第38話 アンダー・ザ・キングダム

「今回のダンマスの指針は、私の王国――私の新王都化計画なのっ!」

『ふむふむ。詳しく、どうぞ』


「第一段階はボコスカウォーズをなるべくボコスカさせない! 時間稼ぎ! 新しいダンジョンの、一通りの体裁を整えるの! お客様は歓迎しないとねっ!」

『うふふ、そうね、お客の歓迎のためには多少の時間は必要だもの』


『第二段階は、オペレーションシムシティー! そのままの意味で、迷宮王都を造るの! 王都民を収容して、風水害のない安全な生活の場にできるよ!」

『それはアレですか。ダンジョンを産業に発展した街が都市になったではなく、初めからダンジョン内に都市を造り、民を住まわせるという意味ですか?』


「にゃあっ、そうなの! 警備モンスターを出現させない区域を王都スケールに構築して、階層ごとに居住区、農業、水産、畜産、商業、工業、そして王城をにゃ!」


『造っちゃ……だけに』

「むぷぷーっ、そうなの! で、この三日間でダンジョンは地上五階、地下二十階に成長させて――それで警備モンスターもひとまず地下十階まで配置したの!」


『そうして最下層中央区のダンマス部屋、もとい黄龍の間でわたしたちは座している』

「うん!」


『都市計画について、もう少し詳しく聞かせてもらうわね? カミラ、あなたはこの王都の民を全員ダンジョンに収容するつもりでいるみたいだけど、わたしの知る情報では、人類との戦争が続き、民の減少はあれど20万人は下らないはずよ……?』


「階層分けすればいくらでも入るよっ。ダンジョン内に人が増えると、その分だけ気が流動するので却って運営が楽ちんになるの! 巨大な豪華客船は、大きければ大きくするほど実質のコストが下がるみたいなものなの! 人の営みは自然活動の一部! 食料や水はダンジョン産の魔力に満ちたハイグレード品を提供! ゴミとかの処理物はダンジョンが吸収、エネルギーに変換! にゃあっ、ライフスフィアなの!」


『……』

「……みゅっ? どうしたの、陛下?」


『これは、そう、魔王たる者のなら一度は夢見る都市型ダンジョン構想の一つね。でも、それは誰も成し遂げられなかったと断言する。……どうしてだと思う?』

「みゅう? んー? どうしてだろう?」


『カミラにとっては当たり前のアイデア。凄まじいのは、を粗削りではあれ掴んでいること。足りない部分は、その都度修正すればいい』

「こんなの誰でも考えられると思うよ?」


『前提から違うのよ。夢そのものは見れる。でもあなたのように明確に『完成形を見据えた』ダンジョン都市計画なんて早々見れないの。この違いはとても大きいわ』


「黒船的な知識があるから?」


『知識があるのも大きいでしょうね。だけど識っているだけではダメ。今し方言ったように『完成形を見据え』ていないと。その上で実際に造ってしまえる能力を備えていないといけない。魔王を名乗るならダンジョン構築は必須。でも自由にダンジョンをデザインできるかは、また別の話。かく言うわたしも感動で心が震えるもの……』


