第42話 激怒する男と笑う幼女

 無能の王を廃して何が悪い。愚者が国を背負うなど向かう先は破滅だけだ。


 だからこそ、オレは、過ちを正した。

 オレこそ我が国民たちを護り、国をより良い方向に持っていける。


 それなのに。


 王家主筋の『血統』だけが取り柄のベリアルの王女が。

 次代の魔王となったオレを差し置いて、魔王国の新女王を宣するだと?


 バンッ、とオレは両手を執務玉座の肘掛けに打ち付ける。衝撃が床にまで伝わる。


 怒り心頭。


 ここはベリアル魔王国王都、王城――地下迷宮最奥にある執務室。


 オレの名は、サイファー・プライドリィ・ルシフ。


 あのメスガキミーナ、よりにもよってこのオレに逆宣戦布告をしてきやがった。


 しかも、だ。


 確かに血の正当性に関しては分が悪い。主筋と傍系の隔たりは凄まじく大きい。


 ただ、それよりも酷いのは……。


 ダンジョンそのものを都市化させて攻守一体の王都を創設する計画などと、ありもしない話をでっち上げてきたことだった。これが大問題となる。


 魔王とは、ダンジョンを作り上げるという独特の特性を持つ。


 そも、ダンジョンの構築とは、生成したダンジョンコアに規模と階層数の指針さえ決めてしまえば後はノータッチのはず。大筋の指針ですらそれに沿って成長するかどうかは、自らの魔力とダンマスへの適性次第であり、言ってみれば不確かなもので。


 あの無能のベリアル王では、そのような都市計画などできるはずがない。


 つまり、あのメスガキは嘘をついている。


 ……。


 いや、違う? 何か前提に食い違いのようなものを感じる。


 どこか根本的なところでオレは思い違いをしている?


 もし――もしもの話。


 仮に、メスガキに実は本当にダンジョンマスターへの最高の適性があり、それをもって立太子したばかりの弟の地盤固めに極秘の協力をしようとしていたなら。


 ダンジョン内に任意の都市を構築できるだけの、破格の才能に恵まれていれば。


 彼女の才を下敷きに、ベリアル王はアレの弟に継がせるつもりだった?

 つまりは『表の魔王』と『裏の魔王』を作る……?

 そんな離れ業が……? あの二人は、とても仲の良い姉弟キョウダイだったらしいが。


 下手すれば国を分断しかねない、机上の空論を実行に移そうとしていたならば。


 ならばなおのこと、計画を潰せてよかったというもの。

 無能王はやはり無能だった。


 ――いや、違う。オレは何を血迷っている。


 違うのだ、そもそもの前提が。


 


 そうでなければ牢獄離宮にあのような異様なダンジョンを生成した上でオレに宣戦布告などするわけがない。オレの信頼する側近が自ら編成した二十の精鋭討伐隊が、何度も何度も外に放り出され、また、パーティの全滅の憂き身を見るはずがない。


