第36話 劇的ビフォーアフター

「……なんだと! 王女を閉じ込めた牢獄離宮がダンジョンになっただと!?」


 玉座に座するオレは、伝令兵の緊急報告に思わず声を荒げてしまった。

 緊急の場合にのみ伝令兵は最小の誰何すいかを経てオレへの直接報告を許していた。


 現状は、有事の真っ只中。


 後の歴史ではオレは国の簒奪者として語られることだろう。


 だが、それでも良い。


 オレは人類如きを相手にダラダラと戦いに明け暮れた――

 無能無策の前魔王ベリアルとその妃をオレは謀反という形で葬った。


 ヤツには跡継ぎが一人いた。王太子サタナエル。そいつも併せて処刑した。

 王女も一人いる。深層の令嬢タイプ。こいつは殺さず、牢獄離宮に閉じ込めた。


 ベリアルの王太子などオレには必要ない。オレが新魔王となり、妃を娶り、オレの子を王太子にすればよい。むしろ殺さない理由がない。そうだろう?


 そも、オレが主筋に生まれていれば、こんな面倒な事態にならなかったのだが。


 ベリアル家は主筋。ルシフ家は傍系。


 サイファー・プライドリィ・ルシフ。


 


 ――恨めしい。


 ゆえに、である。

 謀反を成功させて『傍系筋ルシフ』が主筋王家ベリアルにとって代わっただけではダメなのだ。

 それだけでは、絶対的に足りない。傍系は所詮は傍系ということだった。


 国力が低下している今、特に民からの支持が必要となる。ならばどうするか。


 忌々しいがベリアル主筋の王女ミーナをわが妻とし、子を成させ、そして――


 葬るコロス


 子ができればもう、用済み。ゴミ同然の王家主筋の直系の小娘。

 未だ乳臭いションベンメスガキ。子を成せるまでは、生かしておいてやる。


 そう、お前の持つ主筋の血。必要なのはそれだけ。


 血筋を、奪ってやる……っ。


 そして、ハエの如くブンブンと煩い人類を纏めて民族浄化クレンジングしてやる。無能の前魔王に代わり、確固とした魔国を形成、国土と民を護って見せる。



 ――さて、想いを新たにして。異常事態に対処せねばならぬ。

 オレは報告に走って来た伝令兵を睨みつける。いや、意味がない。深呼吸をする。



「よし、伝令。まずは知る限りをオレに報告せよ」

「はっ。朝食を届けたメイド共によりますと、王女は反抗的な態度で監視の騎士を魔力で圧し、メイドは打擲ちょうちゃくされたとのこと。その後、離宮がダンジョン化を」

「概要は分かった。それでその後、どういう動きを見せている?」

「騎士は囚われ、また、ダンジョンは時間と共に巨大化しているとのこと」

「腐ってもベリアル主筋か。オレですらダンジョンコアの創生は難しいというのに。決して油断してはならぬな。それで伝令、他に報告すべき事柄は?」

「はっ。以上であります」

「そうか、ご苦労。下がって良い」



 現状で知れるのはこれが限界だろう。敬礼し、立ち去る伝令からオレは目を離す。


 しばし考える。



「……騎士団長、魔導師長、ならびに機工魔導団長」

「はっ」

「……はい」

「おうよ」



 オレは代々我が家系に仕えてくれている側近たちに声をかける。

 ダークエルフ族の騎士団長。スライム型不定形悪魔族の魔導師長。ゴーレム制作に命を賭けるドワーフ、機工魔導団長。


「騎士団長と魔導団長は精鋭クラスの騎士と魔導師たちを六人一組で編成。最低でも10組作れ。当然だが、兵力の逐次投入は愚と心得よ。機工魔導師長は可能な限りの乙型騎士と指揮官甲型騎士を用意せよ。資材は十分与えたはずだ」


「はっ」

「……委細承知」

「じゃんじゃん行くぞ」



 三人はオレに頭を下げて準備に取り掛かった。


 大げさかもしれない。見かけ倒しの可能性も十分にある。

 しかし最悪を想定するのは国の長たる者の勤め。特に、王家主筋が相手なら……。


 オレは玉座に深く身を沈め、しばし目を閉じた。



 ◆◇◇◆◇◇◆



『これが、それ? さっき言っていた、とっておきなのかしら?』

「にゃあ♪」

『ぐるぐると巨大歯車をひたすら回す?』

「にゃあ♪」

『ゴツい肩パッドのトサカなマッチョマンが奇声を上げながら鞭を振るったり?』

「にゃあ♪」

『変な機械で火を噴きまくっているマッチョなトサカマンのもいるわね?』

「にゃあん♪ 汚物は消毒なのー♪」

『お、恐ろしい子……』



 現状把握ッ!(陸上自衛隊の敬礼のポーズで)


