第34話 目覚めたら全裸幼女だった

『カミラ、カミラ、朝ですよ。起きなさい……』

「みゅー」

『みゅーじゃありません』

「だって朝は、カミラたちのお眠の時間だもん……」

『あっ、そっか。そうでした。カミラ、夕方ですよ。起きなさい……』

「むー」



 魔帝陛下が、私を、優しく起こそうとしている。でも、まだ眠いのよね。


 寝返りを打つ。


 ……ん? んんん? 

 あれ? 何か、おかしいかも。なぜか、寒い。おかしい。確実におかしい。


 ぱちっと目だけ覚ます。そして再度、んん? となる。目を、細める。


 というのも。


 なんでこんなに気持ち悪い光が、私を照らしているのだろう。


 見慣れない高い天井。そして高い位置にある、鉄格子の入った窓。


 窓から、嫌な感じの光が差し込んでいる。太陽光だ。ああ、気持ち悪い。

 私はぶるるっと身体を震わせた。

 しかして寝そべったまま、私は目だけを動かす。倦怠感が酷いのだった。


 一見すれば、重厚な造りの建物。我が家も大抵重厚な造りだけど。


 高い天井、中空にぶら下がる魔石シャンデリア。アンティークな調度品類。


 場所は、広間か何かか。


 壁の高い位置に、採光口的な窓がいくつも連なっている。

 良からぬ者への対策のためか、窓のすべてに頑丈そうな鉄格子が入っている。


 確かに豪華ではある。たとえるなら宮殿の内部。が、何か酷い違和感を受ける。

 そう、まるで。歯に衣着せぬ表現をするならば、牢獄のような。


 宮殿が、牢獄? そんな建物なんてあるの? まあ異世界だし、可能性は……。


 いや、そもそも。一体、ここはどこ? 私は誰――私はカミラ。うん、カミラだ。



『目が覚めたかしら、カミラ?』

「その声は陛下にゃあよねー? でもどこに? あと、陛下の喋り方、変なの」

わたしについては後で説明するわ。それよりも、現状の把握をしなさい』

「はーい」



 私は立ち上がろうとした。が、頭がふらふらしてなかなか立てない。

 なので床にぺたんと座ったまま、周囲を観察することに。



「床に、魔法陣っぽい何かが。これは、血で描かれている? うん? あれ? カミラ、はだかんぼなの。しかも、少し大きくなっているような気がするの……?」

『その肉体の年齢は――そうね、あなたの前世感で説明すると十歳くらいかしら。性別は女の子。あなたのお友達の、マリーちゃん辺りの年齢と見ていいわ』


「……カミラ、急激に成長したの? あ、でもおっぱいぺたんこ」

『違うわ。いえ、胸はその通りだけど……その肉体に、あなたは憑依しているのよ』


「憑依? 誰かに憑りついてる? カミラ、この身体を乗っ取ってるのー?」

『あなたの中の宿業ともいうべき転移現象が発動した際に、保護者としてわたしも一緒に転移した。ここまでは理解できるわね? そして、ここからがややこしいの」


「はーい。ちゃんと聞くよぉー」

「良い子ね。じゃあ、よく聞いてね。この転移は召喚でもあった。召喚先は、あなたが現在肉体としている少女。つまりは憑依召喚。結果、あなたは肉体を、わたしは精神をと、召喚者の娘の肉体と精神を奪った。現在のあなたの身体は、別人の身体よ』


「全然、理解が追いつかないけど、陛下の説明は大体把握したー」

『偉いわね、カミラ』



 つまりはこういうことかな。


 まず、何かがトリガーとなって転移現象が再び私に起きた。

 十中八九、魔帝陛下との恋愛ジャンルの話をしたためだと思われる。

 ……なんで? と思いがちになるも、実際問題、転移現象は起きている。


 これに加えて。


 実は今回はただの転移ではなく、とある少女の召喚を受けてのものだった。


 しかも召喚者の少女の肉体を奪う形での召喚で、私は肉体を、魔帝陛下は精神を乗っ取った。……ならば、私の精神はどこからきているのか疑問になるが、さて。



『一つの身体に二つの意思体。わたしとあなたが入った。ここまでは理解した?」

「はいー」


『まず先にわたしの推測を語れば、あなたの身体は、転移中にどこかに封印されたと思われるの。あなたの精神は、そこから発されている。一方、わたしは夢魔。肉体よりも精神そのものに重きを置く種族。なのでこの哀れな少女の精神を支配した』

「なるほどー」


『あなたは肉体は封じられたけれど、あなたの肉体本体とのリンクは途切れず、かつ、この哀れな少女の肉体をも支配下に置いた。現状はそんなところね』

「はいー」


『ところで、そういうあなたも、心話と実際の喋りとはずいぶん違うよね……』

「肉体に精神が引っ張られるっぽいー」


『その身体は、あなたよりもずっと年上だけど……いや、自分で何言ってるのかしらね。あなたの精神の大元はあなたの肉体に依存している。つまりそういうこと。あなたの肉体本体は、実はすぐ傍にあって、現在の肉体は操り人形に過ぎないのにね」

