第87話 エニグマ侯爵家制圧後

 暴食の権能を使う。権能とは神の御業の一つである。なので抵抗は無意味。


 しかも暴食は血をすすりエナジードレインするだけでなく、同時に眷属化の因子『私の血』を植え付けることにも使えた。喰らうばかりが能ではないのだ。


 使用人たちの引きつる顔。しかしもう逃げられない。もう手遅れ。


 総勢50人ほど。暴食の権能で血とレベルとその上限を吸い上げ、代わりに私の血を埋め込んで眷属化させる。全体のレベル平均は30。思っていたより低い。



「たった1500。4015万、飛んで1500レベル。腹の足しにもならないわね……」



 私の大人バージョンとの適合化は既に完了しているため、ここから先は単純加算方式となる。聖女と魔女の因子を内包できた怪物級の彼女の身体なら、この10倍くらいのレベルは余裕で耐えられると見ている。そう、数億レベルは行けるはず。


 トリュファイナ・エニグマ。ゲームでは、トリュファイナ・アーカム。


 彼女は人でありながらその器は神そのものだった。いわば自分の正体に気づいていない現人神である。ゲーム的に考えればそれくらい強烈なキャラとも言えるが。


 そんな彼女の下腹から聖女因子を抜き取り、人工的な聖女となった(最初はこの事実は伏せられている)のがゲーム内主人公(名前はプレイヤー次第)であった。



「……あら、これはうっかりしていたかも」



 侯爵家に仕える使用人たちを全員眷属化してからはたと気がついた。

 レッサーバンパイアは基本的に『ヰーッ』としか言わない。



「来客応対に困るわね。……執事長バトラーとハウスキーパーは前へ。お前たちは準男爵級吸血鬼変更する。それと各部署の統括長も前へ。お前たちは従士級吸血鬼に変更」



 仕方がないので血を足してランクアップさせる。



「いいこと? 人間社会とは別に吸血鬼には吸血鬼の絶対的な階位があるわ。階位の高さは同時に強さでもある。気張りなさい。わたしはいつもお前たちを見ている」



 私はフードのレッサーバンパイアたちを見やる。この世界での最初の奴隷。忠実な戦闘員の皆さん。彼らは直立不動で私の命を今か今かと待っている。



「それで、一生懸命な子には階位を上げてあげる。こんなふうにね」



 私はパチンとフィンガースナップする。   

 指先から微量の血が迸る。彼らに付着、浸透する。すると、どうなるか。



「まあ、屋敷の運営のために執事長たちを格上げしたのを見ているのだけれどね」



 フードのレッサーバンパイアたちを、私は騎士級吸血鬼に格上げする。


 これで基本レベルは700程となる――ただしこの強さは『私』が彼らを眷属化したら、という特殊な条件を踏まえてのモノなので注意が必要。

 普通はいきなりその階位でのほぼカンストレベルになどにはならない。ちなみに私のレッサーバンパイアの基本レベルは65で、カンストは70となる。



『ヰーッ!(ありがとうございますっ!)』



 騎士級吸血鬼に格上げしたのに、なぜか戦闘員の皆さんの言動のままでしかもハイルなポーズを取る彼ら。もしかしてその行動、気に入った? まあいいけど。



「さて、こんなものかしら。後は『太陽と仲良くする魔法』の上位互換の……んー、よし出来た。想像魔法『真昼の良月』をかけてあげる。効果はディウォーカー。日中でも野外で安全に活動できるわ。バフの効果期間は一年間。もし何らかの事情でバフ破棄とかされたら館に戻り、地下で待機。気が向いたときにかけ直すわ」



 私は下僕たちに想像魔法『真昼の月』をかける。

 そして、執事長バトラーとハウスキーパーだけ残して吸血鬼使用人たちを仕事につかせる。


 時刻は夜の9時半。正規の吸血鬼の活動時間は夜。何も、問題ない。



執事長バトラー。血の入手はこれまでどこで取引きを?」

「はい、魔塔のワンクッションを経て売血の項目で入手しています」


「では、これからは私の作る血液製造マシンから糧を得るように。ちょうどお前たちを吸血鬼化させたとき、ついでに血を作る元となる骨髄も手に入れておいたから」


「はい、ご随意に」

「よろしい」


「次、ハウスキーパー」

「はい」


「彼らの寝床はこれからはベッドから棺に変更します。貴族級になれば、地元であればベッド就寝でも別に構わないのですが非貴族級吸血鬼はそうも行きません」


「はい、ではそのように変更を」


「地元外の使用人もいるだろうけれど、この場で吸血鬼になったものは一律この地が産土の地となります。なので構わずこの地の資材を使った棺を使いなさい」


「はい、おっしゃるとおりに」



 言いながら、私は使用人たちの骨髄を核とした血液製造マシンを『El・DO・RA・DO』で組み上げる。フレーバーは二種類。童貞骨髄の血、処女骨髄の血、以上。



執事長バトラー、これを調理室に運んでおいて。さっき言ってた血液製造機よ。童貞と処女の二種類の血が選べる。動力は魔石式。メンテナンスは自動。これだけを血食してもいいし、人間みたいに食事を摂りつつぶどう酒割りで呑むのもいい」


