第88話 聖女は戦わない
次の日のこと。
……当初は会わないと決めていた『ユグドラシルギルティ・ゲーム主人公』アリサ・スチュワートと、私は直接面談する羽目になってしまった。
というのも、エニグマ侯爵曰く。
「彼女はご主人様の予想の通りでした。異世界転生者だそうです。ただ……その、ワタクシと会うその前日に転んで頭を打った拍子に思い出したとのことで」
なるほど、女性向け異世界恋愛漫画や小説に良くあるパティーンらしい。
異世界に転生したことを忘れてその世界の一人物として生活していたら、ある日突然――転んだ拍子などで前世の記憶を思い出すとか、そういうサムシングの。
「この世界での使命を果たすのは怖くてとても出来ない、とのことで」
「つまり聖女の因子を受け入れるつもりはないと?」
「受け入れる以前に現実はハードモードと同じで、あのゲームのハードモードなどとてもじゃないけど関わるなんて無理と訳の分からぬ泣き言を申しまして」
「うーん……困ったわね。最悪、淫ピでも戦い抜く気概さえあれば良いと思っていたのだけど。それが戦いを怖がる普通の女性が聖女候補とは」
「いかがいたしましょうか?」
「仕方ありません。わたしが彼女と直接話をしてみましょう」
「はい。ご主人様にはお手数をおかけいたします」
……そういうことになってしまったわけで。
原作を知るのにエニグマ侯爵家でゲーム主人公と、しかも転生者と会うだなんて大丈夫かしら。妙ちくりんなパラドックスに飲み込まれたりしたら嫌だなぁ……。
私は貴族の強権を発動させ、馬車で出迎え態勢を作って強制的にアリサ・スチュワート現平民没落子爵令嬢を呼び付ける。なお、別に取って喰うつもりはない。
呼んだ彼女を応接室に通して、しばし様子を見る。
ふむ。
予めコウモリを一匹身体から分離して部屋に仕込んでおいたのだけどさ……。
緊張しまくって出された御菓子や紅茶にすら手を付けず、カチコチになったままソファーに座す10~12歳くらいの少女がいた。ロングピンク髪の可愛い女の子。
……おかしいわね。明らかに、おかしい。
ゲームでは主人公はエロゲーの名目上とはいえ18歳以上で、しかもそれなりに大人の姿をしていた。少なくとも16~18歳くらいの背格好だったと記憶している。
「侯爵。アリサ・スチュワートに妹との替え玉の可能性はありますか?」
「はい、いいえ。スチュワート元子爵家の令嬢はあの娘だけです。年の離れた幼い弟はいますが、姉や妹はいません。ご覧のナリですが、一応は
「……どう見ても生まれたての小鹿みたいに震える、ただの小学生女児なのだけど」
「小学生とはいかなる立場なのかわかりませんが、おっしゃる感じなのでしょう」
ふむ。わからないことばかりだわ。
私は侯爵を部屋に置いたまま応接室へと足を運ぶ。
慌ててついてくる侯爵。あと、騎士級に格上げされた元フードのレッサーバンパイアたち。おまけに現レッサーバンパイアのメイドたちも数名。
時刻は午前10時半。
外は陽光に照らされて、気持ち悪い世界がドロドロと広がっている。
おわかりのようにこの世界でも私は吸血鬼であり、太陽に背を向けた存在である。
レッサーバンパイアのメイドが私の代わりに応接室のドアにノックをする。
扉を開けて一礼。『ヰーッ』とハイルな敬礼をする。
なんだろうね、流行っているのかしら。どこのショッカー戦闘員なのかと。
とりあえず私は入室する。小学生高学年女児みたいなアリサと目が合う。
「ト、トリュファイナ・アーカム……? アーカム魔族公爵令嬢がなぜここに?」
「残念ながらわたしは魔族公爵の養女になっていない。エニグマ侯爵家のままよ」
すたすたと歩みを止めず、向かいのソファーに腰を掛ける。背後にはエニグマ侯爵と10名の騎士たち。私を護るように立つ。たぶんかなり威圧的。
「で、でも、聖女の因子を抜き取られて荒野に捨てられる……はず。ああっ、すみませんっ。その、これはなんと言いますか、私の妄想みたいなものかもなのでっ」
「アリサ」
「は、はいっ」
「単刀直入に行くわ。わたしもあなたと同じ転生者なの」
「えぇ……!?」
「厳密には別の世界に転生したのだけどわが身には試練が常に付きまとい、その時々で誰かに憑依したり世界を跨いだりしている。今回はこの世界へと転移したわけ」
「そ、それでも、この世界については知っていると……?」
「そうね。わたしもここがあの世界に似た世界であると認識しているわ。あなたは聖女の因子を埋め込まれて人工的な聖女となり、わたしは荒野に捨てられアーカム魔族公爵の元、孤高の魔女としてあなたのライバルとなるはずの世界……だった」
「それが、どうしてこのように……?」
