』
「無欲すぎますよ……ああ、そうそう。もしかしたらご存知ないかもなので申し上げますと、ダンジョンに潜るには冒険者ギルドに加入する必要があります。しかも深く潜るためには依頼をこなし、一定のランクを上げないといけません」
「思ったよりやっかいねぇ……」
「安全のためにもこの方式は外せないようです。加えてダンジョンに関する依頼斡旋料はギルドの収入源ですので。領地経済の循環にも関わりますし」
「なるほど」
「ただ特例もありまして。実はマッド・ディンゴ盗賊団の危険度はA級で、A級冒険者か複数のB級冒険者での
ランクは最高がSSS、新人はFランクからとなる。ありがちで逆に安心するわ。
「ふむー。じゃあ、冒険者ギルドへこれらの首を持っていけばいいと」
「それがよろしいかと。私が討伐証明保証者となりましょう。実際、助けられているのですからね。あとは私めがギルマスに紹介状を書けばトントン拍子に……」
「悪くない案ね。その案で行きましょう」
「宿も信用できるツテを紹介させて頂きますよ。1ヶ月分の宿代も私に前払いさせてください。こんなことでしか感謝を表せなくて申し訳ないです」
「かえって気を使わせちゃてるみたいねぇ」
「いえいえそのようなことは。……それで、向かう街についてですね」
「私、世間ズレの自覚があるので一般常識的な情報もお願いねぇ」
『魔族としては十分でも人の間ではさすがに異質なものと映るかもであるしな……』
「あっ、はい。……まずは『グレートレイクサイド』は湖の港街で、かつ、すぐ近くにシュトーレン侯爵領一番人気のダンジョンのある街でもあります」
「大きな街は、基本的にダンジョンの近郊に作られていくよね?」
「はい。不思議と土地が豊かなのと、やはりダンジョンと経済は切っても切れない関係ですので。大元は国に帰属しますが、利用如何は領地ごとに任されています」
「ダンジョンについてもう少し詳しく……」
「はい。……と言っても私は潜りませんので一般知識に毛が生えた程度とご理解ください。総階層は未だ不明ですが地下20階層までは低ランク冒険者でも比較的安全に潜れるそうです。ちなみに高ランク冒険者は地下50階層まで到達しているとか。5階層ごとに5階区切りの自動昇降機がダンジョン内にあり、時間リポップするフロアボスを倒すことで起動権が付与され下層への乗り継ぎが便利になるそうです」
「まさかエレベーター付きのダンジョンとはね」
「エレ……? あ、えーと」
「続きをどうぞぉー」
「あ、いえ。ダンジョンについてはそれくらいでしょうか。……おっと、忘れていました。注意すべきことが一つ。ランクですが、そのランクごとに推奨探索深度が設定されていて、それを超えて潜ると非常時レスキュー権を失うのでした」
「緊急の救出って?」
「戦闘に敗北してパーティが壊滅した際に、結界符を使って助けを待つ権利です」
「ふむふむ」
「たとえばCランクの冒険者ですと、このダンジョンでは30階層までは何かあったときレスキュー隊がやってきてくれます。もちろん有料で、ですが」
「前もって保険をかけるタイプ?」
「それに近いですね。結界符を購入し、オプションで権利を購入するシステムです」
「有料とはいえ冒険者の生存を踏まえた手厚いダンジョン探索になる、と」
ダンジョンに関しての情報はこれだけだった。シドニー氏は商人なので本当に一般的な知識に毛の映えた程度しかしらなかった。あとはどの魔物を倒すと美味しいドロップが出るか、などの話もあったが特に興味を惹かれなかった。
他にも色々と聞き出したけれども……。
総括すれば。
グレートレイクサイドの街は、湖の漁港とダンジョンで経済を成り立たせている。
ダンジョン最下階層は不明(これは私は調べればすぐに分かるけどやらない)。
ここには書かなかったが、漁港なので筋肉パワフルな漁師もたくさんいて、ダンジョン探索の冒険者と相まってなかなかの活気のある街らしい。
治安も喧嘩騒ぎ程度で動じないおおらかさがあるという。魔族の街に近いかも。
結構大きな街なのでスラム街ももちろんある。が、領主の保護もあってその規模は小さく、そうであれば当然治安の低下や疫病の発生なども低く留めているという。
