第51話 TRPGスノーホワイト

 お兄ちゃんと魔法式ウォーシミュレーションで、一つの国を核の炎で汚染廃国して遊んで更に一か月後。核の炎はあくまでゲーム上の話なので気にしないように。


 それよりも私は今、禁断症状が出たらしい私専属のメイドたちに抱きかかえられてすーはーされているのだった。どう見ても変態の所業ではあれど、切実に頼まれては断りにくい。私の城内での生活の大半を彼女たちに依存しているので余計に。



「すーはーすーはーすーすーはーはーすーはーすーはーすーすーはーはー」

「すうぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ、はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

「ふんすふんすふんすふんすふんすふんすふんすふんすふんすふんす」

「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ。おぱんちゅすはすはすーはー」

「すはすはすはすはすはすはすはすはすはすはすはすはすはー」

「すーはーすーはーウェヒヒッ、すーはーすーはーすはすはすはすはーすーはー」



 人間だったら過呼吸で倒れるね。酸素は身近にある凶悪な毒なのよ。


 私たち吸血鬼は話すときと匂いを嗅ぐとき以外、別に呼吸がなくても平気。

 ただ、呼吸したほうが体内の魔力循環が良くなるので、そういう意味での呼吸をする吸血鬼は多い。吸血鬼私たちの魔力は自身の写し鏡。日々の鍛錬を怠らないのだった。


 ……関係ないけど、一人、どさくさにぺろぺろしてくるメイドがいる。

 まあ、メイド隊主任のセラーナのことなんだけど。あの人はもう……ねぇ……。


 変態に合掌。どうか私だけで留まるように。

 他の小さい女の子に手を出したら、この世界でもタイーホよ?

 特に、スカートの中に頭を突っ込んでのぺろぺろは言い訳が利かないから。


 それは、ともかく。


 最近わかったのは、単純に私の『幼女臭』に彼女たちが反応しているのではなく、私の魂より発する『魔気』または『神気』に執着しているようなのだった。


 これに思い当たるのは、一つだけある。

 やはり前世の今際に出会った(?)神様に関係するのだろうなぁ、と。


 まあ、別に減るモノじゃあるまいに、好きに吸うと良いよ。ペロペロもね。



「セラーナ、おっぱいぱふぱふさせてー」

「はい、お嬢様。衣服越しとダイレクトとどちらを所望されますか?」

「衣服越しにゃ。ダイレクトはセラーナの未来の良い人ダンナに譲るの」

「ワタクシは独身を貫きたいのですが……」

「美人さんがもったいないー」

「お嬢様とちゅっちゅぺろぺろお胸のイチゴを含んだり含まれたりしたのですぅ」

「それをしたらたぶん互いに理性のタガが飛んじゃうにゃー」



 ママのおっぱいでも吸って来いというケンカの煽りがある。

 私の見た目は三歳女児なので、言葉通りにママ氏のおっぱいを吸える。

 ただママ氏は、胸にコンプレックスを持っているのでちょっとお願いしにくい。


 別にシンデレラバストでも趣があっていいと思うのだけどね。大好きよ。


 眷属のミーナちゃんとか、胸は丘どころか平原だよ。もうね、逆に萌えるよ?

