第49話 エクストラゲーム 後編

 場所を移し、私たちは待った。


 最終階層、地下20階。19階層から降りてすぐの、土の相の玄室。


 警備モンスターを引っ込めて、私と魔帝陛下は待ち受ける。

 私と『大罪』ミーナちゃんとのレベル差は大きい。約6000の差。


 でも戦う。勝算は――たぶん、行けると思う。



「勝つには、根性を悪くしないといけないの。でも、それは卑怯ではにゃい」

「策を練り、ときには敵に毒を盛って、勝つべくして勝つ。戦いに卑怯などない」

「にゃあ。そろそろ前準備しようっとー」

「うむ」



 そんな感じで、彼女がやってくるのを待つわけで。


 破竹の勢い。レベルによるゴリ押しと、加えて、彼女は『知っている』から。

 何せその身体をさっきまで好き放題に操っていたのは私なのだ。行動はつぶさに見られていた、もしくは記憶に残っていたと考えて間違いないだろう。


 階層すべての罠の種類と位置、警備モンスター、五行思想による各部屋の特徴。


 ネットで検索しつつ、答えを見ながら、ダンジョン攻略しているようなもの。


 そりゃあね、破竹にもなるね。


 でもね、それだけじゃ勝てない。あなたは吸血鬼が何たるかを理解していない。


 調べたところ、ベリアル魔王国の吸血鬼の格はあまり高くないのだった。

 真祖、元祖の吸血鬼がいないのだ。精々が伯爵程度の格の者しかいない。


 なぜなのか。


 それはとても簡単な話。ベリアル魔王国は吸血鬼たちの故郷ではなかったから。


 私は先ほど『この国には真祖、元祖の吸血鬼がいない』と語った。


 吸血鬼の故郷とは地霊だけに『産土の土地』は当然として、それ以前にまずは吸血鬼たちの祖となる『真祖、元祖』の存在が必要となってくる。


 とはいえ、それでこの国が魔族の国家として劣っていると考えるのは早計で。


 代わりに、ベリアル魔王国は悪魔系の祖先を持つ魔族がたくさんいる。

 彼らは契約を交わせば必ずそれを守るため、ある意味どんな種族より誠実となる。


 つき合いかたさえキチンと踏まえれば、悪魔は良き隣人となろう。


 話を元に戻そう。吸血鬼の格について。


 私は『真祖』のパパ氏と『元祖』のママ氏の血を受け継ぐ、稀なる娘。

 必然として強烈に、吸血鬼の血統として『濃い』存在なのだった。


 破壊音。


 玄室の扉を打ち砕いて、大罪に操られたミーナちゃんが突入してきた。


 揺らぐ白煙。熱波を伴った危険な吐息。前傾に、歪にゆがむ仕草。



『おおぉおおおおぉおぉぉぉーっ!!』



 タンッ、と一歩下がる――と見せかけて前方へ跳躍してくる。

 忍術に猿飛というフェイント技がある。そう、サスケ・サルトビが得意とした技。

 アレに似た動きで、泰然と彼女と向かう『カミラ』へ飛びかかる。


 手刀で打ち抜きに来る。キリ術か。異様に伸びた爪が恐ろしい。


 だが、しかし。


 ガギンッ、という金属的に硬質の音が。

 それは拒絶の音でもあり、反撃の音でもあった。



『――うぐっ!?』



 衝撃をモロに受けてミーナちゃんは後方へ吹き飛ばされる。


 これが、またとないチャンスとなる。


 反撃、または反射による衝撃。

 吹き飛ばされる。慣性はベクトル付けられる。

 しかも空中である。

 一瞬の驚きとなぜだという疑問。

 明らかに隙が生まれる。ここをつけ狙う。


 


 実は初手で彼女が打突したのは、私の姿を模したダミーちゃんだった。


『ギロチン男爵の謎の愛人』


 覚えておいでだろうか、この想像魔法を。攻撃を反射する身代わり人形魔法を。

 今回の転移で、もしものときのためにあえて出し惜しんだ魔法だった。


 加えて。


 私は変怪できるのだ。吸血鬼だから。鏡に映らない、地霊――星霊せいれいなのだから。

 必要があれば狼やコーモリや、霧になれる。もっと他のグロテスクなものにも。



 私は玄室にダミーちゃんを配置し、自身は霧化、広がって薄く滞留していたのだ!



