第146話 スタンピード防衛戦後処理にサンドイッチ

 マッチポンプダンジョンスタンピードは無事終了した。やったねタエチャン。

 最終的な死傷者も極めて少なかった。これまたやったねタエチャン。


 (おいバカやめろ)


 ……というのもママ氏のバフで自動修復(回復ではなく奇蹟による)するものだから怪我してもすぐに治るし、絶命してもすぐに生き返るためだった。


 そもそもゲームでもないのにゾンビアタックする人なんていないからね。

 死んでそして生き返るというのは、当人として結構ショッキングな出来事なのだ。


 その後は突貫工事で街を守る周壁を修繕したり、倒した魔物の処理に追われた。


 遠足は家に帰るまでが遠足。学校の校長先生もおっしゃっておられる。

 ならば後片付けまで終わらせるのが、マッチポンプスタンピード作戦であった。


 もちろん私もママ氏も後片付けを手伝うのだった。ママ氏は勇者セラフと戦後処理陣頭指揮やバフで作業補助など。私は防衛隊に食べさせる食事作りの指導など。


 何が大変って、ダンジョン産魔物の死体問題が凄いことになっているのだ。


 総数100万体だからねー。


 ダンジョン産魔物は、ダンジョンで倒せばドロップ品を残して消滅するようにできている。これはダンジョンがリサイクルのために吸収しているためだった。


 が、スタンピードが起きれば話は別。

 ダンジョン産魔物は、ダンジョンコアからの束縛から解放されてしまう。


 つまりどういうことかというと。


 倒してもドロップ品があればそれを残して自動消滅なんてことは起きず、魔物の死体は野ざらしのままになる。これを放置するとめっぽうマズい事態になるわけで。


 端的には死体は汚染や疫病の原因になりかねない。魔物によっては呪いもセット。


 吸血鬼アンデッドの私が言うのもアレだけど、ダンマスなので大目に見てね。


 まあ、私の権能『暴食』を使えば大量の死体問題は秒で解決するのだけど……せっかく勇者と聖女がいるのにその活躍の場を奪ってしまってはよろしくない。


 いずれにせよママ氏がいればどうとでもしてくれるよ。なんだったら空間を操って時空の果てにポイッと捨てちゃうくらいの荒業だってできるはずだし。


 というわけで私は裏方に徹し、防衛隊の食事の手伝いに邁進することに。


 不味い食事は軍の士気にモロに影響を与える。もちろん戦時食が悪いというわけではない。ただ自分たちだけが普段の美味しい食事を摂るのはどうかと思うわけで。


 ノブリス・オブリージュである。

 高貴なる者は、民草の見本となるべき規範を常に意識せねばならない。


 私だって幼女なりにシメるときはシメるのである。えっへん。


 折良くも。


 パーセクの街は商業都市だった。商人の街。つまり流通物が多種多様にある。


 早朝。本来なら眠っているはずの時間。

 私は白のドレス――ではなく白のコック服と頭にコック帽に着替えて。


 ちなみに私はママの祈りの奇蹟の力で姿がほんの少し違う印象で見えるようにしてもらった。具体的には髪を白髪に、瞳を青色に、吸血鬼のシンボルの犬歯は人間と同じ形にと。ついでに立場は聖女の娘ということに。まあこれはホントのことだけどなんであれママ氏の娘に違いはない。


 ハンス枢機卿経由で金に物を言わせて小麦と肉と玉子、野菜類を相場よりも若干高めの価格で大量購入し、街の料理人たちを呼び寄せて戦後主計班を臨時編成する。


 次いで想像魔法『EL・DO・RA・DO』でドライイーストを強引に作って……もうおわかりだと思うけど、柔らかいパンを大量生産させるのだった。


 この世界のゴハンってさ、どうにもイマイチなのよ。パンは薄くて硬いし。なんで無酵母パンなのよ。保存は利いても美味しくないのはいただけないよ。


 前々から疑問になっていた話。


 当然いるはずの他の異世界転生者たちは、どうして食事の知識チートを使わないのだろうね? よくあるパターンで、マヨネーズとかプリンとか作るでしょ?


 もしかして、皆、メシマズさん? 食べるの専門とか、あるいは味覚が壊れてる?


 ……まあいいけどね。



「と言うわけで、練って叩いて転がして茹でての美味しいパンを大量生産にゃ! 寝かしを忘れちゃダメよ。発酵熟成が魅惑のふわふわパンを作るのにゃーっ!!」


「「「「「「はいっス!」」」」」」


「今回はにゃあのイーストを使うけど、他の方法もあるから後で教えてあげるの!」


「「「「「「ヒャッハー!」」」」」」


「教えたレシピ通りに作るのに慣れたらアレンジしてみるといいにゃ! パンの道はふところ深くそして奥深い。美味しいパン作りを皆でもり立てるにゃー!」


「「「「「「「うおぉおー!」」」」」」」


「食品は、1に清潔2に清潔、3、4も清潔、5に清潔! 皆で防ごう食中毒!」


「「「「「「防ごう食中毒!」」」」」」



 作るのはリッチベーグルを予定している。ドーナツみたいな形をしたアレである。


 ただ、リッチベーグルというが正式名なのかどうかは私は知らない。

 というのもベーグルは本来小麦粉と塩と水だけで作るハード系のパンの一種で、対するリッチベーグルは牛乳と卵とバターも加えて作る発展形の一品なのだった。


 外は若干ハードさを残すが、中身は本家ベーグルよりも濃厚なもちもちふわふわ。


 生前、近所のパン屋でそういう本来からかけ離れたふわふわベーグルを売り出していた記憶がうっすらと浮かんできたので、作ることにしたのだった。

 これを横に切り分けてからしマヨネーズを塗り、コショウを振り掛けた薄切りハムやベーコン、カット茹で玉子、レタスやトメィトゥを挟んでサンドイッチにする。


 大きく口を開いてかぶりつく喜びはこれまたひとしおなのだった。


 にゃー。眠い以上に、話をするだけでおなかがすいてきたー。


 手分けして大量の生地を捏ねてベンチタイム後に成形、発酵させて、茹(ケトリング)でて、大窯で焼き上げて、ちょっと冷ましてからサンドイッチに加工する。


 ベーグルの切断面にどんどんからしマヨを塗って、各種食材を挟む。


 料理人たちは教えたことをぐんぐん吸収して手際が目に見えて良くなっていく。こんなに腕のいい職人たちがいるのになんで食事は不味いのか。

 特にマヨネーズの作成は油と卵を酢によって電荷を帯びさせる乳化のに体力と根気が鬼ほど必要なのに、彼らときたら物凄い勢いでマヨを作り上げていた。


 やはりレシピ的な問題? じゃあ今回を通してふわふわパンが広まると良いね。


 そんなこんなでお昼前には食事の用意が大体整った。


 私はこのまま寝る。後は給仕たちに任せる。幼女はもう眠くてしょうがない。


 一応、メニューとして。


 リッチベーグルのハム玉子サンドイッチ。一人につき1個、おかわりも可。

 肉団子のスープ。想像魔法で鶏ガラ出汁の素を作り、これをベースにした一品。

 エール。上面発酵で醸造した麦酒。地域によってはこれが飲み水替わり。

 なお、酒を飲まない人用にワイン風ぶどうジュースも用意している。


 少ないようで、お昼ごはんとしてはこれで十分だった。


 ベーグル自体がかなり大振りで250グラムある。単体カロリー計算で700kcal。

 これに具材の玉子&ハム、レタス&トメィトゥ、マヨが加わって計1000kcal。

 一つでも十分カロリー的には賄える。味も料理人たち全員が試食済みで、会心の反応だった。こいつは美味い! だってさ。やったねタエチャン(おいバカやめろ)。

 が、力仕事を考慮してカロリーとタンパク質のために肉団子スープをつけている。

 あとはエールでも、ワイン風ぶどうジュースでも、好きに飲んだらOK。

 それでも足りないという大喰らいさんには、サンドイッチのおかわりも可とする。


 にゃふぅ。もう、ねむねむだにょ……。



「お勤め、おつかれさまでございます。お嬢さま」

「みゅー」

「くんかくんか。ねむねむ幼女のがたまりませぬ、ハァハァ」

「にゃー。着替えて棺に寝かせてくれるまで好きに嗅いでいいにょ……」

これがパラダイスみたいな世界でありますかあなたが神か!!」

「くかー、すぴー(寝た)」



 棺の中は最後の私の領地だとつくづく思う。実家に帰ってきたような安心感。

 寝ている間はセラーナたちが完全警護してくれる。ママ氏もいるし、熟睡できる。


 それじゃあ、おやすみぃ。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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