第50話 見よ、勇者は帰還せり

 何が悲しくてヘンデルのオラトリオなのかな。泣いちゃうよ?

 私は勇者ではない。それだけは絶対に有り得ない。

 事情あって、ちょっと他国で魔王をやってみた幼い吸血姫に過ぎないのだ。


 確かに――

 ベリアル魔王国は実質的には私のモノとなってしまった。が、それはミーナちゃんに全権委任という形にすることで一応は解決した。眷属魔王ミーナちゃんである。


 ほら、某国民的RPGの三作目でも表向きの魔王が上の世界を支配して、でも実は下の世界に真の魔王がいるし。ナニモ、モンダイ、ナイヨ。


 滅びこそ我が望みとか、そういう中二心を拗らせた気持ちは微塵もない。

 だって私、遊びたい盛りのちっちゃな女の子だし。


 ちなみに表の魔王、ミーナちゃんは私が置き土産にした――

『分離された子ダンジョン』と『元ダンジョンから切り離して子ダンジョンと接続した地下ベリアル魔王王都』の運営にかかりきりになっているみたいだった。


 まあ、そりゃあね。初めは魔王業務なんてもの、戸惑うよね(わりと他人事)。


 一応注釈的につけ加えると、ダンマスたる私が持つコアはダンジョン運営をして魔力を生産すれば生産するほど力を強め、一定レベルで子ダンジョンを作るという妙な特性を持っている。ちょうど宇宙が膨張の果てに子宇宙や孫宇宙を作る感じに。


 昨日も彼女から半泣きベソかきで助けて連絡コールを受けて、転移ゲートで出張サポートしてきたところだった。あの子、レベルは7500あるのに意外とヘタレちゃんなのよねぇ。

 ついでに百合百合してきたのは秘密。と言ってもキスを交わして少し触りっこしただけの清き関係なので心配ない。だってこの幼女体でディルドーとか怖いし。


 え? ちっともKEN-ZENではないって? そうかな? 別に、普通じゃない?


 とまれ、魔王としてのミーナちゃんは。


 世話のかかる子ではある。でも、一生懸命なのはむしろ好ましいのでこれで良しとする。私の初めての眷属だしね。眷属ランクが王級というのは意味不明だけど。


 さて。


 ベリアル魔王国へ転移してダンジョンを展開、ミーナちゃんに憑依して影の魔王として色々と力づくで問題を解決し、一ヶ月と半月後に懐かしの自宅へ帰還、愛する両親とお兄ちゃんにペロペロと甘えまくって更に一ヶ月が過ぎようとしていた。


 いやあ、ホント、魔帝陛下は凄い方でした。心からリスペクトします。


 何がって、私の転移原因が私の前世の今際の願いにあると知ってから、どこをどういう風に動いてくれたのか、どうやら神様的な方と交渉をして転移間隔をある程度広げてもらうことに成功したのだった。なのでこの一ヶ月は平穏無事なのでした。


 ちょっと問題があるとしたら。


 スレイミーザ帝国からだと星の裏側に近い位置にあるベリアル魔王国は、実は私の手の内にあることを魔帝陛下はパパ氏に詳しく教えちゃったことか。

 つまり、魔王適性があるのでオレの皇后になるか次代の魔帝『スレイミーザ四世』としてオレの養子に入るか実父であるお前が選べと『脅した』のだった。


 パパ氏、血の涙を流して私と離れるのを嫌がった。


 私だってパパ氏と一緒にいたいよう。抱き合う父と娘。ほっぺをちゅっちゅする。


 私たち父娘おやこはとっても仲良しさんなのである。


 そんな様子を魔帝陛下は、呆れ半分苦笑いで五千年ほど待つからその間に決めろと残して帰っていった。陛下としては皇后より養子入りを求めているようだった。


 そんな、わりと平穏な日々。


 今夜も天空の月がしんしんと青い光を落として良い天気。私の心も深く深く安らぎの闇に染まろうというもの。太陽とかちょっとね。あの光は私には合わない。

 そういえば前世も、太陽光に当たると光過敏症アレルギーが発症して肌が荒れて大変だったなぁ。前世今世に関わらず、私は太陽とは仲良くできないようだ。



「にゃあー。お兄ちゃん、あーそーぼー♪」

「カミラ。うん、あそぼっか」



 マリーに毎夜のお休みのキスをして、その足でお兄ちゃんの元へ。


 そうそう、お休みのキスなんだけど――試しにマリーの唇にダイレクトにキスをしたら、怒られるかと思ったらむしろ積極的に受け入れてくれた。


 ん? 別に変なことはしてないと思うよ。私はマリーと仲良くしたいだけ。


 そうして、ついばむ感じで二人はちゅっちゅとキスを交わし、私はマリーの耳元に大好きと囁いた。彼女も私を大好きと言ってくれて、キスを交わした。


 まあ、所詮は幼女のささやかな愛情交歓なのでこれ以上の行為には至らない。

 性癖が歪む? えっ、どうして?

