第151話 ジンクスクラッシャー、その後

 結論から言うと。

 アーデルハイド教皇とスレイミーザ帝国三大公爵、デスメトゥ公爵は……。


 見事、一緒になった。


 ただ、こう言うのもなんだけど。


 ちょっと見てられないほど甘々でラブラブでイチャイチャしてて。

 口から砂糖をマーライオンしそうなほどだったと、コメントしておくよ……。


 ……簡単に経緯を語ろうね。


 私がアーデルハイド教国総本山に押し寄せて来たスタンピードを退け、続いて4番目、5番目のスタンピードも召喚勇者たちの活躍で防衛成功し、その後。


 教皇は高齢を理由に退位を表明した。自分の最後の仕事は終わったと。

 惜しむ声は凄かった。

 国家を揺るがす災害への予知と勇者召喚という的確な処置、神の御言葉を賜るカリスマ性。何も知らない人たちからすれば、まさしく最高の宗教指導者に映る。


 でも、知っての通り。


 これはすべてマッチポンプであり、元の元をたどれば教皇が起こした事件だった。


 教皇の目的は、幼き日に約束した恋愛の成就。健気じゃないのさ。事件の規模を無視すれば、だけど。そもそも黒幕は神さまだったし、誰も悪くないというか……。


 なので真相の渦中の教皇は教皇位の継続を固辞し、聖女と使徒を召喚せしめた功労者、枢機卿ハンスを次期教皇の座を推薦、半ば強引に退位したのだった。

 しかもここから私たちの神さま公認の細工が入り……具体的には私がダンジョンコアで死にかけニセ元教皇をクリエイト、あたかも天寿をまっとうさせたように見せかけて彼(本物のほう)を帝国のデスメトゥ公爵の元へと送り届けたのだった。


 後は、特に語らなくても分かるんじゃないかな。


 蛇足かもだけど一応付け加えると。


 儀式を元に公爵に殺されて死霊化、在りし日の幼い姿に成った元教皇は、二人仲良く寄り添う事になったのでした。めでたしめでたし……なのだった。


 さて、私とママ氏はというと。


 まずはイケナイダンジョンコアにお仕置きとしてコア吸収してやった。

 これでこのダンジョンは私の支配下に置かれ、二度と余計なことが出来なくなった。というかこのダンジョン、二重ダンジョンになっていて、正しい入り方をしないと偽のダンジョンへ送り込まれるギミックが発動していて少し厄介だった。


 まさかヒューマン族の姿をしていると入れないだなんて。


 吸血鬼は人外ではあれど、人を騙して血をすするために美しいヒューマンの姿を取る。

 なので、このダンジョンのギミックに引っかかるのだった。


 正しい入り方は、コーモリになるか、オオカミになるか、霧の姿になるかなど、とにかく人の姿を止めないと入れない。道理でこのダンジョンにヒューマン近似種が少ないと思ったのだ。エルフやヒューマンの『魔物』が一体としていないなんて。ずんぐりむっくり体型のドワーフやノームはギリギリ対象外だったみたいだけどね……。


