第72話 それは初恋に似た想い
……アーカードには失望した。
あの耽美な姿は欺瞞だった。騙された。なんだか弄ばれた気持ち。むう……。
中身はわたしとそう変わらない年嵩の少年。可愛いっちゃ可愛いけどさ。
強烈なマザコンだったのがねぇ……。
もう最悪。それならまだ女児のみを愛する特殊性癖者の方が幾分かマシよ。
失恋? 違うわ。断じて違う。これは、失望よ!!
それよりも。
カミラ・ノスフェラトゥ。
彼女は凄かった。否。凄いのひと言では収まらない『何か』だった。
時を少し巻き戻す。
魔苦死異無の高速移動に当然ついていけず、しかも城のトラップによってアーカードとも分断されたわたしは、単独、魔苦死異無の助言通りに上階を目指した。
敵を発見。一見するとただの骨格標本。しかして実態はスケルトンソルジャー。
わたしの戦法は、身体の小ささを最大限利用したもの。
低所からの突然の攻撃は、思いの外、避けがたい。
跳びはねて躱す?
それで躱して、空中にいる間、どうやって姿勢と機動を制御するのかしら。空中機動能力を持たない者は、跳んだら終わりよ。好きに料理してやるわ!
わたしは前転し、そのままゴロゴロゴローっと回転移動する。このとき身体にマナを張り巡らせ、1個の車輪をイメージする――トゲ付きの
ガン、ガン、ガンっと多段ヒットする。そこからズザッと銀の燕コンボ。
この燕はわたしが密かに契約した神界の鳥。主に邪物を討つ際に効果を発する。もちろん地上界の一般生物に対しても神界の力はかなり有効ではある。
わたしはスケルトンソルジャーを一方的に粉砕する。
次。
大量の死鴉がわたしを狙う。
場所は城内の連結橋。遥か一本道でつながる渡り廊下風の橋。
どういう建築法を使えばこのようなわけのわからないものが建てられるのやら。
高さ数百メートルはありそうな、吹きさらしの連結橋。下は見ない方がいい。
室内でこれを使うと窒息するので使えない、わたしの特殊な範囲攻撃。
轟!
と、周囲を極大の炎で焼いてしまう。わたしは息を止めている。たとえ焼かれなくても、この炎の周囲にいると窒息するのだった。
事実、死鴉は焼かれるよりも窒息で気絶してバラバラと落下していく。
わたしは進む。
体術を駆使し、銀の燕を。ときに炎で焼き、ときに奥の手の光の剣すら使う。
光の剣はわたしの最大の攻撃。性質上受け太刀ができない代わりに、こちらの攻撃を防御させず、超高熱にて敵を斬滅する不可視の必殺技だった。
そうやって最上階と思われる謁見の間らしき場所にたどり着いた。
誰も、いない。
魔苦死異無もアーカードもいない。
わたしはトコトコと進み、謁見の間の玉座をじっと観察する。特に呪いも罠らしきものも感じない。ただの豪華な椅子であるらしい。幼女の体力ではさすがにこの違法建築じみた城内は広すぎた。一体何階層あるのか。一体城何個分の広さなのか。
わけが分からないほどの規模で、少し疲れた。
わたしはポンと玉座に座した。クッションの利いた良い椅子だ。はあと息をつく。
見た目が完璧に三歳くらいの幼女吸血鬼。ぷにっとしたほっぺ。
ミナ・ハーカーの偽名を使ったカミラと出会ったのは、たった十年程度しか生きていないとはいえその自分史で断トツを飾る衝撃中の衝撃だった。
何せ、一切攻撃が通用しない。回転攻撃からのコンボ、念のために放った光の剣。
一切利かない。回転コンボは反射で逆にわたしがダメージを。光の剣は――どういう原理なのか、吸収されてしまった。しかも彼女は気づいた様子もない。
わたしはなんだか得体の知れないウネウネと動く植物に捕らえられ、辱められた。
物凄いコチョコチョだった。痛みではなく、くすぐり攻撃だなんて。
……くすぐりに負けて笑い過ぎて、お漏らし、しちゃった。
