第159話 変怪したカミラパパは気持ちの整理が追いつかない。

 オオカミ状態で走ること約1時間。

 特に場所など決めずに、冬の荒野を好きなように疾駆する。


 時速はわからないが、ずいぶん前にドォンッと空気の壁を割るような音がしたので音速を超えているかもしれない。そういえば毛並みがチリチリするね。


 スプリンター大型猫種のチーターの全力疾走歩幅は8メートルくらいらしいので、となれば今の私の一歩は最低でも百メートルはまたいでいる感じだろう。


 しかも魔力の関係で私は某もののけな姫に出てくる巨大狼みたいな大きさになっている。なので走る際には周辺にトンデモな衝撃波を撒き散らしながらとなる。ドドドドドドドドーッ、なのである。黙れ小僧、なのである。たぶん誰も巻き込んではいないと思うけど、巻き込まれたら人はミキサーにかけられたみたいになるだろう。



 後世、かの王国落日のまさにそのとき、傲慢王の堕落に怒れる巨大狼フェンリルが猛烈な勢いでスカイガーデンの空中大陸を駆け巡ったという説話が残された……。



 ひとしきり走って気分スッキリになったところで、オオカミ変怪を解く。



「ふう……かけっこ大好きにゃー♪」



 ぴょんぴょこぴょんと跳ねて、喜びを全身で表現する。にゃー♪ なのである。


 あれ、と思う。変怪を解いたら私は幼女に戻っていた。慈しむべきわが真の姿。小さい身体。ぷにぷに寸胴ボディに短い手足。実家の自室に帰ったような安心感。


 私は自分の幼女姿を心から愛している。だってパパ氏やママ氏に甘えられるし。


 本当の中の人は前世から息づく大人のはずなのだけど……もう、心も身体も幼女で良いと思っている。心なんてしょせんは身体の奴隷に過ぎない精神は身体の玩具に過ぎないのだから。


 というか。

 なぜか、どういうわけか。

 チャイナドレス内のインナーがずり落ちる感覚があるのはどういうコトか。


 衣服はすべて私の魔力で作られているのでそもそもそんな違和感を受けるなどないはずなのに。実際、パンティなんてすとーんと足元までずり落ちていた。



『――あいた!?』


「パパ?」


『なんだか尻もちをついた感覚を受けたのである。カミラ、大丈夫であるか?』


「にゃあ」


『おお、いつもの姿になったのであるな?』


「パパ、どこー?」


『カミラ』


「にゃあ」


『パパを嫌わないでほしいのである』


「ふみゅー?」


『パパは、カミラの着ける下着の上下になっているのである……っ』


「にゃー? パパ、カミラのパンツになってるの? ……にゃんで?」


『それが、さっぱりわからないのであるよ』



 あー。これは絶対に神さまの仕業だな。ならばどうしようもないね。

 カインお兄ちゃんは白雪姫の意地悪な妃に仕える魔法の鏡になっていたし。


 でも、なんでインナーなのだろう……? 男のロマン的な意味合い……?



 ――父親の、可愛い娘を守りたい一心の、その一形態みたいなものですね。


 

 神さま……そりゃあわが子に対する親の気持ちはわからないでもないのだけど、娘のに実の父親を変怪させるのはいかがなものかと……。



 ――可愛い娘の貞操はワシが護る、なんてね。



 私、最近特に、利き手の爪のお手入れを欠かせませんが、何か?



 ――マリーちゃんと仲良くね。



 当然です。チュッチュする仲だもの。最近忙しくてチュッチュできてないけど。



「カミラ、大っきくなった方がいい? もしかして、パパのパンツ姿って、小さくなれたりする? カミラがいつも履いてるカボチャパンツ姿になれるー?」


『幼い娘のパンツになるのも、それはそれで背徳感が凄いのであるよなぁ……』


「パパがにゃあを護ってくれてるにゃ」


『カミラ……その純真な心、ワシはもう感動で胸一杯である。だが残念なことに小さい子用のカボチャパンツとキャミソールの上下には、なれないみたいである……』


「にゃー。それじゃあ、おっきくなってパンツを履くようにするね」


『……そもそもワシを履かなくても、自分の魔力で下着を構築しても良いのでは?』


「さっきも言ったけど、せっかくパパが護ってくれるのにー?」


『カミラ……うう……カミラの貞操はワシが必ず護る。絶対に男など侵入させぬ……っ。カミラのワシに対する信頼を失うわけにはいかぬのだ……っ』


「じゃあ、おっきくなるね。嫉妬の権能発動にゃー!」



 端から見れば仲の良い父娘のなんだか微笑ましいような遣り取りのようで、実はのお話。

 そりゃあ履くでしょ。パンツは履くモノよ。成長した娘の身体を感じてください。

 あと、男の侵入は指一本許してないけど、女の子のほうはわりとスルスルと。


 私、女の子が大好きだもん。マリーとか、あと初めての眷族のミーナちゃんとか。だからこそ利き手の爪を特に綺麗に、短めにお手入れしているのだった。


 私は嫉妬の権能を使って大人モードに変更する。そして足元にずり落ちていた父パンティを履き直した。きゅっと、まるで意思を持ったかのように(実際中身はパパなのだし、意思は当然あるのだけど)キレイにフィッティングする。