 手動の巨大回転炉。全身でもってぐるぐると手摺り棒を押し、天井部の巨大なギア板を回す。ギア版は各種動力ギアを巡って、これまた巨大ダイナモ発電に利用する。


 


 この地の龍脈は深刻一歩手前の弱化を見せていた。外気は宮殿の窓から取り込むとして、補助に電気的な――五行思想なら雷であり木気もくきを取り込んでこれを補う。


 まったく。魔族と人類とがくんずほぐれつ、しょうもない戦争なんてするから。


 戦争とはハラスメント嫌がらせの仕掛け合いで、驚くほど多岐に渡る。単純に兵と兵がぶつかり合うだけが戦いではない。隙あらば毒を仕込む。敵国を疲弊させようとする。


 田畑の焼き討ち、街そのものを放火、流言、誘拐、殺人、強姦、略奪、毒飼い、武力で行なえるありとあらゆる破壊行為、占領行為、その他もろもろ。


 特に田畑の焼き討ちや、街そのものを破壊するなどは龍脈を乱しやすい。人の日常生活も自然の行ない。戦いが起きると、被害に比例して土地の力も失われていく。


 なるほどそれを思えば、この地の龍脈の弱化は納得がいく。


 もちろん、徹底的に破壊しない限り乱れ弱まった龍脈もいずれは回復を見る。

 ただその回復が数年で済むか、数十年で済むか、数百年、数千年、それ以上かも。


 いつになるかは星の意思次第。あまり調子に乗りすぎると、星の怒りを買う。



『つまり弱った土地を、外気に加えて電気で補助して螺旋で練り上げていると』

「そうなのー」

『はあ……とんでもないわね』

「そうー?」

『そうよ。まさか足りない気力ならばと、その分をこちらで用意するだなんて』



 鹵獲した彷徨う鎧ーズはすべて設定を書き換えてこちらの忠実な人形とした。


 彼らは巨大回転炉を全身で持って横棒を押し、ぐるぐるぐるぐると回り続ける。


 まさにキン肉マンや北斗の拳の、あのよくわからない巨大マシンを回す光景。



 にゃっはーっ! 回れ回れーっ! 鞭をビシーバシーッ(それっぽい演出)!!


 サボる汚物は消毒にゃあーっ! ぼぉおおおおーっ(火炎放射演出)!!


 モヒカンマンズ、面目躍如(実は想像魔法『STAINLESS (K)NIGHT』の亜種)。



 動力源となる彷徨う鎧たちの台数がまだ十体と少ないため、ギア比はトルクロー側に寄せて緩やかに回り、発電量も微々たるものであった。が、どうせ今後はたくさん鹵獲できるはず。できれば200~300体くらいほしい。ハイギアにチェンジしたいし。



『……階層ごとのテーマなどが知りたいわ。地上階層と地下階層の違いなどを』


「地上階層は牢獄離宮をベースにした巨大迷路にゃのっ。まさしくね、迷宮って感じなの! 空間も弄ってるから内部はすっごい広いよ! 一階層辺り十キロ平方くらいあるの! 旧約女神転生のスパルタンなダンジョンもドン引き! でも、必ず登らないといけないの! でないと、地下階層へ降る鍵が手に入らないの! 一応、警備モンスター自体はさほど強くしてないのっ。擬態系が多いけどねっ。むふふーっ」


『……ふむふむ、地上階層はそのようにデザインしたのね』


『地下階層は五行思想に基づいて階層ごとに五つの独立区画を設け、属性ごとに強化した警備スタッフを配置なのっ。地下一階はゴブリンやオークなどだけど、初めから属性持ちで警備なのっ。推奨レベルは100から。誘い込む意味も込めて、よわよわ設定! もちろん階層が深まるごとに警備モンスターレベルは上がっていくよっ」


『念の為に言うと、人類視点だと100レベルは一握りの上位冒険者級だからね?」


「にゃあっ♪ 纏めると地上五階まで登らせて、地下へのキーを手に入れて、来れるのなら地下二十階まで潜らせるのっ。でも取り込む外気は地上階一階からなのっ」


『うん、侵入者にひと手間を強要する構造はいかにもダンジョンっぽくていいわ』


「後、せっかくだから罠だらけのドキドキパニックにしたよっ。うふふ。爆発、テレポート、ブラスター系、神経系毒ガス、放射能地帯、絶対零度など。色々!」


『あらまぁ。凶悪すぎて草生えるわあ……』


「リタイアしたらレベルドレインと回復、お仕置きルームで裸ぐるぐる地獄!」


『さっきの巨大回転炉の動力源をさせるつもりなのね……って、裸?』


「うん、敗北者は裸に剥いてしまうのっ。そういうルールなの♪」


『うわぁ……』



 さあ、いつでもかかってこーいっ!!




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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