第150話 お前の敗北原因はただ一つ。カミラを怒らせたことだ!
初めに。
当話中の『』会話について。
小さいわが子を育てている若いお父さんたちの会話です。
「――ロードローラーにゃあああッ!」
勢いである。勢いだけなのである。ロードローラー発言に特に意味はないよ。
あえて共通点があるとすれば、どこかの吸血鬼が調子に乗って叫んだことかな?
ともあれ私はスタンピードの渦中に、三輪車に乗って猛烈突入したのだった。
……今、ちっちゃい子がキコキコ三輪車を漕いでいるところを想像したでしょ?
半分当たりで、半分間違いだよー。
ダンジョンスタンピードの魔物たちは私のバンザイ轢き逃げアタックに、ブチブチブチュリッと踏み潰されたり吹き飛ばされたり引き千切られたりしていく!
というのも、サイズが桁違いなのだった。
スーパー・サイズ・ミー?
うん、それは横方向のビッグサイズだね。
前世の米国では特に問題になってたね。国民の約半数がおデブとか。
それとは、まったく違うんだよ。
『光の翼を背中に生やした、やたらデッカい幼女が突っ込んで来たー!?』
『おそらく聖女さまと共に、召喚に応じられた使徒さまだ!』
『えっ、聖女さまの娘御さまでもある? 団長の訓示のときに現れた聖女さまの?』
『タイミング的にそれ以外思いつかん!』
『地上における神罰代行人? または攻性聖者!? しかも幼女!?』
『そうそう!』
『マジかよ幼女使徒さまデカすぎだろ!』
「にゃあ♪」
ママ氏の聖女チートで神さまに奇蹟を願い私を幼女のままで20倍の巨人化してもらい、私は私で巨人の幼児用の三輪車を想像魔法でこしらえていたのだった。
魔力補助動力10万馬力付きで、私の三輪車は本気で走ると新幹線より速いよ!
「みゅーっ! どろんこになれー!」
そして、子どもといえば、どろんこ遊び。
全国津々浦々の、主にお母さんの頭を悩ます泥まみれお子ちゃま遊びである。
スコップにバケツにジョウロ、ヒシャク、あとはなんだろう。テキトーな感じのおもちゃを手に文字通り泥だらけになって騒いだりする。めっちゃ楽しいのである。
ダンジョンコアの力で一帯の地質に干渉、更には地下水を汲み上げて液状化させるのだった。すると、巨人の幼児用どろんこ遊び地帯が完成する。
まあ、彼ら魔物たちからすれば……。
底なし沼そのものだけど! うひひ!
地面変動。前触れなく見渡す地面が泥化していく。ズブズブと沈んでゆく我が身に焦り出すスタンピードの魔物たち。にゃはっ。うろたえる顔、おもしろーい!
そこにジョウロで水攻撃。
ただの水ではない。
超高圧水流。いわゆる水圧カッター。
シャワーの一本一本が、必殺の切断攻撃!
鋼鉄の塊であろうとぶった斬るよ!
「ギャボーッ!?」
「ムギュゲエエエッ!?」
「ギャアアアアッ!?」
結構な数の魔物たちが、ズビズバ綺麗に両断されていく!
みゅふっ。ゆで玉子スライサーみたいに斬れるのね。断面図すごーい。アクリル標本を見てるみたい。……ふーん、腸内には何も入ってないのね。ダンジョンコアに生成されてすぐ突撃したかな? まあ、ウンチまみれになるよりずっといいよね。
……私は童心に還って、切断された魔物の『一枚』をつまみ上げて観察する。
「ペラペラにゃあっ! みゅっふー!」
『……子どもって、こう、容赦がないというかさ、無邪気にエグイよな』
『助けてもらっているので滅多なことは言えんが、使徒さまも小さい子どもだし』
『うちの子は捕まえたカエルの尻に、思い切り息を吹き込んで破裂させてたぞ……』
『うちの子は石の下に隠れていたダンゴムシを、木の枝で全部串刺しにしていた』
『『うむ……』』
というかキミたち、スタンピード中なのに余裕だね? キミたちの上司にあたる騎士団長は今にも胃潰瘍でも起こしそうなくらい気の張った面持ちなのに。
ジェネレーションギャップなのかな?
