第27話 害悪ティルトウェイト
どんな手でも使うと覚悟を決めたなら、まだ勝ち筋がある。
たとえ、私よりも高レベルの存在であっても。
たとえ、自分としては後味悪くとも。
勝てば官軍、負ければ賊軍と自分を慰める。それくらいエグい手段に出る。
D4C。いともたやすく行なわれるえげつない行為。
くどいようだが、もう一つ、知識方面でも自分に納得させる。
以下、こんな感じ。
『どんな手を使っても戦いには勝利せよ。勝てば大儀など好きに言いつくろえる』
ニコロ・マキャベリ著。君主論より。乱暴に纏めれば、勝たなきゃゴミ。
謎の巫女服の怪物は、地下六階、地下七階、地下八階、地下九階と降りてくる。向かう警備モンスターをすべて一撃で屠り、その遺体を例外なく丸喰いにしながら。
そうして、地下10階。現時点での最終階。怪物女はやってきた。
男爵級の悪魔が女に向けて強烈な爆裂魔法を唱える。その数、12発。怪物女、右手をつっと動かして攻撃を斬り裂き、爆裂の緩衝地帯を作って躱す。
まさか、ショックバブルを見極めるとは……。
ショック以下略は爆発と爆発のベクトル作用で起きる、偶発的な緩衝空間のこと。
恐るべきはその戦闘センス。うーん、怪物め。
中級下位、能天使たちは破邪の魔法を唱える。怪物女、これを躱さず。
効かないのだった。
つまり、邪悪ではない存在? あるいは呪殺や破邪系統が無効なのかもしれない。
いずれにせよ天使と悪魔はすべて首を狩られ、まるっと喰われてしまった。
残るは大妖怪。私はこの地下10階フロアには天使と悪魔と大妖怪を用意した。
大妖怪と聞いてまず何を思い浮かべるか。
私は迷わず、玉藻御前だった。金毛九尾の大妖狐。
某キャス子さん。神格化すると日輪の、益と毒をばら撒くあの神性となる。
ただし、私は彼女自身の能力に期待を込めて選んだのではない。
実は、生成してから、私は何体か彼女を自ら倒していた。
奥の手のために。
そんな玉藻御前ではあったが、まずは怪物女への抵抗のために凸させる。
十二単姿の少女から(姿、だいぶ盛ってる)モフモフ尻尾の大妖狐へと戻った彼女たち。そう、当然ながら彼女『たち』である。コアで生成した『魔物』なのだから。
と、思ったら一部の彼女は動きやすい道着姿の少女にチェンジだけしている。
玉藻御前、または金毛九尾の大妖狐は呪殺を得意とする。
効果は果たして……。
効かなかった。
ザラキもムドもデスも、コンバット越前も心霊呪殺師太郎丸も無効。
まずは金的、次も金的の、一夫多妻去勢拳っぽいアレも意味がなかった。
侵入者の怪物は女性体だったから? 否、無効の理由は他にあるはず。
漫画の嘘。そもそも股間は特に神経が集中しているから、打撃を受けると性別を問わず普通に痛いものだ。というか、どこを殴られても蹴られても痛いわ嘘つきめ。
それなのに平気とはどういうことなの?
まあいい。精々時間を稼いでほしい。期待するのはそれだけ。
非情かもしれない。が、今は非常事態なのでどうかご勘弁いただきたい。
こちらは準備に忙しい。ものすごーく忙しい。
自宅に帰る私の目的を邪魔するというなら、後悔させてやらねば。
巫女服風の狐面怪物女は無人の野を征くように最終の地下十階を踏破せんとする。
玄室の中ボス、特別に生成した子爵級悪魔と中級中位の力天使、素面でめちゃくちゃ気が立っている酒呑童子などを用意してみたが、形無しだった。
強いね。うん、あの怪物、やっぱり底なしに強い。
ここだけの話、恐怖に足が震えるよ。おしっこ漏らしそう。
だけど勝つのは私だ。
戦いへの勝利とは、あらゆる準備を整え、ときには相手に毒を盛り、勝つべくして勝つものだった。命のやり取りは、KEN-ZENなスポーツではないのだから。
そうして、とうとう、話題の怪物女はやってきた。
彼女が入室するなり、ガゴンッ、と音を立てて扉を閉める。それはもう厳重に。
この時点で勝利は確定した。
私はほくそ笑む。
怪物女は、向かう相手に気づいてか気づいてないのか、口元だけ微妙に上げるアルカイックスマイルを浮かべた。まあ、目元は狐面でわからないのだけど。
対面。
待ち受けるカミラとセラーナ。向かうは巫女服風の狐面怪物女。
女、腕を肩辺りまで持ち上げて、手をスッと横に薙ぐ。
するとカミラとセラーナ両名の首がストンと落ちた。
が、次の瞬間。
首を落とされた彼女らは駆け出して怪物女に肉薄する。
さすがに驚いたらしい怪物女、バックステップで躱そうとする。
が、それは成されず。無様にもダブルタックルを受けて彼女は尻餅をつく。
そして、怪物女は、カミラ・セラーナ両名の自爆をゼロ距離で喰らった。
名づけて、サヨナラテンサンアタック。
その爆発はただの爆発ではない。核反応の爆発だった。
