第147話 総本山アーデルハイドへ
スタンピードが終わり、爆速で街壁の修繕やダンジョン魔物の死体の処理をして。
――その3日後。
私たちは枢機卿ハンスによるスタンピード後の街の様子を報告する建前で、アーデルハイド教皇に面会を求めた。
こう言えば教皇はこちらの意図を汲むはずで――読み通り通信機にて面会予約はすぐに取れ、移動を加味して1週間後に会うことになった。
そして教皇との面会予定前日のこと。
刻限はお昼を過ぎた辺り。私、眠いけど頑張って起きてる!
私たち(私、ママ氏、ハンス)は枢機卿専用馬車に乗り込んでいた。勇者セラフは街の住民を不安がらせないよう、念のため防衛隊長として残ってもらった。
西方商業都市パーセクから総本山アーデルハイドへ馬車で向かう。
ただしサスペンションの概念もない馬車で長距離移動なんてドMも良いところ。私とか振動でゲロを吐いちゃう自信がある。ママ氏も貰いゲロしちゃうかもね。
我が家の飛行馬車があればなぁ、と思う。
なのでダンジョンコアゲートを使って時短移動してしまおう、となった。これならわざわざ早めに出発しなくても楽ちんで、しかも街の復興活動に時間が取れる。ついでに私の教えるお昼ご飯シリーズもバリエーション強化ができて、食べるほうもニコニコ、作る料理人たちもレシピが増えてニコニコの
ちなみに今まで出したお昼ご飯は以下の通り。
一日目。ベーグルサンドイッチ(ハム玉子)+肉団子スープ。
二日目。メガ盛り牛丼&紅生姜+玉吸い(和風卵スープ)。
三日目。具沢山あんかけ焼きそば+鶏ガラスープ。
四日目。カレーライス+トンカツ。
五日目。ピッツァ(アメリカン風。直径40センチ)+コーンスープ。
六日目。メガ盛り炒飯+鶏のから揚げ+わかめスープ。
七日目。絶賛リクエストでカレーライス+トンカツ再び。
八日目。サンドイッチ(白身魚のフライとタルタルソース)+デカプリン。
九日目。昔話盛り白ご飯、デカギョウザ7個、中華風卵スープ。
お昼ごはんなのであまり凝ったものは出さない。でもすべてウケが良かった。毎回完食されて、フードロスが驚異のゼロだったのが何よりの証拠だった。
さて、さて。
ダンジョンコアを使ったワープ移動を敢行し、私たちを乗せた馬車集団は総本山アーデルハイド近郊の森林地帯の端っこにこっそりとゲートアウトする。
そこから先は何食わぬ顔で護衛のハンス直属騎乗聖堂騎士たちに囲まれて、ガタガタパカパカと移動する。まあ、数時間くらいなら私も(ゲロを)我慢できるかな……。
「……ハンス、念のためおさらいにゃ」
「はい」
「教皇の本当の目的は、勇者召喚による魔国への侵略ではないにゃ」
「はい」
「教皇は自らが信仰を寄せる光の神さまが、実はそれは一側面であって、闇の神さまでもあることを知っている。人類でこれを知るのは極端に少ない」
「性質が相反するゆえに人類社会でこれを唱えるのは異端扱いされかねません」
「ハンスはこの事実を、人類の一人としてどう受け止めるにゃ?」
「事実は事実です。神は常に正しく、偉大です。ワシの信仰に揺らぎはありません」
――さすがこれと見染めただけあります。
「みゅー。ハンスの考えには神さまも御満悦みたいにゃ。よかったね」
「こ、これは畏れ多くも……」
「話を戻すにゅ。……一方、魔族にとっては光の神と闇の神が同一存在なのは当たり前のことと認知していて、取り立てて口に出すことはないにゃ」
「人類は、特に神聖アーデルハイド教国としては魔族とのかかわりを忌みます」
「ハンスは初めからにゃあたちと普通に話をしたりご飯を食べたりしてるよね」
「すべては神の思し召しです。二度の『勇者召喚』を命じられたあのときから超然とした力に導かれているのを感じています。それだけで十分納得できます」
「迷いのないのはいいことにゃ」
「ありがとうございます、使徒さま」
「それじゃ本題。教皇は『勇者召喚』と『スレイミーザ帝国への侵攻』はただの口実に過ぎない。にゃあたちのマッチポンプも『想定済み』だよ。なんせ神さまが教皇にプロデュースしているからね。要するにここまで全部出来レースにゃ」
「はい……」
「教皇は、待っている。ハンス、お前がやってくるのをねー」
「神の御指示により『二度勇者召喚を行なった』からですね? 二度目の召喚は『聖女と使徒』が降臨なされた。この情報は既に聖下の元に届けられていると」
「そにょ通り。そして上手くいけば――神さまプロデュースだから上手くいくのは当然だと思うけど彼の『恋物語』を完結し、お前は次の教皇に優先指名されるの」
