第33話 食後に……。
バンパイアは血食だけで自己を存続できる。
間違ってはいない。うん、血食だけでも自己を存続できる。
主食は、血食。血は私たちの糧。基本の食事。
でもね。
栄養摂取の効率がいくらか下がるだけで――
たくさん食べれば人類が口にする食事もまた、食事として成立できた。
私は色々と食べたい。ぱくぱくもぐもぐしたい派である。
もちろん、血食だけで済ませるバンパイアもいるにはいる。
が、大体の同胞は他の食物も摂取する。
せっかく味覚があるのに、血液だけではちょっと満たされないというか。
ニンニク料理が大好きなバンパイアとか、わりといるからね。
彼ら曰く、くっせーメシにはアルコールのくっせー強い酒が良く合う。
ニンニク料理を喰らってガッと酒を流し込むと、気持ちはもはやヘヴン状態。
なお、不死族の特性上、どれだけアルコール摂取をしても酔えない模様。
パパ氏もママ氏もお兄ちゃんも、もちろん私も、血食以外にも食事を摂る。
魔帝陛下も夢魔として夢を食するのがメインのようだけど、それ以外の食事も摂る派らしい。そうだよね、他国との会食で食物を口にしないとか色々とマズいし。
『うむ。その通り。しかし繰り返すが、一番の好物は幼女が見る悪夢である。速やかに食して安逸な眠りと
ああ……やはり覚えていないだけで、私も怖い夢はちゃんと見てるのね。
『そなたの悪夢は前世依存のモノが多い。特に病に伏してからのモノが』
怖い夢、食べてくれてありがとうございます。
『うむ。美味であるので気にするでない。その内、そなたも悪夢に打ち勝てよう』
食後、プーアルっぽい茶をゆっくり飲みつつ、私たち(厳密にはパパ氏とママ氏。あと一部だけ私。マリーとお兄ちゃんは不参加)は魔帝陛下と歓談している。
口頭による通常会話と、私だけの念話による会話。
当初は緊張していたものの、今とはなって昔、みたいな。
無礼講のギリギリを攻める感じ。
そも、私、どうやら陛下にめちゃくちゃ気に入られたっぼい?
『そうだぞー。朕はそなたを大いに気に入っておるぞー。んっふっふー』
アッハイ。
『ところで、転移現象なるもののトリガーは掴めているのかね?』
おっと、そこまでご存知とは。現時点ではまだ推測の域を出ませんが、おそらくは冒険したいなぁという意思がなんらかのトリガーになっているのではないかと。
『なるほど。それは単なる物語的な冒険への憧れでも反応するのかのう?』
以前、絵本で反応しましたので、ないとは言い切れませんね。
『ではたとえば、冒険とは関係ないような……そう、恋愛系などは反応せぬと?』
どうでしょうか、今世ではまだ読んだことがないのでわかりません。
それに、単純に恋愛系といっても純愛系、逆に浮気や不倫などの非純愛系。幅を広げると、同性異性、歳の差、異種族、身分差、略奪、片想い、SМ、復讐系恋愛、サイコで一方的な愛情。恋愛+冒険。恋愛+推理。その他、色々とありますので。
『そんなにもあるのか!?
なろう系統なら、本来ならば話のラストで破滅する悪役令嬢が何らかの事故で作中内の
これにプラスする恋愛劇とか。
高位貴族の令嬢のハズが母親に先立たれてから後妻一派に家を牛耳られ、飼い殺しにひっそり虐待されて、あるきっかけを得て後妻一派に壮絶な復讐をしたり。
これにプラスする恋愛劇とか。
『汝……願イ……ヨウ……』
……うん? ゾクッとした。なんだろう、嫌な予感がする。
『どうした? 嫌な予感とは?』
理屈はわかりません。が、何か踏んではならない地雷を踏んでしまったような。
『お、おいっ、そなた、身体が透明になってきておるぞ……っ』
えっ、そんな!? に、にゃう……。これは……以前と同じ……。
『おいおいおい……やむを得んな!』
私は魔帝陛下に腕を握られた。
ああ、それだと。
陛下を巻き込んでしまう。
『構わんさ!
私たちは、驚く周囲を残して、その場からフワッとフェードアウトしていった。
◆◇◇◆◇◇◆
生きとし生けるもの。生はままならぬもの。生は苦渋をもって生を成す。
私の名はミーナ。少し前まではミーナ・イシュター・ベリアルだった。
もっと詳しく書けば、東大陸の魔族の国、ベリアル王家の王女……だった者。
ここは奈落の底だ。
わがベリアル魔王国は傍系のルシフ一族の策謀によって父様や母様、王太子にして我が弟サタナエルは殺され、私は捕らえられて監獄離宮に閉じ込められた。
この先、私はルシフ一族の男と無理やり婚姻を交わされ、子を成され、そして用が済めば殺されるだろう。傍系が主筋を奪い取る。否、傍系が主筋に成り代わる。
ああ、彼らに呪いあれ。どこまでも昏く呪われよ。
裏切りを思い出すだけで全身にどす黒い殺意がうねりを上げる。
しかし、私には攻撃の手段がない。
……復讐を。
可能なら、力が欲しい。よもやここまで自己が無力とは思わなかった。
そのためなら――
私は、王家を捨て、家名も捨て、この身を炎に捧げてもいい。
実際、私は既に家名を捨ててただのミーナと名乗っている。
だから、神様。お願いです。
せめて、あの者たちに報復を。罪の代償を支払わせねば。
父様、母様、可愛い弟の無念を晴らさねば。
あの者たちの血で贖いを。あの者たちに終わりのない絶望を。
復讐を……ッ!
もちろんわかっている。我らが主筋王家に隙があったことを。
長年の人類種との戦いで疲弊した国土。血を血で洗う闘争の日々。
圧倒的パワー。迫りくる、頭のおかしい、勇者を名乗るモノ。
勇者という名の狂人に妄信的に従う、思考することを諦めた重戦士。
そんな勇者よりも輪をかけて頭のおかしい、聖女を名乗るモノ。
我ら魔族を焼き殺すことしか頭にない狂気の爆炎賢者。本性サイコパス。
町や村の保護は遅々として進まず、国民は生活に困窮し――
野盗と化した元兵士が跋扈する。親は子を喰い、子は親を喰う。
死と死が、ぐるぐる、ぐるぐるとダンスしている。
これを奈落の底と言わずしてどうするか。
ゆえに。
ベリアル王家主筋にのみ伝わる最大の秘宝、大魔導書グリモワール。
私の『ナカ』に封じられた魔導書を、今、取り出そう。
女には、秘密のポケットが、いくつかある。
そこに魔法的にごく小さな亜空間を作り、書を封印する。
本来はその死をもってして取り出される禁断の秘宝。
が、死ぬのは今すぐにではない。
私は自身を捧げ、報復を代行せし者を召喚せねばならない。
秘密の解呪呪文を口に。手に魔力を集め、鋭い魔力刃を作り出す。
そして、狙いを澄まして封を刺す。封を抉る。封からソレを引っ張り出す。
ああ、下腹部が痛い。血が止まらない。
しかして、さあ、いでよ。
魔導書の封は解かれた。血と魔力を注ごう。魔法陣を描け。
我が命を糧に、報復の魔人を。否、魔神を。
父様母様、可愛い弟を殺した裏切者に血の粛清を。
ああ、下腹部が、痛い。痛いよぉ。本当は、死にたくない。死にたくないよ。
でももう手遅れ。すべて手遅れ。覚悟を決めるしか残されていない。
ああ、痛い。血が、止まらな……。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます