第40話 逆宣戦布告

 要約すると、かかってこいやこの裏切者がッ!

 Fから始まる四字単語である。ここのボイスはぜひトネガワ先生に。


 何が、というと。


 王都各所で巨大スクリーンが現れて、突如始まるミーナちゃん式の布告だった。


 相手取るのはもちろん、王家傍流筋のルシフ一族。裏切者、逆賊、謀反者。


 ニンジャ死すべし――じゃなかった。裏切者、死すべし。


 某サチコ・コバヤシを悪い意味で想起させる、ステージ衣装というかアルテマウェポンみたいなド派手で威圧的な鮮血の魔王装束にて一方的に私はげんを発す。



『我こそはベリアル魔王国の正当なる王位継承者。ミーナ・イシュター・ベリアルである! 卑劣なる傍系ルシフ一族の裏切りにより、我が父であり先王、我が母であり王妃、我が弟にして王太子は弑されてしまった。我は囚えられ、主筋の血筋を奪うためだけに牢獄離宮に幽閉、十中八九、子を成せば謀殺される身であった』



 時刻は正午。真昼間。太陽は中天にさんさんと、気持ち悪い陽光を落とす。


 本当は夜中にしたかったのだけれども、魔族は昼行性と夜行性の比率で言えば僅かに昼行性が多いため、そのようにした。

 そもそもこの身体の持ち主のミーナちゃんも朝起きて昼に活動し、夜は寝るタイプであった。なのでだろうか。本来なら夜行性の私もその肉体的影響を受けたらしく、吸血鬼らしくなく夜は寝て、朝に起きる生活になっていた。


 さて、それで。


 あえて繰り返すに、私は一体何をしているかというと。


 バッチリ録画した女王宣言を――

 魔王都十カ所に、空を覆うドデカ映像&大音量で絶賛配信中なのだった。


 耳を塞いでも無駄。魔力を込めて脳みそに直接語り掛けているから。


 話しかける。言葉。言語。


 そういえば、ベリアル魔王国の言語は、スレイミーザ帝国の公用語とはまた違った言語なのだった。やはり大陸が違うと同じ魔族でも言葉が違うのだなぁと思う。


 まあ、魔帝陛下に指摘されるまで気づいてなかったのだけど。


 つまるところ、扶桑皇国でも発動した自動翻訳がしっかり働いていたわけで。


 聞くところ、転移して間もない時に出会った不敬なメイドたちとの会話は、ベリアル魔王国で使われる言語ですべて行なわれていたとのこと。あまりにもナチュラル過ぎて、魔帝陛下もしばらく気づくのに遅れたとのこと。


 それくらい私は、外国語を流暢に話していたらしかった。



『我は寛容である。が、裏切者は絶対に許さぬ。ルシフ一族よ。魔王を僭称しながらもダンジョンを構築できぬ半端者よ。我が父が残した王のダンジョンに居座る不届き者よ。そのくせ、その方は我が父に言ったらしいな。無策無能と。その言葉、すべて返してやろう。この無策無能の痴れ者が! あのとき、既に人類の侵略から国民を護り、勇者共を屠り、最終的には国土を安堵させる計画を発動していたのだ! それがその方の裏切りのせいで計画は頓挫しかけておる! 悔しくも父の意向を受け継いだ我はまだ未熟で、現状では王都民を護り、勇者共を屠るくらいしかできぬ。繰り返すが、この痴れ者が! 少しは恥を知れ! そして腹を切って死ね!』



 ノリノリである。魔帝陛下の悪ふざけ的な煽りがこれでもかと導入されている。



『……さあ、新魔王を僭称する愚物よ。魔王であるならばダンジョンの一つでも作ってみせよ。魔王はダンジョンを作ってこそである。我は、造ったぞ。我のダンジョンは、我を閉じ込めた離宮を触媒にして造った遠大なるもの。裏切者どもは随分苦戦しておるようじゃ……。まだ地下三階だというのに、もうリタイア組が出ておる。弱いのう。弱いのう。まだ未熟である我を相手にこの程度。弱すぎて呆れるわ。これではいかんのう。ゆえに、我は高らかに宣する。弱き者は、我に従うべきだと!』