まあ他の街を知らないので、程度の比較ができないのだけどね……。
その他、美味しい食事を出す店やおすすめの宿屋、武器防具に日用品商店(シドニー商店含む)などなど、色々と面白おかしく聞き出せた。
最後に重要事項。
この国の現状と反乱軍について。
どう聞き出そうか思案するまでもなくシドニー氏は語ってくれた。
この国は人による長年の治世で政治腐敗がかなり進んでいるようだ。それが証拠に最近は国全体の治安がとみに低下している。生活に困った住民が野盗化しているのだ。くだんのマッド・ディンゴみたいな盗賊団もどんどん増えるだろう。
政治は一度負のスパイラルに陥ると、正常復帰はかなり難しくなる。
それこそ革命でも起こさない限り……。
向かう街は王都から遠方にあるため、王国軍と反乱軍の
遠方の貴族たちは兵を出していない。
つまり、この土地。
シュトーレン侯爵領だったか。
前世ドイツのフルーツケーキみたいな当領国も、兵を出していない。
王国軍側が遠方地方領主たちに兵の徴募を始めるのは、自分たちの力の低下を示すようなものとでも考えているのだろうか。ともあれ自分たちだけでどうにか収めたい思惑がありありと透けて見える。なので、まずもって、戦いは長期化するだろう。やるのなら王権をかざして他の貴族に呼びかけ、一気に叩き潰す方がいいのに。
とはいえ相手も王族の一員。反乱軍の首魁は、王家の傍系だった。
私にしてみれば、ただの変なおじさん。
そりゃあ王家としてはお家騒動を自分で火消ししたい気持ちはわからなくもない。
いずれにせよ戦禍はこれからドンドン広がり、長期化するだろう。
既に王都周辺などは(私が転移したのも王都周辺の端っこだった)怪しきは処刑が蔓延している。もはや反乱軍への抑えも危うくなりつつあるのは言わずもがな。
はあ、と私は胸の内でため息をつく。
これってあの変なおじさんたちの計略だったりするのかしらねぇ?
たぶんそうなのだろう。一種の離間計と私は見ている。パパもそう見ているはず。
王国軍も見栄なんて張らず諸侯に最初から協力要請しておけばよかったのにね。
と、まあ商人のシドニー氏と会話しながらパカパカゴトゴトと街へ向かっていた。
の、だけど。
風と地脈の異変を感じる。
ああ……これは。嫌な予感しかしない。
「……どうかされましたか?」
『魔物であるな。それもとんでもない数の』
「風が魔物のニオイを大量に運んでいる」
「えっ!?」
「馬車の向かう先。街の方から臭気が流れてきている。あるいはアレかもー?」
「あ、アレとは……?」
「もちろん、ダンジョンスタンピードよぉ」
「ええ……っ!?」
私は意識を地脈へ向けた。随分派手に暴れているのがわかる。楽器で言えばドラムの乱打。重低音のベースギターに、アップテンポでエレキギターが
デストローイ! ウィ・キル・ユー!
「ハードロックでハードラックといった感じかしらねぇ」
「ハードロックでハードラック……」
「シドニーさん。道を外れて一旦……そうね、あっちの丘の影に隠れたほうがいいかも。風はダンジョンから吹き出ているので風下になるし、もし見つかっても翻って丘を背に降って逃げれば助かる可能性が高い。ただ、一応は肉眼視認しないとね」
私の提案に馬車は街道を外れて丘へ向かう。一様に緊張した面持ちだった。
丘の頂に……魔物の気配の方向へ。
『うーむ、これはお祭り状態である……』
おっとと、やっぱりかー。
眼下に臨む街の光景に、数万規模の魔物の集団が街全体を取り囲んでいる。
「なんと……」
「驚くほど間が悪いわね……」
「リリーナ」
「んん?」
「私の娘です。妻に先立たれ、私に残された妻の忘れ形見……ああ……私は……っ」
「……ふむ」
私はスタンピードの魔物を一望しつつ、崩れ落ちるシドニー氏に静かに頷いた。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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