第101話 異世界難民サキュバス 前編

 ゲームではいくらでも現れる高経験値ゲットの敵モンスターとして。


 現実では、今にも死にそうな、ズタボロサのキュバスたち……。



「こ、これは……お姉さま、どういうことでしょうか?」


「つまり異世界クリーチャーなのでレアモンスター扱いで経験値が高かったってコトかしら。ゲーム中、素早くて回避力が高かったのは回避に全振りしていたため。彼女らは戦いではなく現地民に受け入れてもらいたかった。逃げないのも逃げる先もわからないのに逃げられないのと、同胞を見捨てられなかったからと見る……」


「あう……」


「ゲームでは経験値のために散々倒しまくったわ。でも現実は甘くなかった」


「……」


「検疫を行ないましょう。冒険者ジョニーにならないためにも。アリサはここにいて。私は吸血鬼だから毒も病気も無縁だけど、あなたはヒューマン族だから」


「はい……」



 冒険者ジョニーとは、この世界における寓話の一つだった。


 ここからは少し科学的な話を。


 人族は体内外に約100兆もの細菌を飼っている。

 人体を構成する細胞は37兆個である。


 お分かりになられるだろうか。


 菌の数と種類だけ、病気も存在しうると考えるべきだと。

 後、ウイルスの存在も忘れてはならない。


 それでなおヒトが平気でいられるのは、無数の病原抗体を持っているためだ。



『……ジョニーは長い冒険の末、世界の最果ての街にたどり着いた。そこの住人は彼を旅人として歓迎した。が、数日後、ジョニーは謎の病気で亡くなった。と同時に最果ての街の住人も謎の病気で次々倒れていった。ジョニーは土地の風土病にやられたが、街の住人はジョニーが持ち込んだ数々の病気に罹患してしまったのだった』



 前世世界で言えば、大航海時代、白人略奪者たちは他の大陸の人々に対して酷いことをしまくった。あいつらは犬畜生にも劣る人の姿をした外道だった。


 というのも彼らがやらかした所業の一つに、天然痘患者が使っていた毛布を現地民に贈るというものがあった。最悪である。細菌兵器使用である。


 天然痘はあっという間に広がり、その国の人達を殺して回った。なぜならその病気はまだ彼の国にはなかったから。当然、抗体を持つ者もいなかった。



「では、魔眼併用で想像魔法を使うわね」


『不思議な第三惑星』



 鑑定をかける。


 ……ふむ。なるほど。


 彼女らは私たち吸血鬼に似てサキュバス=魔力の構造体だった。吸血鬼は地霊の一種であり星の精でもあるが、彼女らは人の想念に棲み着く夢魔の一種であった。



「基本生態は魔帝スレイミーザ三世陛下とほぼ同じ、と見ていいかしらね……」



 食事は吸血鬼は血食がメインだが、彼女らサキュバスは肉体的には『人の唾液や精液や愛液』を、精神的には『淫夢や悪夢』が食事の中核を担っている。


 たしかゲームの設定資料では、隣国の魔族ラピス王国でのサキュバスはセックス産業企業体をこしらえて人族の精を吸いまくり、性犯罪を抑制しているとかなんとか。


 彼女らは人族あっての存在なので人族をとても大切にするという。なお、彼女らは食事として得た精では妊娠しない。人間だって食事では妊娠しないでしょう?



「ふむ。たぶんどの世界のサキュバスも同じようなものと見ていいわね。要するに人間みたいに細菌兵器たり得ない、と。なにせ身体は魔力で構成されているから」



 私は、足取りの重いボロボロのサキュバス集団の前に躍り出る。



「そこで止まりなさい、異世界のサキュバスたち。代表者はこちらに来るように」


「あ、あなたは……? どうしてわたしたちの言葉を……?」


「そういう権能の一種よ。わたしはどの世界の、どんな種族とも話せるの」


「……わたしがこの度の異世界移民代表者、サロメ・セレナーデです」


「私はトリュファイナ・エニグマ。エニグマ侯爵家の実質上の当主よ」


「……エニグマの御当主様、どうかわたしたちの移民入植をお許しください」


「それね。許可してあげたいのだけど、サキュバスは人間にとって刺激がありすぎるのよね。痩せても枯れてもあなたたちは魅力的だから。そりゃあセックス産業を牛耳るわよ。隣の国は魔族の国なのでそっちへ行ったほうがいいかもしれない」


「で、ですがわたしたちはもう……」


「ガッカリしないで。ちょうど私の眷属にその魔族王国の王子がいるから、移民の取り次ぎは容易だと思っていい。でもその前に何か食べないとマズイわね」


「ママ、ひもじいよお……」

「ゴメンね、リリィ。もう少し、もう少しだけ待ってね……」



 数いるサキュバスの、母子の会話が漏れ聞こえてくる。



「……そんな小さな女の子まで飢えるとか、どんな世界から来たのやら」


「主さま、パンツを脱ぎましょうか」



 呼んでもないのに一歩遅れてやってきたリキが、澄ました顔で提案してくる。



「脱がなくていいから。さっきイッたっぽいから精はこびりついているかもだけど」


「ああ……脱ぎたい。全裸になりたい。シバ犬みたいに尻を視姦されたい……っ」


「って、ただ脱ぎたいだけ? 確かにシバ犬はお尻の穴を丸出しにしてるけど! こら、言う端からパンツ脱ぐな! なんで嬉しそうにモジモジしてるの!?」



 注釈。シバ犬とはこの世界におけるスタンダードな犬種。前世世界の柴犬によく似ている。小型だが勇敢で賢い。くるっと上向きに巻いた尻尾がチャーミング。



「すみません、そのパンツ、頂けないでしょうか。この子、もう昨日から何も……」


「落ち着きなさい。あなた方が魔力で構成された夢魔の一種族であるのはわかっているから、魔力供給してやればとりあえずは飢えからは開放されるでしょう」


「パンツ脱いじゃいました。おお……下半身の身軽さが堪らない……っ。女性の視線を集めて私のムスコも大興奮。これはエレクトせざるをウボァッ!?」


「どアホぅ!!」


「ああ……ごはんが飛んでいく……」



 私はリキの頭をはたいた。

 下半身丸出しで後方へすっとんでいく変態に私はため息をつく。




 【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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