 私? もちろん虚乳ペタンコだよー。そっち系のフェチの人に大絶賛だよー。


 とまあ、日々は平穏。なべてこともなく。


 マリーとお休みのキスを名目にスキンシップアドバンスをしたその帰り道。

 え? うん。ただの愛情交歓だから。互いのキスに深めの愛撫が加わっただけ。


 二人して抱き合ってちゅっちゅすると、とっても気持ちいいよ。ホントだよ。


 いいのいいの。大人が幼女にやったらアウトだけど、幼女同士ではセーフ。

 専属メイドのくんかくんかすーはーは、女主人たる私からの報酬扱いでセーフ。


 ただ問題があるとすれば――

 最近、マリーが眷属化に興味を持ってしまったこと……。


 当人が眷属化を切に希望すれば、私はマリーに何度か考え直しを提案するも、最終的には彼女の願いを叶えるだろう。つまりマリーの首筋を咬むということ。


 でもね、私としては……ね。


 咬みたくないのが本音。


 よほどの切羽詰まる理由でもない限り、お友だちを下僕になどしたくない。


 マリーは人として、できれば最初から最期まで全うして欲しい。

 彼女は今現在、元の世界に帰れなくなって、少しだけ不安になっているだけ。


 その心の迷いが、吸血鬼化への願望を持たせているだけ。


 私がスキンシップをするのは、単に百合遊びをしているのではなく、友人としてあなたは一人ではないと、肌と肌を合わせて思い立ってほしいと願ってのもの。


 万の言葉よりも言語外の身体の語らいの方が効果を見込める場合もある。


 まあ普通に、女の子同士でいちゃつくのが楽しいのもあるけどね。



 自室に戻った。窓の外を見やる。今夜は雨降りだった。私は目を細めた。


 ザーッという雨の音は、降雨後に地面にぶち当たった音であって落下音ではない。


 では、落下中の雨音はどんな音を奏でるのだろう。


 人類は光と音によって生命を形作り、それを核に精神で覆って肉を形作る。

 彼らの胸の鼓動音は、単なる心音ポンプではなく、生命の音の一側面なのだった。


 うー。童貞の男の子の血が吸いたいなー。


 とびきり可愛い、女の子みたいな美少年がいい。何なら後ろは使用済みでもいい。


 ああ、血が吸いたい……ッ。


 雨音からとめどめなく思考を遊ばせていく。

 付き添ってくれているセラーナの方へ振り返って抱きつく。おっぱいを揉む。

 セラーナ、甘い息をこぼして歓ぶ。彼女の眼は、はぁとマークに染まる。


 いやいや。私、何してるのかって話。



「……カミラ、何してるの?」

「ふにゅ? あ、お兄ちゃん。セラーナのおっぱいモミモミしてるのー」

「あ、うん。見たそのままだね……」



 遠慮気味にコンコンコンと三度ノックして、その割にはこちらの返事を聞く前に上半身だけ部屋に入れてきたのはカインお兄ちゃんだった。



「お兄ちゃん、どうぞ入ってきてー」

「お邪魔するね」

「それで、どうしたのー?」

「うん、実はね……あれ、やっぱりここにあったのか」

「ふにゃ?」

「これこれ、これだよ」

「……なんでここに、これがあるの?」

「それは、ぼくに聞かれても……」

「にゃあー。ちっとも知らなかったよ? えっ? どうして?」

「うん、カミラが嘘をついてないのはわかるよ」



 テーブルトークRPG『スノーホワイト』のシナリオセットが、なぜか私の部屋の、それもテーブルの上に鎮座していた。



「お兄ちゃん、これがなくなってるって気づいたのって、いつ?」

「ついさっきかな。自作の暗黒神話シナリオを作る参考用に、他のシナリオを引っ張り出しているうちに気づいたんだ。あれ? そういえばないなあって」

「にゃあ。メイド隊のみんな、ここにこれを誰か置いたりしたー?」



 セラーナ以外の五人に尋ねてみる。セラーナは私のお付きをしていたのでこの部屋にはいなかった。なので対象から除外できる。



「「「「「いえ、今、初めて気づきました。申し訳ありませんっ」」」」」



 うーん? 私とお兄ちゃんは小首をかしげる。二人で『スノーホワイト』ゲームシナリオセット見やる。特に不審な点は見当たらない。なぜここにあるのか以外は。



「よくわかんないね」

「わかんないねー」

「ともかく、これ、持って帰るね」

「うん、持って帰ってね」

「――っ!? あれっ、これ重い……!?」

「にゃ!? 大丈――」



 お兄ちゃんがシナリオセットを取り落としそうになったので、咄嗟に私は手を出して、それを支えようとしたのだった。


『汝……願イ……ヨウ……』



「――ん? あら?」

『世界で一番美しいのは、ブリュセル王のお妃、クリエムヒルト様。貴女様です』

「……誰よ、それ?」

『えっ? いえ、どう申しましょう。貴女様としか言いようがございませんが……』

「……」



 わけがわからない。わからないけど、転移が発動したことだけは直感でわかる。


 ここは、どこ? そして私は現在どういう状況にある?


 後で知る話。私は、白雪姫(スノーホワイト姫)をいじめ倒す、意地悪で邪悪な継母のクリエムヒルト(見た目二十代半ばから後半)になっていたのだった。


 そう、ここはTRPGスノーホワイトの物語世界。これも後で知るのだけど。


 ちなみに先ほどの回答は――


『鏡よ鏡。世界一美しいのはだあれ?』


 との有名な質問の、魔法の鏡からの回答だった。


 いや。いやいやいや! この展開はないよ!? 変化球すぎるよ!!

 ホント、これ、どうすればいいの……?


 唯一、原作みたいに実母が実娘をいじめる最悪パターンでないのが救いだけれど。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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