「この安心感。さすがはパパ」


『あまりきゅっと股をナニするとパパとしてはとても複雑な気持ちになるのである』


「ムダ毛がなくて、つるつるなので気持ちいいでしょう?」


『ママもつるつるなのであるよ』


「うん。ところで胸の方はカップにバッチリ合ったブラジャーなのね」


『ワシの知る限りこのような形状の下着は初めて見るのである。まるで乳房の形を保ち、支えて守るかのような。これは特に、胸の大きな女性に人気が出そうである』


「家に帰ったらママに内緒でデザイナーに作らせてみるー?」


『ママに内緒はとても怖いのである。ママのは零に何を掛けても零であるし……』


「ほーら、おっぱいムニムニ。ブラ越しセルフモミモミ。パパ、気持ちいい?」


『あっ、ちょ。気持ちいい……っ。娘の胸と分かっているからこその禁断……っ』


「私もパパブラジャーのフィッティングがとってもお気に入りよぉ」


『うう……父として……父として……っ』


「うふふ。苦悩するパパも素敵よぉ。愛してるわ、パパ」



 やはり男は女のおっぱいには勝てないものなのかしらねぇ?

 こう見えてパパ氏はママ氏の薄いおっぱいもこよなく愛しているのよ。


 さてさて。


 愛するパパ氏の、パンティな男のロマン現状を把握したところで。



「パパ、私ね、新しいダンジョンを作ろうと思うのよ」


『あのいけ好かない男のためにであるか?』


「あの人はあの人で面白いのよ。どうせオジサンだし王族だから妻が何人もいるわ」


『ううむむ。ワシにとっても色々と試練を神より課せられている気持ちである』


「それに彼――反乱軍サイドだけダンジョンを作るつもりなんてないのよね」


『と、いうと?』


「王国サイドにもダンジョンを作るつもり」


『なぜゆえに?』


「政治的理由で建前上のバランスを取らないといけないから」


『両方の陣営に肩入れはしていない。ただ二つダンジョンを作っただけ、と?』


「反乱軍サイドのダンジョンは脳筋仕様で装備品を出やすくするの。ダンジョントラップも少ないけど、出て来る魔物はちょっと強めで経験値も高め」


『王国の方には?』


「聞けば堕落しているそうだから、金銀財宝が出やすくするわ。ダンジョントラップはキツめに、出て来る魔物はどちらかというと弱い。ただし大量に出る」


『ふむふむ……面白いのである。ただ、カミラ』


「はい、パパ」


『あの男のいう言葉が真実であっても、最低一度は事実確認はすべきだと思う』


「真実と事実は別物だから?」


『まさに、である。真実とは個人がたどり着く主観の最終である。なので。事実とはどの第三者が見ても結果が変わらぬ事象を指す』


「はい、パパ……♪」



 私は悪戯心で自らの胸を優しく揉みしだいてみた。



『……おっほうっ。……か、カミラ。パパをからかっちゃいけません!』


「だって、パンティとブラにパパが変怪しているから……♪」


『イタズラっ娘であるなぁ。それもまた可愛いのであるが』


「パパのこと大好きだから、この機会に大人カミラをもっと知ってもらいたいの」


『お、おう……』



 もちろんたっぷりの悪戯心で。だって意外とウブな反応が、ね?

 ただし近親ナンチャラ的な意味合いはゼロである。それとこれとは違うのである。

 父と娘が、仲良くじゃれ合っているところを思い浮かべてほしいのだ。


 魔族風の、ちょっと過激なやり方で……。


 しばらく自前の胸をモミモミして。


 私はチャイナドレスから旅装姿に想像魔法『呪いのボンテージ』で変更をかけた。

 あわせて想像魔法『空の雫』でこの一帯を走査する。


 現在地から20キロほど西に行ったところに港町があるようだ。ただし港町といっても海に面しているのではなく、大陸の巨大湖に港を作った街のようだった。



「よし、じゃあさっそく潜入捜査をしましょうか」


『フードを目深にかぶって、なるべく肌を見せないようにするのであるぞ』


「はーい」



 私はゆったりした歩調で、それでいて第三者から見れば飛ぶように移動を始めた。




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