 なお、コア吸収お仕置き時に暴食権能を使って2000レベルほどドレインしたと追記する。


 そんなこんなで。 


 ハンス新教皇に祝辞を述べて、フツーにスレイミーザ帝国ノスフェラトゥ領のわが家に戻っていた。用が済んだら私たち魔族は去るに限るのである。


 以降、二国間の関係はハンス新教皇によって少しだけ改善されたようだけど……。


 まあ、気長に魔族と人間の関係性を培うべきなのだった。性急な変化は混乱を起こすからね。最低でも数百年は見るべき。こういうのは急いては仕損じるもの。


 教皇の最大の目的――

 初恋は叶わないジンクスをクラッシュしたのでこれで良しとする。



「……マリー、チューしたいー。ん……みゅ……マリー、キス上手になったね……」

「カミラのおかげでね? 女の子同士でこんなにキスするとは思わなかったわよ」



 私はマリーと自室のベッドで、彼女とチュッチュしていた。

 ホントは私の棺の中でチュッチュしたいところだったけど狭すぎて諦めた。

 初めて会ったときから、私は一貫してマリーのことが好きなのだった。


 死霊公爵と前教皇の初恋を目の当たりにして想いは更に深まり、同性で異種族の彼女が愛おしくてしようがない。キスにも熱がこもる。チュッチュなのである。


 羨ましそうにしているレディースメイド主任のセラーナはともかく。



「今回の転移も上手く行ったの?」

「にゃあ。ほぼ理想的に、かにゃー? 神さまのシナリオに乗っかっただけだしー」

「じゃあしばらくは、カミラの転移もない感じかしら?」

「と、願いたいにゃー」



 今回の転移では、私は『怠惰』の権能をもらった。

 そのアナウンスが、これがまたいかにも怠惰でズッコケる内容で。



『策を巡らせたり、時短したとはいえダンジョンを攻略したりとちっとも怠惰っぽくないのですが、考えるのが面倒になったのであなたに怠惰の権能を与えます』



 エクストラゲーム、無し。怠惰なのでそういうのは面倒くさいらしい。

 なんやねーん。と思わずエセ関西弁でツッコミを入れてしまうほどだった。


 怠惰の権能の内容は主に二つ。


 一つ目。怠惰の賢者。別名『アームチェアーディティクティブ』

 推理小説に出てくる、事件現場に一切出向かずに状況説明だけで犯人像を割り出すアレの如く、情報の類推能力が高まるパッシブ権能だった。


 二つ目。怠惰な修行。別名『まったく簡単だ!』

 なんと、1日(24時間)に1レベル上がってしまうトンデモパッシブ権能。嫉妬の権能も併用すると、実質1日で1万レベル上昇するのと同じ状態となる。


 現状、私のレベルは当初の5000からママ氏の授乳行為で500レベルを受け取り、ダンジョンコアのお仕置きでレベルをドレイン、計7500レベルに達していた。

 その後、転移による試練クリアの別途褒賞として神さまから2500レベルを頂いていた。総計、1万レベル。これに嫉妬の権能を使うと……1億レベルに達する。


 ゼロ歳にして、私は帝国における公爵たちと肩を並べるレベルとなっていた。


 いやまあ、いっときであれ3億レベルに達していたこともあるから特に思うところはないんだけどさ……インフレーションが留まるところを知らな過ぎて呆れるわ。


 もちろん魔族は強さこそ正義と分かりやすい性格をしているので、高レベルであるに越したことはない。ただ私は、愛するマリーとレベル格差がドンドン広がっていくのが最近になって気になり始めた。人族の最終レベル限界は1500だった。


 マリー、私を、捨てないでね。


 ああ、どうしよう。本当に、どうしたらいいのだろう。

 マリーを咬んでしまえばこんな悩み、一瞬で払拭できるのだけれども。


 でもそれだけは。


 マリーは人のままでいて欲しい。たとえ身勝手と言われようと。

 ただ、彼女は、私に咬まれても良いと明言しているのだった。

 咬めば、私たちは完全な恋人になれるだろう。百合姉妹になれるのだった。



「……カミラ?」

「ふにゅー。マリーはマリーのままでいて欲しいにゅ」

「……咬んでも、良いんだよ?」

「成長し、老いていくその姿は、生命として常に最高に美しいものにゃ……」

「……」

「でも、それだといつか、マリーは私を捨てるかもしれない」

「……だから」

「うん……もう少しだけ、にゃあの迷いを受け入れてほしいにゅ」

「……わかったわ」



 今までこんなにセンチメンタルになったことはない。


 やはり、アーデルハイド元教皇とスレイミーザ帝国死霊公爵との一件が大きいか。


 異種族間の愛の交歓は難しい。だから、どちらかが寄り添わねばならない。

 元教皇は死霊公爵と一緒になるため、死霊公爵にわざわざ殺された。


 ごく身近にも似たケースがある。


 パパ氏と一緒になるために、ママ氏は元祖の吸血鬼に『成った』ように。


 私が咬めば、マリーなら最低でも王級吸血鬼になれるだろう。あるいは帝級吸血鬼になれるかもしれない。そう私が願うから。眷属化の枠を超えて、願うから。


 私の思考はぐるぐる巡る。


 まったく、怠惰の賢者だっけ……所詮はこの程度だね。答えが出てこないもの。


 そんな出来事から一週間後。


 スレイミーザ帝国皇室より直々に――要は魔帝スレイミーザ三世陛下より直々に。

 私のデビュタントの打診が送られてきたのだった。


 ……私、もうすぐ一歳とはいえ、今はまだゼロ歳なんだけどなぁ。




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 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

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