 そして――



ツ カ マ エ タ チェックメイト!」


 私は身体を復元する。ミーナちゃんはそれを見るなり、私の頭部を吹っ飛ばした。

 が、無意味。ちゃんちゃら無意味。

 私は吸血鬼だと言った。それも真祖のパパ氏と元祖のママ氏との娘。


 高位の吸血鬼は、頭を吹っ飛ばされたくらいではダメージの欠片にもならない。


 真なる吸血鬼の闘争。


 吹き飛ばされ残された胴体。その首の断面から、無数のムカデが生え出てくる。毒々しい緑色の粘液を纏い、ギチギチと異音を立ててミーナちゃんに集っていく。


 私は胴体に頭を再生させる。刹那、パンッとその新しい頭も吹き飛ばされた。すると今度は首の断面から大小の異形の多頭蛇とナメクジが大量に吹き出した。


 多頭蛇はミーナちゃんに嫌らしく絡みつく。ぺたんこの胸元をまさぐる。ナメクジは身体を這いまわる。双方、ヌメヌメと嫌悪感の強い粘液を纏いつつ。


 吹っ飛ばされた二つの頭は、無数の蟲の節足を生やしてズリズリとミーナちゃんへ向かって行く。私は更に首の数を増やした。まるでプラナリアだと自身を嗤う。


 今度の新しい頭はぐちゃッと潰された。が、直後にヒル状の毒々しい血色のゲルがミーナちゃんを呑もうとかぶさってくる。まごう無き得体の知れない蟲たち。



『ギッ、グッ、あああっ!?』



 蟲たちに与えた使命は、とにかく纏わりついて彼女の身体に粘液を擦りつけることだった。粘液は好気性硬化樹脂反応のように即ガチガチに固まる特性を持っている。


 そうして『私たち』は、捕らえた彼女の全身を『口で咬んだ』のだった。


 レベル差は、まともに戦えば絶望的だっただろう。でも私に敗北の文字はない。


 ミーナ・イシュター・ベリアル。


 名伏し難く悶え悦べ。残酷なる刻。汝、我の、眷属となるべし。



『あっ、ああああーっ!?』



 ギュンギュン血を吸う。代わりに、私の不死の血を注ぎ込む。真祖と元祖の血を受け継ぐ私の、極悪なる眷属化の強制を――レジストできるならやってみろ!!


 私はミーナちゃんの身体を間借りしていた。彼女の身体はよく知っている。


 ペタンコの胸、つるつるの下腹部、細い腕、歳にしては長い脚、華奢な身体。くびれのない寸胴の腰つき、可愛いプルンとしたお尻。ちょっと成長の遅い十歳女児。


 ミーナ。あなたのそのレベルは嘘。本当は、たった100の低レベル。


 7500レベルは、大罪が私から奪ったもの!


 あなたの弱点は、あなたの素の部分が弱すぎること。大罪は人選を誤った。


 これで眷属化できないはずがない。私は既にチェックメイト宣言をしている。


 死んでくれる?Alice say will die. 下僕になってほしいのWill become immortal.可愛がってあげるからI'll take care of you.


 初めての眷属下僕が、自分が実効支配していた女の子で、ある意味良かったかも。



『あっ、あっ、キモチイイっ、キモチイイよっ。ああっ、切ないよっ。もっと、もっと吸ってっ! お股が熱いっ。どうして? 触りたいっ! あああっ、アッー!』



 ちょっとやり過ぎな気もする。

 が、吸血鬼に吸血されたら超気持ち良いのは御存じの通り。


 もう、夜の独り遊びでは満足できない身体にしてあげる。私の可愛い下僕ドレイ


 ズギュゥゥゥンッ!!!