それとも、絶体絶命にピンチ過ぎて逆に肚が座っちゃったかな?
私が直接干渉する以上、この予定外のスタンピードは完璧に対処するけどね!
「にゃあ、次は何で遊ぼっかなー」
私は切断魔物を観察するのにも飽きて、鼻くそを飛ばす要領でピンッと捨てる。
とたん、弾き飛ばされた可哀想な切断魔物は極音速で彼方へ飛んでいく。
別な魔物たちのど真ん中に命中。
ブッシャッ! と無理やり叩き斬るみたいに不運な魔物たちを轢断していった。
「よおおおしっ。お水攻撃パート、ツー!」
ヒシャクで泥水を掬ってザバーッ!
ひと掬いの水はとめどなく、ヒシャクで掬った以上にザンブザンブドドドッと量を増やし、やがては津波の如く魔物を押し流しては呑み込んでいく。
「みゅっふふ! ノアの大洪水攻撃ー!」
『子どもは水遊び好きだもんなー。俺の子もやたらと好きなんだよ』
『そうそう。うちの子もだ。川辺とか連れて行ったらテンション爆上がり』
『お互い、子どもの水辺の事故には気をつけようぜ』
『だな!』
「オ、オヨゲナ……」
「タスケテ……タスケテ……」
「ブクブクゴボゴボ……」
おや、もう音を上げたの? スタンピードは始まったばかり。マダマダこれから。そんなことないよね? どうせ数だけは揃っているんだから、楽しませてよね。
「溺れそうにゃの? じゃあねー、じゃあねー。……凍り付けーっ!」
「ヤメ……テ……」
「サムイ……サムイ……」
「カチコチーン……」
『水攻めのあとに冷凍攻撃』
『容赦なし!』
大洪水攻撃をどうにか耐えた(スタンピードの魔物の数は半端なく多いので)魔物たちは太ももまで底なしの泥に呑まれかかっている。そこに気化冷凍攻撃である。
泣きっ面に蜂、みたいなもの。
大半はカチンコチンになった後でバラバラに砕け散って絶命してしまう。
生き残った氷結耐性のある魔物たちも狂気から覚めた顔で必死に私に祈り出す。
どうやら命乞いしているらしい。スタンピードはどうなったのやら。
――カミラはダンジョンマスター権限を持っているので、彼らも直感的にあなたに殺されたくないのですよ。ダンジョンの魔物はダンマスが創造主に当たりますし。
「そーなのかー」
でも、私がクリエイトした子じゃないからね。うーん、どうしようかなー?
暴食権能で栄養にしちゃおうかな? 簡単レベルアップ!
憤怒の権能で同士討ちごっこするとか? 別名、サバイバーごっこ。
それとも色欲をかき立てちゃう? 異種族間の交尾とか生物学的に興味あるね。
それとも本気モードでまるごと全部、消し飛ばしちゃう?
「うーん、とりあえず死んじゃえー!」
オレたち○ょうきん族の懺悔の間のあの人みたいに、腕をクロスバツ印を作る。
悪いけど、ここで魔物に手心を加えるのは今後の展開として悪手なのよ。
さっきちょっと触れたように、ダンマスとして彼らを生成したのは私ではないし。
だから、死んでくれる?
「魔法幼女ステッキしょうかーん! ラミパスラミパス・ティラクルラミカルレミラミルー!
「……あれ、お久しぶりで……うぎゃあああっ!? 目からビームがあああっ!?」
「にゃははははははははっ!」
『やっべえ、うちの子に見せたら絶対真似するやつが来た!』
『それっぽく木の枝なんかでところ構わず叩いて回りそうだよな!』
『『これは見せたらアカンやつや……!』』
ちゅどーん! ちゅどーん! ちゅどーん! ちゅどーん! ちゅどーん!
