第81話 来ちゃった
ワイズロード魔法魔術研究学院への特別短期留学は、いきなり魔神騒動と色欲騒動が起きたとはいえ、その後はのんびりとした女子校ライフとなっていた。
一ヶ月と少し、学院で過ごしてみた感想。
ここだけの話。私の知っている女子校と全然違う。違うのである。
何のこと? と思われるかもしれない。
女子校とは――
基本的に殺伐としたポストアポカリプス北斗世界だと私は記憶している。
というのも。
男子がいないので力仕事も女子の腕でこなす。なのでガテン系女子多し。
男子がいないので、あの日のときは用品の貸し借りでモノが教室内を飛び交うことも。ついでにあの日がみんな同じ時期になる不思議現象が起きたりもする。
恥じらい? 異性の目がないのに、そんなものあるわけないよ。
女の子が女の子っぽくしているのは異性の目があるときだけ。男の娘やオカマちゃんのほうがよほど女の子している。贋作は時に真作を超えるとか超えないとか。
顕著なのは体育の授業。
球技など対人戦は男子の目がないので野生に還る。みんな目つきがマジ。大型肉食獣である。相手の髪の毛を引っ掴んでも勝ちを取りに行く。オラァッ、死ねぇっなどドスの効いたシャウトが運動場に響く。先生方は慣れたもので、一切動じない。
他にもある。
女子校自体が汚くてクサイ。運動系部室は特に汚い。ほぼ魔境。制汗スプレーと若い女性ホルモンの腐ったニオイ。飲み食い残しと小便と鉄のニオイ。
キツイ・キケン(その女子凶暴につき)・クサイの3K。花のような香りなど絶無。
むしろ、月曜日と木曜日収集の生ゴミの日みたいなニオイ。くっさい。
……私の知る女子校とは違うなあ。
コッソリ、嘆息する。
やはり貴族子女が多数在校するだけあって、野生への回帰に抑制がかかっているのかもしれない。たとえるなら前世版学習院みたいなものかな……?
ごきげんよう。ヲホホ。なんてね。
さて、さて。
騒動を起こした研究者は、私の魔法を魔術に落とし込むサマを見て奮起した結果であって悪意を持って行なったわけではないので一ヶ月の謹慎処分にされていた。
甘い処分のようで、そうでもない。
研究者は、研究がしたくて研究者となったのだった。それを封じられては七転八倒いんぐりもんぐりと、どうしようもないことになる。ハァハァ、研究がしたいよう。
それでも世間では軽い処分に見えるのは、生徒たちが最終的には恐怖よりも楽しかった思い出の1ページになったからだった。要は私のワンマンショーのせい。
もう一つは。
学院入学の際にメイン研究の魔法から魔術への落とし込みにトラブルはつきものなので、ある程度の危険は承知してほしい旨の承諾サインを書いているから。
なんせここを卒業すれば魔術師エリートになれるのだ。それは元の身分に関わらず高い社会的地位が得やすく、もしくは貴族令嬢なら結構なハクがつくということ。
なので不満など滅多に出てこない。
七転八倒するのは原因を作った研究者ばかりである。南無南無ー。
そんなわけで、私はというと。
制服に幼児用のちっちゃなエプロン姿で、マリーたちと調理室にいた。
どうして? と思われるかもしれないが私にもよくわからない。マリーの提案なのだった。どうも先月に食べたお菓子が気に入ったようで、他にも食べたいらしい。
で。
初めは彼女と二人でお菓子を作ろうとしていたら、どこから聞き寄せたのかルナマリア嬢とアモル侯爵も加わり、なぜか学院料理長と副料理長も加わってきた。
更に学院の生徒たちも多数加わって教師陣もちょこちょこと。結局、総勢して30人余り(調理室が満員になったため、入りきれなかった生徒たちには後日再び同じものを作る約束をして遠慮してもらった)が、お菓子作りを始めたのだった。
予定品目。
たっぷりホイップ生クリームと彩りイチゴ、チョコソース和えワッフル。
美味しそうでしょう?
