第29話 ようやく帰還
子ダンジョンの可否について、結論を先に書けば
まあね、メインが龍脈を調整するのが目的のダンジョンだからね。
つまり雨風地震の天災にでも遭わない限り五穀豊穣を安定して得られるわけで。
サブ機能で出現モンスターレベルに手を加え、比較的安全なダンジョン探索もしくは訓練ができるのだった。玄室の中ボスを倒せば運が良ければ宝箱も出る。
この人ならきっと是が非でも残していってくれと返事すると思っていた。
なお、収容所という名の回復施設は付属しない。あれはダンマス特権だから。
そうして、返事が来たのは、私が手紙を送ってから実に五日目だった。
彼ら視点での、遥か西の公用語の翻訳に手間取ったらしい……。
極東の島国である。セラーナが言うには文法が公用語と全然違うとのこと。
例えるなら、日本人が英語を習得しようとする困難さに似ているかもしれない。
まあ、今となってはどうでもいいけど。
私は長距離転移ゲートを生成し、移動に必要なエネルギーをゲートに充填する。
ダンジョンは既に子ダンジョンに入れ替えて、最初に作った親ダンジョンのほうはダンジョンコアに収納してある。いやあ、これはちょっとどころではなく驚いたのだけど、ダンマスはコアを通してダンジョンを持ち運べるのだった。
なるほどウイズでザードリィなワードナさんも、わずかな間にどうやって地下10階ものダンジョンを構築できたのかと思ったら、タネはこういう仕掛けなのかも。
別のところであらかじめ作っておいて、ポン。まるでツーバイフォー工法みたい。
それで、やっと……やっとのこと。
実際は転移して三週間ほどではあれど、帰還の準備が整ったのだった。
恥ずかしながらとうとうホームシックになって私はストレスでオネショを二度やらかしていた。もっとも、調子が悪いのを見抜いたセラーナにオムツを着けられて、大事な棺を尿まみれなどは防げた。あと彼女のおっぱいを吸って心の安寧を計った。
幼女だから許される行為をいともたやすくやってのける。
それが私。もうね、開き直っちゃう。
なお、セラーナもある種の満足を得ていた様子。凄いエロい目つきになってたし。
深夜一時。
私たち吸血鬼にとっては昼間。一般的な人類にとっては真夜中。
「にゃあ! それじゃあおうちへ帰るよ!」
「はい、お嬢様」
子ダンジョン五階層、仮の黄龍の間――もとい、仮のダンマス部屋。
すぐ目の前には転移ゲートが設置されている。エネルギーの充填も完了済み。
一見すればゲートは大理石製のシンプルなアーチのようにも見える。
現時点の私が作れる最高の転移ゲート。ムーンゲートとも呼ばれるモノ。
ぺちっ、と私は一拍手を打つ。
本当は格好つけて指パッチンが良かったけれど、幼女の手では無理だった。
ゲートは合図に反応し、予め設定していた転移点へ接続を始める。
「セラーナ、手を繋ぐの」
「はい、お嬢様♪」
すべての転移準備行程が完了し、ゲートの向こう側がぼんやりと映し出される。
なつかしの我が家。それも、私の部屋。
設定した座標に誤差はない。後はゲートをくぐるだけ。
空間に穴を開け、捻じ曲げて繋いでできたワームホール。
この、たった一歩で、約8500キロを跨ぐ。
「……成功した。帰ってこれた!」
「はい、お嬢様。おかえりなさいませ」
「うん、ただいまなの! セラーナもおかえりなの!」
「ただいま戻りましてございます」
部屋を見回す。あっとと、部屋詰めの私のお付きメイドたちが驚き過ぎて言葉を失っていた。にこっと微笑んで、私は彼女たちにただいまと挨拶する。
わっと、彼女たち全員が私の元に集まってきた。
あらら。全員泣いてる。吸血鬼だって感情豊かなのだ。強く驚いたり感動したりすると涙も出る。彼女たちは口々にお嬢様と呼び、抱きついてきた。
そして、私の体臭を一身に吸い込み始める。幼女臭くんかくんかすーはー。
「えぇ……」
あなたたちはワンコか何かですか? ユーアーワンコ? ワンコくんかくんか?
枯渇したお嬢様分を供給? ちょっと意味がワカラナイよ?
ややあって、廊下から複数人数が駆けてくる音が。
「カミラッ。帰って来たのか! 連絡予定していた時間より随分と早いであるな!」
あっ、しまった。時差のこと忘れていた。ここと向こうでは七時間の差があった。
寝間着にガウンを羽織った姿のパパ氏とママ氏。そしてお兄ちゃんが。
どうやら起床してすぐだったらしい。悪いことしちゃった。
ここでの現時刻、夕方の六時。一般的に吸血鬼たちがそろそろ目覚める時間。
「パパ、ママ、お兄ちゃん。ただいま! 時差のこと、忘れてたよ!」
「はっはっはっ。まあちょうど起きたところで良かった! おかえり、カミラ」
「長距離転移は時差も考えないとだものねぇ。おかえり、カミラ」
「カミラがいなくて寂しかったよ。おかえり、カミラ」
しばらく抱き合う。あと、ニオイも嗅ぐ。子どもは視点が低いからか、視覚以外の五感も観察によく使う。触れ合うのが好きなのもその一つ。ニオイを嗅ぐのもその一つ。セラーナを始めとするメイドたちは……たぶん特殊な性癖なんじゃないかな。
あれ、どうしてか気持ちがこみ上げてきた。
見て、声を聴いて、触れ合って、ニオイを嗅いで。
涙があふれてきた。
「うううー。さみしかったよお……。カミラ、さみしかったんだよぉー!」
「ワシらも可愛いカミラがいなくて、さみしかったぞぉー!」
「あらあら。安心して緊張が解けたのね。もう大丈夫。よくがんばったわ……っ」
「カミラが無事で良かったよ。ううう、ぼくもなんだか涙が止まらないよお」
昔、世界名作劇場の母をたずねて三千里なるアニメを見たが、あのときはフーンとしか思わなかった。主人公のマルコは基本的に周りの人たちに恵まれていたし。
しかし現実的に幼い子供がトンデモ距離を親から離れてしまうとどうだ。実質移動時間がほぼゼロであっても、約8500キロの隔たりの凄まじさは変わらない。
こうして無事に家族と再会できた僥倖は、もはや自分にしてみれば奇跡に近い。
そりゃあ感動で涙が出ようもの……。
感動の母をたずねて三千里に醒めた反応とか、本当にすまなく思う。ごめんね、あのときは淡白で。人間であれ吸血鬼であれ、実感がなければそんなものなのよ……。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます