第158話 俺様フィクスと白の龍と
作者より。
前話、主人公カミラが転移してからの展開はお気づきの方もおられるかと思いますが、とあるオープンワールドゲームのオープニングをオマージュしていました。
真っ白いそこそこ巨大なドレイクが私の前に闖入してきた。
どっかのゲームなら斬首寸前に龍が現れて刑の執行がうやむやになるけれど。
この世界はスカイでリムな世界ではないから。そういうのじゃないから。
ともあれ、こいつ、邪魔。私はばっさばさと滞空するホワイトドレイクを睨む。
「新鮮なお肉ね。今日はドレイクがメインディッシュになるかも?」
「いやいやいや! 待て待て待て! 待ってくれ!」
「どうしたのそんなに慌てて」
「そいつは俺様の味方! 王国に残る最後のストームドレイク! 生ける伝説! なんと言っても俺様こそ反乱軍ストームドレイクの頭目だからな!」
「……はあ、やっぱり。当初からのそのふてぶてしい態度でそんな気がしてたわ」
「そうだろうそうだろう……え、そうなのか? 俺様ふてぶてしい?」
自覚がないのって、どうなのよ……。
「……最初は反社会組織がこの国の何かを強奪するためにわざと捕まったのかしらと思っていた。でも、運の悪い薬草摘みの中年女から聞いた反乱軍ストームドレイクの存在を知って、実はこの人たちこそ反乱軍で、最低でも幹部、もしくは首魁自らが何らかの目的で身分を隠してわざと捕まったのではないか、とね」
「おおー。って、なんでそこまでわかってて俺様のドレイクを狩ろうとすんだよ!」
「美味しそうだったから?」
「おま……ちょ……伝説のドレイクを見て食指を動かすとか……」
なぜか、がっくりとうなだれる変なおじさん。龍は血も肉もカラダに良いのよ?
「ともあれ……」
「ん?」
「はっはっはーっ。俺様は反乱軍の幹部ではなくて反乱軍のボスでしたーっ」
「切り替え早いわねぇ……ストームドレイクの頭目だってさっき既に聞いたわよ」
「そんなわけで、さっそくだが手足の枷を解除してくれや」
「はいはい。ちょちょいのちょいっと」
「ありがてぇ。一応俺様も解除法を用意してたんだが、ちと代償がな!」
「すまん。俺も、頼む」
「おっけーよ筋肉ムキムキおじさん。ちょちょいのちょいっと」
「お見事。感謝する」
どんな代償なのか少しだけ興味が湧いたけれど、どうせ呪いにはもっと強烈な呪いで対抗するとかロクなものではなさそうな気がするので聞き出すのはやめた。
そんな中、私たちのやり取りに白龍は不安気に羽ばたいていたが、私が龍に手を出さない様子を悟ったらしく地上にドスンと足をついていた。
「それで、あなたたちはどうするの? どうせその龍を使って騒動を起こし、自前で用意した枷の解除法を使って投獄されている仲間か政治犯、反乱軍に味方してくれる貴族でも助けに来たんでしょ? 今なら助け放題よ。王国兵は37564にしたからね」
「アレは凄かったよな。一瞬だった。……なあ、俺様の仲間にならねぇ?」
「お断りするわぁ」
「つれねえなぁ」
「だって思い切り内政干渉になるでしょ。反乱が成功してから、私に領土割譲を求められたらどうするの。まあ、これも縁だから手助けくらいはするつもりだけど」
「あっはっはっ。たしかにお嬢さんに仲間になってもらったら心強いがあとが怖いな。……で、手助けって、具体的には何をしてくれるんだ?」
「ダンジョンであなたたちの兵を鍛えてあげる。特別に、死にかけたら回収して肉片からでも回復させてあげる。その代わり、持ち物は全部ボッシュートよ」
「……ん? んん?」
「私のダンジョンで、あなたたちを鍛える手助けをしてあげるって言ったのよ」
「お、おう……? 俺様、聞き間違いでなかったらお嬢さんが作ったダンジョンでレベリングできるみたいに受け取ってしまったのだが?」
「だから、そう言ってるでしょう?」
「たしかダンジョンは龍脈による自然発生と古代遺跡が迷宮化したものと、魔王が構築したものの三種類があるんだよ。で、唯一魔王はダンジョン運営ができるとか」
「運営できるわね。龍脈エネルギーを整えて魔力を作ったり、土地を富ませたり」
「俺様、頭痛どころか失神しそうなのだが? お嬢さんって魔王なのか?」
「別に私は敵対されでもしない限り、能動的に人を襲ったりなんてしないわよ?」
「かぁーっ。さすがは魔国スレイミーザの後継者ってやつかぁー」
「かもしれないわね」
「俺様、スゲェ巡り合いにビビりまくりだぜ?」
