第31話 魔帝陛下の晩餐会へ

 魔帝陛下より個人的な、内々での晩餐会に招待され、私は返事を書いた。


 修辞法抜きの、概要。


 『至高なる我らが魔帝陛下。もったいなくも、晩餐会の招待に感謝いたします。

 家族ともども、是非、陛下のご厚意に浴させていただきます。

 追伸、ヒューマン族の友人(女の子)も連れていってよろしいですか?』


 以上。


 久しぶりの幼女生存戦略ぅ!!


 身の危険ガードのために頭数を増やしての分散作戦!

 というか一人で陛下に謁見&食事だなんて畏れ多くて無理。


 緊張でおしっこを漏らす自信があるよ! THE・幼女お漏らし!


 ならオムツをつければいい? ノンノン、それはダメ!

 就寝時にやむなくつけるときもあるけど起きている間はノーオムツ!

 幼女にだって誇りはあるのです! 女の子なのにがに股になっちゃうし!


 余談。この世界のオムツは、古式ゆかしい布オムツ。つけると股間部もっこもこ。


 なお、家族の皆の参加は勝手に決めたわけではありません。

 招待状のお返事を書く前にパパ氏、ママ氏、お兄ちゃんに了解を得ました。


 ……お兄ちゃんは顔を真っ青にしていたけど。人見知りだからねぇ。


 ゴメンねお兄ちゃん。でも頑張って。愛してる。


 マリーに関しては彼女は私の客人ではあれど、ノスフェラトゥ公爵家に異世界人が滞在している以上はそれだけで政治的意味が発生しかねないのだった。


 異世界人とはすなわち、異なる思想や文化、技術、魔法、魔術、科学、その他知識の宝庫。新たな視点による革新的な何かなどは、大抵は余所者が持ってくるもの。


 恒例の例え話をしようと思う。

 曰く、マリーの存在性は、前世日本江戸時代幕末の黒船来航に近い。


 なので、彼女には私はこの魔国に害意はありませんよ的に挨拶に出てもらう。


 いやはや、政治なんて面倒だよねぇ。

 私は外見そのままの、無邪気な幼女生活がしたいよ。


 お歌を歌ったり、絵を描いたり踊ったり、ままごと遊びをしたり。城内を駆け回ったり、狼さんに変身したり、夜の空をコーモリさんで飛んだり。


 うーん。愚痴っても仕方がないので、これ以上は言わないけどね。


 そうこうするうちに数日が過ぎ、魔帝陛下お誘いの晩餐会の日取りも決まった。


 マリーも(カイン)お兄ちゃんと同じく、突如として国家元首との晩餐会にエントリーされて顔を青くしていた。うーん、罪悪感がプツプツと心に湧いてくるぅ。


 マリーは侯爵家の三女だった。貴族として王への政治的距離はかなり近しい。


 でも、まあね。緊張するよね。


 異世界で他国で、ヒューマン族視点では魔王にあたるお方と食事を共にするとか。


 ただいつかは挨拶しなきゃなので、諦めてほしい。


 陛下は小児性愛者かもしれないけれど、さすがに公爵家が保護しているあなたにアンナコトやコンナコトなんてしない、はず。そもそも、私が絶対に許さない。



 と、言うわけで魔帝陛下招待の個人的晩餐会当日。



 パパ氏、ママ氏、お兄ちゃん、私、マリーの五人は飛行馬車で移動中だった。 


 時間は夕方六時を少し回ったところ。

 私たち吸血鬼にとっては、ちょっと早めの朝みたいなもの。


 ちなみに半数くらいの魔族は、あるいは意外に思われるかもしれないことに、人類と同じく普通に朝は朝、昼は昼、夜は夜と言った感じに日々を送っている。


 だからだろう、魔国には二十四時間経営のお店が結構あると聞く。


 そして、そうであってこそ。

 昼と夜の生活時間の調節をした結果が『夕方六時』となったのだった。