まだまだ襲い来るスタンピードの魔物に向けて光弾が乱射される。
本気モードの大人の私ではないとはいえ、それなりに一発一発が重い一撃となる。
具体的には一軒家くらいなら軽く根こそぎ吹き飛ぶ威力。そんなのが雨あられ。
私の魔法幼女ステッキの先端には、下半身と両腕をめり込ませる構造で小悪魔がセッティングされている。殴ってよし、唱えて良しと優秀なステッキであった。
「目があぁぁ!? 目があぁぁ!? ムスカ大佐の気持ちぃぃぃ!?」
「はーい、お疲れー。ばいばーい」
「ちょ、それだけのために私を呼んだのですか!? あの一発のためだけに!?」
「うん」
「キョエエエエエッ!?」
用がなくなったのでステッキを引っ込める。なんだか奇声を上げてるけど無視。
スタンピードの魔物はまだまだ多い。ただ、魔法のステッキ遊びだけではつまらないのだった。アレはいわゆる魔法少女の決め技。最終攻撃である。
次行こう、次。
私は三輪車をこぎ出そうとした――が。
凍り付いた地面にあまりに太いトルクが加わり前輪が空転し、バランスを崩した。
「ふにゃああああっ!?」
すってん、と三輪車ごと転ぶ。アイタタ。
「作るときにトラコンと6軸くらいのIMUも入れとくべきだったにゃー」
『オムツだ。ひよこ柄の可愛いオムツ』
『聞いてはいたけど、幼女使徒さまってオムツつけてるんだ』
「にゃ!?」
ドレスのスカートが盛大に捲れ上がって中身が御開帳になっていた。
『うちの子もさー、ときおり失敗するんだよね。デカい地図をシーツに描いて……』
『うちの子はまだ余裕で毎晩おねしょするぞ。だから寝るときだけオムツ』
「にゃあはお漏らししないもん! これはママがつけておいた方がいいって!」
『おねえさんなんだね』
『うんうん、恥じらいを知るのはおねえさんだからだなー』
「みゅーっ。ホントだもん。ちょっと、一滴二滴くらいだもん!」
『イヤイヤ期に入っても、これはこれで可愛いんだよな……』
『そうそう。子育てって大変だけど、何はともあれわが子は可愛いんだよ』
「もーっ!」
この若いパパさんたち、今、スタンピードの真っ最中ってコト忘れてない?
まあいいや。彼らには2歳とか3歳くらいの子どもがいるのだろうね。
一番可愛くて、一番手のかかる時期だよ。
まるで怪獣みたいに物を壊すし、暴れるし、言うことは聞かないし。
もちろん私は身体はゼロ歳でも、中身は……最近めっきり幼児退行したけど元々は大人……のはずだし……(目そらし)。ともあれ幼女ライフって楽しいのよね。
特殊なお店で、大の大人がお金を積んで幼児プレイする人の気持ちがちょっとわからないでもない……気もしないでもない。大人がやったらただの変態だけど!