 そして、オレは最悪を想う。


 まさか――まさか。本当に、地下都市まで生成できるわけがなかろうな。


 そんなものができるのなら、オレが簒奪王になった意味がなくなるではないか。


 オレのダンジョン構築の才では、地下都市などとてもではないができぬ。

 精々がとにかく深く掘り下げた深淵のダンジョンを構築するのみであろう。


 うーむ……。


 十分だと判断して投入した兵力は、実は不十分だった。


 兵力の逐次投入は愚の極み。


 となれば……最大戦力となる自分自身が出る、か。


 どうするべきか。

 現兵力での階層攻略は未だ浅い地域だけと聞く。

 おおよその階層も分からぬまま、オレが親征を決行するのはリスクが高い。


 しかし、ここで一人、座していては。気づけば断頭台に立たされる己が見え……。


 何を考えている。


 そうではない。そうではないだろう。


 メスガキの凄まじいダンジョンマスター適性を心の迷い。


 ただ座しているだけではダメなのだ。


 出れば良い。オレ自身が。迷うくらいならとりあえず相手を殴れチェストしろ。親征すれば良い。


 圧倒的戦力で、罠ごと潰してしまえば良いだけの話……ッ。


 そして、あのメスガキを断頭台に――処しては政策的に困るので、子を成させてから静かに『病死』してもらう。もしくは薬で永続に眠らせるなりしても良いが。


 オレは、腹心たちを呼んだ。



 ◆◇◇◆◇◇◆



「討伐隊の動きが鈍くなってるの」

『カミラの作り上げたダンジョンの攻略には、彼ら程度では手に余るから……』

「にゃあ。その代わりに彷徨う鎧を大量に捕獲できたの」

『単純な戦闘力としてはそれなりに使えるけれど、ダンジョンの攻略とは警備モンスターとの戦いだけではないということね。工夫すれば罠で一網打尽に出来る』

「おかげで発電ぐるぐる刑の効率性が飛ぶように上がったよっ」

『そうね。より強力にダンジョン整備がなされていく。地下都市の構築も順調』

「うっふふー♪」

『うっふふー、ね♪』



 逆宣戦布告。あれから丸一日が過ぎた。


 討伐隊のダンジョン攻略は遅々として進まず、しかし彼らは代わりに慎重さをもってコトに当たるのでリタイア者はほとんど出ず、また、リタイアして欠けた人員を別のパーティ同士で再編成したりと、より確実性を深めて行動していた。


 さすが精鋭兵、と言ったところだろうか。


 一方、前述の通り彷徨う鎧たちは戦力としては過不足なく働くのだけれども。


 所詮はゴーレムの一種と言ったところだろうか。罠による突発的な事態などには徹底して弱かった。なので私はちょっとした搦め手を使って大量確保に乗り出した。


 何をしたか。


 討伐隊は地下四階に、やっと、たどり着こうとしていた。


 私は玄室にそれぞれの属性にちなんだ、捕獲罠の床を用意した。


 例えば木属性なら、高圧の電流を。ついでに痺れ毒も。

 例えば火属性なら、鉄をも溶かす超高温のマグマ溜まりを。

 例えば土属性なら、単なる泥土地帯からの――底なし沼。

 例えば金属性なら、突如床から生成される金属製の檻。

 例えば水属性なら、ただの水かと思いきや超粘性化、足元を糊着する。


 


 エグい? そんなことないよね? フツーだよね?


 討伐隊の兵は優秀だった。彷徨う鎧を盾に、身代わりに、足場にしたから。

 まあ、さすがに避け切れずボッシュート=リタイアした者も些少ながら出たが。


 しかしそれはどうでも良かった。


 欲しいのは彷徨う鎧という名の労働力。


 戦闘だけの利用など勿体ない。

 その溢れるほどの単純能力は、発電にぜひとも利用したい。

 ぐるぐるとギアを回してもらいたい。


 と、言うわけで。



「捕らえること約百体にゃーっ」

『よく捕まえたわねぇ』

「後は支配権権限を奪って、ひたすらぐるぐる刑なのよーっ!」

『魔法生命体なので生物的な疲労は皆無。昼夜を問わず使えるわね』

「超絶ブラック職場なの。うふふふ♪」



 アンドロイドならまだしも、ロボットやゴーレムに人権はない。


 もちろん定期的なメンテナンスは必要だろうし、それが面倒なら手を加えて自己修復機能くらいつけてしまえば良い。私の想像魔法ならできる。


 なお、エネルギーの補給は龍脈から組み上げて精製する過程で不純物処理された余剰エネルギーを用いるため、エコでしかも自動補給されるため楽ちんだった。



「これで地下都市の整備がより捗るの。いずれこの都市に王都民が住むにゃ」

『市民の居住階層は出来上がっているので、農場や工業区を早急に整えないとね』

「そのためにはこの国をもっと知らなければいけないの。お勉強なのよ」

『知識の供給先は、囚えた兵たちから聞き出す、と。頭脳派の魔法部隊もいるので確実に欲しい情報は吸い出せるわね……』

「ダンジョンに翻弄されて囚われて、レベルを抜かれて国の生産力情報まで吐き出されるの。にゃはははっ。ミーナちゃんが真の魔王になる日は着々と迫ってる!」

『問題はその後、なんだけどね』

「なるようになるの。まずは、勝たないと。勝負事は勝たなきゃ意味ないのよー」

『心を決めて行動するカミラが非常に頼もしいわ』

「見た目は、ミーナちゃん(10歳)だけどね。えっへん」



 私は現状についてとりあえず満足しているため、ニコニコと魔帝陛下と会話した。




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 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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