第82話 トリュファイナ・エニグマ侯爵令嬢(養女)
私は物置き女の卑しい令嬢と呼ばれ、末端の使用人にまで軽んじられる。
私は、メイズ伯爵――愚かな父が熱を入れていた
しかして私は聖女の因子を持っていた。なので一年前まではまだ待遇は良かった。
一応は――本当に一応は、メイズ伯爵家の一員としての、令嬢の身分にいた。
要するに母と私はメイズ伯爵家に引き取られたわけで。
繰り返すに、本当に、一応。末端ギリギリ。
そこに親兄弟の愛など存在せぬほどに。
何せ母と私の居場所は、屋敷最奥の部屋。通称『物置き』部屋。
なぜそのような名称かというと、単純な話。
私たち母娘が来るまで、実際に物置きだったから。
ただ、娼館住まいよりずっと良くて設備も整っているし、衣食は保証されている。
当然ながら与えられるドレスは伯爵家の家人たちが着るものより明らかにグレードは低く、食事も彼ら伯爵家と共にすることは終始一度もなかったけれども。
それでも日々の生活が安定するというのは、何よりも代え難く。
わかっている。私の存在価値とは。
いずれ政治利用の『聖女』として他家に『高く売られる』だけのものだと。
そうして、私は『売られた』のだった。エニグマ侯爵家に、養女として。
ははは。今となっては、どうしてこうなったかさっぱりわからない。
まず養女としてエニグマ侯爵家に入った私の末路を語ろう。
殺された。
私は、一年間かけてゆっくりと薬を飲まされて、儀式の生贄にされた。
大事なことなのでもう一度だけ語らせてもらう。
私は、養父であるエニグマ侯爵に、殺されたのだった。
純潔を無理やり確認された上で四肢を縛られ、いつもの薬(この時、初めて毒薬だと知った。寿命を削って魔力を高める効果がある)を飲まされ、魔導陣にて儀式を執り行ない、そうして無茶な儀式の代償により私は絶命した……はずだった。
すべては、聖女の因子を抜き取るために。
没落した寄子、『増幅』を持つ元子爵令嬢に聖女の因子を植え付けるために。
しかし、気づいてみれば。否、『意識を取り戻してから』と言うべきか。
まあ……現状から取り上げて行こう。
侯爵家当主部屋。どうやら私の部屋ということになっているらしい。
そこに美少年たちが五人。
いずれもありったけの好意を込めて私に微笑みかけてくる。
イーレン公爵家次期当主フォーリタイン・イーレン。17歳(18)。
アンブルク辺境伯家次男『剣聖』リンドモア・アンブルク。18歳(18)。超強い。
エニグマ侯爵家次期魔塔主『魔人』アーク・ウル・エニグマ。16歳(18)。義兄。
ドーンフレア王国第二王子『万能』リキ・ドーンフレア。14歳(18)。当国王子。
ラピス王国第三王子アルカード・ラピス。10歳(18)。吸血鬼&兎人族、男の娘。
いずれも剛柔兼ね揃えた美少年たち――どういう状況なの、これ?
というか年齢の後の(18)ってなんなの。実は18歳ってこと? ……なんで???
あっ、ちょっと。アルカード……ちゃん、でいいのかしら。いえ、アルカード王子、スカートを意味ありげに持ち上げて、中身を見せようとしないでください。
いくら男の娘でも、そういうイタズラっぽい遊びはさすがに良くないと思うの。
そして私。
トリュファイナ・メイズ――改め、トリュファイナ・エニグマ侯爵家令嬢。
深紅のドレスを纏い、血色のソファに身を預け、彼ら美少年たちを侍らせる少女。
……正直に、心情を吐露させてほしい。
――ワケガ、ワカラナイヨ。
なんなのこれ。殺されたはずが、気づけば逆ハーレム状態とはいかに。
好意を隠しもせず見つめてくる美少年たちは静かに微笑んでいる。
はて、彼らの口から牙が覗いているのは気のせいか――気の所為ではない。
「……うぐっ!?」
とたん、私の脳に膨大な何かが流れ込んできた。知らない映像と会話と経験?
これは、記憶? 私から抜け落ちた記憶?
本能的に口を押さえる。色々なものを吐き出さないために。
そして私は理解した。
私は、やはり一度死んでいた。そして、その遺骸に違う魂が取り憑いた。
カミラ・ノスフェラトゥ。
私を保護するように魂を体内に留め、そして眠りにつかせた太祖の吸血鬼。
そんな彼女が私の代わりにアレコレ動いたせいで現状のような事態になっていた。
カミラが残して行ってくれた鑑定スキルを自身に使う。魔眼が発動する。
◆◇◇◆◇◇◆
トリュファイナ・エニグマ侯爵家実質上の当主、兼エニグマ魔塔主。15歳(18)。
レベル、約2500万。体力、約800万。力、約600万。魔力、約6200万。
参考。指先に魔力を集め、軽いフィンガースナップで放つと大陸が沈む。
聖女も虜にする魔女。魔女、聖女に愛の告白を受ける。同性に告られても困る。
運命に抗い、トリュファイナ・アーカム魔族公爵令嬢に成らなかった少女。
現在の彼女は魔女であり、帝王級吸血鬼。ほぼすべての吸血鬼が平伏する階位。
あなたの御主人様であるカミラ・ノスフェラトゥ以外は、という意味で。
追記。一応、貞操は守られている。大事なのでもう一度。貞操は守られている。
魔塔主は秘術により吸血鬼化するのが慣例となる。大抵の場合子爵もしくは伯爵級となる。ただ今回は太祖の吸血鬼に身体を貸した影響で帝王級吸血鬼となった。
五人の美少年たち。
彼らは彼らの主人でもあるトリュファイナを一心に愛している。
各人、公爵級の吸血鬼であり、一人一人が単騎で国を滅ぼす力を持つ。
◆◇◇◆◇◇◆
うん……私、人間やめちゃってるのね。
そうなんだ……ふーん……。
――はあ!??
いや、いやいやいや!!
なんなのそれ!? なんなのそれ!? わけが分からない! 理解できない!?
魔女に愛の告白をした聖女? 女の子同士なのに? ど、どうしよう……?
他にもちょっと待って。ホント待って。帝王級吸血鬼とか聞いたことないわよ!?
公爵級が最上じゃないの?
しかもレベルが凄いことになってる!! 2500万レベルって何?
絶対に冗談か何かよね? こんなの神話に出てくる怪物じゃないの!?
貞操は守られているんだ……? 美少年たちを
魔女なのに貞淑過ぎて逆に聖女っぽく感じるのはなぜなのか。
ああ、もう……。
なんなのこれぇえええぇぇぇぇぇーっ!?
私は五人のラブラブエロイケメンたちに囲まれたまま、頭を抱えた。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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