しかも、彼女によって丁寧にキレイにされちゃった。捕らわれのまま全裸に剥かれて、ドレスを洗浄した後わたしも洗われて、再び衣服を着せられる。
彼女の冷たい唇が、わたしの頬に口づけをしてきた。
これが、ちっとも不快じゃなかった。
敗者として、わたしは眷属化させられるのかと思ったらそんなことしないという。
求めて吸血鬼化したいならまだしも、父母のいる幼い子供が親よりも早く死を通して吸血鬼にならなくていい。
ぐうの音も出ない正論を、あろうことか吸血鬼の幼女に語られてしまった。
これは、完敗だった。わたしはこの子に勝てない。
そもそも戦いを吹っかけたのはわたしなのだった。カミラは戦いを望まなかった。
それでなおわたしの攻撃をいなして、軽く反撃を。結果、その……お、お漏らしはしたけどそれでも傷つけるような真似はせず、終始丁寧に扱ってくる。
やだ、この子、頼もし過ぎる。
しかもわたしみたいな跳ねっかえりを、お友だちと呼んでくれる。
一瞬、カミラならわたしは眷属になってもいいと思うほどで。
心の内ですぐに否定したが。それにカミラは、わたしの眷属化を嫌がると思うし。
ああ……小さいのに、愛しい子。
ドラクロワ伯爵、デビルズキャッスル襲撃後。
魔苦死異無は、実は、異世界すら股に掛ける盗賊だと判明した。
こう言ってはなんだが、他種族は知らないが人の王族とは、ある種の盗賊の成れの果てという。魔苦死異無は、強さに於いては王の器があったのかもしれない。
だがもっと強い存在に潰されてしまった。カミラに。だからもうどうでもいい。
わたしは彼女の誘いに乗って、元の世界へ帰るまでノスフェラトゥ家にお世話になることになった。客分として、カミラのお友だちとして。
その日から、すべてが一変したような気分だった。
吸血鬼と人間、生活の時間帯が根本から違う。
吸血鬼は夜が活動時間。人間は昼が活動時間。なので朝と夕方過ぎの夜がカミラと親交を深める時間となる。短い逢瀬。基本的に寝間着でのお付き合いとなる。
ベッドでのこと。
カミラはまず、わたしに抱きついてくる。見た目三歳女児の彼女は、その見た目の通り小さくて、ふにふにと柔らかくていい匂いがする。とっても気持ちいい。
抱きしめてキスしまくる。だってわたし、可愛いものが大好きだし。
カミラもチュッチュとキスを返してくれる。そうして心を通わせるのだった。
キスの一つ一つがわたしを認めてくれる。大好きって、耳に囁いてくれる。
そういえば、ついばむように、お口とお口でキスしちゃったっけ。
女の子同士で口を吸い合うなんて自分の考えにはなかった。でも気持ちいいの。
身体を触れ合うのも気持ちいい。彼女の低めの体温が、安心を呼び覚ます。
ああ、カミラと一緒になりたい。心も、身体も。
ぶっちゃけると、わたし、そもそも弱い人って嫌いなのよね。
特に姉二人。あれには憎しみしかない。いつか事故に見せかけて殺害するかも。
父母は強さに関わらず好き。でも、だけど。物足りないと感じてしまう。
わたしの考えは魔族的である。口さがない人には魔族に毒されたと言われそう。
違うから。これがわたしの地の部分。
その点、カミラは規格外だった。しかもそれでいてわたしを大切にしてくれる。
彼女の眷属になったらそれが叶うかしら? でも、カミラは眷属には否定的なのよね。想いが過ぎて、思わずわたしは、その、自慰をした。触りっこを通して、どこが敏感なのかは網羅していた。いつか、カミラにも同じことをしてあげたいと思う。
それは、驚くほど背徳的に良かった。カミラを想って、自慰を致すのは……。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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