第35話 服を着る。そしてレベルが上がる。

 全裸幼女のままではさすがにどうかと思うので、ドレスを纏うことに。


『呪いのボンテージ』


 憑依先の王女は、私たちの影響で吸血鬼で夢魔でちょっぴり悪魔族になっている。

 吸血鬼は鏡には映らない。

 が、他の種族が混ざっているならと思い、姿見も想像魔法で用意する。


『EL・DO・RA・DO』


 この世界の鏡は青銅板や銀板を磨いて磨いて磨きまくった物が主流。

 でも私は前世スタンダードのガラス銀メッキ蒸着鏡を作る。

 そっちの方が、より鮮明に映るから。


 出来立ての姿見には、腰まで伸びた漆黒の髪をたたえる十歳幼女が映っている。

 んー。良かった、鏡に映る。うん、とっても美人さんだ。

 可愛い顔立ちというよりは、怜悧で大人びた雰囲気がその姿に磨きをかけている。


 金糸の昇り竜。静脈血のように赤く爛れたチャイナドレス風を身に纏うその姿。黒のストッキング。足元は幼女にヒールはキツいので赤黒色のパンプスで。


 ヤンデレダークサイドなチャイナドレス風。腰までスリット入れちゃった。


 髪の毛は纏めてシニヨンヘアに。ついでに中華風モフモフ扇も持とうね。


 ……うわ、米国移民中華マフィアのちっこい女ボスみたいになっちゃったかも。

 