「そーなのかー」


 なんだか、私のダンマス能力は感動ものであるらしい。


 まあ、うん。


 アイデアの大半がアニメとか小説とか映画の受け売りなんだけどね。

 施設が丸ごとジオフロントとか新世紀ナントカゲリオン地下から地上を目指す竜の少年とかドラゴンクォーター、その辺。

 何より、ウィズでザードリィなアレ。背中合わせの灰と青春。

 旧約メガテンの二作と真・メガテン四作。無能の神を殺すゲーム。

 あとは前世の日本での東京地下街とか、大阪難波・梅田の地下街とか……。



『ダンジョン都市、か。これなら防衛が楽よね。籠城戦もダンジョンで食糧生産できるとなれば対抗期限はほぼ無限。普段は都市として、有事は迷宮として……』

「にゃあ」

『要件を済ませて帰還したら、そのノウハウでわたしの帝都にも造ってみましょうか』

「いいのー? 凄いの造っちゃうかもー?」

『もちろん。一緒に積み木感覚で色んなものを造って遊びましょうね』

「うん!」

『余計な戦いがない分、造る楽しみはひとしおですよ。うふふ』

「にゃはーっ♪」



 明らかに魔帝陛下に乗せられたのは分かってはいれど。

 それで遊べるならそれでいいのだった。政治とか面倒くさいし。


 周りが騒いでも、我が家は公爵家筆頭。国のナンバー2。泰然自若でいれば良し。


 それに――

 余裕がある間に少しでもダンジョンコアを育てておくのも一興だと思う。どうせ二度あることは三度ある。あるいはもっと。強制転移現象は、以後も続くだろうし。



「にゃあ。でね、最終の着地点だけど」

『聞きましょう』


「最終着地点は――」

『……うん』


「この身体の本来の持ち主、ミーナちゃん新女王に仕立て上げ、魔王国の安寧を計るのにゃーっ! 下剋上はキャンセルされました! にゃっははーっ!」


『……うふふ。一連の話の流れからおそらくはと思っていたけれど、やはり。これは大事業ね。わたしの立場的には遠交近攻の一環としましょうか。ふふふっ、楽しい』



 くすくすと、愉快そうに微笑する魔帝陛下。



『でも、そのためには、現状では色々と足りない部分があるわね……?』


「うん。まずは、裏切者を裏切者と確定する告発がいるでしょー? それから自身の立場の確立。王女ではなくて女王を名乗っちゃう。国民のみんなには人類との戦いとの現状とその対応策の開示――これは、方便を交えるの。陛下、王女から国家間の詳しい事情を探れにゃい? 嘘をつかないように嘘をつかないといけないの。で、国民を護り、人類軍を罠にかけ、裏切者を打ち倒す逆襲計画を叩きつけてやるの!」


『カミラ、もう既にあなたはいっぱしの政治家になれるわ。そうね、戦争により当然ながら国力が低下して、同時に王権も影響力が落ちている。国民を味方につけるのは良い考えね。裏切者をしっかり明示して、民心を分離させる。そこから自身の立場の表明。女王宣言。先魔王――肉親が亡くなり、子が一人ならば不可能ではない』



 でもどうやってそれをするの? とは聞かないあたりが、いかにも魔帝陛下。

 むしろ、どうせあなたなりの方法を思いついてるでしょう? という態度だった。


 まあね、方法はあるからね、実際。


 でも先に、すべき仕事をしておこうね。



「というわけで、最初はダンジョンに並行隣接する地下街の構築なの!」



 具体的には、魔帝陛下がちょっと触れていたように、平時は都市として有事は迷宮として機能する、出入り口を同じくした地下都市の建造にかかるわけで。

 ちなみに地上に物々しく建つ監獄離宮は、もはや迷宮機能だけの抜け殻である。


 ひとまずは、地下一階層を。

 王都民の居住区域。主に平民たちと治安維持の兵士たちが暮らす区域を作る。

 二、三、四階層も王都民の居住区域になる予定ではあるが、こちらは拡張スロットとして置いておく。いわゆる予備。迷宮都市の発展如何で利用目的が変わる。

 五階層からは各種産業の生産区域とする。居住区と並行して作る。

 十階層から先は法衣貴族の住居に。最下層の二十階に王城を。

 ただし、十五階層から十九階層までは軍事区域と緊急避難用の居住区となる。 


 お気づきのように、階層が下れば降るほど立場の重い者の居住区となる。



「にゃははっ。何かを作るって、たのしーねー♪」

『そうね。カミラの思うまま、都市を造ってしまうと良いわよ』

「うん!」



 のんびりと都市計画なんてしていていいのかと思うかもしれない。

 それが、大丈夫なのだった。

 一応の敵となる迷宮踏破隊(勝手に命名)の迷宮攻略は遅々として進まない。


 しかも、地上階は小手調べに過ぎない。地獄を見るのは地下から。


 罠は多くても、警備モンスターのレベルは100程度に抑えてある。罠との連携ハラスメント要員なので――地帯戦術を主眼としているので、これでいいのだった。


 地下階からは前回の扶桑皇国大和のクニ平城なら氏のダンジョンと同じ構造となる。


 五行思想に基づいた、木火土金水の属性を持たせた区域。各区域ごとに玄室という名の中ボスを配置する。彼らは警備モンスターの一段上のレベルと装備と種族を採用している。しかも小隊から中隊規模の員数を動員している。倒し切るのは困難。


 その代わり、これはダンマスとしてはどうしようもないことに、確率で宝箱が出現する可能性がある。ダンジョンからの褒賞みたいなものらしい。

 もちろん警備モンスターからもドロップアイテムは出るには出る。が、宝箱から入手する物品の方が数段良いものが入っているのだった。


 地下階層からは、罠の頻度は若干下げて、警備モンスターの質を向上させる。


 これを現在は地下十階層まで用意できている。


 なので安心して居住区域と生産区域の構築ができる。

 モデルは古代ローマの都市計画図を参考にしようかな――なんてね。


 私はウキウキと、まるで某レゴブ〇ックで街を作るかのように手をかけていった。




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