 私はミーナちゃんを我が眷属へと貶める。種族として悪魔族は放棄してもらおう。

 太陽に背を向けて。老いず、病気にもならず。毒は無効。不老と不死。


 それが吸血鬼。それが、アンデッド。永劫の夜を歩む者。


 ふむ、ランクは――うん? 王級!? 公爵の上? 貴族階級を超えてしまった?


 なんだか凄い吸血鬼ができてしまった。この分なら太陽の元でも平気だろうけど。

 いずれにせよ。絶対に裏切ることのない我が眷属――下僕の完成である。


 私は身体を元の幼女姿に立ち戻した。しゅるしゅると。


 すると目にはぁとマークを浮かべたミーナに、愛情たっぷりに抱きつかれた。



「は……あん♪ マスター、マスター♪ 私の、私だけの偉大なるマスター♪」

「にゃあ。カミラはミーナのご主人様にゃ」

「はい、マスター。愛してます♪ この身体、心、すべてを貴方様に捧げますね♪」



 ぶちゅー、と女の子同士で濃厚なキスをする。

 口内に彼女の舌が入ってくる。私も彼女の口内に舌を入れる。べろちゅー。


 淫らな音がしばらく続く。垂れる涎。糸を引いて繋がる唾液。


 ロリロリ百合キス? 18禁? なろうでうっかり2回警告貰ったあのパティーン?

 否。断じて否。

 主従関係での深い敬愛と篤い忠誠を、その態度で受け取っただけ。


 別に幼女同士でキスくらい、平気でしょ。


 それはともかく。



「むふー。勝ったにゃ!」

「はい、私はマスターに敗北しました♪」



『祝。大罪『憤怒』はあなたに敗北し、その証拠にあなたに絶対の服従と忠誠を誓いました。今後、あなたはいかなる怒りも飼い慣らせるでしょう。また、今回の出来事であなたの吸血能力に拡張解釈が適応されます。感情のコントロールは嗜好のコントロールでもあります。それがゆえに隠されていたサブタレントが萌芽しました』


 拡張解釈? 何、それ?


『エナジードレイン時、レベルの他にレベル上限も吸い取れるようになります』


 うわ、えげつない。じゃあ最終上限が1500の人類にこのスキルを使えば。


『最終上限を4にしてしまうことも可能。なお、吸った上限はマスキングされた魔族のレベル最終上限向上に適応されます。レートは1/1。最低4から吸い取れます』


 魔族にも最終レベル上限なんてあったんだ。知らなかった。

 極めれば魔族は魔神にもなれるとはいえ、ふーん、そういうものなのね。


 妙に得心の行った私は、思い立ってミーナにダンジョンコアの調節法を教えることにした。彼女は今やベリアル魔王国の女王。コアの操作を知らないと色々マズい。



「ふふふ。これでこの魔国はカミラのモノになってしまったわけだな」

「別に支配するつもりはないの。遠交近攻での友好国関係でいいと思うー」

「欲のないことだのう。しかしそういうところもまた愛おしいもの。フハハ!」


「私は愛するマスターさえ良ければなんでも致します。そうです、はぜひ添い寝をさせていただきますね。心を込めて身体をお慰め申し上げます……ハァハァ♪」


オレもその百合セクロスに参加したいのう」


「普通にねんねすればいいのー。どうせ寝るときはカミラは棺で寝るし。もしものときのためにセラーナから携帯用の棺収納ポーチを貰ってるしー」



 ……ちょっと、ミーナの愛情が重いかも。


 でも眷属とはこんなものかもしれない。今度パパ氏に色々と尋ねてみよう。


 私は恋慕に近い感情を隠さずくっついてくるミーナに若干押され気味だった。


 まさか、帰還の際にこの子も付いてくるとか言わないよね……?




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る