「その割に、軽口は叩けどきちんと受け止める余裕を感じるけどね。……あなた、私の予想では……王族か何かでしょ。傍系、王弟、プリンスと呼ばれる方の公爵」
注釈。公爵には二種類ありまして――
家臣としての公爵はデューク。王族としての公爵はプリンスと呼びます。
「おっと、魔法か何かで鑑定でもしたか?」
「しないわよそんな失礼なこと。ちょっと推理しただけ。反乱軍ストームドレイク。王国は警戒するレベルではなく、ストームドレイクの一員である嫌疑だけで処刑するほど。であれば、なるほど。現時点でかなりの規模であると推察される」
「ふむふむ」
「そして、そんな規模で音頭を取れるだけの人物。変わり者で、それでいてひとかどの人物でなければ、ね。あるいは異世界転移転生者が関わっている? いいえ、彼らはこの世界における異物。この世界の何たるかを、この世界の住人以上に理解なんてできない。異世界人は喜びも悲しみも元世界の記憶と経験に引きずられるから」
「それからそれから?」
「要約すれば民の本当の気持ちを掬い上げられるのは現地民であり、それなりに支配について慣れ親しんでいる者であり、反乱を起こしても血筋が確かであることがまず条件に上がる。王族傍系なんかが一番いい感じね。あとは伝説、だったっけ。白い龍を飼い慣らしている――なんて普通に考えて高い地位を持たないと無理よ?」
「結論をどうぞだぜ」
「答えは、先ほど言ったように――あなたは王族の血族であるということ」
「……俺の名前はフィックスサージベルト・パロス・スカイガーデン。パロスはスカイガーデン王家の傍系を意味する。本家にはミドルネームはつかない。連れのラムズは乳母兄弟ってやつさ。ラムズ・ミル・ナイスバルク。
「食糧問題を抱えた淫魔族にちょっと恩を売ったら、彼らにとって最高の称号を私に寄越してきたの。666の魔獣マスターテリオンに跨る大娼婦の名前って感じ」
「ああ……淫魔も認めるほどお嬢さんはエロかったと」
「見た目はこんなでも、私自身は人並みの欲求しか持っていないわ。たぶん……」
「周りとお嬢さんの意見の相違というヤツだな。はははっ。強く生きろ!」
「はいはい……」
私はこの場から立ち去ろうと歩き始める。
「あ、おい。もう行くのか?」
「王家本家に反抗した政治犯やら貴族やらを救出するんでしょ? なら、私はいない方がいい。私の正体を知ったら反乱軍が分裂しかねないわ。他国の、それも魔族の国の皇太女とかね。……ああそうね、これをあげる。一見するとただの白金貨。その実は通信魔道具。ぎゅっと握って念じれば私と会話――念話ができるわよ」
「また珍奇なものを」
ちなみに想像魔法『EL・DO・RA・DO』で即興で作った。
「ダンジョンの準備をしておくわ。そっちの準備が整ったら教えて。大体の場所さえ指定してくれれば、いい感じの場所にダンジョンを構築してあげる」
「死にそうになったら回収されるレベリングダンジョンか」
「貴重品は持ち込まないようにね。ドロップ品で強化していく形にした方がいいわ」
「死のリスクなく鍛えられるとか最高だろうがよ。しかもドロップ品付きとくる」
「でしょうね。全員最低でも150レベルを目指すと良いわよ」
「それ、全員英雄レベルじゃん……」
「でも戦いの際には『お前たちは全員英雄だ!』って煽るでしょう?」
「まあそうなんだが。……うむ、ひとつ気張るか!」
「ドレイクのお嬢ちゃんも元気でね」
「えっ、こいつメスだったの?」
「性別くらいちゃんと把握してあげなさいよ。ほら、嫉妬の権能を使ってあげる」
「うお!? 人化した!? って、銀髪白眉の全裸少女じゃんか!?」
「――パパ!」
「パパって、呼んでいるわよ?」
「そりゃあ卵から孵して育てたのは俺様だがよぉ。何してくれてんの!?」
「あなたと話をしている間、ずっと愛おしそうにあなたをこの子は見ていたからね」
「お嬢さんはそんなこの子を食べようと」
「美味しそうだったし?」
「やめてくれや……」
「まあ、私の権能で人化を任意で出来るようにしたわ。可愛がってね、パパ?」
「おいおいおい……まずは何かこの子に着るモノを。見た目は15歳くらいかぁ?」
「パパー♪」
「じゃあ、またね」
そうして私は、久しぶりにオオカミ化して全力でこの場から立ち去った。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます