第43話 ペナルティー労働環境
逆宣戦布告から4日が過ぎた。
討伐隊はもはや瓦解寸前で、地下5階層で
彷徨う鎧――よく考えたらこの名称、私が勝手にそう呼んでいるだけなのよね。ともかく、策にハマった鎧たちは地下五階でほぼ私の手に落ちてしまっている。
討伐隊、刀折れ矢尽きる。心もバキバキに折れる。涙も枯れ果てる。
でも私は彼らにトドメを差さない。絶対に、差さない。
アリの巣にドバドバ水を流し込んで観察するちっちゃい子の如く眺めているだけ。
彼ら討伐帯の末路とは。
ブッ飛ばされるし、斬られるし、突かれるし、刺されるし、焼かれるし、撃たれるし、凍らされるし、感電はするし、溺れそうになるし、警備モンスターは強いし。
だけど、安心してね?
たとえ肉片になろうとも、その死の一瞬前に回収して強制的に回復させるから。
殺しはあまり好きじゃない。なので極力殺したくない。
これは前世が人間だった私のワガママにすぎない。
どうせ近い将来。たぶんすぐそこに見える未来。
貴族であればなおのこと、必要あれば誰かを処断する日は来る。
できればそんな日は来ないでほしいのだけれども。
うん、まあ殺るときは殺るよ。ズバッとね。この辺りが人類と魔族の思考の違い。
それはそれとして。
もっと今に直結した話をしよう。労働力の確保の方が大事なのだった。
あと、血も吸いたいし、エナジードレインもしたいし。
何せ、私、
吸血鬼の本分は、他者から血を吸うこと。
モスキート伯爵なのである。執事にダニーとか、いるかもしれない。
できれば年少男子で前後童貞の血とかが良いのよね。
あー。扶桑大和のクニの、平城氏の跡取り息子の血は最高に美味しかったなぁ。
幼い男の子(幼女の私がそれを言うのかって話だけど)で童貞の血は絶品。
また吸いたいなぁー。
……血食にまつわるここだけの話を更に一つ。
ベリアル魔王国の兵隊の人、もとい魔族兵の方々。特に男性兵。
前は童貞なのに後ろが使用済みの人、結構多かったりするのよ……。
軍隊ってそういう嗜好者の巣になりやすいのかな? それともこの軍隊限定?
まあ、誰かを好きになるのは性別を問わず良いこととは思うけど……。
何にせよ、血に酸味が混じるのでちょっと好きじゃないというか。
パンで例えるなら、酸味の混じるライ麦パンみたいな感じ。
あの味は、人によって好き嫌いが結構出るのではと思う。
これなら後ろだけ使った処女の血の方がずっと良いというか。
こっちの血は不思議と甘味が増すのだった。子供向けの味になるというか。
ほら、前世のC系三大宗教の
前での行為はしてないので、私は童貞様です、とか。それ、完全に詭弁だよ。
ああ、でも。
後ろしか経験のない『処女のシスター』の血は、とってもスィーツだろうね……。
【前とか後とか、童貞とか処女とか。喪失後とか。結局は吸血鬼の単なる食事事情】
『……カミラ、目つきが猫科の大型肉食獣みたいになっているわよ』
「にゃあー、みゃー。がるるー」
『はいはい。
「みゅうー」
『おなか、すいた?』
「うん。ちょっと早いけど、ごはんかな!」
『ちなみに今日の献立は何かしら』
「今回は吸血鬼らしくする日なので血食だけなのよー」
『ああ、金曜日ね。異世界の軍隊にある、金曜日はカレーみたいなノリの』
「メインが童貞さんの血で、処女さんの血は食後の甘味なの」
『
「できれば人間さんの血がいいの。でも魔国だから人間さん少ないの」
『この国の吸血鬼市民はどういう食生活しているのかしらね?』
「わりとなんでも好き嫌いなく食べたり飲んだりしているっぽいー」
『そうなのね……まあ、好き嫌いがないのは良いことね』
魔帝陛下と会話を交わしているうちに、食事がやって来た。
どこかの北斗の悪役ライク肩パッドモヒカンムキムキマッチョの二人によって連行されてきた年若い悪魔族の男女。彼らはダンジョン討伐隊のリタイヤ者だった。
ペナルティーとして下着のみの姿。男は腰巻きのみ。女は腰巻きとシャツを。
両手首と首を板状の黒鉄製拘束具で固定し、足にも当然重りつきの鎖がつく。
顔には目隠しと耳栓とボールギャグ。垂れた涎。歓びと恥辱に歪む表情筋。
ちょっとだけ、叛乱を起こさないように、全員の脳にドМ気質を植え込みました。
やったのは私じゃなくて魔帝陛下だけど……。
端的にはいぢめられると気持ちよくなる。殺し屋イッチのカジワラ組長みたいに。
待っていた……お前みたいな変態を。な、あの人。
備考。考えたら負け。
いずれにせよ――
ダンジョン内の発電区域含む黄龍区域は、全館空調を調節しているので寒くない。
特に発電区域は労働者が動き回るので逆に冷房をかけているほどだった。
十二時間二交代制勤務。一時間五十分ごとに十分間の休憩。
水分は休憩中に各自補給。大量の汗をかくのでミネラル分を少し加えてある。
食事は二回。仕事前と仕事後。朝夕に出している。
ダンジョン産の小麦で作ったパンに、ダンジョンで育てた牛豚鶏系家畜モンスターの肉類、ダンジョンで育てた野菜類、麦からエール。野菜と肉と卵でスープ類。
塩などのミネラルもダンジョン産。主に岩塩。香辛料もないと食事に彩がないのでもちろん育てる。胡椒って、ダンジョンでなければ環境的に作るのが難しかった。
食糧生産は試験的であれ、既に稼働を始めているわけで。
力仕事なのでしっかり食べさせ、しっかり休憩させ、しっかり睡眠も取らせる。
なお、ペナルティーなのでお給料は出ない。この辺の待遇はブラック企業仕様。
余談だが彷徨う鎧たちは二十四時間ごとにメンテ交代させるようにしている。
さて。
私は用意された『食事』たちの前に立つ。
右手をそおっと、まずは男の二の腕に這わせる。なかなか良い腕の筋肉だ。
ビクッとなる男。
吸血鬼は体温が低めなので冷たい手に驚いたものと推測。両腕は拘束、目隠しに耳栓、口にボールギャグ。種族的なものとレベル差で気配もろくに掴めないはず。
「いただきまーす」
『おあがりなさい』
吸血。
血はほんの少しで良い。
量的には100ミリリットルくらいで十分。
なお、エナジードレインはしない。
男、私の吸血行為に対して乙女のように初々しくも、それでいて経験豊富な熟女のような声を漏らす。つまるところ、声色のキーが女性並みに高い。
実はこの吸血という行為、被吸血側からすれば大変に気持ちの良いものらしい。
まあ、痛くないだけ良いよね。
男、ガクガクと腰砕けになり、ビクンビクンとその場に伏せて痙攣していた。
『ほう……ドライオーガズムですか』
「幼女にイかされたのにゃ」
聞こえているのか偶然なのか、また一つ男はビクンと大きく身体を震わせる。
「デザートも食べるー」
『後ろだけ経験のある処女、ですか』
「なぜかここの兵隊さんには多いみたい」
『ふーむ。妊娠対策、でしょうか。しかし肛門性交も気をつけないと病気に』
「お食事中に直接的シモの話は厳禁なのよ」
『あっと、これは失礼』
今度は私は、年若い女の前に立つ。そうして彼女の二の腕に右手を当てる。
女はボールギャグを咥えた口の端から涎をとめどなく流れさせ、男よりも敏感に顔を紅潮させていた。時折、ビクンビクンと待ちきれないのか身体を震わせてもいる。
なるほど、この女は元々M気質があって、今回の出来事で嗜好開放されたらしい。
『業の深い性癖だわ……』
「ふにゃ。でも、カミラたちからすればー」
『からすれば?』
「相手がどんな趣味嗜好でも、それでごはんが美味しければどうでもいいの」
『あらあら、まあまあ……』
吸血。デザート代わりの100ミリリットル。
「すっごく甘くておいしー♪」
どうしてこんなにも味が変わるのかは謎に包まれている。少々強引に、人間的に言えば太陽に良く当たった夏野菜が美味しいみたいなものかもしれない。
なお、例によってエナジードレインはしない。それは既にやったあとだから。
私は口から泡を吹いて悦び痙攣を始めた女をジッと観察する。
子どもだからね。関心事があると、とりあえず対象を観察するよね。
虫とかだったらまず殺してから観察したりするけど。
「みゅっ。ごちそうさまー」
『食後にちゃんと挨拶するはお行儀良いわね』
「いつか……」
『うん?』
「いつかカミラが眷属を作るときは、お口でチュウチュウする日が来るの」
『カミラもそれができて一人前なのね』
「うん」
『お相手候補は、マリーちゃん?』
「うーん。求めてきたら、するけど……」
『含みがあるわね?』
「マリーは初めてのお友だちだから、元気に育って大人になって、老化してほしい」
『吸血鬼ならではの愛情かしら』
「カミラ、マリーのこと大好きだから。大切な人を下僕にはしたくないの」
『……うん。仲良きことは、美しいわねぇ』
「にゃあ♪」
食事を終えた私は、モヒカンズに命じて腰砕けの二人を下がらせた。
彼と彼女は本日のお仕事は減免される。
私はペロリと舌なめずりをして、ダンマスのお仕事に戻った。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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