第56話 圧倒的王都防衛戦……ッ。
謁見の間に会議用のテーブルを侍従たちに命じて持ち込ませた。
その上に、ばさっと王都とその周辺の精密な地図を広げる。
出城とゴーレム騎士は別途にTRPGミニチュア方式で地図上に置いていく。
ちなみにゴーレム騎士は南北に各100体。西に200体配置している。レベル制限のせいでダンマス能力をフルに使っても員数はこれが限界だった。
私は妃用の椅子をテーブル前にまで引っ張り込み――
泰然とした雰囲気を醸しつつそこに座す。脚を組んで、不敵な笑みを浮かべて。
まあ、これらはすべてポーズなのよね。
TRPG世界とはいえ、人と人との殺し合いなんてやりたくないのが本音。
たとえゲームでも死ぬときは死ぬ。
吸血鬼――不死族の私にとって死は身近なもの。だけども、こんな物語世界で、他者の身体に憑依した状態で死ぬなんて絶対にお断り。絶対にNOである。
何より、早く元の世界に戻りたい。
冒険なんて、したくない。
転生バンパイア幼女は冒険なんてしたくない。
転生バンパイア幼女は、冒険なんて、したくない。
大事なことなので二度言いました。
私は、心を落ち着かせるために、用意された茶に手を付ける。
……ふう。やる以上は、トコトンやろう。
指揮は、手の中で弄ぶビー玉状まで縮んだダンジョンコアで出来る。
戦闘の様子もダンジョンコアと鏡との通信ですべて賄える。
今回の警備モンスターはレベル90のゴーレム騎士たちに限定した。
他の有機的な警備モンスターを召喚しては、魔女よばわいが酷くなりそうなので。
ここだけの話。たぶんこれで最低でも負けはしないはず。
勝てなくても負けなければよい。実家の援軍が来るまで耐え続ければよい。
というのも。
この世界はTRPG世界なので断言はできないけれど、元世界では人類のレベルなど、特にヒューマン族のレベルは生涯をかけて80もいけば御の字なのだった。
以前、終わらないのが終わりの刑に処した勇者一行の1500レベルなど例外中の例外。彼らは死んでも蘇れるので無茶ができた。デスルーラ上等の戦術を組めた。
しかし、普通の人間は、そのような命を軽んじる行為など出来たものではない。
なので、勝てはしなくとも、負けもしない。時間経過が援軍を呼び、そして……。
伝令が報告にやってくる。
護衛騎士団を中核とし、治安維持兵で固めた臨時の王都防衛編成部隊が都を囲む壁上に配置されたとのこと。北、西、南。東には置かない。敵は西から来る。
彼らの基本装備は弓と護身のショートソードのみ。
ロングソードは騎士のみ帯剣許可を出す。剣などあっても邪魔なだけだ。
しばし、黙して待つ。
3つの出城からの光景を、ダンジョンコアを通して直接脳内に映し出す。
敵はまだ来ない。来なくていい。
むしろ、今すぐにでも回れ右してどうぞ。
『……緊張してる?』
「多少はね」
『ぼくが思うに、お姫様の類は戦争にはタッチしないというか……』
「姫騎士というのもたまにはいるわ」
『うーん』
「くっ殺とかすぐ言う、オークの良き相棒よ」
『な、なんか違う気がするかも……?』
「ときに、鏡よ。そなた、当初に比べてフランクに喋るようになってきたな」
『そうかな?』
「まあ、親密度が上がったとでも思っておくわ。……世界で一番美しいのは誰?」
『それはブリュセル王国に嫁いだクリエムヒルト王妃、あなたです』
「わらわとしてはスノーホワイトちゃん推しよ? あの子が一番可愛いし美人」
『ぼくはいない人より、いる人推しです』
「……それ、どういう意味?」
『……え? あれ? ぼく、なんでそんなことを思ったのだろう?』
「ふむ」
『ま、まあ気にしないで』
「そう。そなたがそういうならね」
『ご配慮、感謝します』
そうやって、待つうちに。
「報告! オーレンベルグ軍、現れました! 距離15キロ、軍勢数3万5000です!」
「来たか。よし、北、西、南、各部隊は身体をほぐし、弓を最終点検、それらを済ませたら団歌・隊歌を歌え! されば魔導具を通して能力向上バフを掛けてやろう!」
「はっ!」
敬礼し、走り去る伝令兵。
歌を歌う行為に、特に意味はない。
しかし前世のテレビで見た自衛隊レンジャー部隊の訓練で、崖上からのラペリングなど極度の恐怖を伴う訓練項目では候補生たちは全員何らかの歌を歌っていた。
千の風になってとか、その辺りを。
効果の程は知らない。個人的にはあまり意味がないようにも思う。ただそれは個々の事情であって、歌えば気も紛れる効果も無きにしもあらず。
しかしてダンジョンコアを持つ私なら別。彼らは全員、私の協力者と扱い、身体能力向上バフをかけてやれる。全能力および対精神、対魔法能力25%増し。
このバフを歌に交えて発現させる。効果は丸一日。魔力補助で身体に負担なし。
