第55話 防衛戦準備
まったくもって難儀。
軍人将棋で、大将で俺つえーしていたらスパイであっさり落とされるくらい難儀。
実際のゲームではこの時点で勝敗を決するが、リアルではどうだろう。
司令部(王都)はまだ落ちていないのが救いか。
さて、防衛戦の準備を。
ああ、嫌だ嫌だ。早く幼女に戻りたい。
情報によるとブリュセル王の軍は自国への撤退は一応完了するも、士気の低迷と物資を捨てての撤退ゆえに継戦能力も失っている。
しかしそれでも『無事王都に戻りさえすれば』一定の戦力にはなるだろう。
今、私は非常に回りくどい言い方をした。
この王軍は、今回の防衛戦に間に合わないし、たとえ無理やり間に合わせても低迷した士気と補給面で使い物にならないだろうと現時点で既にわかっている。
王都からかなり遠い場所に第二都市があるらしいので、そこまで補給のため昼夜を問わず行軍でき、補給後は王都へ一心に移動を続ける。その上で疲れ知らずに全力で戦闘できれば、という愚かさ極まる条件を満たせれば一定の戦力になるだろう。
……無理でしょう、それ。考える以前に無理無理カタツムリん。
単に移動するだけで消耗するのが軍隊なのよ。
一方、敵国と呼称させてもらうとして。
正確にはオーレンベルグ王国というのだけれども。
ブリュセル王への直接攻撃を一定の成果と判断したのか、舐め腐っているのか、電光石火作戦でも前もって整えていたのか。いずれであっても、おかしくない。
なんとオーレンベルグ軍は、王の指揮なきブリュセル王軍をスルーしてそのままブリュセル王都に一直線に進軍しているのだった。
最悪なのが彼らは強力な移動補助魔法で損耗を低減させた上でしかも通常考えられる行軍の3倍の速度でやって来るという。どこの赤い彗星なのか……。
というわけで、残された兵力で防衛戦をしなければならないのだが。
控え目に言って、これ、終わってない?
ブリュセル王は流血過多と疲労困憊で未だ目を覚まさず。
主力兵は遥か遠くに。しかも士気最低で何より補給の必要がある。
王都を護る兵力は極僅か。護衛騎士団と、王都内治安維持兵(≒警察)のみ。
そしてもっとも最悪な部分も発表しよう。
実は。その、実は、ですね……。
私自身について!
クリエムヒルトに憑依している私のレベルが――
実は、有り得ないほど制限されていて、たった99しかない。
レベル99とか。一時期は9000まで行っていたのにコレはないよねー。
弱小仮想通貨の乱高下みたいになっててホント困る。レベルが人生紙吹雪。
なので今回は王都をダンジョン化は出来ません。
警備モンスターのレベルも、私に影響して制限されまくりです。
力こそパワーはダメということね。頭を絞って知恵と知識で勝負かあ。
そんなわけで、考えました。
魔導具を駆使したという建前の元、王都に真田丸的な出城を三つ作成。敵軍は西からくるので北、西、南の都市門前にそれぞれ設置してみた。
ダンジョンコアで無理やり作ったよ!
根っこで繋がるタケノコ方式で、実は1つだけど見た目は3つの出城、みたいな。
ここで防衛戦を展開、出払った王軍なんて1ミリも当てにせず、とにかく時間稼ぎをして実家の公爵家戦闘部隊を急行させ対処に当たらせようと思いまする。
ブリュセル王と、王妃クリエムヒルトの不仲は有名な評判なので、当然、実家はブリュセル王の遠征には非協力的だったわけで。悪い状況下で唯一の良い話だわ。
要するに、たしゅけてパパ作戦。
ひっどいネーミングなのは若干やけっぱちが入っているため。
この借りは大きいよ、ブリュセル王。
この防衛戦を無事凌いだらクリちゃんのこと、大事にしてあげてよね。
ここは、謁見の間。
はあー。とバレないようにため息をつく。
私は髪の毛を束ね、形ばかりとはいえ鎧を装着し、剣を帯びる。
そして、玉座の横の妃の座に腰掛ける。
数少ない武官たち。不安を隠さない文官たち。私は鉄面皮モードで睥睨する。
「事態は最悪。そなたらは思っているだろう。しかしわらわはそうは思わぬ」
口火を切る。私の政治活動は演説だったとのたまうチョビ髭さんを召喚したい。
「わらわは王都の北、西、南に出城を作った。これは古代魔導具による力。出城の中にはこれまた魔導具で召喚したゴーレム騎士たちを詰め込んだ」
ざわ……。ざわ……。ざわ……。ざわ……。ざわ……。ざわ……。
ざわ……。ざわ……。ざわ……。ざわ……。ざわ……。ざわ……。
ざわ……。ざわ……。ざわ……。ざわ……。ざわ……。ざわ……。
どこのカ〇ジなのか。臣下たちから黒服を幻視しそうだ。
「ざわつくのは後にせよ。不幸中の幸いにも、敵軍は進軍速度を優先するあまり攻城兵器類を持ってきていない。こちらの寡兵具合を見越して兵数のみで攻めるつもりでいるらしい。となれば必然、出城に兵は集中するであろう。ここに詰めるゴーレム騎士は半自律で動く。術師の魔法は無効、物理で攻めないと破壊不可。レベルは90。固有の戦闘スキル有り。特に、範囲攻撃は敵が多いほど効果的であろう」
「しかし、それだけでは王都は守れません」
「護衛騎士団長、その通りである。ゆえに、わが実家の公爵家に連絡した。兵力で挟み撃ちにする部隊の派遣をな。結果、この度の防衛戦は、時間が経つほどにこちらが有利となろう。どうせ相手は兵站を捨てて速攻を第一にしているのだからな」
「キツイのは最初がピークとなりますね? それさえ守り切れれば……」
「そう、最初ですべてが決まる。さすれば敵軍の撃退自体は容易い。繰り返すに、最初を乗り越えねばすべてご破算となる。ゆえ、わらわは戦闘にも転用できる魔道具をフルに活用する。陰でわらわを魔女よばわいした者は今日のこの日、心底後悔するであろう。しかしてわらわは寛容である。次からは陰口はやめるように」
「あはは、は……」
「よし、大まかな戦術としては出城のゴーレム騎士が矢面に立ち、大切な兵力を温存する。心配するでない。出城もゴーレム騎士もなかなかのもの。たとえ壊されても王都が無事なら勝利である。魔道具はまるでこのために溜め込んでいたようなもの。わらわは出し惜しみなどせん。全力で敵軍を相手取る。出城で防備を固めるゴーレム騎士団が放つ、無数の弾丸が敵軍を蜂の巣にする光景が目に浮かぶわ……」
「期待を大にして取り掛かります」
「うむ。時間は稼げば稼ぐほどこちらが優位となる。それを念頭に取り掛かれ」
「はっ!」
かくして、ブリュセル王の代行として私が総大将の王都防衛戦が始まった。
おっかしいなぁー。
このTRPGって、たしか童話の白雪姫モチーフのはずなんだけどねぇ。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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