「死霊公爵との恋。聖下の幼き頃からの恋の成就のため自分の想いを曲げず、頑張ってきた。教皇になってからは『光神と闇神が同一』であると知り、しかして人類側の政治状況が足を引っ張ってしまい身動きを取りかねて老齢にと至る……」
「神さまの思惑以前に、なんというか叶えてあげたい気持ちになるでしょー?」
「そうですね。この回りくどさが、現在の人類側の世相を表しています。聖下にはどうにか想いを遂げていただきたく……ですが、死霊公爵に殺されねばならないのがいささか納得できかねるものです。別に死ななくともよいのでは……?」
「約束の中身までははっきり分かんないけど、たぶん婿入りの儀式の一種にゃ」
「婿入り!?」
「生者と死者が婚姻関係になるのは、その後のハードルが物凄く高いにゃー」
「ま、まあ……そうでありますな。寿命が有限の生者と実質無限の死者とでは……」
「ママもパパと一緒になるためにビカムアンデッドしたのよね?」
「そうね。神さまに『
「この儀式の利点は、自分の外見を好きに選べるところ。大抵は若い姿になるの」
「失礼ながら聖女どのも……?」
「……私は実年齢に合わないロリっ子だったので、逆にちょっとだけ歳を足したわ」
「な、なるほど」
「ママはとっても美人でとっても可愛いにゃ。にゃあの自慢のママだもん」
「うふふ、カミラもとっても可愛いわよ」
「にゃふふー♪」
そうこうしているうちに街道を抜け、よく整備された大路に出てこれた。
「にゃー。思ったより人の往来が多い!」
カーテンを手で軽く押しのけて、窓の外をちらりと見る。ホントは顔を窓に押し付けて見たいトコロだけど、幼女であっても貴族なのでそれは出来ない。
「こういうときだからこそ、でしょう。人は弱い。だからこそ、逆境に立つほどに神にお縋りする。信仰心を発揮するわけですよ」
「なるほにょ! 強いね!」
国の各地でスタンピードが起きているにも関わらず、総本山大路の馬車と人と物の行き来が想像以上に激しい。むしろ混雑気味だ。
情報が伝わっていないわけではない。
ハンスの言う通り、非常時だからこそ信仰心が試される考えに至る説はとても納得がいく。こういう人間は火炙りにしても信仰を捨てない。これは強い。
あと商人と思しき馬車も多い。こういうときだからこそ商機とでも思ってそうだ。強かである。こういう人間は最終戦争が起きても死の間際まで商売するだろう。
「にゃー。まあ総本山アーデルハイドにはスタンピードは起きないからねー」
「そういえばこの辺りにはダンジョンはないのでしょうか? スタンピードの予定がない以前に、そもそもダンジョンの話を聞いた覚えがないのですよ……」
「んー? 総本山のド真ん中に地下2800階層の
「……総本山に巨大ダンジョンが!?」
「とても古い……何世代か前の文明期のものだねー。今はほら、第12文明期『ドラゴニックオーラ』でしょ? その1個前が第11文明期『エターナルエコーズ』。……それよりもずっとずっと前の文明期。ダンジョン内部の魔物も凄いのがいるよ」
「し、知らないほうが良かったです……」
「にゃー。封印は強固だからまだ10万年くらいはダイジョーブ博士なの。むしろそのダンジョンのおかげで龍脈が整って土地がイイ感じに豊かなの」
「ナニ博士か存じませんが余計に不安になるのはなぜでしょうか……。い、いざというときは解決のため使徒さまをお呼びしてもよろしいですか?」
「にゃあにそのダンジョンくれるの? くれるのなら貰うよー」
「あげます、あげます。なので使徒さまにおかれましては管理していただければ」
「ふみゅー。オッケーにゃー」
うふふ、この発言、分かる? 単純にダンジョンの話をしているのではないの。
ハンスったら、教皇になる決意を示してくれているのだよねー。
私はニコニコとハンスへ微笑みかける。そしてサムズアップ。ハンスは照れ隠しに後頭部を掻きつつも小さい声で『はい、覚悟を決めました』と頷いた。
パカパカガタガタと馬車は行く。
たっぷりのクッションの上でも振動はガンガン伝わってくる。
やがて。
冒険者都市ルーメン並みに高く分厚く、それでいて威圧感を与えない曲線の多い落ち着いたデザインの周壁が見えてきた。奥には巨大な塔のような聖堂が見える。
あれが、神聖アーデルハイド教国、総本山アーデルハイドかな?
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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