第47話 勝利の凱旋……ッ!

 注意。今回、ちょっとだけ長いです。



 私の政治活動は演説にこそあった。

 前世第三帝国の狂人閣下は、あるとき、そう語ったという。


 私としては政治はときに劇場型であるべきだと思う。民が理解しやすいから。


 腰巻きだけの姿となったルシフを、ゴルゴタで磔になったどこぞの救世主みたいな感じに十字架に縛り上げる。腕と足は杭打ちではなく、頑強な鎖で巻き固めていた。


 私たちは征く。私の軍勢が征く。


 先頭に露払いのミノタウロスが十体。平均レベル3500。筋肉ムキムキマッスル。

 地獄を想起させる黒尽くめ鎧に血の滴るような色彩の巨大バトルハンマー。


 殺意満々。むしろ殺意しかない。目が合ったら秒で殺戮を開始しかねない。


 そんなヤベーヤツがまず十体、王都のメインストリートをノッシノシ行進する。


 見よ、無人の野を征くようだ。


 次いで群青で統一されたスケイルメイルに蒼穹の水属性魔法付与ランスを装備したリザードマンたちが整然と行進する。数は千体、平均レべルは2500。


 ヒラヒラとした白の衣装を着た天使たち。男とも女とも印象される美丈夫。

 上級中位の智天使が六体。実はこの天使は4つの顔と4枚の翼を持つが、アレはヤバめのバトルフォームなのでここでは見た目を重視した。平均レべル7500。


 そして無駄に金銀緋色絢爛華美な輿に座する、いつかどこかでのサチコ・コバヤシを彷彿とさせる衣装の私。アレって衣装というよりか、もはや舞台装置だよね。

 担ぐ人員はダンジョン討伐隊リタイア者が20人。全員男、ボンテージ拘束衣装で口にはボールギャグ。ドМ調教済み。悦びの表情のまま私を運ぶ。


 演出として、肩パッドムキムキマッチョモヒカンたちが遠慮のない殺気を振りまきながら私を警護する。計十二名。彼らの平均レベルは5000。亜神レベルである。


 私の輿のすぐ後ろに、十字架巻きになった裸の簒奪王ルシフの移動刑台がゴロゴロと付いてくる。彼は気を失ったまま、されるがままとなっている。


 その後ろに侯爵級の悪魔たちを六体。平均レベル7500。気の弱い人が見るとヒキツケを起こしそうな奈落の凶悪面相。でも交わした契約はきちんと守るタイプ。


 その後ろにゴブリン、オーク、コボルトたちの群体による軍隊。それぞれ3000体。平均レベル800。意外かもしれないが、行進する足並みは怖いほど揃っている。


 〆に、レベル8500のこれまた巨大なファイアドラゴンを一体。ズンズン歩く。


 ウェルカムトゥザ・ブラック・パレード。マイケミカルロマンス。


 勝利の行進。


 勝者、ミーナ・イシュター・ベリアル。

 敗者、サイファー・プライドリィ・ルシフ。


 王都民へ、これ以上なく分かりやすくデモンストレーション。


 私たちパレード一行は、王都王城にしてベリアル魔王ダンジョンへと向かう。

 王の争いをして勝ったのだから、あの城はもはや私のものであった。



「待て! 此処から先は行かせぬぞ!」



 不意に、大音量でそんな叫び声が。


 表情をあえて変えないまま、ゆらりと私は声の主を見やる。


 なんだあれ。


 視線の先には高さ15メートルクラスの人型ロボットらしきものがいた。

 全長だけ見ればミノタウロスの3倍はある感じであった。



「ドラグナー?」

『勘だけどマイナー路線を攻めてるわね?』



 微妙なツッコミに思わず吹き出しそうになるが、気合で我慢する。

 私は右手をひょいと上げた。


 命令、ミノタウロス。

 前方の不明な人型物体を処理。破壊せよ。



「――ぐもぉぉぉぉっ!!!」



 やおら、ジャンプ一発。ミノタウロスたちは思い思いに跳躍する。


 そして。


 ドゥガァッツゥゥゥゥゥン!! とバトルハンマーでロボを頭からぶん殴る。


 そして、戦闘終了。


 ロボのレベルは3000だった。


 おおかた、趣味に走ったゴーレム担当のドワーフが作ったのだろう。


 などと思っていたら、ロボの腹部からドワーフらしきずんぐりむっくりが這い出てきた。バトルスーツなのだろうか、銀地に青のプロテクター姿だった。



「捕らえよ。王の行く道を塞ぐのは重罪である。キッチリお仕置きしてくれる」



 命令だけモヒカンズに残して先を行く。



 王城内は大混乱となった。


 まあね、そりゃあね。


 牢獄離宮を叩き込まれたベリアル王家主筋最後の娘、ミーナ。

 彼女は――私は、盛大な逆宣戦布告をブチ上げ、そして簒奪王を倒してしまった。


 魔族は特に、強きことを是とする。


 強さは正義。強い=偉いのだった。


 だからこそ混乱する。自分たちの知る王女は、その歳の見た目通り、それほど強くなかったはず。でなければ、ルシフ一族の謀反など起きないはずなのだ。


 しかしどうあれ、圧倒的勝者として王都王城にしてベリアル魔王ダンジョンに舞い戻ってきた。のみならず、彼女はこう言う。ダンジョン遷都をする、と!


 彼女の精神体からサルベージした記憶を、魔帝陛下が補助に教えてくれる。


 この者は裏切ってはいない。この者は板挟みで裏切らざるを得なかった。この者は積極的に裏切った。この者は事件当日は別の都市にいた。私はすべて、記憶する。



「女王陛下! なんともご立派になられて! 臣は陛下を信じておりましたぞ!」

「さようか、行政大臣よ。その方は父王の政に不満があり、ルシフをそそのかしたそうじゃのう? いや、何も言うな。その方には喋る権利などないし抗う権利もない」

「――うげボォっ!?」



 モヒカンの一人にぶん殴られてそのまま牢に引きずられていった。



「裏切者は一族郎党全員処断する。老若男女など関係ない。我が父、我が母、年端も行かない弟にして立太子が処されたこと、我は決して忘れぬぞ!」



 玉座に座し、瞬時に魔力を込め、有り得ないほどの大音量で私は宣じる。

 ビリビリと衝撃波が残り、迫力に侍女の半数が恐怖で気を失い、しかも失禁した。


 パチン、とフィンガースナップしようとして幼女ハンドでは無理なので手を叩く。

 すると侍女らの恥ずかしい尿シミはキレイに浄化された。お漏らしはダメよ。



「これより正式に女王宣言を行なう。まず一人称はこの瞬間より余と称す。……臣下一同、聞け! 余はミーナ・イシュター・ベリアル。ベリアル王朝の女王である!」



 有無など言わせない。正当な血脈、唯一残された王家主筋。自前の兵力を連れて武力で圧倒し、自らを国の頂点を宣する。逆らう者は、全員、ぶっ飛ばす。



「異議があるなら言え! その場でそっ首を落としてやろう! 弱きは支配者になれず。ゆえ、余は強者となった。もはや余を止められるものは誰も――」


「いるぜ、ここに。不服を述べてやる」

「……誰だ、その方らは。我が国の民ではないな? 女王たる余に無礼なるぞ!」



 ふらりと、四人組の男女、若者たちが現れて私の前に進み出た。

 魔族ではない。人類だ。血のいい匂いがする。ちょっとお腹が空いてきた。



「異議があるから、言ったまでさ」

「ふむ、アレか。その方らは聖国と名乗る国の、いわゆる勇者どもか?」

「イグザクトリィ。俺たちは人類の決戦存在。悪を打倒し人類の発展を願う者」

「で、あるか」



 勇者を名乗る若者はまるで隙丸出しのようにダルく身体を左右に揺らした。

 かと思うと、いきなり彼は左側面から逆袈裟に私に斬り掛かってきた。


 虚実の混ざる良い不意打ちではある。


 だが、しかし。



「遅い」

「ぐはあっ!?」



 私は斬撃を最小動作で軌道を外し、カウンターにデコピンを入れた――その雲鷹の狭間に、戦士が今度は右側面より真横一文字に剣を疾らせる!