「私が太祖の(と表現して遜色のない)吸血鬼だからよ。真祖の父と元祖の母の、愛の結晶体。それがわたし。この世界の聖女にして魔女のトリュファイナには憑依しているだけ。と言っても後々『わたし』がいなくなって残された吸血鬼たちが路頭に迷わないよう、『彼女』には王級吸血鬼化させておこうとは思っているけれど」
「わ、私の血、吸っちゃいます……?」
「吸わないわ。どうしてもって言うなら眷属にしてあげるけど」
「え、えっと。咬まれるのは怖いので、やめておきます……ゴメンナサイ」
「そう。それもいいわ。ただの人間でいられる喜びを満喫するのもまた一興」
「できれば聖女の因子を埋め込むのもナシの方向で……」
「どうして? 戦えるでしょ? チートは? どうせショップ能力じゃないの?」
「あうう……その通りなんですけどぉ。結構な金額が入金されていて、頑張ればなんとかイケるかもなんですけどぉ。怖いです。私、一度もそんな戦うとか……」
「ふむ。ならその一度を経験すれば、根性も座るのかしら?」
「えぇ……うわぁぁぁーっ!?」
私は瞬時に小学生女児みたいなアリサをお姫様抱っこにする。
窓をバンと開け、そこから魔力噴射で飛翔。空を翔ける。
城塞都市の城壁を空高く超えて、いざ、荒野へ。
ちょっと荒療治になるけど仕方ない。
荒野に連れて行って、二人で一緒にその辺のビーストを倒してみよう。
と、思っていた時期もありました。
「あ、あー」
「……やってくれたわね」
呆けた声。目から光が失われている。
飛翔に驚いたのか、それともいきなりの実戦に恐怖したのか。
お漏らししちゃったよこの子。下半身ぐしょぐしょ。
「ゴメン、ナサイ……」
「いいわ。わたしも突然の行動で驚かせたのは承知しているし」
「だって怖いもん……」
「戦えば五人のイケメンたちにちやほやされて、あわよくばえっちもできるのに?」
「前の世界では喪女のままで死んじゃったから、それはそれで怖いのです……」
「あらまぁ……。とりあえず、汚した下半身を洗浄するわね?」
『秘密の花園』
私たち二人をまとめて想像魔法の洗浄にかける。花の香りがフローラル。
念のため、パンツは脱がして履くタイプのオムツを着けさせる。オヤ〇ミマン。
失禁で気が弱くなっているためか、あっさりと頷くアリサ。
はあ、何やってんだろ、私。将来は保育園の先生にでもなろうかしら。
「可愛いわよ、オムツのあなた。スカートから不自然に膨らむお尻。うふふ」
「うう……」
「これで失禁対策も出来たので、一度戦ってみましょうか」
「無理ぃ……」
「見てるだけでいいから。先っぽだけ、先っぽだけだから。ね?」
「どこの先っぽなのよぉ」
「じゃあ、どうしてほしい? 戦わないと生き残れないわよ?」
「……優しくキスして」
「いいわよ?」
「まさかのノータイム!? どうして拒否しないのよぉ」
「女の子同士でキスとか普通でしょ? 舌を入れて念入りにキスしてあげる」
「あ、ちょ、冗談で言っただけだから許し……むぐーっ!?」
ぶちゅーっとキスをする。やはり女の子の唇は柔らかくて気持ちいいなぁ。しかもこの子の唾液、甘くて美味しい。さすがエロゲー主人公ですわ。
「オムツっ子なのに、キスがお上手ね?」
「い、言わないで……」
「ふふ……節制しているえっちな女の子って大好き」
「はぅん……」
最初は拒否していたアリサは、私の目を見るうちに、だんだんと微睡んでくる。
あー、これね。吸血鬼の魔眼で魅了堕ちさせただけだから。
手荒だけど、狩り童貞の脱却させて、戦闘に少しでも慣れさせないと。
本来、彼女が『ユグドラシルギルティ』の主人公なのだ。
私は世界主人公説を信じる。つまり彼女が動かないと世界が回らない。
だから強引にでも……おっとと?
とたん、積極的にちゅっちゅしてくるアリサ。相変らず唾液が甘い。ディープに唇を求め合う。吐息が桃色に見える。もはやサキュバスクイーンもかくや。
ちょっとやりすぎたかもしれない。あ、無理。積極的で私の方が怖くなってきた。
と、ともあれ――女児調教完了。まさに外道。
「ト、トリュファイナお姉さまのおっしゃる通りにいたしまふぅ……」
「よろしい。聖女になって、世界を救ってね。私もサポートしてあげるから」
「はい……お姉さま……」
「吸血鬼の魔眼、効きすぎでしょ……」
前向きに考えよう。調教効果は上々だと。
人の心を弄ぶ。意思に反した行動を強要する。それは、わかっている。
でも、あなたが動かないと、きっと世界は回らない。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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