第26話 エクストラゲーム

 平城氏当主、平城為朝が率いる最精鋭30人部隊の襲撃を見事撃退して三日後。

 ついに、地下10階層のダンジョンが完成したのだった。


 落成式でもしようかな。テープカットとか、くす玉割ってみたりとか。

 ああ、うん。しなくていいか。どうせ私とセラーナだけだし。


 念には念を入れて魔物をキッチリ生成して、警備配置はしておこう。

 地下10階攻略推奨レベルは300。一般的な人類にはもはや手も足も出ない領域。


 挑戦するなら、限界突破の試練を成功させた一部の人類なら、あるいは可能かも。


 配置される『魔物』は。

 男爵級の悪魔、中位下級の能天使、昔話の大妖怪の類、その辺りがメイン。


 久しぶりにお断りを入れるに、彼らはすべてダンジョンコアによって生成された存在である。なので、天使悪魔妖怪と称しても、基本は一律『魔物』扱いとなる。


 ちなみに生成魔物であるがゆえに、ネームドモンスターなども複数同時存在させることが可能。極端な話、私自身を生成することも可能。カミラ1、カミラ2とかね。



「もちろんそんな危ないことしないけどー」

「はい? どんな行為でございましょう?」

「ひみつー」

「しょぼーんでございます……」



 だって私自身をダンジョンコアで生成したら、セラーナが想定外の使用をしそうで怖い。こう、YESロリータ的な……この世界には児ポ法なんて無いからね。


 与太話はともかくとして。


 初めに戻って、いよいよ地下10階層のダンジョンが完成したのだった。

 龍脈から汲み上げた大地の気は外気を練り込んで増幅を辿り、十の螺旋を経て、純粋な力の塊へと昇華されていく。この螺旋はもちろん、二重螺旋である。


 こうして出来上がるのが、亜神気。


 吸血鬼、人ならざる身ではあれど、亜種とはいえ神様の力を手にするだなんて。


 なんだか、興奮してきた。高ぶってきたので、お歌でも歌おうか。



「引っこ抜かれて、あなただけについていくー♪」



 おっと、これは方々にマズいかもしれない。報われない愛の歌。だがそれが良い。


 ご存知のように私は外見に見合った精神の幼児退行を経て、お子ちゃまお遊戯とかが楽しくて仕方のない、とても幸せな性格をも持ち寄っておりまする。


 いやでもお前、何を歌っているのだとのツッコミも、お待ちしておりまする。



「ふー。スッキリしたー」

「ちょっと切ないお歌でございました」


「愛に見返りは求めちゃダメなのよ。見返りの期待は愛ではなく打算なの」

「思った以上に深い内容でございますね……」



 さて、興奮を鎮めて再びの亜神気についてだった。


 私はダンジョンコアに収められた、精製された力の塊を注視する。

 赤い宝石のようで、その発光体は基本は透明でありながら薄く朱を含んでいる。


 精錬の質と量が上がるにつれ、この赤い宝石体の亜神気も透明度を増してゆく。


 そう、今気づいたのだけど。これって、賢者の石だわ。



「なるほどー。精錬で固着安定されたエネルギーの塊は、賢者の石だったのかー」

「……ッ! 驚きでございます。お嬢様、これは大発見でございますよ」


「うーん、パパとママなら知ってそうだよ」

「公爵閣下、および公爵夫人は別格の御方でございますゆえ……」

「そっかあー」



 ではこれをホニャホニャと錬金的に弄れば金が大量生産出来たり、最強の回復ポーションのエリクシルが作れたりするのね。うん、そんなの別にいらないかな!


 我が家は公爵家、超大金持ち! あと、不死の吸血鬼にエリクシルとか無意味!



「それよりも転移ゲートの生成なのよ。今はまだ地下10階ができたばかりなのでゲート作成に必要なエネルギーはまだ足りてないの。もう少し、もう少しだね」

「はい、もう少しで、帰還が可能に――」



 てーんてーんてーん、ててぇてーん、ててぇてーん。


 不意にダンジョンコアから鳴り響く侵入者警報。某暗黒卿のアレ的テーマ。



「……誰? もー。空気を読んでよねー」



 私は文句を垂れつつダンジョンコアより映像を呼び出す。

 そして、にゃふっ!? と変な声を上げた。


 というのも。


 黒い長髪の女性。祭りの露店などで売っていそうな狐面っぽい何かで眼帯部から上を隠した、山伏衣装と祭儀用巫女服を足して二で割ったとしか表現のしようのない紅白装備の女性が――ダンジョン内を単騎でスタスタと歩いていたのだった。