「タイミングは良いが、遅い」

「ぐっがあっ……!?」



 私はサチコ・コバヤシ的な衣装の裾で剣を絡め取り、奪い、剣の台尻で戦士の眉間を打ち抜いた。加減したので死にはしないけど、目玉が飛び出るほど痛いはず。


 私は剣をポイと横に捨てる。


 太陽を思わせる炎の塊が頭上より降り掛かってきた。息のあった良い連携攻撃だと思う。頭上は瞳の構造上、どうしても死角になりやすいのだった。



「うむ、邪魔である」

「なっ!? そんな!? 個体攻撃最大の核撃火球が……っ」

「さようか。貧弱なものよな」



 私は『ああ、そういうのはいらないから』と手の甲で火球を横にそらし、思い直して衣装に引火したら嫌なので次元の淵を開けてそこに投棄しておいた。



「みんな! 悪に怒れる天使の歌を更新するよっ!」

「バトルソングかの? バフがけご苦労」



 私はリバフのために近辺に集まった、勇者一行に指をさす。

 あたかも次は私の攻撃ターンと言わんばかりに。


 そして、私は『あえて』こんなセリフを漏らしてみた。



「ドドリアさん、ザーボンさん。彼らをヤっておしまいなさい」

「――っ!? 貴様、転生者か!! なぜ、転生者が魔王など演じる!?」

「……かかったな、間抜け。余が欲しかったのは、一瞬の戦闘外の、その反応よ」



 召喚されたのが異世界勇者というので、有名ネタでカマをかけてみた。

 もしかしたら同郷かもしれない。

 当たりだった。

 そしてこの、彼が驚く気の緩み、一瞬の隙が私には必要だった。



「ユートっ! わたしたち、空間座標固定されてしまったわ!」

「どういうことだ、アシュレイ!?」

「つまりはそなたらへ向けて魔法が絶対に行くということじゃ。甘んじて受けよ」

「くっ。レオンッ、防御結界の用意を!」

「わかった!」

「残念ながらその結界はまったく無意味である」

「魔王が、ほざけ!」



 私は、三つの魔法を瞬時に顕現させる。


『El・DO・RA・DO』

『虚空の迷宮』

『荒涼たる新世界』


 そう、いつぞやの自称バンパイアハンターの魔苦死異無に使った想像魔法。


 二分の一効果で端の壁に絶対に行き着けない、外見はマッチ箱の封印大迷宮。


 勇者一行はグルグルと水洗トイレの洗浄の如くマッチ箱の大迷宮に吸い込まれる。


 しかも今回のソレは特別製となる。


 闇の神様にお祈りして(一方的に許可を貰って)、闇神の祭壇を設置したのだった。あと、この大迷宮には空気がない。食料も水も光もない。モンスターもいない。


 題して『闇の神様のお仕置き迷宮』なり。


 彼らは。厳密にはする。


 なので。


 


 光の神と闇の神は表裏一体。側面が違うだけで同一の存在。

 つまり、光の神を信仰するなら同時に闇の神も信仰しているということ。


 人類は一側面しか見ていないので、この事実に気づいていないようだけれど。


 ゆえに、彼らは永久に迷宮に封じられる。

 具体的には数分に一回、窒息死しては蘇り続ける。


 無限に、生きて死んで封じられ。

 繰り返し、繰り返す。終わらない、終われない。



「ふん、他愛もなかったのう」

『えっ、これ、もう絶対出られないというか、終わらないのが終わり……?』

「むっふっふ」

『将来のわたしの義娘が怖すぎる件について』



 私はベリアル魔王国最大の悩みを、ものの数分で解決せしめていた。やったね!




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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