私としての建前上、魔道具を使って兵たちにバフ付与したことにする。
実に面倒くさい。が、なんらかの行為やアイテムのクッションを必ず通しておく。
「なかなかどうして。心が震えるものよな……くくく」
通常ではありえない速度で行軍し、これまたあり得ない精度で軍全体を整列させるオーレンベルグ軍。練度の高さに戦慄と感心が入り交じる。
彼らオーレンベルグ軍は南北に各5000、正面に当たる西に本体であろう2万5000に軍団を分けた。多方面攻撃の構えでより確実に勝利をもぎ取ろうと動いている。
後々知るには、ブリュセル王を政治的経済的に挑発して彼から宣戦布告を意図的に引き出し、その後は彼を暗殺または無力化、仕上げにオーレンベルグは軍を出して圧倒的速度で逆侵攻、やられたらやり返す大義の元、勝利する算段だったという。
なかなか小狡い。そりゃあ童話の白雪姫もあっさり騙されるわ。
オーレンベルグ軍から、乗騎した軍使が我が城に向けて単身、駆けてくる。
どうやら自らの軍の正当性と大義を謳っているらしい。そして、降伏勧告。
確かに普通なら降伏勧告に乗らざるを得ない。ブリュセル王と私=クリエムヒルト王妃は公開処刑。スノーホワイトちゃんは政治利用のため彼の国の王子の妃に。
こうしてブリュセル王国を比較的穏やかに侵略統治する。そんなところだろう。
「軍使を射殺せよ。我らの決意を、その態度で示せ!」
私は命じる。
やおら、ゴーレム騎士の一体が20ミリ弾を発射。軍使の腹部に大穴を開けた。
それだけでなく、弾丸は後方のオーレンベルグ軍部隊指揮官クラスの脚部を撃ち抜いていた。射線上にいるとは運のないことよ。
「各部隊、戦闘態勢に入れ! 王都を護る我が国の英雄たちよ!」
オォオオオオオオオオオォー!!!
戦闘開始、皆々開始。
ガッシャン! と出城に作られた砲穴を一斉に開く。オーレンベルグ軍は思わぬ戦火の口火に驚いた様子だったが、すぐに立て直して進軍してくる。
「よく引き付けよ。どこに撃っても良いくらいに。恐怖しても逃げられぬ距離まで」
ザッザッザッザッと小気味良い軍靴の音。
近寄る。もっとだ。先立ての軍使の死亡理由を理解せぬ者たちよ。
戦場での武器は、遠距離攻撃が基本。
剣より槍、槍より弓、弓より銃・砲。衛星軌道上ビーム攻撃。質量攻撃。
魔法? ああ、魔法もあったね。私も魔法は好きだよ。ロマンありありだし。
「よし、そろそろだな。ゴーレム騎士たちよ、狙え、筒!」
まだもう少し。
距離にして敵軍距離は200メートル弱。
どうせ撃つなら、効率よく敵を貫通させたい。20ミリ弾なら前世の火器ほどでなくてもいくらかは撃ち抜けるはず。それを狙う。
「――撃てぇ!」
轟ッ! とゴーレム騎士の砲火が始まる。
単発撃ち? いいえ、ケフィア……ではなくて機関砲撃ちです。
ガンガン撃ちます。20ミリ弾を。ダダダッ、ドドドドドッ、ダダダダッ!!
晴れ時々曇り、ところにより弾丸の嵐。
ビビってます。主に味方が。戸惑っています。主に味方が。
一体何が起きているのかわからない、というのが彼らの戸惑いの大元だろう。
だって、恐怖に耐えて、弓を引き絞って、射ろうとしたら――射り先がない。
鉄礫の嵐によって敵兵がどんどんえげつない死に様を晒していく。
流石にどれだけ物理練度を上げても、飛び道具の前では無力。
戦闘状況が始まって、まだ十分も経っていない。
これは、力の読みを間違えたかも。いや明らかに間違えている。
【これは、ウッカリ】
自身のレベル99と、人間の強さの相対的強度を、完全に見誤りました。
オーレンベルグ軍はもはや壊滅状態だった。背を向けて逃げ出そうとするものまで出ている。その背に大穴を開ける、我がゴーレム騎士が撃ち出す20ミリ弾。
「金切り声を上げるシュマイザーにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ……か」
うーん、その気持ち、わからない。
とりあえず、戦場の趨勢はこの一撃(撃ちまくったが)で決した。
「ゴーレム騎士たちよ、騎乗せよ! 敵軍を完全に撃滅せよ!」
出城から整然と出陣するゴーレム騎士たち。
騎乗と言ったが、厳密にはケンタウロスのような形状変化である。
駆けるゴーレム騎士。その手には20ミリ機関砲。
走る、撃つ。走る、撃つ。走る、撃つ。
ブレ補正がなされているため逃げ惑う敵兵を正確に撃ち抜いていく。
そうやって小一時間もしないうちに。
戦闘という戦闘は、あっけなく終結してしまった……。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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