 ここで、強い=偉い原理をぶちかます。


 魔国では特に、弱者に付き従う人なんていないからね。



『何度でも言ってやろう。我こそはベリアル魔王国の正当なる王位継承者。父王にして先王の娘。ミーナ・イシュター・ベリアルである! 魔王とは、強くあらねばならぬ。最強であらねばならぬ。が、少しばかり本気を出した我にこれはどうだ。なるほど、敵対者がゴミのようだ。しかして慢心せぬ。我はもっと強くなるぞ。我が幼き女王であるのを忘れるな。伸びしろは計り知れぬ。敵対する人類を国ごと滅ぼし、我が国土、我が民草、我はすべてを支配下に置き、保護しよう。余すことなく護ってやろう。だが、そのためには――まずは、裏切者を処さねばならぬよな?』



 ここで、ワンテンポ置く。


 某北斗の拳のアミバ氏のように『んんー?』っと小首をかしげる。



『裏切者のルシフ一族。その方らは我が主筋の血脈を追い詰めた。が、本当に追い詰めたのか? まだ、我がいるぞ。くくく、我を処したいか? そうだな、そのために王家を裏切ったのだ。卑劣にも背後から毒の短剣を刺した。ああ、汚い。汚らわしさに鳥肌が立つ。それほどにも我を弑したいなら、このベリアル新女王の首を存分に狙うがいい。我は魔王としてダンジョンの奥底でいつでも待っておる。もっとも、その意気地もないと判断した際は、即こちらから乗り込んで処してやろう……ッ』



 長期戦になると判断した際は、転移ゲートを使ってまとめて誘拐する予定。



『参考までに、我が兵力は既にこの王都を秒で制圧できる。だがそれをあえてしないのは、裏切者をただ処すだけでは、我が父母、弟の魂が浮かばれぬからだッ! 裏切者よ。その方らの首はいつでも取れる。疑うのであれば、まずはその方らの古参の側近を今すぐ攫って処してやっても良い。……んん? また我がダンジョンでリタイア組が出たようじゃの。この程度の力で我の寝首を掻くなど、笑止千万よな?』



 どこまで煽るのか。もちろんこれには理由がある。

 王都内で戦いを始めると、王都民にも被害が出るのだった。


 なので、煽って、怒りを掻き立てて、私のダンジョンに来させねばならない。

 そこでならばいくらでも処理のしようがある。少なくとも王都民に被害は出ない。



『さて、長々と喋るのも興ざめというもの。この正当なるベリアル魔王国の後継者たる、新女王ミーナ・イシュター・ベリアルが逆宣戦布告する。裏切者どもよ、気に入らぬならかかってこい! 殲滅してくれる! 来ないなら我が骨まで喰らいつくしてやる! そして我が愛すべき国民よ。この忌むべき騒動が終わり次第、我がダンジョンへ招待しよう。王都を遥かに超える居住区と、生産設備、すべて用意してある。人類の勇者共を迎え撃つ準備も整っておる。勇者は我が滅ぼしてやろう。死なぬというなら永遠に殺し続けてやろう。何、数億回も殺せば心が死ぬ。心配は無用ぞ』



 私が扮するミーナ新女王=魔王ベリアルは自信満々笑みを浮かべ、映像を切る。



「スッゴいねーっ。スゴかったねーっ」

『いえ、スゴイも何もカミラが全部演じたのでしょうに……』

「陛下の指導があったからできたのー」

わたしが言うのも何だけど、ドハマリしてたわね。役に入り込んでいたという感じで』

「それっぽくにゃるように、がんばったの」

『うふふ、イイコイイコ』

「褒められると嬉しいのー♪」



 映像配信を終えての一面だった。


 録画とはいえ、配信中はずっとドキドキしていた。ユーチューブで生配信する人とか心臓がビス止めになっているんじゃなかろうか。流れるのはもちろんケロシン。


 兎にも角にも、宣戦布告をやりきった。


 あとは、喰らい尽くすのみ。


 私は現在の身体となる十歳女児の小さい手をキュッと握りしめて、うんと頷いた。




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 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

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