第77話 歌唱ライブを終えて

※構成上、今回は短いです。


「にゃあー。疲れたー。こーんなちっちゃな女の子を酷使させすぎだよー」

「お疲れさまでございます」


「もうやりたくないにゃ。偶像アイドルなんてそれを目指す時点で既に才能があるのよ」

偶像アイドル、でございますか」


「みんなが夢中になる、造夢装置の象徴を担う年若い女の子とか男の子とか」

「なるほど」


「ふぁー。ねむーい。マリーにおやすみのキスしたいのに、まぶたがおもーい」

「うふふ。お嬢様のおかげで元通りになったお部屋で、安心してお眠りください」



 夜。学院ダンジョン化は実質一日で無事解決していた。


 私はセラーナに自らの着替えを任せきりにする。立っているだけで制服からパジャマに変えてくれる。もちろん下着も。そうしてしょぼしょぼする目をこすりつつ、天蓋ベッド据えられた棺に向かう。お風呂? 洗浄魔法『秘密の花園』で今日は勘弁して欲しい。魔法を唱えて洗浄、コーモリのぬいぐるみを抱く。目を閉じる。


 姿はいつもの三歳児幼女に戻っている。権能で年齢変化は自在とはいえ基本の姿が一番落ち着くのは言うまでもない。例えるなら実家に帰った感に近い。



「うにゅー。おやすみにゃー」

「おやすみなさいませ、お嬢様」



 アニソン歌唱ライブでは大体2時間くらい活動した。


 結論を書くと、ほとんどソロでの歌唱ライブは大盛況で終えることができた。

 まあ……自分でも驚いたのは、私の歌う能力だった。


 ぶっつけで歌ったら想像以上に自身(の喉)に歌唱力が内包されていたらしく、念のために神気を込めて強制的に聞かせる――どんな酷い歌でも素晴らしい歌と誤認させる必要もなく、自然発生する薄い魔力と共にアニソンを披露しまくっていた。


 レーザーとスモークの演出。背後に用意した巨大スクリーンに著作権的にアレなアニメ映像と歌詞を投射。さすがに異世界まで文句をつけては来ない……はず。

 最高性能の大型スピーカー&ウーハーに、身体の芯が痺れるような重低音大音量のポップス・ロック・テクノ・ジャズで以って歌って踊って皆でスイングしまくる。


 知ってる? 大音量かつ重低音の楽曲を人が聞くと、高確率で脳がバグって感動を引き起こせるんだよ。ソース元はとあるライブ会場での自身の前世経験。


 あえて言おう。この世界の『歌』の概念から根本的に逸脱していると。


 そもそも私がやらかしたアニソン歌唱ライブに相当するものなど、この世界に存在し得ないのだ。かなり強引に、近しいもので例えるなら精々オペラくらいか。


 ただ、オペラは歌唱とクラシック曲がメインでポップスやロックなどは当然入ってこない。バレエが途中組み込まれたりする場合もあるが、皆でスイングなんてない。ミュージカルならそれもあるかもだけど、まだその概念もないだろう。


 私が歌った曲目は主に昭和の魔女っ子ものや平成・令和の美少女戦士、魔法少女もののOP・EDテーマ。個人的にお気に入りの超時空要塞のF系全般。マイクローンヤックトデカルチャー宇宙兄弟船&ライオン銀河の果てまでキラッ☆


 ちなみにすべて日本語で歌ったが、いつの間にか開放されていた(おそらく大人の姿になったゆえの一時的なもの)アンチ・バベルの上位バフスキルによって、私を中心に半径1キロ内にいる存在はすべての言語を理解できるようになっていた。


 だから、だろう。


 突如として知らない言語を理解してしまう興奮と、見たことも聞いたこともない歌が妙にマッチングして、あっさりと観衆に受け入れられたのだった。


 更に、更に。


 曲に合わせて、私は年齢を加減した。

 例えばまどマギのOPは12歳の魔法少女の姿で歌って、本来ならOPに相当するEDテーマではパンチの効いた低音が欲しかったので二十歳のガチ魔女の姿で歌った。


 付与された権能を使えば、肉体操作など簡単である。


 そうして歌ばかりダダ流しにしても耳が疲れるので緩急もつける。


 トークタイムを挿入し、発案者の魔神マオウ・ザ・ハクション様やファーハ様を舞台に引っ張り上げて自分が何を司る神様か自己紹介させてみたり。基本的に彼らお二方は『人の欲望を具現化』させる神で、だからこその『魔』神であった。


 願いごとを叶えて貰うとして、それで魔神に頼るならリスクも承知の上でどうぞ。


 せっかくなので、歌いたそうにしていた死神のサンズも舞台に上がって貰った。彼は昭和後期の男性アイドル曲じみた歌を得意としていた。しかもやたら上手いの。


 そうやってプリン・ア・ラ・モードを食べつつ、途中からポテチとポップコーンを頬張りお茶を飲み、視聴者も参加して歌って踊って皆でスイングしてと無事にアニソン歌唱ライブを終えることができた。魔神様方も大満足でニッコニコだった。いつの間にか歌神様も混じっていたがそれも良し。彼はクリームソーダを飲んでいた。


 余談だが、学院の料理長がプリンをつるりと食べた直後――


『マンマミーアッ!? オーケーマイジェネレーショォォォンッ!!!!』


 と奇声を上げていた。一体何だったのか。



 「マリー、ちゅっちゅー。ぺろぺろー」



 よくわからないひとり言を漏らしつつ私は深い眠りについた。




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