「はい、我々の糧の元となるものを与えてくださり感謝します」

「うん。では下がりなさい」



 私は執事長バトラーとハウスキーパーを下がらせた。残るは侯爵と10人の騎士たち。



「あなたの寄子の、なんて言ったかしら、元子爵令嬢のあの子。人工聖女候補の」

「アリサ・スチュワートでございます」


「ああ、その子ね。早速、明日にでも聖女因子を埋め込みましょう。私は表に出ないつもりだから、侯爵、あなたが儀式を執り行ない、キッチリ完遂するように」


「……よろしいのですか?」


「彼女にはビーストと精々戦ってもらいましょう。元々、没落した子爵家を再興するという条件で釣ったはず。つまりは金で釣った。ならばそのようにしなさい」


「はい……そのつもりでしたが……」


「寄親として適切にバックアップしてやりなさい。寄子の没落は寄親の恥。まあ、スチュワート子爵家の没落はユグドラシルの反乱のせいなんだけど。……ああ、彼女の言動行動はすべて私に報告するように。危惧すべき内容が一つだけあるのよ」


「よろしければ、その危惧の内容をお教えくださいませんか」


「……彼女が異世界転生者である可能性よ」

「異世界転生……ですか?」


「色狂いが転生してきて、世界をそっちのけでえっち三昧されては困るでしょ。もちろん、ちゃんと戦うのならドスケベ淫乱ピンク髪少女でも構わないけど」

「た、確かに……」


「場合によっては処分対象とします。眷属化もしない。……殺します」

「はい、ご主人様のおっしゃるままに」



 何せ、元が女性向け成人指定ゲームだからね。あり得ないわけでもない。


 もう一つ危惧する内容として、チート持ちである可能性。私の予想では、課金アイテムを何らかの代償で手に入れられる異能が付与されていると見ているが……。


 ユグドラシルギルティは、買い切り型ゲームではあれど、ハードモードの骨太さから課金アイテムをオンラインで購入してプレイできるようにもなっていた。


 まあ何と言うか、商売上手というか。

 製作サイドの建前上は救済用のシステマイズとのこと。ホントかなー?


 wikiを読んで対策を立て、ある程度の運があり、かつ知能が高ければ無課金でもクリアはできる。が、そんなまどろっこしいことやってられない人は課金する。


 よく使う代表的な課金アイテムは三つ。


 稼いだ経験値を保持したまま、死亡者も復活して撤退できる『時逆の砂時計』。


 10CTチャージタイムの間、フィールドすべての敵の時を止める『神のストップウォッチ』。


 死亡時には即甦れる上に3CTの間は無敵となる神の秘薬『エリクシール』。



 これらがあるとないでは難易度が天と地くらい違ってくる。あとはその戦闘中のイケメンからの好感度上昇が3倍になる『魅惑の香水』あたりが使われるか。


 ゲームではタクティクス中に攻略対象のイケメンと隣接して攻撃するとコンボ攻撃が発生し――また、それに伴い好感度も上昇するシステムとなっている。


 ダメージ上昇に加えて、アドベンチャーパートで上げられなかったイケメンの好感度上昇にも役立つ。それを無課金でやると、まるで詰将棋のようになるわけで。



「何にせよ、すべては明日からね。侯爵、わたしはもう寝る。寝室はどこ? 棺は自前で用意するから要らない。何ならあなたの分も作ってあげてもいいわよ?」


「ご主人様に棺を作っていただけるとは万感の極みです。ワタクシ、今日死ぬのではないでしょうか……死んでました。寝室はワタクシの部屋をご利用くださいませ」


「わかったわ。じゃあ、これがあなたの棺ね。わたしたち吸血鬼の最後の領土よ」


「はい、ありがとうございます」


「さて、寝るわ」


「おやすみなさいませ、ご主人様」



 私は明日に向けて侯爵の寝室に引っ込んだ。まずは『STAINLESS (K)NIGHT』で護衛騎士を五体作る。各レベル250万という下位の魔神クラスである。


 そうしてから人間だった頃の名残のように設置された天蓋付きベッドに、想像魔法で作った私の棺をセットする。天板を開け、潜り込む。ああ、この瞬間こそ至福。


 内部はシルク素材を惜しみなく使った、ふわふわ女の子テイストで気持ちいい。



「……主人公がマトモな性格であることを切に願うわ。最悪、イケメン大好きピンク髪の淫乱でもいいからビーストと戦う意志だけは持っていて欲しい……」



 一人、呟く。なんなら私も身体を使ってキモチよくしてあげてもいい。


 その数秒後、私は深い眠りに落ちた。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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