 女の子はね、幼少期に同性で恋愛の予行をするものなのよ。



「ねえねえ、今日は何をして遊ぶー?」

「今日は、テーブルトークRPGをしよう。ぼくがKPゲームキーパーでカミラがPLプレイヤーね」

「うん!」



 それで、私は今、カインお兄ちゃんの部屋に遊びに来ているのだった。

 お兄ちゃんは次期当主としての教育を受けつつ、しかしそれだけでは息が詰まるのでわりと緩やかな学習の日々を過ごしていた。


 カゲロウみたいに短命の、ほとんどすべての人類。

 特にヒューマン族では、貴族教育などスパルタンな家庭教師を付けられて分単位で詰め込み授業を行なうらしい。あんなの、ほとんど虐待だね。カワイソー。


 私たち不死族に寿命なんてない。成長は存在としての格と魔力が主軸となる。

 何よりパパ氏はサイキョーバンパイアである。世代交代なんてあるのだろうか。


 まあ、そんな心配はパパ氏とお兄ちゃんの兼ね合いによるもので。100万年くらいしてパパ氏が公爵家の当主に飽きたときとかに交代すればいいのじゃないかな。



「作品はどれにしよう。『外なる暗黒神話』か『特別な土曜日の夜』か『二重交叉』か。スタンダードな『剣の世界』もいいよね……んん、あれれ?」

「にゃあ?」

「これは、なんだろ。こんなのぼく、ゲームシナリオ屋さんから買ったかな?」

「ふにゅー? 何、何ー?」

「スノーホワイトっていうゲームタイトル」

「白雪姫?」

「ああ、これってそういう風に読むのか。カミラ、すごいね」

「にゃはっ。お兄ちゃんに褒められてうれしいのっ」

「うふふ」



 私はお兄ちゃんに抱きついて喜びを表した。うふふ、このショタボディ。堪らん。

 

 やっぱり幼い男の子も良いよね。中性的で、ふにっと柔らかくて。

 増してお兄ちゃんは某福音人造決戦兵器アニメに出てくるアヤナミ少女をTSショタにしたような顔立ちと髪型の美少年で、私の嗜好ハートをガッチリキャッチ。


 金髪の美少年で、男の娘にしてもまた良しという。わが軍は圧倒的ではないか。


 ああ、堪らん。もとい、タマランチ。タマランチ会長である。



「カミラね、お兄ちゃんみたいな人と将来ケッコンしたいの!」

「えっ、突然どうしたの?」

「お兄ちゃんと兄妹じゃなかったら、カミラ、お兄ちゃんとケッコンするのにー」

「ふふっ、そうだね。可愛いカミラとならケッコンしたいね。ふふふっ」



 子どもの他愛ない掛け合いのあと、結局は私たちはTRPGではなく魔法式ボードゲーム『闇を払う曙光と漆黒の逆十字』なる仮想ウォーシミュレーションで遊んだ。


 TRPG『スノーホワイト』? うん、嫌な予感がするので避けたよ。


 レッドサンブラック――ではなくて『闇を払う曙光と漆黒の逆十字』は、最終的に私の放った超高々度超々距離爆撃魔動機フガク12機編隊による、絨毯核爆撃で第三帝国大総統アドルフを首都ベルリーンごと爆殺消滅させて終了していた。


 戦いの後にはぺんぺん草も残さない。遊びとはいえ戦争とは無常である。


 注釈。

『外なる暗黒神話』=TRPGクトゥルフ。拙作シナリオ『覚悟を決めて飛べ!』

『特別な土曜日の夜』=サタデーナイトスペシャル

『二重交叉』=ダブルクロス

『剣の世界』=ソードワールド

『闇を払う曙光と漆黒の逆十字』=レッドサンブラッククロス

『スノーホワイト』=IF版白雪姫=童話モチーフ当作品オリジナル


 なお、本作品でのTRPGの内容は、こちらの世界のソレとはだいぶ違う模様。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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