この焼き菓子は誰でも簡単に出来てしかも美味しい。何もトッピングしないベーシックなものも良いけれど、フルーツやクリームを一杯乗せると最高。
その代わりカロリー爆高になるけどね。うふふ。
用意するもの。
正規。小麦粉、鶏卵、有塩バター、牛乳、砂糖、イースト醗酵させた生地。
今回。ホットケーキミックスの粉、鶏卵、有塩バター、牛乳、砂糖。
当初は二人分しか用意していなかったので想像魔法ホットケーキミックスの粉で代用する。これに砂糖と有塩バターを溶かし込む。ミックス粉200グラムに対して、各30グラムずつ加える。牛乳は120ccである。それらをさくっと混ぜ混ぜする。
必要な調理器具。
格子模様などを刻んだ2枚合わせの鋳造鉄板。ワッフルメーカーである。
今回用意したのは想像魔法で作った魔石式のものが30個。一度に2個焼き上げるタイプ。先の材料分なら6枚くらい作れる。なお、メーカーは各人に一つずつ進呈。
みんなでわいわい言いながらワッフルを焼く。甘い香りが堪らない。
およそ(私の知る)女子校らしくない和やかな雰囲気。
……ヒャッハー北斗世界な女子校は何処に旅立ったのだろうか。
まあいいけどね。どう考えても殺伐よりも黄色い声のほうが良いわ。
焼き上がればお好きな皿にワッフルを二枚セットし、ホイップクリームを専用の絞り袋にて丁寧にトッピング。カットイチゴをセンス良く添えて、湯煎で溶かしたチョコを牛乳と合わせて作ったチョコソースをスプーンでサラサラっと振りまいて。
はい、出来上がり。
たっぷりホイップ生クリームと彩りイチゴ、チョコソース和えワッフル。
ナイフとフォークで頂きます。飲み物はミルクティーで。
調理中、顔色を変えたり百面相をしていた学院料理長と副料理長が、いざ食べる段になって一口ワッフルを食べるや否や――
『ハラショーッ! ユーレカ! ユーレカ! ユーレカァァァァァッ!!』
と、意味不明の奇声を上げていた。一体何だったのやら。
次の日。ちなみにワッフルを作った日は通常の休校日だった。
アモル侯爵から転移ゲート使用の打診が私の元に来た。どうもスレイミーザ帝国よりもう一人、特別短期留学生を迎えたいらしい。ふうん、と思いつつ承諾する。
ダンジョンコアを使ってゲートにエネルギーを注ぎ込む。
転移準備完了。いつでもどうぞ。
「誰が来るのかにゃー?」
「うふふ、会ってのお楽しみですよ?」
「なんだろう、とっても嫌な予感がするんだけど……」
能天気な私。悪戯っぽく微笑むアモル侯爵。ぶるっと身を震わせるマリー。
ゲートから女の子がぴょこっと現れる。随分と躍動的というか、幼い動き。
10歳くらいかな。女子制服着用。腰まで伸びた白髪に近い銀の髪が良く似合う。
だけど……。
ん、ん? どこかで見たような子だなあと、その娘を見て思う。
このまま成長すれば耽美系で……ホモォ……ああっ? まさか、もしかして?
瞬時、嫌な予感がよぎる。むしろ気づくのがちょっと遅いくらいだ。
「ママッ! 会いたかったよ!」
「うにゃあああっ!? ア、アーカードなのーっ!?」
「うわぁ……うわぁ……」
私とマリー、ドン引き。
そこまでするか。なんと、ドラクロワ伯爵の放蕩息子、アーカードだった。
初登場時は耽美系ホモ漫画の総受けみたいな美貌の18歳青年だったのが、実は10歳ショタっ子バンパイアハーフという――私をママと呼ばわいするマザコンくん。
都会に出た息子が、数年後に可愛らしい娘になって帰ってきたような衝撃。
もとい、男の娘になって、私の前に。
「な、な、なんで……?」
「一緒にいたかったから変怪の応用でアレを消したの。うふふ。ママ大好き!」
「にょわーっ!?」
「あ、頭が痛くなってきたわ……」
私に抱きつくアーカード。混乱状態でされるがままになる私。というか、ちゃんと女の子の匂いになっていて驚く。頭を抱えるマリー。ニヤニヤするアモル侯爵。
……混沌の嵐が吹き荒れそうです。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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