 ややあって、彼女は警備のゴブリン集団とエンカウントする。

 狐面の女性、すっと右腕を肩の辺りまで持ち上げて、手で水平に一の字を書く。


 とたん、ゴブリンたちの首がすべて飛んだ。

 まだこれで終わりではない。女性はゴブリンの遺体に近寄って……。


 食べた。

 丸飲みだった。


 女性の小さな口があらゆる肉体的制限を無視して伸び、ずるんと一口に。

 ゴブリンの死体は、彼女の腹に収まった。一体、二体、三体、四体……全部を。


 亜人、人によっては子鬼とも表現されるゴブリンの集団を食べた女性は、何事もなかったように歩みを再開する。彼女は一人、私のダンジョンを征く。


 特に驚愕すべきは、あれだけの数を体内に取り込んだというのに、彼女の体型にまったく変化が見られないということか。一体、どうなっている?


 ぞわっと総毛立つ。えっ、なに、コイツ。何なの? わけがわからない。


 ダンジョンコア越しに鑑定をかける。


 弾かれた。

 Errorと、表示されてしまう。


 まさかとは思うけれど、私よりずっと強い……?



「……せ、戦慄でございます。面が邪魔でわかりませんが、何者でしょうか?」

「セラーナ」

「は、はい、お嬢様」


「ただ今より、このダンジョンは、最大防衛に入るの」

「はい、それがよろしいかと」


「みゅう。アレは只事ではないのよ。少なくとも人ではないと思う。妖怪、違う。怪異。怪異は怪異でも何か違う。悪魔? 悪魔っぽいけど違う。わからない何か」


「……承知いたしました。して、具体的には如何いたしましょう?」


「アレをここに到達させちゃダメ。とっても嫌な予感がする。まず、下層区域の警備モンスターの数を増やす。特にここ。地下10階の警備は3倍増。セラーナは侵入者の監視を続けて。小さいことでも気づいたら報告。カミラは防衛に手を尽くす」


「はい。ではそのように……っ」



 謎の巫女服風の狐面女性のダンジョン侵攻は留まるところを知らない。


 彼女が警備モンスターと遭遇すると、大抵が有無を言わさず、一文字に首を斬り落としてしまう。手を水平に、スッと横に薙ぐだけだった。それで絶命は完了する。


 その後は、喰う。


 倒した警備モンスターを、眼帯部を覆う狐風仮面の下に覗く、小さな口で。


 ずるりと、一口で。


 肉体的制約など完全に無視をして、蛇が卵を呑むように、喰らう。


 なるほど。私にはわかる。

 アレは人の姿をしただけの別な何か――怪物だと。


 吸血鬼が怪物を語る? いわんや、怪物が怪物を語る?


 たしかに吸血鬼も、人類からすればの闇の加護を受け継ぐ怪物ではある。


 でも、それでも。私たち吸血鬼は、あんなわけのわからない丸喰いなんてしない。


 きっとアレとは、身振り手振りを含むどんな言語を使っても会話は成立しない。むしろ話しかけようとした瞬間に首を斬り落とされ、喰われるだろう。


 巫女服風の怪物女の侵攻は続く。

 現在、地下五階層。

 すべて首斬りからの捕食フィニッシュ。


 いやホント、色々とマズイね、これ。



「にゃああああっ! もー! しようがないので奥の手の作戦を展開するよ! 卑怯上等なの! まずは準備からなの! 憎いあんちくしょーなの!」


「はい、お嬢様!」

「セラーナ、耳をこっちに」

「ナイショ話ですね?」

「そうなのよー!」



 まさかこの場所の会話をあの怪物も聞いてはいないだろうけれど、念の為。

 耳元にコッソリ口頭で話すわけではない。

 骨伝導で内容を伝えるのだった。



「――以上なの。これで仕留めるの!」


「はい、承知いたしました! お嬢様のすることです。ワタクシ如きには理解の及ばぬ部分が多々あれど、信じて準備のお手伝いをさせていただきます!」


「勝利をもぎ取るよ!」


 

 こんな異常事態、怖くないわけがない。

 しかし上位に立つ者は、下位の者の前では決して弱気になってはならない。


 私は自信満々に、セラーナに頷いて返していた。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る