気を取り直して、転んだ三輪車も元に戻して乗り直す。
「凍った地面、元に戻れー!」
のんびりしているようで、実は後続するスタンピードの魔物は未だ意気軒高。地響きを立ててどんどんこちらへと向かっている。
私は『泥化→凍化』から通常状態に戻した地面にスコップをさくりと突き刺した。
これを、どうするのかって? どうすると思うー? ヒントは掘り起こしだよ。
「平安京えいりあーん!」
スコップでごっそり地面を掘り起こす。今ので50立方メートルくらい掘れた。
冗談みたいな掘り方だけど魔法と奇蹟の理不尽現象と諦めてほしい。
するとどうだろう。
溢れ来るスタンピードの魔物は、崖から落ちるレミングスのようにわあわあと落下していくのだった。大穴に気づいても背後が詰め詰めである。落ちるしかない。
そして――
掘り上げた土を元に戻すわけで。
「にゃははっ。必殺ロードランナー穴埋め攻撃にゃー!」
『うわぁ、えっぐ! 俺も小さいころ似たようなのやった覚えあるけど!』
『うちの子も穴掘って虫をそこに投げ込んで埋めたりして遊んでたな』
『ってか、ロードランナーってなんだ?』
『いや、わからんが。そういう攻撃方法なのだろう』
「バケツに土をいーっぱい入れてー。詰めて詰めて、それで裏返してー」
ばむっ、と私は土が限界まで詰められたバケツをひっくり返して地面につける。
「木星大王ゴーレム生成にゃーっ!」
古代ヘブライ語でemethと書き込む。
すると、どうだろう。
バケツ部分の土を頭部に、もももっと土ゴーレムが形作られる。デザインは昭和のおもちゃ屋で見かけたブリキ製の四角いロボット。それの土バージョンである。
「焼入れ!」
轟と超高熱。ダンジョンコアの力で半生成しつつ、仕上げにかかる。
全長10メートル。重さ、230トン。セラミック製木星大王ロボの完成である。
「いけー! ゼルダロボ!」
『ロボ?』
『巨大ゴーレム?』
ゼルダって誰やねん。木星大王じゃなかったのかとツッコミ受付中。だって子どもだもの。おもちゃの名前くらい、気分でいくらでも変わるよ!
当のロボは早速口から怪光線を飛ばしてダンジョンスタンピードの魔物を焼き殺していく。おっ、なぜか波動拳みたいなポーズを取った。違う。覇王翔吼拳か。ずどむ、と両腕から放つ。着弾。ちゅどーんと大爆発キノコ雲。……大丈夫かな、あの爆発。核攻撃的な勢いを感じるのだけど。ヌカランチャーでもぶっ放した?
その後は私は三輪車で轢き逃げ攻撃をしつつスコップで魔物たちを叩き潰したり、ジョウロで超高水圧カッター攻撃したりして魔物から迎撃していく。
順調すぎて楽しい。こんなもの、遊んでいるのと何ら変わらない。
が。
「貴様ァ……なぜわがスタンピードの邪魔だてをする……!?」
怒りに震える牛人間がいた。物凄い筋肉質。アレはそう……ミノタウロス?
身長こそ3メートルと小ぶり。もちろん現在18メートルの私と比べてだけど。
鋼鉄の胸当て、鋼鉄の前垂れ。
エンチャント済み巨大バトルハンマー。
「にゃあ。おまえがこのスタンピードのボスか何かかにゃ!?」
「いかにも。俺の解放のためのスタンピードだ。お前ら人間どもをぶっ殺し、女はすべて攫い、一人残らず壊れるまで前も後ろもレイプする。可愛ければ男も喰う」
「変態。……お前、死んじゃえ」
「ガッ、アッ……!?」
私は一瞬だけ嫉妬の権能を使い本気の大人モードになり、神気を使って問答無用でその首を刎ねた。くるくると勢いよくふっ飛んでいくミノタウロスの首。
燃えろ、と意識を集中。消し炭になれ。性犯罪者とか存在自体が不愉快だよ。
私は自称スタンピードのボスたる変態の首を念の力のみで潰して燃やした。
「バッカみたい。お前などダンジョンコアに都合の良いコマの一つに過ぎないわ」
『幼女使徒さまが突然すげえ美人に!?』
『胸部装甲がただごとではない……っ』
『『いや、今のセリフは聞かなかったことに。嫁に殺される……っ』』
何を言ってるんだか……これだから男は。
くるりと背を向ける。直後、大人モードから幼女の姿に戻る。
事情なんて微塵も興味ないが、自称ボスはたしかにボスであったらしい。首魁を失った魔物たちはとたんにうろたえを伝播させて逃げにかかりだした。
ここで逃がすと面倒なので、もう一度魔法幼女ステッキを取り出して
後は、ゼルダロボがどこまでもどこまでも追いかけて魔物を駆逐するだろう。
「お前の敗北原因はただ一つ。カミラを怒らせたからにゃ! ……なーんてね」
私はキコキコと三輪車を漕ぎつつ背中の力翼に浮揚させる。空へと飛んで去った。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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