「にゃあ。カミラたちにすれば、どちらかというと晩餐会ではなく朝食会なのね」

「う、うん。やっぱりバンパイア族だもの。そうなるのよね……」



 頷いたのは、マリー。やはり緊張しているらしく、ツンデレさんのキレがない。



「も、もしも。へ、陛下に粗相をしたら、ぼ、ぼくは……緊張するぅ」

「陛下主催だけど内々の晩餐会だから家族でご飯+陛下の奢りって感じなの」



 未だ顔色悪くガクブルしているのはカインお兄ちゃん。



「カミラは緊張しないのかしら。私は少しだけ緊張してるわ……」

「それは皆と一緒だからなの。カミラ一人だと、もうお漏らししてるかも……?」



 たぶん緊張なんてしていない、頼もしいママ氏。頭を撫でてもらった。



「陛下は……おそらくカミラを大変お気に召す……うーむむ。嫁にはやらんぞ!」

「カミラはまだ生まれて間もないの。パパとずーっと一緒にいたいの」



 言ったらパパ氏に抱き上げられて頬ずりされてしまった。うふふ。



 和気あいあいと飛行馬車は優雅にパカラと駆けて行く。


 ……飛んでるのに、なんで馬の地面を蹴る蹄鉄音が聞こえるのだろう。

 これ、ツッコミしたらダメなサムシングなのかな。


 電気自動車に、周囲の人々の安全確保のためわざと合成排気サウンドをつけるようなもの? モーター音が静かすぎて注意喚起ができず逆に危ないとかなんとか。


 とりとめもないことを考えている間に、魔帝宮――正式名は、えーとなんだったか忘れちゃった。……あれ、本当に忘れちゃったぞ。やっぱり緊張してるね、私。ともかく魔帝スレイミーザ三世陛下の地上十階、地下百階の大迷宮に到着した。


 本来は勇者とか聖女とか、その他モロモロの最終戦争決戦兵器みたいなトンデモ英雄と戦うための大迷宮ではあれど。でもそれだと普段の生活に支障が出るわけで。


 裏口から直送ゲートエレベーターを使いまーす。特に、今回は内々の晩餐会だから。


 何が凄いって、一見するとまるで雑居ビルの通用口みたいなところが実は日常生活用のメインゲートだったりするわけで。なお、物資運搬用のサブゲートもあるよ。


 魔帝陛下だって生きているんだから、そりゃあねぇ。


 長い下降浮遊感の後、チーン、と直送ゲートエレベーターが到着の合図を鳴らした。



「ようこそおいでくださいました。ノスフェラトゥ公爵閣下、公爵夫人、公爵家ご子息ならびにご令嬢、公爵家保護下に置かれし小さなお客人」



 羊な執事さんがお出迎えしてくれる。この人、パパ氏の羊な執事さんの兄弟かな。


 魔帝陛下の趣味なのだろうか。黒を基調としたシックな壁面の迷宮を、羊な執事さんの先導で歩いていく。入り組んだ廊下だった。スタスタと私たちはついていく。



「……メェェ。大変申し訳ありません。迷路に迷いました」

「えっ」



 迷宮を行き、袋小路にたどり着いて、そんなことを。



「羊な執事ジョーク。ご子息様ならびにヒューマン族の娘様が大変緊張なさっていたようなので。大丈夫です。陛下は大変気さくなお方です。子供も大好きですし」



 失礼しました。と羊な執事さん。お兄ちゃんとマリーに気遣いしてくれたらしい。


 彼はふわっと腕を回して――なるほど、保安上の理由で隠しているのか。単なる袋小路と思いきやしゅるしゅると一枚の立派な扉が姿を現した。


 扉を押し開けて、そうして羊な執事さんはこちらに腰深く頭を垂れる。



「どうぞ、ご入場くださいませ。陛下は既にお待ちでございます」




【お願い】

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