第48話 エクストラゲーム 前編

 ベリアル魔王国の女王宣言をし、一人称を余に変更してから一ヶ月が過ぎた。


 まず、簒奪王ルシフとその一族、協力者は全員公開処刑した。

 ただし協力者に関しては、その立場や一族との兼ね合いにより嫌でも協力せざるを得ない者もいたため、情状酌量者は意外と多い。


 その辺りは魔帝陛下の読心と鑑定ですべて詳らかにしたので漏れはない。


 まあ、処刑なんてホントはしたくないのだけどね。でもこれ、王者の義務なの。


 ああ、そうそう。


 封印大迷宮に封じられた勇者一行は、相変わらず生きて死んで蘇っている。


 終わらないのが終わりとはよく言ったもの。罪状は虐殺罪。刑期は無期限。


 さて、これで邪魔者はすべて排除した。


 私は王都をダンジョン内都市に遷都する大号令を、王都民全員に掛けた。

 大切な臣民を保護し、豊かな生活と安全を保証するために。


 すべての原動力は、王都ダンジョンの更に深くに流れる龍脈から汲み上げて精錬した大量の気と、ぐるぐるギア回しの刑で発電した補助電力のおかげ。


 当初は面食らっていたようだが、王都民の私への評判は魔王国始まっての最強魔王とのことで、わりとスムーズにダンジョン都市遷都は実行されている。


 魔族は、強き者に従うのが常。


 謀反者をキッチリ処分し――

 なおかつ、勇者問題を解決したのが主な理由となろう。


 なお、旧魔王ダンジョンは兵を鍛える実戦訓練施設として軍事転用させた。

 訓練中に致命的な事故を起こしても、瞬時に収容所で回復措置が取れるようにしたのだった。ただし、治すのは傷だけで病まで癒せないよう調整してある。


 ダンジョン特性で宝箱も出るし、比較的安全に身体を鍛えられてしかも臨時収入も見込める。現金なもので、兵たちはこぞって訓練に邁進するようになった。


 これで国内兵力も向上し、同時に宝箱の宝により経済循環の一助にもなる。良いことづくめで私としてはご満悦といったところだった。その調子で頑張って欲しい。


 さて、さて。


 正直に言えば、裏切者たるルシフとその協力者を一族郎党まとめて根絶やしにした時点で今回の転移事件はクリアしたものと私は考えていた。


 が、そうではなかった。


 まだ、あるよね。


 そう、『大罪』を名乗る者の襲撃が。


 前回、なんだかよくわからない『大罪』なるものが最後に侵入してきた。

 なんでも『暴食』だという。

 私はそんなむちゃ喰いはしていないつもりだけどね。


 はて、何がトリガーだったのやら? それより可愛い童貞男子の血が吸いたい。


 ここ数日は、警戒の意味も込めてダンジョン都市最下階に建つ魔王城ではなく、本来的な意味でのダンジョン最下階、黄龍の間で時間を作っては滞在していた。


 一応、名目上はダンジョン運営と都市部の発生魔力の推移、その監視としている。

 魔王がダンマスなので、これは正当な仕事だと周知はさせている。


 なお、別に今更監視など必要なく、自動モードでも全然問題なかったりする。


 てーんてーんてーん、てててーん、てててーん。


 久しぶりに聞く、侵入者警報。



「――来たのにゃ!」

「一体、何が始まるというのです?」

「第三次世界大戦、じゃなくて『大罪』がやってくるの!」


「……ん? あら? オレ、元の体に戻っておるな。……おお、カミラ! そなたのハァハァロリロリしい姿、戻っておるぞ! 良いのう良いのう、幼女は良い!」

「ふにゃ!? カミラ、元の姿になってる! 陛下も以前見たおこちゃま姿にゃ!」



「「と、いうことは……?」」



 


 私はダンジョンコアをいじって侵入者をサーチする。

 いた。ついさっき侵入してきたのに、もう地下五階だとは。疾いなーっ!


 その姿は、ここしばらく、よく見慣れた女の子であった。

 というか、ついさっきまでの自分自身だった。


 ミーナ・イシュター・ベリアル。


 大罪は、彼女の身体を以て、やってきた。


 その姿、十歳女児とは思えない異様な様相を醸し。否。見た目は変わっていない。


 ただ、一挙手一投足が――明らかに異形のそれであって。


 吐く息が高温なのか、呼吸するたびに轟轟と濃厚な湯気が噴出している。

 猫背気味の立ち姿、伸びた爪、どこを見ているのかわからない正気を欠いた双眸。

 歩みは前傾姿勢であり、すぐにでも飛びかかる肉食獣の怖さを彷彿とさせる。



「にゃあー。ヤガミンにそっくり!」

「誰?」

「あのねあのね、前世のね、ケーオーエフ97の暴走ヤガミンにゃ」

「あー。身体が元に戻ったので子供らしい要領を得ない答え方になっておるのう」

「ごめんにゃさい」

「うむ、まあ、そういう人物がおったと」

「にゃあ!」



 かつて大阪の江坂に本社を置いたゲーム会社がリリースした格闘ゲームの、とあるキャラを連想する姿だった。97は散々プレイしたなあ、セ○サターンで。


 確か暴走モードとかで、ツキノヨルオロチになんたらかたらとかいう名前だった。


 にしても、疾い。まるで空中を駆けるかのよう。どんだけー。


 魔眼で鑑定。彼女のレベルは7500。


 んん、と思う。違和感が。


 思い立って、自分自身のステータスを確認する。レベル1600。


 私は愕然とする。



「陛下っ。カミラ、弱くなってる!」

「そのようだのう」

「なんで!?」

「ミーナの身体を間借りしておったので賃貸料代わりに取られたとか?」

「もー! 賃貸料高過ぎにゃし!」

「むっふっふ。理不尽をそのひと言で済ます辺り、そなたが愛おしゅうてならんわ」

「なってしまったものは、しようがないの」

「だな。前向きでよろしい」



 私は自らの寸胴幼女腰に両手を当てた。ああ、この久しぶりのプニプニボディ。


 レベル差は圧倒的。これを覆さないとこちらの敗北は確定する。


 魔帝陛下に頼る? それはもっとも悪手。陛下は私を試しておいでなのだ。

 いや、ちょっと違うかも。

 信じて、あえて動かないが正解か。この程度のピンチ、切り抜けよと。



「まあ、本当にヤバいときは干渉するさね」

「うん! カミラを見てて、陛下!」

「子を持つ親の気持ちがわかるなあ。そっか、こうやって子供は成長していくか」

「吸血鬼の、本当の闘争を見せてやるの! 請うご期待なの!」

「おお、これは期待大だな?」



 ここは一つ、私は父母より頂いた吸血鬼の特性を心から信じてみようと思う。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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