「精神の専門家の陛下がそういうなら、そうかもー。それで、陛下はなぜ喋り方が変わってしまったの? まるでちょっとだけ年上のお姉さんみたい」


『お姉さん、か。それもいいわね。実はね、カミラ。わたしは召喚者の娘の、消えそうになっている精神を半ば融合する形で保護しているのよ。その影響で喋り方が変化してしまった。思考にまで影響は及んでいないけれどね。この子、命を代償に朕たちを召喚したの。下腹を切り裂いて、ナカから魔導書を取り出して、それで召喚を』


「でも身体は何もなってないよ?」

『それはあなたがこの娘の肉体を支配下に置いたため。あなたの不死性が彼女の身体を修復したの。だからこの子は今、吸血鬼で、夢魔で、ちょっぴり悪魔族なのよ』


「にゃあ。そーなのかー」

『そうなのよー』



 しばし、沈黙。


「うーん、まずは情報収集しないといけないの」

『まだもう少しの間は、大人しくしていたほうが良くないかしら』

「あい。じゃあ現在位置の確認だけー」



『空の雫』


 想像魔法を唱える。やおら、半透明のスクリーンボードが現れて、軍用レーダー探知機のように周辺をピポーンピポーンと探査を始めた。私はそれをじっと見つめる。



『それが噂のユニーク魔法……』

「にゃあ。そうなの。今、魔法で周辺を探ってるのー」

『妨害なんてまったく関係なし。問答無用で探れるのね』

「ただ調べるだけなのに妨害なんてあるのかな?」

『そりゃあ、あるわよ……』

「そうなのー?」

『もー、この子ったら無自覚チートなんだからぁー』



 言っている間にマップ走査は完了した。


 北緯31.12度 西経148.52度


 地球準拠では、座標は大体ハワイ島の北方1100キロ辺りとなろうか。

 また随分と遠くに飛ばされたものだった。


 思えば遠くへ来たものだー。


 ――なんてね。



『レム大陸 ベリアル魔王国 王都ベリアル 牢獄離宮』


 おっと、ベリアル魔王国かあ。

 二大大陸。西のリーン大陸、東のレム大陸。

 そのレム大陸にある魔族の国。ちなみにスレイミーザ帝国はリーン大陸にある。


 ……いやいやいや。牢獄離宮って何さ。

 たしかに、常在戦場的に人類とドンパチしている国なのは知っているけれど……。



『この先からの解説は、わたしがしてあげましょう。彼女については消えかけた精神体を保護している以上、夢魔としての習わしに則って一通り調べましたので』

「あい、陛下」


 私は魔帝陛下から、私たちを召喚せしめた少女の実情を絡めて解説を受けた。


 魔王国の現状。

 勇者と聖女が率いるたった4人のパーティが鬼神の如く戦場を駆け巡り、魔族という魔族を鏖殺し続けているとのこと。老若男女関係なし。魔族即斬。


 以上の災禍もあり、次第に魔王国は人類に押されつつあった。


 政変が起きたこと。

 魔王国の王が、傍系筋一派の謀反により暗殺された。王妃、王太子も殺害され、王女一人だけが生き残り、この牢獄離宮に幽閉されてしまった。


 王女の名はミーナ・イシュター・ベリアル。私が憑依しているこの少女。


 彼女が私たちに求めたのは復讐。


 命と引き換えに願ったのは、傍系筋の血脈と彼らに従った者の一切の絶滅。

 ついでにいうと、彼女がなぜ素っ裸なのかは――魔導書を取り出す際にあらかじめドレスを脱いでいたためだった。全裸虐待でなかったのは唯一マシな事実かも。


 にしても、なるほど、重い。


 スーパーヘヴィー過ぎてちょっと困る。


 ぽんぽん、胃もたれしそう。



『カミラ。あなたはあなたの宿業により、この地へ転移してきました』

「にゃあ」

『状況は大変不利です。さあ、あなたならどうしますか?』

「うんとね、えっとねー」

わたしに、あなただけの解決法を教えてちょうだい』


「逃げても状況は悪化するの。なら、ミーナちゃんの願いを叶える。バンバン叶えてしまう。そして、カミラたちは帰還するの。ゲート自体は前回のがあるし!」


『そうですね。混沌への対抗心は、人生への飽くなき決意。代理戦争とはいえ、売られた喧嘩は最高に最悪の高値で買って差し上げましょう』

「にゃあ! キミが、泣くまで、殴るのを止めない!」

『うふふ、その意気です』

「がんばるよーっ!」




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 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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