 でもこういう子に限って、微笑むと隠された可愛さが溢れ出るもの。

 というわけでスマイル。血の如く赤く変質した瞳が一瞬、細く微かに歪む。

 この双眸。よく知っている。この深紅の瞳。元々の私の瞳だ。


 瞳のナイフ。うん、ヤンデレ可愛い。重篤な狂気を感じるよ。


 なんだろう、ちょっとショックかもしれない。目は口ほどにものを語るし。



「……にゃあ。さすがに王族は美形率高いねぇー。ゾクゾクする美人さんにゃ」

『まあ、基本は貴族王族共々政治の絡む政略結婚だけど、ただ、そうであっても美人同士でくっ付く場合が多いわ。美は、それだけで力だから』

「そうなのかー」

『いや、あなたわかってて言ってるでしょ』

「カミラは将来どうなるのだろう?」

わたしの妻になればいいじゃないの。もしくはわたしの養女になるのもアリかも』

「養女?」

『スレイミーザ帝国の帝位は世襲制ではないの。有能な人材を見つけたら養子にして教育を施し、次代の皇帝に育て上げるのよ。わたしもそれで帝位を継いだわ』

「おおー。前世のローマ帝国みたい」

『へえ……この方式を採用している国が他にもあったのね』

「にゃあ」



 と、事情を知らない人から見れば独りごとの激しい娘さんみたいになっていたら。


 がしゃん、と鍵が開くような音が響いた。



『どうやら、正面扉が開いたようね』

「みゅう。そうみたいー」



 ややあって、カラカラ、ガシャンガシャンと音を立てて入って来たもの。


 フルプレートアーマーに覆われて中の種族まではわからない騎士が十名。

 カートを押した、どこか嘲るような表情の悪魔族っぽいメイドが二名。


 食事、らしかった。



「くくくっ。お食事をお持ちしましたわよ、ミーナ様」

「……」

「おや、お返事がありませんねぇ」

「……」

「その態度、良くありませんわよ?」

「……」

「しかもなんですかぁ? その下品な格好」



 このメイドたちは、幽閉されているとはいえ、王族に何を言っているのだろう。



『どうやら確かめるまでもなく、メイド以下全員がルシフ一派のようね』

「この無礼っぷり、まさにー」

「はあ? 何を突然。とうとうお気を狂わされましたか、ミーナ様?」

「はしための分際でいい気になり過ぎると、サクッと死ぬよー?」

「その舌っ足らずな喋り、ますます気に入りませんわ」

「はい、不敬罪確定。制裁ねー」



 さて、宣戦布告の狼煙でも上げようか。

 実はもう、ここにいる全員の自由を奪う準備は整っていたり。


 魔力を展開させて、下級の者どもを圧する力技。力こそパワー。わかりやすい。



「お前が気に入るか、気にいらないかなんて、どうでもいいの。跪け。頭が高い」

「うっ、ぐっ、か、身体が……っ。な、なんて魔力なの……っ?」

「しょせんその程度なのに粋がるから、潰れかけのカエルみたいになるの」

「ぐ……ああ……っ」



 メイドはおろかフルプレートアーマーの騎士たちも跪き、頭を垂れた。否、そうせざるを得なくさせた。頭を引っ掴んで無理やり地面に頭を擦りつけさせる感じ。



「ご飯を持ってきたんだね。……うん、カビの生えたパン。異臭のする肉。変な色のスープ。明らかに弱毒入りのワイン。こんなの要らないにゃー」



 それよりも、ご飯が、自ら離宮に十二人もやってきてくれた。

 うふふ。私が誰だか知ってる? 知らないよね、中の人が入れ替わってるの。



「だからぁ……突撃、お前が晩御飯にゃあっー! いっただっきまーす!」

『それを言うなら突撃、隣の晩御飯。まあ時差的に吸血鬼族なら晩御飯でいいけど』



 ブッスリとメイドの額に一指し指を突き刺して、血食する。



「おえーっ。まっずーい! なにこれー!?」



 うわ、低級悪魔の血って、美味しくない。蟹の食べられない部分の味がする。

 というか、ついさっき晩餐会という名の朝食を頂いたんだった。


 うーん、ならばエナジードレインだけしよう。


 前回の平城氏の面々みたいにではなく相手のレベルが一桁台になるまで吸い尽くしてあげる。4レベルドレインを倍数に、吸って吸って吸いまくる。


 28レベル分、ごちそうさま。低級悪魔族。推定レベルは30前後。弱すぎ。


 さて、次の食事に移ろうね。


 ちゅうちゅうタコかいな。美味しくないので血食は形だけ。

 代わりに、エナジードレインは容赦なし。ギュンギュン吸い取ってあげる。

 気分はウイズでザードリィのバンパイアロード。あの人も4レベルドレイン持ち。


 このメイドも28レベル分。塵も積もれば夢の島。二人合わせて、計56レベル。


 続いて、フルプレートアーマーの騎士は、と。



「対面しているのに兜で顔を隠すだなんて、王族に失礼だと思わないのかな?」



 兜も鎧が邪魔なので、デコンポーズしてしまう。

 具体的には、留め金部分のベルトをすべて切り取ってしまう。


 で、なぜに兜を外さないのか、理由が分かった。


「……中身がなかった。彷徨う鎧系? あれ、でもなぜ気づかなかったのだろう」

『すまないことに朕も気づかなかったわ。どうやら二人ともまだ身体に慣れていないようね。わたしわたしで本体の子と半ば融合しているためステータスが低下しているし』

「にゃあ。なるほどー」

『気を入れて精査してみましょう。……ふむ、限りなく生物の雰囲気を持たせた、ルシフの新魔法生物か。ふむふむ、謀反するには兵の数も必要。だから、これを』

「そーなのかー」

『……それで、これからどうするのかしら?』

「宣戦布告は、今しがたの実行行為でなされたとするの。なので、次は……」



 私はダンマス特権で、ダンジョンコアを呼び出す。ててててってれー。

 当初はビー玉ほどだったコアはゴルフボールくらいに成長していた。


 私はダンジョンコアを掲げる。



「カミラのポータブルダンジョン、呼び出し構築にゃ!」

『朕以外にもダンジョンコアを作ってしかも展開ができるなんてねぇ……』

「牢獄離宮を巨大迷宮城にリファイン!」

『もう、あなたはわたしの妻になるか、わたしの後継者になるしかないわ。うふふ』

「パパが泣いちゃうから、その話はしちゃダメなの。私もまだ家族と一緒がいいの」

『あらあら、まあまあ……♪』



 笑う私たち。ダンジョンコアはフル稼働し、迅速にこの監獄離宮に適した形でのダンジョンを構築しつつある。なお、メイド二人吸いカスは外に全裸で放り捨てておいた。



「中身なしの鎧たちの支配権限は、奪うよ。カミラたちの手伝いをさせるの」

『調べたところ、ここの龍脈は随分と疲弊しているみたいよ』

「じゃあ、鎧たちに補助エネルギーを作らせよう。とっておきの方法があるの」

『あなたのトンデモ黒船知識、期待するわ』

「ヒントは北斗の拳とキン肉マンなの。ひゃっはーな地獄の超人たちなの!」



 まあ、何の意味があるのか分からない、巨大歯車をぐるぐる回すアレにひたすら従事させるのだけどね。雰囲気づくりにトゲ肩パッドのモヒカン看守もつけよう。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る