しかも前世世界の実験で加減されたツァーリボンバ50メガトン級の核爆発。
どうせやるなら加減なしのツァーリボンバ100メガトン級にしたかったが……。
炸裂直後、爆発起点の温度は数百万度となる。それは太陽の力でもある。
火球は0.2秒後には部屋全体を満たした。つまり逃げ場はない。
いくらダンジョンであっても、いくらなんでも核爆発となると話は別。さすがのダンジョンルームでも耐えられないと思うだろう。
耐える。耐えるのだ。私がそのようにした。
超高圧の空気は密封された室内で極気圧を構成し、圧搾され、本当に太陽の内部のようになる。超々高温、超々高圧、種々の放射線の嵐。それが核爆発。
害悪ティルトウェイト。
某クソたわけダンジョン探索ゲームでは同名の魔法は熱エネルギーだけを取り出したものであるという。ソース元はベニー松山氏著のウィザードリィのすべて。
だが私のそれは、そんな甘っちょろいものではない。普通に、核爆発。
必要な材料。
玉藻御前から極小確率レアドロップされる殺生石。
ダンマスなのでドロップ率の変更なんてお手の物。
この殺生石。諸説紛々あるが、私の予想通りの代物だった。
曰く、高純度のウラン。未精製の鉱石ではなく自然精製されたウラン。
殺生石=ウラン235の塊。238でないところがポイント。
被ばくするのも嫌なので、一連の処理はすべてダンジョンコア内部の亜空間で行なう。更にウラン濃縮させ、高性能の魔法的爆薬で包み、外皮は鉛を覆う。
そして、これを核弾頭だけに中心核としてカミラとセラーナを生成する。
そう、今し方にサヨナラテンサンアタックをかましたのは――
ダンジョンコアによって生成した、魔物としての、私たち。
正直、これだけはしたくなかったのだけれども。
繰り返す。レベル350と200の、生成された『魔物』の私たちである。
さすがの怪物女もこれがまさか偽物だとは思わなかったようで。
そして、私は――
「この閉鎖空間を小箱にして閉じちゃうの。永遠に。絶対に脱出不可の」
「お見事でございます」
空間を閉じるのはいつぞやの魔苦死異無襲撃の際に作った、迷宮の小箱にて。
『El・DO・RA・DO』
『虚空の迷宮』
『荒涼たる新世界』
初めにマッチ箱くらいの鋼鉄の小箱を想像魔法『El・DO・RA・DO』にて作成。
箱の内側に空間遮断フィールドをみっしりコーティングしておく。
これにて内部では外部へのテレポートが使用不可となる。
そして、想像魔法『虚空の迷宮』にて空間を広げて(迷宮内迷宮の構築)、ダンジョンコアの区画、別名黄龍の間、または私たちの生活空間部に『接続』させる。
接続を完了させたら『荒涼たる新世界』を壁にセッティング。
一定まで近寄れば比例して大きさが二分の一になる、つまり壁には永遠にたどり着けない凶悪な魔法だった。私の本気具合がお分かりになられると思う。
なお、これだと核爆発熱が部屋中に広がり切れないと気づくツーカーな諸兄も当然おられるだろうなので、ちょっとした注釈をつけ加えておこう。
物凄い勢いで爆裂した際、二分の一効果にて、この場合、奇妙な『渋滞現象』が起きるのだった。それが『壁』となり、『停滞』し、『圧縮・圧搾』され、事実上の『部屋中』となるのだった。そしてこの『渋滞現象』は固着し続ける。
話を戻そう。ドヤ顔で説明している私も、実はあまり理解ができないでいるし。
仕上げに、ダンジョンコアにて生成した核爆弾内蔵の『カミラ』と『セラーナ』をセットする。レベルだけは高く、350と200である。中身は一応素早さと力だけはステを振っておいた。なお、吸血鬼なので首が落ちたくらいでは元々から死なない。
巫女服風の怪物女がこの『罠部屋』に入ったのを確認して、扉を閉じる。
と、同時に生活空間部から『接続』を切り離す。
後は外部空間を縮めて――空間断絶のおかげで内部には影響しないので怪物には気づかれないはず。というか、実際に気づかれなかったので作戦は続行。
後は、ご覧の有様。
私は迷宮を封印したマッチ箱大の小箱を鑑定する。
『封じられた迷宮。大変安定している。特殊な魔法にて空間が断絶、封印され、しかも内部は超高熱で覆われている。推定温度120万度。鎮静化まで300万年。
敗北を認めた大罪は、カミラ・ノスフェラトゥに絶対の忠誠と服従を誓う。
大罪の名は『暴食』である。あなたはこれ以降どんな暴食でも世界に認められる』
……なーんだか、また面倒そうなのが出てきたっぽいよ?
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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